スタッフSの「柳正彦ギャラリートーク」レポート

 読者の皆さまこんにちわ。9月も後半に入るも気温が30℃を超える日々が続き、かと思うと暴風吹きすさぶ台風がどこもかしこをも吹き散らかす中、ススキのさざめきを聞き、月を見ながら団子を食べる、なんてもう9月の風物詩じゃないんだなぁなどと、今更ながらに感じ入るスタッフSこと新澤です。実際の話、ここ数年の夏の終わりはお月見ではなくハロウィンが持て囃されている気がしてなりません。こんな所にも文化侵略が!

 毎度益体もない掴みはこの程度にしておきまして、本日の記事は今月2日、本駒込に移転してから初の開催となった「クリストとジャンヌ=クロード展」のギャラリートークのレポートをお送りします。

20170922GT_08今回ご出演いただいたのは、80年代にクリストを知った後に単身アメリカに渡ってそのアシスタントとなり、「アンブレラ」「包まれたライヒスターク」「ゲート」「オーバー・ザ・リバー」「マスタバ」等のプロジェクトに関わり、日本とクリストの無二の窓口として活動されている柳正彦さん。実は学生時代はときの忘れものの前身である「現代版画センター」のスタッフだったこともあり、亭主の人脈の広さと深さには毎度感服するばかりです。海外生活が長いおかげで英語も堪能なため、今年の1月にはArt Stage Singaporeで通訳もしていただきました。

 通常ときの忘れもののギャラリーイベントは、まず展示企画から作品を選出し、その後にイベントを計画するのですが、今回のクリスト展では珍しいことにまずギャラリートークが確定し、そこからただトークをやるのは勿体無いから作品も展示しようと話が広がりました。
 実は柳さん、6月23日から10月1日まで21_21 DESIGN SIGHTで開催されている「そこまでやるか ~壮大なプロジェクト展~」の一環として7月末にで行われたトークイベント「プロジェクトをアーカイブする」に出演されたのですが、この時は時間不足故にクリストについて語り切れず不完全燃焼気味だったそうです。それは聞く側にもあったようで、このブログでおなじみの土渕信彦さんが亭主に「時間が少なくて聞きたいことも聞けなかった」とぼやいたところ、それじゃ駒込で思う存分話してもらおうと柳さんにもちかけ、ときの忘れものからすると何とも棚ぼたな成り行きでの実現となりました。この日のためにスライドショーや様々なドキュメンタリからの引用動画もご用意いただき、クリストとジャンヌ=クロードの生まれから初期の小規模作品--それでも貨物船のコンテナ群(ドイツ)や路地を埋め尽くすドラム缶の壁(フランス)などスケールが段違いですが--から、現在知られている超大規模作品についてなど、一時間という時間の中で自由に語っていただきました。

20170922GT_03本駒込初の亭主の前語り。
新天地初のトークとあって、内容はトークの趣旨と柳さんのご紹介以外にも、画廊が入っている建物、「LAS CASAS」についても話しました。

20170922GT_06会場は建物2階の廊下部分に割り当てたのですが、初回だけに加減が分からず、足の踏み場がないだけではなく、階段まで使うことに。
次回以降はもう少し余裕を持って開催したいものです。

 電話帳もかくやという厚さの一つのプロジェクトについての書籍に、一般的なテキストは殆ど入っておらず、書類のコピーや写真についているキャプションこそがメインテキストであることや、これらの編集はクリストが一人かつ手作業で行っていること。ボランティアやスポンサーに頼らず、作品の売り上げで資金を稼ぎ、関わるスタッフ全員を雇うのは、自らの活動が「ビジネス」ではなく「創作」であり、人の都合に左右されない以上に、自分のモチベーションが無くなった時にはスッパリ辞められるようにしているためであることなど、20世紀最高峰の環境美術家の考え方や活動方針について、非常に興味深いお話を聞けた、貴重な時間でした。

 個人的に特に印象に残ったのは、クリストとジャンヌ=クロードのインタビュー動画の1シーン。十数年かけて実現したプロジェクトがたった2週間で撤去されるというのはどのような意図なのか、という質問に対するジャンヌ=クロードの答え。

「貴方は街角に綺麗な虹が出ていると聞いて、『じゃぁ明日見に行くよ』とは答えないでしょう?」

 素直に物の見方とスケールが違うと思わされました。

 以下はトーク後の打ち上げ風景です。

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左端が、LAS CASASの設計者である阿部勤先生。

(しんざわ ゆう)

■クリスト Christo(1935-)
ブルガリア生まれのクリストは、本名はフリスト・ヴラディミロフ・ヤヴァシェフ。夫人であるフランスのジャンヌ=クロード(1935-2009)とともに「Christo and Jeanne-Claude クリスト&ジャンヌ=クロード」の名で活動している。二人が美術活動として何をやっているかというと、「梱包」である。
瓶や椅子などの日用品を「梱包」することから始まり、巨大なモニュメント、はては建物をそっくり、自然そのものや公園までをすっぽりと布で梱包してしまった。実現までの長い時間、膨大な人手と費用、にもかかわらず「梱包」するやそれは短時間で撤去され、後には記憶とプロジェクトに関するドローイングや版画作品のみが残される。二人は作品実現までの社会的、政治的な交渉、経済的な問題、プロジェクトに関わった人々との交流などの全行程が自らの作品であるとみなしています。

■柳 正彦 Masahiko YANAGI
東京都出身。大学卒業後、1981年よりニューヨーク在住。ニュー・スクール・フォー・ソシアル・リサーチ大学院修士課程終了。在学中より、美術・デザイン関係誌への執筆、展覧会企画、コーディネートを行う。1980年代中頃から、クリストとジャンヌ=クロードのスタッフとして「アンブレラ」「包まれたライヒスターク」「ゲート」「オーバー・ザ・リバー」「マスタバ」の準備、実現に深くかかわっている。また二人の日本での展覧会、講演会のコーディネート、メディア対応の窓口も勤めている。 昨年秋、水戸芸術館で開催された「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1984-91」も柳さんがスタッフとして尽力されました。