frgmのエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」第39回
よい革を求めて
「昔、西欧では、かがり台は大切な嫁入り道具の一つだった」そうで、なるほど本を綴じている様子が描かれた中では、大抵女性がその仕事を分担しています。同じく「昔、西欧では」という枕詞で始まる話しでは、一番上等な革は先ずルリユールに使われたそうです。羨ましい話しですが、今ここに戻りますと、手帳に被せるのではなく本の表紙に貼るというのは革の用途としては、やはり特殊なようで、必要な時に自分の目でより良い革を選び手に入れる機会を得るべく、鷹の目で出掛けている東京レザーフェアでは、いつも苦戦しています。
とは言え、国内外の材料としての革の状況もこの十年ほどで随分と変わって来ており、出展しているタンナーも、エコと少ロットをキーワードに需要を喚起している所が増え、年に数枚、しかも一色につき一枚あれば十分という僅かな量を求める製本家には少しだけ風向きが良くなっている気がします。12月のレザーフェアでも本来の革の質感を最大限に引き出すにとどめたシンプルなタンニン鞣しの革が奮闘していました。また、鞣し方10種と仕上げ10種の組み合わせ100通りの中から、ヌメ革を1枚からオーダー出来るシステムの見本展示などもありました。まさに少ロット!です。ただ残念なのはこのオーダーシステムもしかり、各社の主流はステアと呼ばれる成牛で作られた革で、日頃色々な革を使いはしますが、一番ルリユールに向いている仔牛や山羊は扱いが少ないことです。
ルリユール用の革として心惹かれるかというのはまた別の話しになりますが、表面を特殊加工した不思議な風合いの革や変わりダネの皮も毎年多種多様に展開されています。そんな中で、使う事も多い爬虫類の革とはまた少し違って面白く見えたのは、なんとマグロの革で、タンニン鞣しで綺麗なグラデーションに染められていました。
近頃は、背を固めない構造を選ぶ製本家も増えており、表紙に革を使わない作品も目にします。私もテクストによって、こだわりなくそういった選択をしているつもりですが、やはり仔牛や山羊の上質な革で作られた本には、格別の心地よさがあり、作っている間も手が楽しく気持ちが好いのです。澁澤龍彦の『エピクロスの肋骨』の中に、新聞紙では食が進まず弱った山羊に詩を書いた紙を与える件があって、その後で確か山羊は何処かに売られた筈。詩を食べた山羊の革はさぞルリユールに向いていることだろうと思います。いっそこれから製本するテクストの写しを先ず食べさせて、その本のための山羊として育ててみたら・・・という想像は悪ノリが過ぎますが、山羊革のルリユール本、是非お手許に。
(文:羽田野麻吏)

●作品紹介~羽田野麻吏制作



『流離抄板畫卷』
棟方志功 歌:吉井勇
1954年 龍星閣
限定110部のうち25番
・総山羊革二重装 綴じ付け製本
・染色板と仔牛革、山羊革によるデコール
・仔牛革/染め和紙の見返し
・天染め
・夫婦函
・2006年
・217×176×16mm
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。
本の名称
(1)天
(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)
額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。
角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。
シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。
スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。
総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。
デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。
二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。
パーチメント
羊皮紙の英語表記。
パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。
半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。
夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。
ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。
両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。
様々な製本形態
両袖装
額縁装
角革装
総革装
ランゲット製本
●本日のお勧め作品は、森下慶三です。
森下慶三
《MILANO 8-12》
1979年
キャンバスにアクリル
91.0×73.0cm(30号) サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。
●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。18~24頁にときの忘れものが特集されています。
ときの忘れものの小さな庭に彫刻家の島根紹さんの作品を2018年1月末まで屋外展示しています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
よい革を求めて
「昔、西欧では、かがり台は大切な嫁入り道具の一つだった」そうで、なるほど本を綴じている様子が描かれた中では、大抵女性がその仕事を分担しています。同じく「昔、西欧では」という枕詞で始まる話しでは、一番上等な革は先ずルリユールに使われたそうです。羨ましい話しですが、今ここに戻りますと、手帳に被せるのではなく本の表紙に貼るというのは革の用途としては、やはり特殊なようで、必要な時に自分の目でより良い革を選び手に入れる機会を得るべく、鷹の目で出掛けている東京レザーフェアでは、いつも苦戦しています。
とは言え、国内外の材料としての革の状況もこの十年ほどで随分と変わって来ており、出展しているタンナーも、エコと少ロットをキーワードに需要を喚起している所が増え、年に数枚、しかも一色につき一枚あれば十分という僅かな量を求める製本家には少しだけ風向きが良くなっている気がします。12月のレザーフェアでも本来の革の質感を最大限に引き出すにとどめたシンプルなタンニン鞣しの革が奮闘していました。また、鞣し方10種と仕上げ10種の組み合わせ100通りの中から、ヌメ革を1枚からオーダー出来るシステムの見本展示などもありました。まさに少ロット!です。ただ残念なのはこのオーダーシステムもしかり、各社の主流はステアと呼ばれる成牛で作られた革で、日頃色々な革を使いはしますが、一番ルリユールに向いている仔牛や山羊は扱いが少ないことです。
ルリユール用の革として心惹かれるかというのはまた別の話しになりますが、表面を特殊加工した不思議な風合いの革や変わりダネの皮も毎年多種多様に展開されています。そんな中で、使う事も多い爬虫類の革とはまた少し違って面白く見えたのは、なんとマグロの革で、タンニン鞣しで綺麗なグラデーションに染められていました。
近頃は、背を固めない構造を選ぶ製本家も増えており、表紙に革を使わない作品も目にします。私もテクストによって、こだわりなくそういった選択をしているつもりですが、やはり仔牛や山羊の上質な革で作られた本には、格別の心地よさがあり、作っている間も手が楽しく気持ちが好いのです。澁澤龍彦の『エピクロスの肋骨』の中に、新聞紙では食が進まず弱った山羊に詩を書いた紙を与える件があって、その後で確か山羊は何処かに売られた筈。詩を食べた山羊の革はさぞルリユールに向いていることだろうと思います。いっそこれから製本するテクストの写しを先ず食べさせて、その本のための山羊として育ててみたら・・・という想像は悪ノリが過ぎますが、山羊革のルリユール本、是非お手許に。
(文:羽田野麻吏)

●作品紹介~羽田野麻吏制作



『流離抄板畫卷』
棟方志功 歌:吉井勇
1954年 龍星閣
限定110部のうち25番
・総山羊革二重装 綴じ付け製本
・染色板と仔牛革、山羊革によるデコール
・仔牛革/染め和紙の見返し
・天染め
・夫婦函
・2006年
・217×176×16mm
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。
本の名称

(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)
額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。
角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。
シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。
スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。
総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。
デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。
二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。
パーチメント
羊皮紙の英語表記。
パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。
半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。
夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。
ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。
両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。
様々な製本形態





●本日のお勧め作品は、森下慶三です。

《MILANO 8-12》
1979年
キャンバスにアクリル
91.0×73.0cm(30号) サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。
●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531

ときの忘れものの小さな庭に彫刻家の島根紹さんの作品を2018年1月末まで屋外展示しています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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