石原輝雄のエッセイ「マルセル、きみは寂しそうだ。」─4
『読むと赤い。』
展覧会 キュレトリアル・スタディズ(12)
泉/Fountain 1917─2017
京都国立近代美術館4階コレクション・ギャラリー
2017年4月19日(水)~2018年3月11日(日)
Case-4 デュシャンを読む: リサーチ・ノート
キュレーション: ベサン・ヒューズ(アーティスト)
2017年10月25日(水)~12月24日(日)
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平安神宮大鳥居 10月26日(木) 13:34
京都は紅葉の季節。4月から始まった『泉』の誕生100周年祝賀企画も6ヶ月目に入り、ウェールズ出身の美術家ベサン・ヒューズによる展示が10月25日から始まっている。この報告がアップされる頃には岡崎公園も錦秋に染まり、足元には木々の落葉が幾枚も重なって、気持ちよく歩いているだろう。地表の弾力と眼の喜び、そして、踏みしめる音。身体の感覚の元となっている色とりどりの葉が、ベサンの仕事に繋がるのではと思う。
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Case-4の展示

彼女が2007年から始めた『デュシャンを読む: リサーチ・ノート』のプロジェクトは、作者だけでなく、観る者によっても作品が作られると云うデュシャンの言説に触発されたようで、興味深い。美術館の壁面を埋め尽くしたベサンのA4シートはおよそ700枚。様々な写真や資料、書籍のページをコピーして余白に書き込んだ思考の痕跡が、仏語と英語の間を行き来し、メモ的なデッサンや所々に貼られた各色の付箋、新しいA4シートへと続く解釈が、さらに核心へ迫るのか? デュシャンの回りで溺れるのか? これに立ち入ろうとしたけど、日本語世界のわたしには難しい。美術史家や評論家、哲学者や収集家といった分類に属さず、デュシャンと同じ意味での美術家によるアプローチは、ファイルに入って、無造作に留められたA4シートのように美しい── で、どうして、彼女はデュシャンの虜になってしまったのかと26日のアーティスト・トークに参加しながら考えた。
もちろん、デュシャンへの関心は『泉』(1917年)が最初。そして、ターニングポイントとなった作品が幾つかあり、修正されたレディメイドの『薬局』(1914年)もそのひとつと聞いた。彼女は「水辺に枯木の立っている風景」を手に翳し(シートだから可能)、透かし見ながら、「赤と青」の点が盤上に立つキングとクイーンに見えると、楽しげな様子。これはデュシャンに心を奪われたひとの眼差しだ。彼女はチェスを知らなければデュシャンは判らないと、駒の動きを勉強された。でも「ルールは学んだけれど、プレイはできない」と打ち明けられ、世界の半分を支配する男性と、お喋りな女性に言及され、チェスの勝敗を決する真ん中のライン、ニュートラルな部分こそデュシャン的だと。「頭脳によるスポーツの代表格」と云われるチェスの世界を使ってデュシャンと共に思考の動きを解読しようとする行為は、純粋な楽しみなんだろうな。トークの観客をまず『薬局』の前に誘い、初手の白い駒を進めた彼女の戦術は、上手くいったと思う。収集家の世界では、チェスのアイテムには特別の愛好家が存在し、しばしば、高騰する。それで、わたしの場合、入手出来ない目に何度かあった(これは関係ないか)。
次いで、現物が展示されているレディメイドの『罠』(1917年)から音符を読む試み。音楽もデュシャンを理解する重要な要素として勉強されたとベサン。チェスの1プレイヤーが32音符と呼ばれるのも偶然ではないとも。そして、マス目の64に繋がるとの視覚的な連想。さらに、『泉』のシルエットで切り抜かれた写真からカトリックの三位一体説に触れ、デュシャンの家族観へと展開。カトリックの勉強もされたベサン。これ以上、ゲームを楽しむ彼女の熱いレクチャーに深入りすることは避けるが、宗教やフェミニズムへの配慮、『貞淑さの楔』での男性器への指摘などには、文化の違いから戸惑いを覚えた。
試合の展開を俯瞰できるチェスと異なり、脳内で繰り広げられ、絞り出されてA4シートに落ちたイメージの往復運動は、対戦相手がフランスの代表選手であるが故に、凡人では、理解できない。「他者を自作へとしばる」デュシャン流の戦略は、ゲームのルールを『泉』を使って開示した初手のインパクトゆえの勝利であるのだろうな。時代や人間に共通する問題提起、解決の方法であるとしても。
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『薬局』などのシート
Bethan Huws(1961 - )
『罠』などのシート
常設展示室 10月26日(水) 15:49
男も女も、そうでない人も、デュシャンの仕掛けた「罠」に捕まり、もがき苦しんでいるように思う。身近にもいる、そうした人たちは「わたしは違う」と言い訳した後に、作品やメモと云った思考の断片に取り組み、私的な解釈を、逆説的だけど「楽しげに」発表されている。読んでみると悦楽さえ感じさせる不思議な例が多い。哲学的であり、破綻しないように論を進める身振りが、網膜の喜びの側にいるわたしには苦しい。マン・レイはチェスの試合よりも駒のデザインに関心を持ち「問題などなにもない、だから解決などということもないのだ」とする友人に対して「解決があるだけである」と明るく、この前段に「感ずると同時に思考している頭脳がみせる異常は、どれもつねに興味深いものである」と『セルフ・ポートレイト』(千葉成夫訳、美術公論社、1981年刊、384-385頁)に書いている。いけない、いけない、デュシャンの「罠」に捕まりそうだ。
それにしても、今回のベサン・ヒューズが、示したインスタレーションは、観客も彼女と共に、「迷宮で」デュシャンを楽しむ仕掛けに満ち、前3回の展示と比べて『泉』を身近に感じた。展示台に置かれたレディメイドも接近可能な状態であり、カメラ片手に盗撮に近い気分(したことはありません)で、『旅行用折りたたみ品』(1916年)や『三つの停止原基』(1913-14年)を覗いた。美的な意味を解釈してはいけないそうだけど、美しいのだから仕方がない。加えて、今回の展示でわたしの心が一番騒いだのは、レディメイドが入っていた木箱の意匠。初めて覗いた『秘められた音で』(1916年)の、内貼りのオレンジ色がエロティック。この色、平安神宮の大鳥居に続いてないかしら
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『泉』(部分) (1917/1964)
『旅行用折りたたみ品』(1916/1964)
『三つの停止原基』(部分) (1913-14/1964)
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『お尋ね者』などのシート

Bethan Huws著『Research Notes』(2014年刊)の『貞淑さの楔』掲載頁(343)、
アーティスト・トークの会場で、直接、「デュシャンと色」との関係を尋ねてみれば良かったのだけど、機会を逸してしまった。後日、再訪した折『お尋ね者』(1934年)からの付箋紙で「RED / READ」から「ROSE / ROUGE」へと繋がる単語を読んだ。デュシャンと言えばグリーンだと単純に思っていたけれど、『お尋ね者』での色使いの為か、「赤」から「読んだ」が連想され、さらに、寓意に満ちた「薔薇」「口紅」へとデュシャンをリサーチするベサン。「READ」は、彼女にとって特別の、意味ある動詞のようで、過去の作品でも重要なモチーフになっている。「READ」は、過去形も「READ」と綴り、発音が「RED」になるのは、よく知られている。デュシャンを読むと、木々の葉は赤く色づき、やがて風に舞って、足の周りに落ちてくる。寒暖の差が激しい不安な世界、美術館の壁面を埋め尽くしたベサンのA4シートが、どのように落下するのか? 襟を立てながら待っていたい。
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岡崎公園 11月9日(木) 16:24
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参考資料 左上 ホッチキス留め
チラシ 表・裏
盤上(?)の『秘められた音で』など
さて、京近美では、アーティスト・トークで配付された平芳幸浩氏の参考資料8枚(両面刷り)の他に、折り畳んだ紙を拡げ、2枚並べてチェス板の64マスを演出するチラシなど、紙モノ好きの琴線に触れるアイテムが、続々と登場している。尚、来年1月5日(金)からの最終回(Case-5)は、アーティスト・毛利悠子さんの『散種』。批評家・浅田彰氏とのトークや、富山県美からの特別ゲスト上洛も予告され、今から期待が膨らんでいる。
続く
(いしはら てるお)


「キュレトリアル・スタディズ12:泉/Fountain 1917-2017」
会期:2017年4月19日[水]~2018年3月11日[日]
会場:京都国立近代美術館 4F コレクション・ギャラリー内
時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
※毎週金曜・土曜9:30~20:00(入館は19:30まで)
休館:月曜(月曜日が休日に当たる場合は、翌日が休館)、及び年末・年始
※展示替期間:2017年6月13日(火)、8月8日(火)、10月24日(火)
企画:平芳幸浩(京都工芸繊維大学美術工芸資料館准教授)、牧口千夏(当館主任研究員)
1917年にマルセル・デュシャンによって「制作」されたレディメイド作品《泉》は、20世紀美術にもっとも影響を与えた作品として知られています。また1960年代のコンセプチュアル・アート以降、デュシャンの《泉》を解釈・解読すること自体が創作行為にもなっています。2017年4月に《泉》が100周年を迎えるにあたって企画されたこのプログラムでは、当館の所蔵作品だけでなく現代の美術家によるデュシャン解読の作例を加え、各回展示替えをしながら本作品の再制作版(1964)を1年間展示するとともに、さまざまなゲストを迎えて《泉》およびデュシャンをめぐるレクチャーシリーズを開催します。
●Case 4: デュシャンを読む:リサーチ・ノート
2017年10月25日(水)~12月24日(日)
キュレーション:べサン・ヒューズ(アーティスト)
アーティストトーク:10月26日(木)午後3時~
会場:4階コレクション・ギャラリー
※先着40名、聴講無料、要観覧券、当日午後2時より1階インフォメーションにて整理券を配布します。
●Case 5: 散種
2018年1月5日(金)~3月11日(日)
キュレーション:毛利悠子(アーティスト)
クロストーク:2018年1月26日(金)午後6時~ 毛利悠子×浅田彰(批評家)
会場:京都国立近代美術館 1階講堂
※先着100名、聴講無料、要観覧券、当日午後5時より1階インフォメーションにて整理券を配布します。
(京都国立近代美術館HPより転載)
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●今日のお勧め作品は、マン・レイです。
マン・レイ
《ニューヨークのマルセル・デュシャン》
1921年
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:28.0×21.0cm
裏面にスタンプあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
ときの忘れものの通常業務は平日の火曜~土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。
◆ときの忘れものは「細江英公写真展」を開催しています。
会期=2017年10月31日[火]―11月25日[土]

細江先生は秋の叙勲で旭日重光章を受章されました。
●会期中、細江英公サイン入り写真集を特別頒布しています。
◆ときの忘れものは「メキシコ地震被災地支援・チャリティー頒布会」を開催します。

会期:2017年11月28日(火)~12月2日(土)
出品100点のリストは11月11日ブログに掲載し、予約受付を開始しました。
全作品、一律8,000円で頒布し、売上金全額を被災地メキシコに送金します。
※お申込みの返信は、翌営業日となります。(日・月・祝日は休廊です。)
◆銀座のギャラリーせいほうで宮脇愛子展が開催されています。
「宮脇愛子展 last works(2013~14)」
会期=2017年11月20日[月]~12月2日[土] ※日・祝日休廊
会場=ギャラリーせいほう
〒104-0061 東京都中央区銀座8丁目10-7 東成ビル1F
電話:03-3573-2468
最後の新作である油彩を中心に立体(ガラス、真鍮)、ドローイング、版画など。
●書籍のご案内
『瀧口修造展 III・IV 瀧口修造とマルセル・デュシャン』図録
2017年10月
ときの忘れもの 発行
92ページ
21.5x15.2cm
テキスト:瀧口修造(再録)、土渕信彦、工藤香澄
デザイン:北澤敏彦
掲載図版:65点
価格:2,500円(税別)*送料別途250円
*『瀧口修造展 I』及び『瀧口修造展 II』図録も好評発売中です。
『安藤忠雄の奇跡 50の建築×50の証言』
2017年11月
日経アーキテクチュア(編)
B5判、352ページ
(NA建築家シリーズ 特別編 日経アーキテクチュア)
価格:2,700円+税 *送料:250円
亭主もインタビューを受け、1984年の版画制作始末を語りました。
安藤先生のサイン本をときの忘れもので扱っています。
六本木の国立新美術館では「安藤忠雄展―挑戦―」が開催されています。
会期:2017年9月27日[水]~12月18日[月]
番頭おだちのオープニング・レポートはコチラを、光嶋裕介さんのエッセイ「安藤忠雄展を見て」と合わせてお読みください。
ときの忘れものでは1984年以来の安藤忠雄の版画、ドローイング作品をいつでもご覧になれます。
●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
営業時間=火曜~土曜の平日11時~18時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

『読むと赤い。』
展覧会 キュレトリアル・スタディズ(12)
泉/Fountain 1917─2017
京都国立近代美術館4階コレクション・ギャラリー
2017年4月19日(水)~2018年3月11日(日)
Case-4 デュシャンを読む: リサーチ・ノート
キュレーション: ベサン・ヒューズ(アーティスト)
2017年10月25日(水)~12月24日(日)
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京都は紅葉の季節。4月から始まった『泉』の誕生100周年祝賀企画も6ヶ月目に入り、ウェールズ出身の美術家ベサン・ヒューズによる展示が10月25日から始まっている。この報告がアップされる頃には岡崎公園も錦秋に染まり、足元には木々の落葉が幾枚も重なって、気持ちよく歩いているだろう。地表の弾力と眼の喜び、そして、踏みしめる音。身体の感覚の元となっている色とりどりの葉が、ベサンの仕事に繋がるのではと思う。
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彼女が2007年から始めた『デュシャンを読む: リサーチ・ノート』のプロジェクトは、作者だけでなく、観る者によっても作品が作られると云うデュシャンの言説に触発されたようで、興味深い。美術館の壁面を埋め尽くしたベサンのA4シートはおよそ700枚。様々な写真や資料、書籍のページをコピーして余白に書き込んだ思考の痕跡が、仏語と英語の間を行き来し、メモ的なデッサンや所々に貼られた各色の付箋、新しいA4シートへと続く解釈が、さらに核心へ迫るのか? デュシャンの回りで溺れるのか? これに立ち入ろうとしたけど、日本語世界のわたしには難しい。美術史家や評論家、哲学者や収集家といった分類に属さず、デュシャンと同じ意味での美術家によるアプローチは、ファイルに入って、無造作に留められたA4シートのように美しい── で、どうして、彼女はデュシャンの虜になってしまったのかと26日のアーティスト・トークに参加しながら考えた。
もちろん、デュシャンへの関心は『泉』(1917年)が最初。そして、ターニングポイントとなった作品が幾つかあり、修正されたレディメイドの『薬局』(1914年)もそのひとつと聞いた。彼女は「水辺に枯木の立っている風景」を手に翳し(シートだから可能)、透かし見ながら、「赤と青」の点が盤上に立つキングとクイーンに見えると、楽しげな様子。これはデュシャンに心を奪われたひとの眼差しだ。彼女はチェスを知らなければデュシャンは判らないと、駒の動きを勉強された。でも「ルールは学んだけれど、プレイはできない」と打ち明けられ、世界の半分を支配する男性と、お喋りな女性に言及され、チェスの勝敗を決する真ん中のライン、ニュートラルな部分こそデュシャン的だと。「頭脳によるスポーツの代表格」と云われるチェスの世界を使ってデュシャンと共に思考の動きを解読しようとする行為は、純粋な楽しみなんだろうな。トークの観客をまず『薬局』の前に誘い、初手の白い駒を進めた彼女の戦術は、上手くいったと思う。収集家の世界では、チェスのアイテムには特別の愛好家が存在し、しばしば、高騰する。それで、わたしの場合、入手出来ない目に何度かあった(これは関係ないか)。
次いで、現物が展示されているレディメイドの『罠』(1917年)から音符を読む試み。音楽もデュシャンを理解する重要な要素として勉強されたとベサン。チェスの1プレイヤーが32音符と呼ばれるのも偶然ではないとも。そして、マス目の64に繋がるとの視覚的な連想。さらに、『泉』のシルエットで切り抜かれた写真からカトリックの三位一体説に触れ、デュシャンの家族観へと展開。カトリックの勉強もされたベサン。これ以上、ゲームを楽しむ彼女の熱いレクチャーに深入りすることは避けるが、宗教やフェミニズムへの配慮、『貞淑さの楔』での男性器への指摘などには、文化の違いから戸惑いを覚えた。
試合の展開を俯瞰できるチェスと異なり、脳内で繰り広げられ、絞り出されてA4シートに落ちたイメージの往復運動は、対戦相手がフランスの代表選手であるが故に、凡人では、理解できない。「他者を自作へとしばる」デュシャン流の戦略は、ゲームのルールを『泉』を使って開示した初手のインパクトゆえの勝利であるのだろうな。時代や人間に共通する問題提起、解決の方法であるとしても。
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男も女も、そうでない人も、デュシャンの仕掛けた「罠」に捕まり、もがき苦しんでいるように思う。身近にもいる、そうした人たちは「わたしは違う」と言い訳した後に、作品やメモと云った思考の断片に取り組み、私的な解釈を、逆説的だけど「楽しげに」発表されている。読んでみると悦楽さえ感じさせる不思議な例が多い。哲学的であり、破綻しないように論を進める身振りが、網膜の喜びの側にいるわたしには苦しい。マン・レイはチェスの試合よりも駒のデザインに関心を持ち「問題などなにもない、だから解決などということもないのだ」とする友人に対して「解決があるだけである」と明るく、この前段に「感ずると同時に思考している頭脳がみせる異常は、どれもつねに興味深いものである」と『セルフ・ポートレイト』(千葉成夫訳、美術公論社、1981年刊、384-385頁)に書いている。いけない、いけない、デュシャンの「罠」に捕まりそうだ。
それにしても、今回のベサン・ヒューズが、示したインスタレーションは、観客も彼女と共に、「迷宮で」デュシャンを楽しむ仕掛けに満ち、前3回の展示と比べて『泉』を身近に感じた。展示台に置かれたレディメイドも接近可能な状態であり、カメラ片手に盗撮に近い気分(したことはありません)で、『旅行用折りたたみ品』(1916年)や『三つの停止原基』(1913-14年)を覗いた。美的な意味を解釈してはいけないそうだけど、美しいのだから仕方がない。加えて、今回の展示でわたしの心が一番騒いだのは、レディメイドが入っていた木箱の意匠。初めて覗いた『秘められた音で』(1916年)の、内貼りのオレンジ色がエロティック。この色、平安神宮の大鳥居に続いてないかしら
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アーティスト・トークの会場で、直接、「デュシャンと色」との関係を尋ねてみれば良かったのだけど、機会を逸してしまった。後日、再訪した折『お尋ね者』(1934年)からの付箋紙で「RED / READ」から「ROSE / ROUGE」へと繋がる単語を読んだ。デュシャンと言えばグリーンだと単純に思っていたけれど、『お尋ね者』での色使いの為か、「赤」から「読んだ」が連想され、さらに、寓意に満ちた「薔薇」「口紅」へとデュシャンをリサーチするベサン。「READ」は、彼女にとって特別の、意味ある動詞のようで、過去の作品でも重要なモチーフになっている。「READ」は、過去形も「READ」と綴り、発音が「RED」になるのは、よく知られている。デュシャンを読むと、木々の葉は赤く色づき、やがて風に舞って、足の周りに落ちてくる。寒暖の差が激しい不安な世界、美術館の壁面を埋め尽くしたベサンのA4シートが、どのように落下するのか? 襟を立てながら待っていたい。
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さて、京近美では、アーティスト・トークで配付された平芳幸浩氏の参考資料8枚(両面刷り)の他に、折り畳んだ紙を拡げ、2枚並べてチェス板の64マスを演出するチラシなど、紙モノ好きの琴線に触れるアイテムが、続々と登場している。尚、来年1月5日(金)からの最終回(Case-5)は、アーティスト・毛利悠子さんの『散種』。批評家・浅田彰氏とのトークや、富山県美からの特別ゲスト上洛も予告され、今から期待が膨らんでいる。
続く
(いしはら てるお)


「キュレトリアル・スタディズ12:泉/Fountain 1917-2017」
会期:2017年4月19日[水]~2018年3月11日[日]
会場:京都国立近代美術館 4F コレクション・ギャラリー内
時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
※毎週金曜・土曜9:30~20:00(入館は19:30まで)
休館:月曜(月曜日が休日に当たる場合は、翌日が休館)、及び年末・年始
※展示替期間:2017年6月13日(火)、8月8日(火)、10月24日(火)
企画:平芳幸浩(京都工芸繊維大学美術工芸資料館准教授)、牧口千夏(当館主任研究員)
1917年にマルセル・デュシャンによって「制作」されたレディメイド作品《泉》は、20世紀美術にもっとも影響を与えた作品として知られています。また1960年代のコンセプチュアル・アート以降、デュシャンの《泉》を解釈・解読すること自体が創作行為にもなっています。2017年4月に《泉》が100周年を迎えるにあたって企画されたこのプログラムでは、当館の所蔵作品だけでなく現代の美術家によるデュシャン解読の作例を加え、各回展示替えをしながら本作品の再制作版(1964)を1年間展示するとともに、さまざまなゲストを迎えて《泉》およびデュシャンをめぐるレクチャーシリーズを開催します。
●Case 4: デュシャンを読む:リサーチ・ノート
2017年10月25日(水)~12月24日(日)
キュレーション:べサン・ヒューズ(アーティスト)
アーティストトーク:10月26日(木)午後3時~
会場:4階コレクション・ギャラリー
※先着40名、聴講無料、要観覧券、当日午後2時より1階インフォメーションにて整理券を配布します。
●Case 5: 散種
2018年1月5日(金)~3月11日(日)
キュレーション:毛利悠子(アーティスト)
クロストーク:2018年1月26日(金)午後6時~ 毛利悠子×浅田彰(批評家)
会場:京都国立近代美術館 1階講堂
※先着100名、聴講無料、要観覧券、当日午後5時より1階インフォメーションにて整理券を配布します。
(京都国立近代美術館HPより転載)
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●今日のお勧め作品は、マン・レイです。

《ニューヨークのマルセル・デュシャン》
1921年
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:28.0×21.0cm
裏面にスタンプあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
ときの忘れものの通常業務は平日の火曜~土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。
◆ときの忘れものは「細江英公写真展」を開催しています。
会期=2017年10月31日[火]―11月25日[土]

細江先生は秋の叙勲で旭日重光章を受章されました。
●会期中、細江英公サイン入り写真集を特別頒布しています。
◆ときの忘れものは「メキシコ地震被災地支援・チャリティー頒布会」を開催します。

会期:2017年11月28日(火)~12月2日(土)
出品100点のリストは11月11日ブログに掲載し、予約受付を開始しました。
全作品、一律8,000円で頒布し、売上金全額を被災地メキシコに送金します。
※お申込みの返信は、翌営業日となります。(日・月・祝日は休廊です。)
◆銀座のギャラリーせいほうで宮脇愛子展が開催されています。

会期=2017年11月20日[月]~12月2日[土] ※日・祝日休廊
会場=ギャラリーせいほう
〒104-0061 東京都中央区銀座8丁目10-7 東成ビル1F
電話:03-3573-2468
最後の新作である油彩を中心に立体(ガラス、真鍮)、ドローイング、版画など。
●書籍のご案内

2017年10月
ときの忘れもの 発行
92ページ
21.5x15.2cm
テキスト:瀧口修造(再録)、土渕信彦、工藤香澄
デザイン:北澤敏彦
掲載図版:65点
価格:2,500円(税別)*送料別途250円
*『瀧口修造展 I』及び『瀧口修造展 II』図録も好評発売中です。

2017年11月
日経アーキテクチュア(編)
B5判、352ページ
(NA建築家シリーズ 特別編 日経アーキテクチュア)
価格:2,700円+税 *送料:250円
亭主もインタビューを受け、1984年の版画制作始末を語りました。
安藤先生のサイン本をときの忘れもので扱っています。
六本木の国立新美術館では「安藤忠雄展―挑戦―」が開催されています。
会期:2017年9月27日[水]~12月18日[月]
番頭おだちのオープニング・レポートはコチラを、光嶋裕介さんのエッセイ「安藤忠雄展を見て」と合わせてお読みください。
ときの忘れものでは1984年以来の安藤忠雄の版画、ドローイング作品をいつでもご覧になれます。
●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
営業時間=火曜~土曜の平日11時~18時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

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