駒井哲郎最晩年の価格

この連載も65回目となりました。
画商という立場で「駒井作品を追いかける」ことが可能なのは、駒井作品を買ってくださるお客様があるからです。
私達は研究者ではないので、客の求めに応じて実物を入手し、手にとって裏表克明に点検し、そこから文献にあたったりいろいろ調べるわけですね。
もちろん一義的にはお客様への正確な情報提供とコンディション確認が目的です。うちのスタッフたちにはつねづね「ウソはつくな、先ずは正確な情報を」と言っています。高額な作品になればなるほど、その価格を担保する「正確で丁寧な情報」が必要です。
うちうちではラブレターと言っていますが、お客様にお勧めする際に、なぜこの作品が重要なのかを手紙またはメールにしたためてお送りします。その原稿がこの連載のもととなりました。
あらためてお買い上げいただいたお客様に感謝する次第です。

この連載では価格の話はあまりしていません。
<いくらで買って、いくらで売った>などという話は正確な日記でもつけていない限り、先ず疑ってかかったほうがいい。記憶なんてあてになりません
既にご案内のとおり埼玉県立近代美術館で「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展が開催されています。その準備のために現代版画センター時代(1974年~1985年)の記録を久しぶりに調べましたがつくづく人間の記憶なんてあてにならないということを痛感しました。
そんな最中に、駒井哲郎作品に関する貴重な一次資料が出てきました。

1975年11月駒井哲郎価格表
自由が丘画廊が1975年11月(駒井先生死去の前年)に発行した「価格表」です。

実川暢宏さんが経営した自由が丘画廊は駒井哲郎先生(1920~1976)の晩年の取り扱い画廊でした。土渕信彦さんや清家克久さんの連載にもしばしば登場する画廊です。

現代版画センターは駒井先生の晩年、実川さんの協力を得て「駒井哲郎全国展」を開催しました。当時の新作銅版の発表価格が45,000円モノタイプの発表価格が130,000円とリストには記載されています。
亭主の記憶の精度は50%でした(新作45,000円は記憶通り、モノタイプは150,000円と記憶していました)。
駒井作品にしばしば見られるセカンド・エディション(生前の追い刷り)についても重要な情報が記載されています。
ときの忘れものの在庫作品を例として検証してみましょう。

上掲リストの
5.「岩礁」は1972年の作品で、没後の1979年に美術出版社から刊行されたレゾネ『駒井哲郎版画作品集』の289番に掲載されています。同作品集には「限定35部 E.A.」と記載されていますが、自由が丘画廊のリストでは「ed.1/30~30/30 Sold out:Ⅰ/Ⅹ~Ⅹ/Ⅹ(JGE)」と記載されています。
レゾネの記載とは全く異なります。自由が丘画廊のリストでは限定30部が売り切れたので新たに10部(Ⅹ)を刷った、と読めます。
ということは、35部+30部+Ⅹ部+E.A.=75部+α(番号入りエディションが三つもあることになります)


リストの誤記ということも考えられますが、駒井作品の限定部数の確定がいかにやっかいか、おわかりになると思います。
一点一点見てゆくとまだいろいろあるのですが、今日はこの辺で・・・・

*画廊亭主謹んで誤記を訂正いたします。
2018年10月14日15:49追記
上の赤字にした5.「岩礁」は~~~~ということは、35部+30部+Ⅹ部+E.A.=75部+α(番号入りエディションが三つもあることになります)は亭主の誤記です。
2018年10月14日さんという方から下記のようなメールをいただきました。

<時折、ブログを拝読し勉強をさせて頂いております。
2018年1月22日に更新された「駒井哲郎晩年の価格」の最後で「岩礁」のエディションについて書かれておられますが、自由が丘画廊価格表の「岩礁」は1975年・レゾネNo.320ですので、
レゾネのデータ一と齟齬はありません。
しかし、ブログではそれを1972年・レゾネNo.289の「岩礁」と誤解されて書かれてしまっておりますので、再度レゾネをご確認頂き、ブログを修正された方が宜しいのではないかと思います。
駒井哲郎に一家言をお持ちの方にお伝えするのもどうかと思いましたが、思い込みによる誤解は指摘されないと気付かない事が多いので、失礼ながらメールを送らせて頂きました。
限定部数など実際に作品を扱わないと解らない記事を始めとして、今後も面白く有用なブログを楽しみにしております。>


まったく亭主も耄碌したもんです。
さんのおっしゃる通り、自由が丘画廊の「価格表」に記載してある「岩礁」は1975年(1979年美術出版社刊『駒井哲郎版画作品集』320番)で、亭主が紹介したのは同じ題名ですが1972年(1979年美術出版社刊『駒井哲郎版画作品集』289番)の作品です。
「価格表」をよく読めば、ちゃんと1975年と書いてある。
ところが老人というのはさんのおっしゃる通り、思い込みが激しい。たまたま画廊に同名の「岩礁」があったものだからすっかり1972年のものと勘違いしてしまいました(すいません)。
そろそろ亭主のこの連載も寿命がきたと思わずにはいられません。

さんのご指摘を感謝するとともに、上の文章を下記の通り訂正させていただきます。下線が訂正箇所です。

<5.「岩礁」は1975年の作品で、没後の1979年に美術出版社から刊行されたレゾネ『駒井哲郎版画作品集』の320番に掲載されています。同作品集には「限定60、X部」と記載されていますが、自由が丘画廊のリストでは「ed.1/30~30/30 Sold out:Ⅰ/Ⅹ~Ⅹ/Ⅹ(JGE)」と記載されています。
レゾネの記載とは全く異なります。自由が丘画廊のリストでは限定30部が売り切れたので新たに10部(Ⅹ)を刷った、と読めます。
ということは、60部+30部+Ⅹ部=100部(番号入りエディションが三つもあることになります)>

亭主の大誤記にもかかわらず最後の「リストの誤記ということも考えられますが、駒井作品の限定部数の確定がいかにやっかいか、おわかりになると思います。」という結論が変わらないのは、何というか・・・・・・駒井版画は難しいですね。

念のため、1979年美術出版社刊『駒井哲郎版画作品集』320番の該当ページを掲載しておきます。駒井レゾネ320岩礁

●本日のお勧め作品は上記リストにも掲載されている駒井哲郎の2作品です。
054_駒井哲郎駒井哲郎
《恩地孝四郎領》
1974年
エッチング、アクアチント(亜鉛版)
Image size: 20.8x9.5cm
Sheet size: 38.1x28.5cm
E.A.  サインあり


komai_01_gansyou駒井哲郎
《岩礁》
1972年
銅版
23.5×21.0cm
Ed.35  サインあり
※レゾネNo.289(美術出版社)

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◆埼玉県立近代美術館で「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展が始まりました。現代版画センターと「ときの忘れもの」についてはコチラをお読みください。
会期:2018年1月16日(火)~3月25日(日)
埼玉チラシAY-O600現代版画センターは会員制による共同版元として1974年に創立、1985年までの11年間に約80作家、700点のエディションを発表し、全国各地で展覧会、頒布会、オークション、講演会等を開催しました。本展では45作家、約300点の作品と、機関誌等の資料、会場内に設置した三つのスライド画像によりその全軌跡を辿ります。同館の広報誌もお読みください。

○<「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展 at 埼玉県立近代美術館。良かったです。
靉嘔から始まり、ジョナス・メカスで締め括る。ウォーホル、関根伸夫、元永定正、宮脇愛子、駒井哲郎、瑛九などそうそうたるメンバーの作品が280点も展示されていれば、そりゃあ悪い訳は無いですね。
ジョナス・メカスが大好き過ぎて、涙が出ちゃうよ〜。この詩情はほんとなんだろ。「ウーナ・メカス5才 猫とホリス(母)の前でヴァイオリンの稽古」なんてもう・・・。あ、映像作品の方は詰まらなかったです。
建築家・磯崎新の版画作品がなにげに良くて。ツボでした。「内部風景1~3」もかっこいいけど、ぺたあ〜っとした平板な色彩が80年代っぽい版画集 『REDUCTION VOL.1』が特に気に入りました。
菅井汲は約30点ほど展示されていて、こちらも見応えありました。写真と組み合わせた「スクランブル」シリーズがかっこいいですね。
初見のアーティストでは高柳裕と島州一が良かったです。

(20180120/YASUSHI ISHIBASHIさんのtwitterより)>

現代版画センターエディションNo.15 島州一「ボートの女」
現代版画センターのエディション作品を展覧会が終了する3月25日まで毎日ご紹介します。
015_島州一《ボートの女》島州一
「ボートの女」
1974年
シルクスクリーン(刷り:小峰プロセス)
Image size: 40.0×45.0cm
Sheet size: 50.8×62.1cm
Ed.100  signed
現代版画センターエディションNo.15

昨日ご紹介した高柳裕先生の強い推薦で実現したのが島州一先生のエディションでした。その頃、島先生は川原の石に刷ったり、シーツにシーツを刷るなど既成の版画概念を乗り越えるような仕事をしていました。
翌1975年には全国縦断「島州一・関根伸夫クロスカントリー7,500km展」へと展開します。

パンフレット_05


●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。18~24頁にときの忘れものが特集されています。
06駒込玄関ときの忘れものの小さな庭に彫刻家の島根紹さんの作品を2018年1月末まで屋外展示しています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。