瓢箪(ひょうたん)からキューバ-偶然の賜物(たまもの)だったドイツ個展と写真集出版
<第3回>写真集を抱え、写真都市ベルリンへ
<前回までのあらすじ>2017年夏、ミュンヘンを訪れた際、ギャラリーのオーナーに、2013年に訪れたキューバの写真を見せたところ「ぜひ個展を」とほぼ2か月後に写真展をすることが決まった。開催までわずかな期間で、写真展の準備をする一方、写真集の出版を決意。
◇写真都市ベルリンへの旅
写真展が始まってから10日近くたつと、さすがにギャラリーに早朝から一日中座っているのもしんどくなり、出来立ての写真集を持って気分転換に五日間、列車でベルリンへ。
<写真14>写真都市ベルリンは滞在中ずっと寒さが厳しく、しぐれ模様の暗い天気が続いた。
ベルリンの滞在先は旧東ベルリンエリア。今でこそ壁はないが、郊外などへ足を伸ばすと当時を思わせる雰囲気が漂っている。ドイツ南部のミュンヘンに比べるとベルリンは大都会だが、ホームレスの姿が目立ち、持てるものと持たざる者との格差が著しい。ヘルムート・ニュートン写真美術館の前はホームレスのたまり場になっていたほど。モダンなヘルムート・ニュートン写真美術館のスタイリッシュで輝くような内部と、入り口付近のゴミだらけの外の荒んだ風景との対比に驚く。
ベルリンでの目的の一つはベルリン国立図書館への写真集の納本。スタッフの方が笑顔で納本を受け入れてくれたのがうれしい。
<写真15>ベルリン国立図書館で写真集を納本。スタッフの方が笑顔で受け入れてくれた。
次の目標は写真集を持って写真美術館や写真専門ギャラリー、写真専門書店を回ること。さすがに写真都市ベルリンだけあって、ハードルはかなり高い。写真専門美術館ギャラリーC/O Berlin、ヘルムート・ニュートン写真美術館、ビンテージ写真ギャラリーの『Kicken』、『Camera Work』、写真・アート専門書店『25 Books』、『Do you read me?』といった写真に関係のある場所を訪ね歩いた。
旧東ドイツエリア郊外にある珍しい自費出版の写真集や実験音楽のレコードなどを置いているマニアックな写真・アート専門書店『Motto』でキューバ写真集を預かってくれることになった。ベルリンに来たかいがあったというものだ。
<写真16>旧東ドイツエリア郊外にある写真・アート専門書店『Motto』に置かれた写真集『CUBA monochrome』の白と黒の二種類のバージョン。
『Motto』で契約書もかわし、スーツケースに入れて持ってきていた6冊をおさめた。書棚に並んだ白と黒の写真集『CUBA monochrome』を見ると、感慨もひとしお。70ユーロという価格設定も「このつくりならもっと高くてもよい」と言ってくれた。別の写真専門書店では「写真集はなかなか売れない」と言われ、どこの書店でも写真集のディスカウントセールを見ていただけに、『Motto』店主の一言は力をつけてくれた。
ベルリンではスノビッシュな写真専門の本屋はたくさんあったが、ここにたどり着いて写真都市ベルリンの底深さをあらためて感じた。メインの写真集も他店にはないディープな品ぞろえで、各国の自費出版本や、かなりマニアックなアート本、オブジェ、デザイン関係、最前線の実験音楽のレコードなどなど。デュシャンの『ボックス』シリーズの復刻も棚の上のほうにさりげなく置いてあった。
『Motto』で入手した『NO-ISBN』は、自費出版を目指す人には興味深い本だ。世界のアンダーグラウンドな自費出版本を紹介している。本を同じデザインで包装している装丁がユニーク。ISBNとは、世界共通の書籍を特定するための国際標準図書番号で、書店で販売されているほとんどの本に記載されている。この本は、そうした既成の出版社の書籍や流通から外れたアンチISBN、非商業主義の出版物に焦点を当てている。
<写真17>旧東ベルリンエリアの写真・アート専門書店『Motto』で入手した本『NO-ISBN』。
<写真18>『NO-ISBN』より。非商業的なアート本やオブジェ本のような出版物がたくさん載っている。
ベルリン郊外の旧東ドイツエリア。さすがにこのあたりまで来ると観光客の姿は皆無。ポップでえぐい感じのする落書きも街角のあちこちにあり、 少し危険な香りのする地域だ。冷たい雨の降りしきるなか、よそ者を警戒するような視線を感じながら未知の路上をさまよい歩いた。
<写真19>旧東ベルリン郊外
<写真20>旧東ベルリンエリアの壁面グラフィティ
<写真21>殺伐とした感じが残る旧東ベルリンエリア
(よるの ゆう)
■夜野 悠 Yu YORUNO
通信社記者を50代前半で早期退職後、パリを中心にカナダ、ドイツ、モロッコなど海外を中心に滞在、シュルレアリスム関係を中心に稀少書や作品などを蒐集する。2015年5月に国際写真祭『KYOTO GRAPHIE』のサテライトイベント『KG+』で、モノクロの写真・映像、キューバの詩で構成した写真展『古巴(キューバ)-モノクロームの午後』を開催。同年12月には京都写真クラブ主催の『第16回京都写真展 記憶論Ⅲ』で、『北朝鮮1987-消えゆく夢幻の風景』、2016年年12月の同展『記憶論Ⅳ』では写真とシュルレアリスムをモチーフにした写真インスタレーション『路上のVOLIERE(鳥かご)―路傍に佇む女神たち』を展示。2017年11月9日から12月3日までドイツ・ミュンヘンで写真展『CUBA monochrome』を開催。併せて写真集も出版。同年12月、京都写真展で『廃墟の時間-旧東ベルリン』を展示。2016年4月から2017年3月まで、ギャラリー『ときの忘れもの』の公式ブログにエッセイ『書斎の漂流物』を12回にわたって連載。
●本日のお勧め作品は、クリストです。
クリスト《The Museum of Modern Art Wrapped (Project for New York)》
1971年 リトグラフ
71×56cm
Ed.100 Signed
*レゾネNo.37(Schellmann)
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。18~24頁にときの忘れものが特集されています。
ときの忘れものの小さな庭に彫刻家の島根紹さんの作品を2018年1月末まで屋外展示しています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
<第3回>写真集を抱え、写真都市ベルリンへ
<前回までのあらすじ>2017年夏、ミュンヘンを訪れた際、ギャラリーのオーナーに、2013年に訪れたキューバの写真を見せたところ「ぜひ個展を」とほぼ2か月後に写真展をすることが決まった。開催までわずかな期間で、写真展の準備をする一方、写真集の出版を決意。
◇写真都市ベルリンへの旅
写真展が始まってから10日近くたつと、さすがにギャラリーに早朝から一日中座っているのもしんどくなり、出来立ての写真集を持って気分転換に五日間、列車でベルリンへ。

ベルリンの滞在先は旧東ベルリンエリア。今でこそ壁はないが、郊外などへ足を伸ばすと当時を思わせる雰囲気が漂っている。ドイツ南部のミュンヘンに比べるとベルリンは大都会だが、ホームレスの姿が目立ち、持てるものと持たざる者との格差が著しい。ヘルムート・ニュートン写真美術館の前はホームレスのたまり場になっていたほど。モダンなヘルムート・ニュートン写真美術館のスタイリッシュで輝くような内部と、入り口付近のゴミだらけの外の荒んだ風景との対比に驚く。
ベルリンでの目的の一つはベルリン国立図書館への写真集の納本。スタッフの方が笑顔で納本を受け入れてくれたのがうれしい。

次の目標は写真集を持って写真美術館や写真専門ギャラリー、写真専門書店を回ること。さすがに写真都市ベルリンだけあって、ハードルはかなり高い。写真専門美術館ギャラリーC/O Berlin、ヘルムート・ニュートン写真美術館、ビンテージ写真ギャラリーの『Kicken』、『Camera Work』、写真・アート専門書店『25 Books』、『Do you read me?』といった写真に関係のある場所を訪ね歩いた。
旧東ドイツエリア郊外にある珍しい自費出版の写真集や実験音楽のレコードなどを置いているマニアックな写真・アート専門書店『Motto』でキューバ写真集を預かってくれることになった。ベルリンに来たかいがあったというものだ。

『Motto』で契約書もかわし、スーツケースに入れて持ってきていた6冊をおさめた。書棚に並んだ白と黒の写真集『CUBA monochrome』を見ると、感慨もひとしお。70ユーロという価格設定も「このつくりならもっと高くてもよい」と言ってくれた。別の写真専門書店では「写真集はなかなか売れない」と言われ、どこの書店でも写真集のディスカウントセールを見ていただけに、『Motto』店主の一言は力をつけてくれた。
ベルリンではスノビッシュな写真専門の本屋はたくさんあったが、ここにたどり着いて写真都市ベルリンの底深さをあらためて感じた。メインの写真集も他店にはないディープな品ぞろえで、各国の自費出版本や、かなりマニアックなアート本、オブジェ、デザイン関係、最前線の実験音楽のレコードなどなど。デュシャンの『ボックス』シリーズの復刻も棚の上のほうにさりげなく置いてあった。
『Motto』で入手した『NO-ISBN』は、自費出版を目指す人には興味深い本だ。世界のアンダーグラウンドな自費出版本を紹介している。本を同じデザインで包装している装丁がユニーク。ISBNとは、世界共通の書籍を特定するための国際標準図書番号で、書店で販売されているほとんどの本に記載されている。この本は、そうした既成の出版社の書籍や流通から外れたアンチISBN、非商業主義の出版物に焦点を当てている。


ベルリン郊外の旧東ドイツエリア。さすがにこのあたりまで来ると観光客の姿は皆無。ポップでえぐい感じのする落書きも街角のあちこちにあり、 少し危険な香りのする地域だ。冷たい雨の降りしきるなか、よそ者を警戒するような視線を感じながら未知の路上をさまよい歩いた。



(よるの ゆう)

通信社記者を50代前半で早期退職後、パリを中心にカナダ、ドイツ、モロッコなど海外を中心に滞在、シュルレアリスム関係を中心に稀少書や作品などを蒐集する。2015年5月に国際写真祭『KYOTO GRAPHIE』のサテライトイベント『KG+』で、モノクロの写真・映像、キューバの詩で構成した写真展『古巴(キューバ)-モノクロームの午後』を開催。同年12月には京都写真クラブ主催の『第16回京都写真展 記憶論Ⅲ』で、『北朝鮮1987-消えゆく夢幻の風景』、2016年年12月の同展『記憶論Ⅳ』では写真とシュルレアリスムをモチーフにした写真インスタレーション『路上のVOLIERE(鳥かご)―路傍に佇む女神たち』を展示。2017年11月9日から12月3日までドイツ・ミュンヘンで写真展『CUBA monochrome』を開催。併せて写真集も出版。同年12月、京都写真展で『廃墟の時間-旧東ベルリン』を展示。2016年4月から2017年3月まで、ギャラリー『ときの忘れもの』の公式ブログにエッセイ『書斎の漂流物』を12回にわたって連載。
●本日のお勧め作品は、クリストです。

1971年 リトグラフ
71×56cm
Ed.100 Signed
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新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。18~24頁にときの忘れものが特集されています。

2018年から営業時間を19時まで延長します。
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