本を巡る旅 番外編

この掲載の丁度ひと月前、二人旅でイタリアのピエモンテ州からヴェネト州にかけてを電車と車を駆使しし、ちょっと早足で回って来ました。本が中心の旅ではなかったのですが、運よく経路近くに見つけたコルヌーダの印刷博物館に行って来ました。

zu1小さなサインが立っているだけの控えめな外観です


ベネトンとデロンギの本社がありますが、そのどちらかに用が無ければ知る人はまずいないであろうトレヴィーゾは、ヴェネツィアからローカル線で約30分。バスで10分ほどのところに空港があり、宿を取って車を借りるには好都合の小さな街です。コルヌーダはトレヴィーゾから、更に電車で小一時間、車では40分程度かかり、ちょっと立ち寄るという場所ではありません。しかし、ブリオン家の墓とアントニオ・カノーヴァ塑像博物館のいずれからも車で20分程度なのです!カルロ・スカルパの2つの建築を車で訪れる方には、是非足を伸ばすことをお薦めします。TIPOTECA-Museo della stampa e del design tipografico は、ピアーヴェ川の支流沿いにあった、麻ロープなどを作る工場跡に2002年に完成した比較的新しい印刷博物館です。

zu2エントランスホールに入ると印刷の世界へと一気に引き込まれます


zu3稼働時の映像と共に分かりやすく展示されているベントン彫刻機


zu4もちろんオフィチナ・ボドニについての展示も


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zu6什器デザインも洗練されています


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この博物館はトレヴィーゾにある印刷・パッケージ・書籍などを扱うgrafiche antiga社が母体となっており、印刷機や活字を保存しその歴史を学ぶに止まらず、それらを使ったより実践的な制作体験を現在のタイポグラフィやグラフィックのデザインに活かすことが出来るよう、深度ある様々なワークショップや講演が組まれています。5月にはルドルフ・コッホの書体を使ったワークショップが開かれており、クリングスポール博物館(本を巡る旅-3)で資料を見せて頂いた時の記憶が浮き立ちました。黒1色の鉛活字を使った最小単位の文字組みから、色刷りで大小の木活字を使ったグラフィカルな文字組みまで、制作されたものはどれも完成度が高く、どんなふうに組み、どの版から刷ったのかなど頭の中でトレースをしていると、すっかり参加者の気分で引出を勝手に開けて文字を拾いだしてしまいそうです。

zu8印刷作業室


zu9ワークショップで制作された作品


ルリユール作家だと話すと、スタッフが自分が担当している製本ワークショップでの作品を見せてくれました。色とりどりの糸を使った、ひと折り中綴じと和綴じのノートで、和綴じは糸運びをアレンジした楽しげなものでした。製本に関しては、館内の展示は(私からみると若干不本意な状態で)数冊の本が入ったプレス機が1台あっただけでしたので、これはもしや糊を使わない製本の、魅力的に見えるアイデアを幾つか抱えて居座れば、印刷のワークショップを気のすむまで・・・と帰りの道すがらは、もっぱら皮算用に費やされました。
(文:羽田野麻吏
羽田野(大)のコピー


●作品紹介~羽田野麻吏制作
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羽田野麻吏 作品7
『DAZ ANTLITZ DES FRIEDENS』
PABLO PICASSO PAULE ELARD

Sechste Auflage 1998年

・総山羊革装 綴じ付け製本
・仔牛革によるデコール
・仔牛革/染め紙の見返し
・夫婦函
・2003年
・215×120×12mm
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●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。

本の名称
01各部名称(1)天
(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)


額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。

角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。

シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。

スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。

総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。

デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。

二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。

パーチメント
羊皮紙の英語表記。

パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。

半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。

夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。

ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。

両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。

様々な製本形態
両袖装両袖装


額縁装額縁装


角革装角革装


総革装総革装


ランゲット装ランゲット製本

◆ホームページのWEB展を更新しました。2017年1月~6月までの青山時代の企画展・アートフェア出展の記録をまとめました。

駒込開店4日前(画廊亭主敬白)
昨日も近くにある古本屋「青いカバ」さんに行くと、レジの前に行列ができている。いつ行っても老若男女、客が絶えることがない、亭主も釣られて滝口悠生『茄子の輝き』を買いました(この店、じつは新刊本も扱っています)。
夜はやはり近くにあるイタリアンで茄子のグラタンとワインで亭主の72歳を社長に祝ってもらいました。
20170605_六義園_1
新しい「ときの忘れもの」は、JR及び南北線の駒込駅南口から約10分、名勝六義園の正門から数分です。6月はじめ(入居して直ぐ)二人で散策しました。
入園料310円(シルバーなので半額でした)

20170605_六義園_5東京に半世紀もいながら初めて訪れた六義園、りくぎえんと読みます。茶店が二つあり美味しいお茶と和菓子が500円でいただけます。

20170605_六義園_2マンション群に囲まれてしまったとはいえ、この広さ、この静けさ。
7月7日のお披露目の帰りにはぜひ庭園を楽しんでください。

〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~18時。日・月・祝日は休廊。

ささやかですが、新しい空間のお披露目をいたします。
2017年7月7日(金)12時~19時(ご都合の良い時間にお出かけください)
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◆frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。