小林美香のエッセイ「写真集と絵本のブックレビュー」第23回

『幼き衣へ』石内都「石内都 肌理と写真」展

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「石内都 肌理と写真」展会場


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「石内都 肌理と写真」展会場


今回紹介するのは、石内都(1947-)の写真集『幼き衣へ』(蒼穹舎、2016)
です。この写真集の収録作品は、現在横浜美術館で開催中の「石内都 肌理と写真」展(会期:2017 年12 月9 日~2018 年3 月4 日)に出展されています。展覧会では、展示室毎に異なる色で壁が塗り分けられており、『幼き衣へ』は、絹を題材として銘仙や繭、織物工場、製糸工場などを撮影した『絹の夢』と織り交ぜるようにして、大小さまざまなサイズの作品として、銀色の壁面にかけられています(図1)。天井近くまで散りばめられた色鮮やかな着物は、天空を舞い上がる羽衣のような輝きと神々しさ放っているように感じられました。
『幼き衣へ』は、明治・大正時代に幼い子どものために作られた着物——子どもが産まれた時に近所の人たちや親類縁者が祝いに布裂を持ち寄ってパッチワークのように縫いあわせた「百徳着物」や、背中の方から魔物が入らないように糸で印をつけた「背守り」——をとらえた写真により構成されています。小さな着物の全体を捉えた写真と、背守りの部分を捉えた写真、布裂を縫い合わせる縫い目や布の重なり、布端のほつれをクローズアップで捉えた写真がシークエンスの中で交互にあらわれるように編集されており、ページを捲るうちに小さな着物の手触りや布の厚み、縫い目に眼が引き込まれていきます。

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『幼き衣に』より


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『幼き衣に』より


「石内都 肌理と写真」展で大きく引伸ばして展示されていた作品(図2)は、首の後ろに奉納と記されていることから、子宝祈願のためにお寺に奉納されたものと思しく、布裂を寄せ集めることで形作られた着物の佇まいが、丹念に写し取られています(図3)。着物の表面の凹凸の影は、布裂一つ一つの色鮮やかさをより一層際立たせ、遠い過去の遺物としてではなく、今、そこに存在しているものの有り様がくっきりと浮かび上がっています。この生き生きとした着物の姿の立ち現れ方は、縫い目や、布裂の織り目が、皮膚の肌理や浮き上がる血管の筋に重ね合わせて見られるからかもしれません。また、その皮膚とは、着物を纏う子どものものだけではなく、布裂を寄せる人、縫い合わせる人それぞれものでもあります。布裂が放つ彩りと輝きは、クローズアップで捉えられられた写真(図4)のなかで、着物という「もの」としてだけではなく、より抽象的な「形象」としての表情を表しています。石内が100 年近く前に作られた着物の中に見出す形象や彩りは、子どもの誕生や無事の成長を祈り、未来へと続く時間に託した願いを映し出しているのではないでしょうか。
こばやし みか

■小林美香 Mika KOBAYASHI
写真研究者・東京国立近代美術館客員研究員。国内外の各種学校/機関で写真に関するレクチャー、ワークショップ、展覧会を企画、雑誌に寄稿。2007-08年にAsian Cultural Councilの招聘、及び Patterson Fellow としてアメリカに滞在し、国際写真センター(ICP)及びサンフランシスコ近代美術館で日本の写真を紹介する展覧会/研究活動に従事。
2010年より東京国立近代美術館客員研究員、2014年から東京工芸大学非常勤講師を務める。

●小林美香のエッセイ「写真集と絵本のブックレビュー」は毎月25日の更新です。

◆埼玉県立近代美術館で「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展が始まりました。現代版画センターと「ときの忘れもの」についてはコチラをお読みください。
会期:2018年1月16日(火)~3月25日(日)
埼玉チラシAY-O600現代版画センターは会員制による共同版元として1974年~1985年までの11年間に約80作家、700点のエディションを発表し、全国各地で展覧会、頒布会、オークション、講演会等を開催しました。本展では45作家、約300点の作品と、機関誌等の資料、会場内に設置した三つのスライド画像によりその全軌跡を辿ります。同館の広報誌もお読みください。

西岡文彦さんのエッセイ「現代版画センターという景色が始まりました(1月24日、2月14日、3月14日の全3回の予定です)。

○<年明け早々懐かしい一報を頂き過ぎし日の思いが蘇って来ました。40年の歳月は私を現在89歳という年齢まで引き上げてくれましたが,当時の収集作品は既に殆ど散逸し手元には僅かしか残っていないのが実情です。機会があれば拝見したいと思います…今後のご活躍をお祈りします。
(KSさんからのメール)>

現代版画センターエディションNo. 13 木村利三郎「57st & 5th Ave. New York」
現代版画センターのエディション作品を展覧会が終了する3月25日まで毎日ご紹介します。
 New York》木村利三郎
《57st & 5th Ave. New York》1974年
シルクスクリーン(作家自刷り)
Image size: 39.0×32.0cm
Sheet size: 43.2×35.6cm
Ed.200  サインあり

ど素人集団の事務局の若いメンバーに、アメリカ美術界のこと、エディションとは何か、ヨーロッパのコレクター組織について懇切に教えて下さったのがNYから一時帰国した木村利三郎先生でした。
1974年10月7日_ (5)左から、岡部徳三、木村利三郎、木村満志子
1974年10月7日「エディション発表記念展」オープニングにて

パンフレット_05


野口琢郎さんが「日曜美術館」に出演します
今週28日(日)放送のNHK Eテレ 日曜美術館のクリムト特集にVTRで出演します。
クリムト関係のテレビ出演は2回目、箔画やってると海外のアートフェアなんかで「まるでクリムトね、あはは」と笑われて通り過ぎて行かれる事もあり悔しい思いは何度もしましたが、クリムトのお陰でテレビに出られるので有り難いかもです 笑
恐らく2~3分のVTRになるかと思いますが、今回は半笑いでモゾモゾ話さないように気をつけたつもりなので 笑 ぜひご視聴くださいませ、どうぞよろしくお願い致します。
NHK Eテレ 日曜美術館 「熱烈!傑作ダンギ クリムト
1月28日(日) 9:00~9:45
2月 4日(日) 20:00~20:45 (再放送)
(野口さんのfacebookより)

●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。18~24頁にときの忘れものが特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。