佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」
第12回 木工作とレンガ積みについて
昨年の12月は、初旬に日本を発ち、インド東部のシャンティニケタン、ネパール、インド西部のバローダ、そして再びシャンティニケタンへと、いささかの移動が多かった。特に石山修武さんらと共に動いたネパールでは、ほぼずっとオフロードの山道をジープで疾走していたのでけっこう疲れた。ネパールの旅の詳細は石山さんがどこかに今後書かれると思うので、今回はその他のインドでの時間について書こうと思う。
12月9日から11日まで、まず西ベンガル州のシャンティニケタンに行ってきた。現在進行中の家の建設を進めるためである。建設が始まってから、初めての現場であったが、すでにコンクリート+レンガ積みの主要躯体は出来上がっている。さらに施主はオリジナルの家具を置いて部屋の設えを始めている。たった3日であったが、現場を確認し、施主と話し合いを重ねて、今後日本からやってくる面々(このプロジェクトのタイトルでは「同志」と称している)と作るモノを伝え、またいくつかの家具を整理し直した。また、出入りしている大工および他の職人らの作業を実見し、特に現地の木材の扱い方に関して今後の課題も見えてきた。したがって、デザインは目下再検討しているところである。
現場の内部の様子(2017年12月10日撮影)。まだ未完成である。これから木造架構、造作、および木製家具を制作していく。
施主渾身の台所。日本から持ち込んだ調理器具含め、とてもうまくまとめられている。
地元の大工さんが玄関扉を作っているところを見せてもらう。使用している木材はとても硬く、細かな仕口を施している。表面はプレーナーとグラインダーで仕上げていた。
その後、ネパールに移動して一週間ほど滞在。そして22日、再びインドに戻り、今度はグジャラート州のバローダに向かった。自分が所属してもいるVadodara Design Academyで開催されているワークショップ「Buildathon2017」に参加するためである。特に、会期中レクチャーをする機会をもらったので、ここ一年間の活動を彼らに報告するためでもあった。今年の1月から3月までバローダに滞在して以来の彼らとの再会である。
彼らとのワークショップでは、工作ということに関して毎回新たな発見がある。今回は特にレンガの積み方について勉強させてもらった。インドあるいは欧米の建築家は皆おそらく必須であろうレンガ積みの知識について、日本では残念ながらなかなかない。その一端を今回得ることができたのはとても良かった。
壁の開口部の実験。レンガ自体は規格化されているが、その配置においては「遊び」が多い。一方で開口上部のマグサの造形などはかなり構造的な要請に忠実でもある。
45度の出隅の確認。
コルゲートシートを支保工としたアーチ制作。
けれども改めて、日本とインド、あるいはそれぞれの国での建築教育の差異を痛感する。自分はインドで設計製図のクラスを持つことがあるが、そこで何を教えるべきか、あるいはどのような学ぶ機会を作るべきかを定めることは難しい。インドの建築については取り巻く社会的背景も含めて自分はほとんど無知に等しい。だが一方で、無知ゆえに、その建築あるいは教育の現場を見た時には物足りなさを感じる部分もある。したがって、つまるところ、自分はある種の無駄にならない「無い物ねだり」を、その土地の現場に接ぎ木してみるしかないのだ。
バローダのワークショップの後、再びシャンティニケタンに戻って、いよいよ現地の木工に対峙することになる。まずは木材市場に行く予定になっているので、その前に一度自分の造形を作っておくつもりである。
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。
●本日のお勧め作品は、石山修武です。
石山修武
《巨大な廃墟の山々を背に又歩き出す、そして、今、再び。何ともしぶとい足たちよ》
2016年
銅版
イメージサイズ: 15.0x15.0cm
シートサイズ: 26.0x25.3cm
Ed. 5
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆ときの忘れものは「Arata ISOZAKI × Shiro KURAMATA: In the ruins」を開催します。
会期=2018年1月9日[火]―1月27日[土] ※日・月・祝日休廊
磯崎新のポスト・モダン(モダニズム)ムーブメント最盛期の代表作「つくばセンタービル」(1983年)に焦点を当て、磯崎の版画作品〈TSUKUBA〉や旧・筑波第一ホテルで使用されていた倉俣史朗デザインの家具をご覧いただきます。他にも倉俣史朗のアクリルオブジェ、磯崎デザインの椅子なども出品します。
磯崎が設計し1983年に竣工した「つくばセンタービル」には、「筑波第一ホテル」が入り、客室の内装を倉俣史朗が担当しました。しかし客室で実際に使用されたオリジナル家具は悲しい運命を辿ります。
1990年代のバブル経済の崩壊により、経営母体であった株式会社第一ホテルが2000年5月会社更生法の適用を申請し倒産。その後、株式会社ホテルオークラグループとして経営が変わったものの、ホテル客室及びカフェなどに大規模な改修が行われ、貴重な倉俣史朗デザインによるインテリアが失われてしまったのです。今回出品する「ライティングデスク」と「鏡」はそのような事情の中で危うく破棄を免れた稀少作品です。
●書籍のご案内

『版画掌誌第2号』
オリジナル版画入り美術誌
2000年/ときの忘れもの 発行
特集1/磯崎新
特集2/山名文夫
B4判変形(32.0×26.0cm) シルクスクリーン刷り
A版:限定35部/価格:120,000円(税別 版画6点入り)
B版:限定100部/価格:35,000円(税別 版画2点入り)
『安藤忠雄の奇跡 50の建築×50の証言』
2017年11月
日経アーキテクチュア(編)
B5判、352ページ
価格:2,700円(税別) *送料:250円
亭主もインタビューを受け、1984年の版画制作始末を語りました。日経アーキテクチュア編集長のコラム<建築家・安藤忠雄氏の言葉の力:第3回>で、出江寛先生、石山修武先生の次に紹介されていますので、お読みください。
ときの忘れもので扱っています。
ときの忘れものでは1984年以来の安藤忠雄の版画、ドローイング作品をいつでもご覧になれます。
◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。18~24頁にときの忘れものが特集されています。
ときの忘れものの小さな庭に彫刻家の島根紹さんの作品を2018年1月末まで屋外展示しています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
第12回 木工作とレンガ積みについて
昨年の12月は、初旬に日本を発ち、インド東部のシャンティニケタン、ネパール、インド西部のバローダ、そして再びシャンティニケタンへと、いささかの移動が多かった。特に石山修武さんらと共に動いたネパールでは、ほぼずっとオフロードの山道をジープで疾走していたのでけっこう疲れた。ネパールの旅の詳細は石山さんがどこかに今後書かれると思うので、今回はその他のインドでの時間について書こうと思う。
12月9日から11日まで、まず西ベンガル州のシャンティニケタンに行ってきた。現在進行中の家の建設を進めるためである。建設が始まってから、初めての現場であったが、すでにコンクリート+レンガ積みの主要躯体は出来上がっている。さらに施主はオリジナルの家具を置いて部屋の設えを始めている。たった3日であったが、現場を確認し、施主と話し合いを重ねて、今後日本からやってくる面々(このプロジェクトのタイトルでは「同志」と称している)と作るモノを伝え、またいくつかの家具を整理し直した。また、出入りしている大工および他の職人らの作業を実見し、特に現地の木材の扱い方に関して今後の課題も見えてきた。したがって、デザインは目下再検討しているところである。



その後、ネパールに移動して一週間ほど滞在。そして22日、再びインドに戻り、今度はグジャラート州のバローダに向かった。自分が所属してもいるVadodara Design Academyで開催されているワークショップ「Buildathon2017」に参加するためである。特に、会期中レクチャーをする機会をもらったので、ここ一年間の活動を彼らに報告するためでもあった。今年の1月から3月までバローダに滞在して以来の彼らとの再会である。
彼らとのワークショップでは、工作ということに関して毎回新たな発見がある。今回は特にレンガの積み方について勉強させてもらった。インドあるいは欧米の建築家は皆おそらく必須であろうレンガ積みの知識について、日本では残念ながらなかなかない。その一端を今回得ることができたのはとても良かった。



けれども改めて、日本とインド、あるいはそれぞれの国での建築教育の差異を痛感する。自分はインドで設計製図のクラスを持つことがあるが、そこで何を教えるべきか、あるいはどのような学ぶ機会を作るべきかを定めることは難しい。インドの建築については取り巻く社会的背景も含めて自分はほとんど無知に等しい。だが一方で、無知ゆえに、その建築あるいは教育の現場を見た時には物足りなさを感じる部分もある。したがって、つまるところ、自分はある種の無駄にならない「無い物ねだり」を、その土地の現場に接ぎ木してみるしかないのだ。
バローダのワークショップの後、再びシャンティニケタンに戻って、いよいよ現地の木工に対峙することになる。まずは木材市場に行く予定になっているので、その前に一度自分の造形を作っておくつもりである。
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。
●本日のお勧め作品は、石山修武です。

《巨大な廃墟の山々を背に又歩き出す、そして、今、再び。何ともしぶとい足たちよ》
2016年
銅版
イメージサイズ: 15.0x15.0cm
シートサイズ: 26.0x25.3cm
Ed. 5
サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆ときの忘れものは「Arata ISOZAKI × Shiro KURAMATA: In the ruins」を開催します。
会期=2018年1月9日[火]―1月27日[土] ※日・月・祝日休廊
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1990年代のバブル経済の崩壊により、経営母体であった株式会社第一ホテルが2000年5月会社更生法の適用を申請し倒産。その後、株式会社ホテルオークラグループとして経営が変わったものの、ホテル客室及びカフェなどに大規模な改修が行われ、貴重な倉俣史朗デザインによるインテリアが失われてしまったのです。今回出品する「ライティングデスク」と「鏡」はそのような事情の中で危うく破棄を免れた稀少作品です。
●書籍のご案内

『版画掌誌第2号』
オリジナル版画入り美術誌
2000年/ときの忘れもの 発行
特集1/磯崎新
特集2/山名文夫
B4判変形(32.0×26.0cm) シルクスクリーン刷り
A版:限定35部/価格:120,000円(税別 版画6点入り)
B版:限定100部/価格:35,000円(税別 版画2点入り)

2017年11月
日経アーキテクチュア(編)
B5判、352ページ
価格:2,700円(税別) *送料:250円
亭主もインタビューを受け、1984年の版画制作始末を語りました。日経アーキテクチュア編集長のコラム<建築家・安藤忠雄氏の言葉の力:第3回>で、出江寛先生、石山修武先生の次に紹介されていますので、お読みください。
ときの忘れもので扱っています。
ときの忘れものでは1984年以来の安藤忠雄の版画、ドローイング作品をいつでもご覧になれます。
◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。18~24頁にときの忘れものが特集されています。

2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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