『建築という対話~僕はこうして家をつくる』上梓のご挨拶

光嶋裕介(建築家)


 今週末、自宅の書斎スペースを大幅に模様替えしました。というのも、今ある机では、これから描こうとする畳大サイズの大きな和紙のドローイングをフルに広げることができないために、新たな机を設えることにしたのです。それは、1メートル×2メートルのアルミ板と21ミリの(ラワン材の)ランバーコアの合板を単に重ねただけで、ふたつの机から掛けることでつくった即席の机なのです。

 このたび筑摩書房より、『建築という対話』という本を上梓いたしました。思えば、2012年に『幻想都市風景』(羽鳥書店)と『みんなの家。』(アルテスパブリッシング)を、翌13年には『建築武者修行』(イースト・プレス)を、続けて14年には、『死ぬまでに見たい世界の名建築なんでもベスト10』(エクスナレッジ)を、そして、昨年16年には『これからの建築』(ミシマ社)を出版し、これで6冊目の単著となりました。すべて異なる出版社からご縁あって、それぞれ違った「思い」を込めて綴った本たちです。
 今回は、連載をまとめて書籍化するというパターンではなく、はじめての「書き下ろし」ました。およそ2年半かけて、じっくり書かせてもらいました。38歳の建築家として働く自分の原点を探るようにして、幼少期の話から、画家になりたかった高校時代の話もふくめ、「当時の自分に語りかける」つもりで、書いたものです。より正確に申しますと、この本は、1歳半の娘が将来おもしろく読んでくれたらなぁ、と頭の片隅でずっと想像しながら筆を進めました。
 「ちくまプリマー新書」というのは、12年前にはじまった「中高生向け」のシリーズで、そのシリアルナンバー「002」が私の合気道の師でもり、人生の師である内田樹先生の『先生はえらい』なのです。先生と同じシリーズの松席に交ぜてもらうことは、感慨深いものがあり、同時に身の引き締まる思いであります。
 本を書くということは、<声>を獲得するということかもしれません。その声は、僕自身が発したものではありますが、「読者」によって自由に解釈され、聞き取られるものです。私は、この<声>がいつだって多義的に、ポリフォニー(多声音楽)を奏でることを常に意識して書きました。それは、筆者である私と、まだ見ぬ読者との対話にほかなりません。
 建築や空間について、あるいは、地球や世界のあり方について考えることは、衣食住が生活の中心にあるものとする私たち人間にとって根源的なことだと考えています。そこには、絶対的な「正解」などありません。なぜなら、みな違った身体をもっているからです。そうした身体性をテーマに貫きつつ、自分が建築家として働くことにおいて、過去にどのような経験を重ねてきた、決断を下してきたか、についてじっくりと書いてみました。

 今、自宅に完成した傷ひとつない綺麗なアルミ板の机を前にして、わくわくしています。ここに和紙を広げて大きなドローイングを描くことで、私自身がまた見ぬ幻想都市風景を「妄想」しているからです。自宅に机を整えることだって、きっと自分の環境を考えることの大切な行為であり、小さな一歩ではないでしょうか。
 自分の大好きな小説を、満員電車の中で読むことと、お気に入りのカフェで読むのとでは、まったく異なる読書体験が待っていることでしょう。私は、建築家として<声>を発することで、読者のみなさんが、身近な空間に対してより意識的になり、自分の身体感覚を研ぎ澄ますことで、新しい「豊かさ」を毎日の生活の中でみつける手がかりを発見してもらえたら、それほど著者冥利に尽きることはありません。そうした意味においても、この一冊が、若き読者へと届けられることを心より願っています。そして、私がこれまで人生を豊かにしてくれた多くのご縁をいただいたように、またこの本から新しいご縁が紡がれることを期待しています。
こうしま ゆうすけ

●書籍のご紹介
cover光嶋裕介
『建築という対話: 僕はこうして家をつくる』

2017年
筑摩書房 発行
255ページ
17.5x10.6cm
価格:880円+税

家という空間を生み出す建築家は人や土地、風景との対話が重要だ。建築家になるために大切な学び方を内田樹氏の《凱風館》設計で鮮烈デビューした著者が綴る。(筑摩書房HPより)

●今日のお勧め作品は、光嶋裕介です。
20170530_koshima_2-1光嶋裕介
"Urban Landscape Fantasia #1" (1)
2013年
カンバスにシルクスクリーン
90.0×90.0cm
Ed.1
サインあり

こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください
ときの忘れものの通常業務は平日の火曜~土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。