ときの忘れもの・拾遺 第6回ギャラリーコンサートに寄せて
大野 幸
一昨年末、『ときの忘れもの・拾遺』のコンサートシリーズを始めるにあたり、次のように書きました。
「ときの忘れもの」でコンサートをするならば、こぼれた佳作を拾い上げるように、忘れかけていた音楽に関わる力を、もう一度取り戻させてくれるかもしれないという期待を込めた企画にしたいと思いました。少人数、至近距離、は画廊のサイズが与えてくれる好条件!ですが、さらに、知られていない楽曲や作曲家を紹介すること、あまり馴染の無い古いスタイルの楽器を使うこと、画廊所蔵作品とのコラボなど、できることはたくさんありそうです。(20151115)
この度、青山から駒込に移転された「ときの忘れもの」を淡野弓子さんとともに初めて訪ねた時に、「できることはたくさんある」を新しい空間で改めて実感する事が出来ました。コンサートホールのような、隅々まで視線や音が均質に届くために計画された空間ではありません。住宅ならではの、立体的に引き延ばされ、折れ曲がり、音源と聴衆が互いに不可視の位置関係になることも有り得る空間。引越が決まる以前から今回の企画は決まっていましたが、新しい空間はこの企画にうってつけの場所でした。コンクリート打放しの硬質な内壁も、屈曲する複雑な内部空間に音を充たすための必要なしつらえとさえ思えます。
今回の『ときの忘れもの・拾遺』は、坂本長利さんの朗読による『からすたろう』を中心に据え、淡野弓子さんの歌う『日本の童謡と歌曲』を聴く企画です。空間の特性上、演者が見えない場所で音を聴くこともあるでしょうし、無音に耳を澄ますことを強いられるかもしれません。コンサートと呼ぶには少々風変わりではありますが、参集した方々が「ときの忘れもの」のお気に入りの場所に座し、音に集中する時間。そのひとときを共に過ごしたいと願っています。
絵本『からすたろう』の作者八島太郎(1908-1994)は、特高に何度も逮捕投獄され拷問を受けた挙句、1939年3月に日本から脱出しアメリカで生きる決断をします。日本が東京オリンピックの開催権を返上した直後、日独伊三国同盟を結ぶ直前の事です。八島は、軍国主義的な時流に乗る事なく、アメリカでも徹底して反戦を貫き、アメリカの戦時情報局に加わり対日宣伝活動に参加、沖縄では爆撃機から早期の投降を呼びかけるビラを撒きました。八島太郎の生き方に学ぶなどという大それたことはできないまでも、この機会に彼の人生を取り巻いていた歴史に触れることはできるのではないか。
あたらしく与えられたギャラリーで空間的/音響的可能性を求めると同時に、八島太郎と彼の残した作品を困難な時代の警鐘として受けとめる。30年代に状況が酷似している今だからこそ、この場所でできることはたくさんありそうです。
(おおのこう 20170830)

●ときの忘れもの・拾遺 ギャラリーコンサートのご案内
第6回 秋<カラス>
日時:2017年10月3日(火)18:00~
会場:ときの忘れもの
出演:朗読/坂本長利 やしまたろう『からす たろう』
メゾ・ソプラノ/淡野弓子 日本の童謡と歌曲
プロデュース:大野幸
*要予約=料金:1,000円
予約:必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記の上、メールにてお申し込みください。
info@tokinowasuremono.com
やしま たろうの文絵になる『からす たろう』という絵本があります。絵も文も内容も人のこころに、静かに、しかしそれは強く、また深く入り込んで来る、なかなかに珍しい作品です。私はこの作品を題材にした、人形と人間が同時に演ずる、それはユニークな舞台をアメリカのミネアポリスで観たのでした。そして自分でもこの絵本を元に小さな舞台を創ってみたくなり、俳優の坂本長利さんに『からす たろう』を朗読していただけないか、とお願いしたのです。嬉しいことに坂本さんも『からす たろう』を大変気に入ってくださり、今回の計画が動き出しました。
『からす たろう』主人公は「ちび」と呼ばれ、だれからも相手にされず、クラスのしっぽにくっついていた少年です。私は坂本さんの朗読によって伝わる場面の様子や気配に融け込むような日本の歌を歌いたいと思っています。
1933年2月21日、築地署で惨殺された小林多喜二のデスマスクを鉛筆で描いた 八島太郎、1939年3月、アメリカに向かう貨物船に身を潜め日本に別れを告げた八島太郎について、ここに詳しく書くことは出来ませんが、このような思想的背景も、この『からす たろう』の上演に欠けてはならぬと考えています。(淡野弓子)
■淡野 弓子 Yumiko Tanno [メゾ・ソプラノ]

東京藝術大学声楽科卒業。旧西ドイツ・ヴェストファーレン州立ヘルフォルト教会音楽大学に留学し、特に声楽、合唱指揮を集中的に学ぶ。1968年東京に「ハインリヒ・シュッツ合唱団・東京」を設立、以来2008年まで40年に亘り指揮者としてシュッツ音楽を始めとするルネサンス、バロックから現代に至る数多くの合唱作品の演奏に携わる。1989年に『シュッツ全作品連続演奏』を開始し2001年に全496曲の演奏を終了。歌い手としては、シュッツ、バッハより現代に至る宗教曲、ドイツ・リート、シェーンベルク《月に憑かれたピエロ》を始めとする現代作品の演奏、新作初演など。
1991年~2004年、アグネス・ギーベルの薫陶を受けつつ内外のコンサートで共演。2010年より米国にてエリザベス・マニヨンに師事。メゾ・ソプラノ淡野弓子、ピアノ小林道夫による「歌曲の夕べ」を2013年2月および2015年10月(共演:杉山光太郎・ヴィオラ)を開催。2015年5月には井桁裕子制作の操り人形「ユトロ」との共演により『狂童女の戀』(人形操演:黒谷都/朗読:坂本長利/ピアノ:武久源造)を制作・演奏。著書:『バッハの秘密』平凡社新書。CD:<ハインリヒ・シュッツの音楽> I~IV [SDG/MP]、メンデルスゾーン<パウロ>[ALCD]ほか。
■大野 幸(建築家) Ko OONO, Architect

本籍広島。1987年早稲田大学理工学部建築学科卒業。1989年同修士課程修了、同年「磯崎新アトリエ」に参加。「Arata Isozaki 1960/1990 Architecture(世界巡回展)」「エジプト文明史博物館展示計画」「有時庵」「奈義町現代美術館」「シェイク・サウド邸」などを担当。2001年「大野幸空間研究所」設立後、「テサロニキ・メガロン・コンサートホール」を磯崎新と協働。2012年「設計対話」設立メンバーとなり、中国を起点としアジア全域に業務を拡大。現在「イソザキ・アオキ アンド アソシエイツ」に参加し「エジプト日本科学技術大学(アレキサンドリア)」が進行中。ピリオド楽器でバッハのカンタータ演奏などに参加しているヴァイオリニスト。
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●本日のお勧めは、クリストです。
クリスト
《荷車のうえのパッケージ》
1963-2004
ドローイング、コラージュ
Image size: 20.3x20.3cm
Frame size: 35.5x35.5cm
Signed
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
営業時間=火曜~土曜の平日11時~18時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

大野 幸
一昨年末、『ときの忘れもの・拾遺』のコンサートシリーズを始めるにあたり、次のように書きました。
「ときの忘れもの」でコンサートをするならば、こぼれた佳作を拾い上げるように、忘れかけていた音楽に関わる力を、もう一度取り戻させてくれるかもしれないという期待を込めた企画にしたいと思いました。少人数、至近距離、は画廊のサイズが与えてくれる好条件!ですが、さらに、知られていない楽曲や作曲家を紹介すること、あまり馴染の無い古いスタイルの楽器を使うこと、画廊所蔵作品とのコラボなど、できることはたくさんありそうです。(20151115)
この度、青山から駒込に移転された「ときの忘れもの」を淡野弓子さんとともに初めて訪ねた時に、「できることはたくさんある」を新しい空間で改めて実感する事が出来ました。コンサートホールのような、隅々まで視線や音が均質に届くために計画された空間ではありません。住宅ならではの、立体的に引き延ばされ、折れ曲がり、音源と聴衆が互いに不可視の位置関係になることも有り得る空間。引越が決まる以前から今回の企画は決まっていましたが、新しい空間はこの企画にうってつけの場所でした。コンクリート打放しの硬質な内壁も、屈曲する複雑な内部空間に音を充たすための必要なしつらえとさえ思えます。
今回の『ときの忘れもの・拾遺』は、坂本長利さんの朗読による『からすたろう』を中心に据え、淡野弓子さんの歌う『日本の童謡と歌曲』を聴く企画です。空間の特性上、演者が見えない場所で音を聴くこともあるでしょうし、無音に耳を澄ますことを強いられるかもしれません。コンサートと呼ぶには少々風変わりではありますが、参集した方々が「ときの忘れもの」のお気に入りの場所に座し、音に集中する時間。そのひとときを共に過ごしたいと願っています。
絵本『からすたろう』の作者八島太郎(1908-1994)は、特高に何度も逮捕投獄され拷問を受けた挙句、1939年3月に日本から脱出しアメリカで生きる決断をします。日本が東京オリンピックの開催権を返上した直後、日独伊三国同盟を結ぶ直前の事です。八島は、軍国主義的な時流に乗る事なく、アメリカでも徹底して反戦を貫き、アメリカの戦時情報局に加わり対日宣伝活動に参加、沖縄では爆撃機から早期の投降を呼びかけるビラを撒きました。八島太郎の生き方に学ぶなどという大それたことはできないまでも、この機会に彼の人生を取り巻いていた歴史に触れることはできるのではないか。
あたらしく与えられたギャラリーで空間的/音響的可能性を求めると同時に、八島太郎と彼の残した作品を困難な時代の警鐘として受けとめる。30年代に状況が酷似している今だからこそ、この場所でできることはたくさんありそうです。
(おおのこう 20170830)

●ときの忘れもの・拾遺 ギャラリーコンサートのご案内
第6回 秋<カラス>
日時:2017年10月3日(火)18:00~
会場:ときの忘れもの
出演:朗読/坂本長利 やしまたろう『からす たろう』
メゾ・ソプラノ/淡野弓子 日本の童謡と歌曲
プロデュース:大野幸
*要予約=料金:1,000円
予約:必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記の上、メールにてお申し込みください。
info@tokinowasuremono.com
やしま たろうの文絵になる『からす たろう』という絵本があります。絵も文も内容も人のこころに、静かに、しかしそれは強く、また深く入り込んで来る、なかなかに珍しい作品です。私はこの作品を題材にした、人形と人間が同時に演ずる、それはユニークな舞台をアメリカのミネアポリスで観たのでした。そして自分でもこの絵本を元に小さな舞台を創ってみたくなり、俳優の坂本長利さんに『からす たろう』を朗読していただけないか、とお願いしたのです。嬉しいことに坂本さんも『からす たろう』を大変気に入ってくださり、今回の計画が動き出しました。
『からす たろう』主人公は「ちび」と呼ばれ、だれからも相手にされず、クラスのしっぽにくっついていた少年です。私は坂本さんの朗読によって伝わる場面の様子や気配に融け込むような日本の歌を歌いたいと思っています。
1933年2月21日、築地署で惨殺された小林多喜二のデスマスクを鉛筆で描いた 八島太郎、1939年3月、アメリカに向かう貨物船に身を潜め日本に別れを告げた八島太郎について、ここに詳しく書くことは出来ませんが、このような思想的背景も、この『からす たろう』の上演に欠けてはならぬと考えています。(淡野弓子)
■淡野 弓子 Yumiko Tanno [メゾ・ソプラノ]

東京藝術大学声楽科卒業。旧西ドイツ・ヴェストファーレン州立ヘルフォルト教会音楽大学に留学し、特に声楽、合唱指揮を集中的に学ぶ。1968年東京に「ハインリヒ・シュッツ合唱団・東京」を設立、以来2008年まで40年に亘り指揮者としてシュッツ音楽を始めとするルネサンス、バロックから現代に至る数多くの合唱作品の演奏に携わる。1989年に『シュッツ全作品連続演奏』を開始し2001年に全496曲の演奏を終了。歌い手としては、シュッツ、バッハより現代に至る宗教曲、ドイツ・リート、シェーンベルク《月に憑かれたピエロ》を始めとする現代作品の演奏、新作初演など。
1991年~2004年、アグネス・ギーベルの薫陶を受けつつ内外のコンサートで共演。2010年より米国にてエリザベス・マニヨンに師事。メゾ・ソプラノ淡野弓子、ピアノ小林道夫による「歌曲の夕べ」を2013年2月および2015年10月(共演:杉山光太郎・ヴィオラ)を開催。2015年5月には井桁裕子制作の操り人形「ユトロ」との共演により『狂童女の戀』(人形操演:黒谷都/朗読:坂本長利/ピアノ:武久源造)を制作・演奏。著書:『バッハの秘密』平凡社新書。CD:<ハインリヒ・シュッツの音楽> I~IV [SDG/MP]、メンデルスゾーン<パウロ>[ALCD]ほか。
■大野 幸(建築家) Ko OONO, Architect

本籍広島。1987年早稲田大学理工学部建築学科卒業。1989年同修士課程修了、同年「磯崎新アトリエ」に参加。「Arata Isozaki 1960/1990 Architecture(世界巡回展)」「エジプト文明史博物館展示計画」「有時庵」「奈義町現代美術館」「シェイク・サウド邸」などを担当。2001年「大野幸空間研究所」設立後、「テサロニキ・メガロン・コンサートホール」を磯崎新と協働。2012年「設計対話」設立メンバーとなり、中国を起点としアジア全域に業務を拡大。現在「イソザキ・アオキ アンド アソシエイツ」に参加し「エジプト日本科学技術大学(アレキサンドリア)」が進行中。ピリオド楽器でバッハのカンタータ演奏などに参加しているヴァイオリニスト。
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●本日のお勧めは、クリストです。

《荷車のうえのパッケージ》
1963-2004
ドローイング、コラージュ
Image size: 20.3x20.3cm
Frame size: 35.5x35.5cm
Signed
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●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
営業時間=火曜~土曜の平日11時~18時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

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