埼玉近美の「版画の景色―現代版画センターの軌跡」を見て
アートフル勝山の会 荒井由泰
平成30年1月17日、東京駅を出発し、昼前に埼玉近美に到着し、「どんな展覧会になったのだろう?」と期待と好奇心を膨らませて会場入りした。
最初が11,111部限定の靉嘔(AY-O)の「I love you」と別刷りバージョンが並んでいた。
もちろん発売当時、「すごい数の限定だな」と思いながら購入した懐かしい作品だ。そして、エッチングやシルクがどっと並ぶ。「セットで購入し、結婚式のお祝いとして贈ったな」等々、作品に関する思い出が頭をめぐる。次のコーナーに目を移すと木村利三郎、オノサトトシノブ、関根伸夫らご縁が深かった作品群が並び、各氏との思い出がよみがえってくる。
そんな個人的な思い出を振り払って、作品群と接すると、「古くない、新鮮だ」という言葉が何度も頭をよぎった。40年余りの時間が経過しているが、古さは全く感じず、「現代美術」そのものを実感できる。また、「現代版画センターのエディション」の実物をまとめて、鑑賞する初めての体験であることにも気づいた。多くの作品を写真では見ていたがオリジナル作品はサイズや質感が異なることもあり、眼に鮮やかに映った。関根伸夫や島州一の作品にちょっと感動した。

靉嘔「I love you」別刷りバージョン 現代版画センターエディションNo.1
(撮影:酒井猛)
最初の展示部分でこんな調子だから、磯崎新、菅井汲、難波田龍起、宮脇愛子、元永定正らの作品に移ると、またまた、思い出が広がる。藤江民さんの大作もいい、額装してあると格も上がる。彼女の作品が我が家のピアノの裏側に段ボールに挟んだままで保管してあることを思い出した。「ちょっとかわいそうだ。日の目を見せたげねば」などと思いながら、作品鑑賞が続いた。
最後の部分はやっぱり、「アンディ・ウォーホル」、1983年の巨大地下空間でのウォーホル展は見ることができなかったが、6月に渋谷パルコで行われた「アンディ・ウォーホル全国展」のオープニングに駆け付けた。写真家のアラーキーこと荒木経惟ら、様々なクリエーターが会場につめかけていた。縁あって私も「オリジナル版画入りカタログ アンディ・ウォーホル」に執筆させていただき、一冊お礼にいただいた。そのカタログは我が家の本棚に今でも収まっている。
1時間余り展覧会を楽しませていただいたが、初めて「現代版画センター」の軌跡に接する方にはどんな風に見えるのか?この企画展であの時代の熱気が十分伝わったのか?等々、少し心配になった。もちろん、膨大な資料を丹念に読んでいただければ、違うと思うのだか・・・

(撮影:酒井猛)
展覧会図録を購入し、帰りの列車のなかで読んだが、(老眼の私には文字が小さく読みにくかったが・・・)学芸員の梅津氏が書かれた『考え続けるために、「現代」版画「センター」について。』は企画サイドのずしりと重い言葉が迫ってきた。
今回の展覧会を企画された立場からすると、倒産という社会的責任を負った「現代版画センター」の活動を今、何故、取り上げるのかという理由が必要だったはずだ。あえて、批判なり、リスクなどを恐れず、今回の企画展が実行の運びになった背景には「現代版画センター」の11年間にわたる熱気にあふれた稀有なる活動とそこでエディションされた作品群のレベルの高さをこのまま埋没させてはいけない、美術史の一コマとして記録しておく必要があると感じられたのではないだろうか。
梅津氏は「現代版画センター」を「時代の熱気を帯びた多面的な運動体」と表されていたが、
まさに私自身も「運動体」の一部として熱い時間を共有していた。私にとってはただただ楽しい思い出であったが、立ち止まってふと思い返すと、「当時の地方も巻き込んだすごいエネルギー体が果たして持続可能であったのか」と、考えてしまった。私も経営者の端くれであるので、事業の挫折は多くの人を巻き込み、心身ともに厳しい場であることが想像でき、心が痛むが、「現代版画センター」の一つのくぎりあったればこそ、スケール感は異なるものの次なる時代(「ときの忘れもの」に至る時)を生み出し、現在につながることで、「現代版画センター」の存在意義がより明確になったのではないだろうか。
テキスト・ブック(図録はテキスト・ブック、ヴィジュアル・ブック、アトラスの3冊セット)の中で、私もアンケートに回答させていただいたが、40年余りたったこともあり、当時、熱心に活動されていた諸先輩の多くが鬼籍に入られ、残念ながらアンケートに答えられなかった。そんな方々はどんな言葉を連ねただろうか? 私には「ごくろうさん、楽しかったよ・・・」の声が聞こえてくる。
■荒井由泰(あらいよしやす)
1948年(昭和23年)福井県勝山市生まれ。会社役員/勝山商工会議所会頭/版画コレクター
1974年に「現代版画センター」の会員になる
1978年アートフル勝山の会設立 小コレクター運動を30年余実践してきた
ときのわすれものブログに「マイコレクション物語」等を執筆
◆埼玉県立近代美術館で「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展が開催されています。現代版画センターと「ときの忘れもの」についてはコチラをお読みください。
詳細な記録を収録した4分冊からなるカタログはお勧めです。ときの忘れもので扱っています。
会期:2018年1月16日(火)~3月25日(日)
現代版画センターは会員制による共同版元として1974年~1985年までの11年間に約80作家、700点のエディションを発表し、全国各地で展覧会、頒布会、オークション、講演会等を開催しました。本展では45作家、約300点の作品と、機関誌等の資料、会場内に設置した三つのスライド画像によりその全軌跡を辿ります。
○西岡文彦さんの連載エッセイ「現代版画センターという景色」が始まりました(1月24日、2月14日、3月14日の全3回の予定です)。草創期の現代版画センターに参加された西岡さんが3月18日14時半~トークイベント「ウォーホルの版画ができるまでーー現代版画センターの軌跡」に講師として登壇されます。
○光嶋裕介さんのエッセイ「身近な芸術としての版画について」(1月28日ブログ)
○同館の広報誌 ソカロ87号では1983年のウォーホル全国展が紹介されています。
○現代版画センターエディションNo.652 藤江民「さざなみ I」
現代版画センターのエディション作品を展覧会が終了する3月25日まで毎日ご紹介します。
藤江民
《さざなみ I》
1984年
リトグラフ(作家自刷り)
Image size: 85.0×62.0cm
Sheet size: 91.0×63.0cm
Ed.30 サインあり

●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531

新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。18~24頁にときの忘れものが特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
アートフル勝山の会 荒井由泰
平成30年1月17日、東京駅を出発し、昼前に埼玉近美に到着し、「どんな展覧会になったのだろう?」と期待と好奇心を膨らませて会場入りした。
最初が11,111部限定の靉嘔(AY-O)の「I love you」と別刷りバージョンが並んでいた。
もちろん発売当時、「すごい数の限定だな」と思いながら購入した懐かしい作品だ。そして、エッチングやシルクがどっと並ぶ。「セットで購入し、結婚式のお祝いとして贈ったな」等々、作品に関する思い出が頭をめぐる。次のコーナーに目を移すと木村利三郎、オノサトトシノブ、関根伸夫らご縁が深かった作品群が並び、各氏との思い出がよみがえってくる。
そんな個人的な思い出を振り払って、作品群と接すると、「古くない、新鮮だ」という言葉が何度も頭をよぎった。40年余りの時間が経過しているが、古さは全く感じず、「現代美術」そのものを実感できる。また、「現代版画センターのエディション」の実物をまとめて、鑑賞する初めての体験であることにも気づいた。多くの作品を写真では見ていたがオリジナル作品はサイズや質感が異なることもあり、眼に鮮やかに映った。関根伸夫や島州一の作品にちょっと感動した。

靉嘔「I love you」別刷りバージョン 現代版画センターエディションNo.1
(撮影:酒井猛)
最初の展示部分でこんな調子だから、磯崎新、菅井汲、難波田龍起、宮脇愛子、元永定正らの作品に移ると、またまた、思い出が広がる。藤江民さんの大作もいい、額装してあると格も上がる。彼女の作品が我が家のピアノの裏側に段ボールに挟んだままで保管してあることを思い出した。「ちょっとかわいそうだ。日の目を見せたげねば」などと思いながら、作品鑑賞が続いた。
最後の部分はやっぱり、「アンディ・ウォーホル」、1983年の巨大地下空間でのウォーホル展は見ることができなかったが、6月に渋谷パルコで行われた「アンディ・ウォーホル全国展」のオープニングに駆け付けた。写真家のアラーキーこと荒木経惟ら、様々なクリエーターが会場につめかけていた。縁あって私も「オリジナル版画入りカタログ アンディ・ウォーホル」に執筆させていただき、一冊お礼にいただいた。そのカタログは我が家の本棚に今でも収まっている。
1時間余り展覧会を楽しませていただいたが、初めて「現代版画センター」の軌跡に接する方にはどんな風に見えるのか?この企画展であの時代の熱気が十分伝わったのか?等々、少し心配になった。もちろん、膨大な資料を丹念に読んでいただければ、違うと思うのだか・・・

(撮影:酒井猛)
展覧会図録を購入し、帰りの列車のなかで読んだが、(老眼の私には文字が小さく読みにくかったが・・・)学芸員の梅津氏が書かれた『考え続けるために、「現代」版画「センター」について。』は企画サイドのずしりと重い言葉が迫ってきた。
今回の展覧会を企画された立場からすると、倒産という社会的責任を負った「現代版画センター」の活動を今、何故、取り上げるのかという理由が必要だったはずだ。あえて、批判なり、リスクなどを恐れず、今回の企画展が実行の運びになった背景には「現代版画センター」の11年間にわたる熱気にあふれた稀有なる活動とそこでエディションされた作品群のレベルの高さをこのまま埋没させてはいけない、美術史の一コマとして記録しておく必要があると感じられたのではないだろうか。
梅津氏は「現代版画センター」を「時代の熱気を帯びた多面的な運動体」と表されていたが、
まさに私自身も「運動体」の一部として熱い時間を共有していた。私にとってはただただ楽しい思い出であったが、立ち止まってふと思い返すと、「当時の地方も巻き込んだすごいエネルギー体が果たして持続可能であったのか」と、考えてしまった。私も経営者の端くれであるので、事業の挫折は多くの人を巻き込み、心身ともに厳しい場であることが想像でき、心が痛むが、「現代版画センター」の一つのくぎりあったればこそ、スケール感は異なるものの次なる時代(「ときの忘れもの」に至る時)を生み出し、現在につながることで、「現代版画センター」の存在意義がより明確になったのではないだろうか。
テキスト・ブック(図録はテキスト・ブック、ヴィジュアル・ブック、アトラスの3冊セット)の中で、私もアンケートに回答させていただいたが、40年余りたったこともあり、当時、熱心に活動されていた諸先輩の多くが鬼籍に入られ、残念ながらアンケートに答えられなかった。そんな方々はどんな言葉を連ねただろうか? 私には「ごくろうさん、楽しかったよ・・・」の声が聞こえてくる。
■荒井由泰(あらいよしやす)
1948年(昭和23年)福井県勝山市生まれ。会社役員/勝山商工会議所会頭/版画コレクター
1974年に「現代版画センター」の会員になる
1978年アートフル勝山の会設立 小コレクター運動を30年余実践してきた
ときのわすれものブログに「マイコレクション物語」等を執筆
◆埼玉県立近代美術館で「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展が開催されています。現代版画センターと「ときの忘れもの」についてはコチラをお読みください。
詳細な記録を収録した4分冊からなるカタログはお勧めです。ときの忘れもので扱っています。
会期:2018年1月16日(火)~3月25日(日)

○西岡文彦さんの連載エッセイ「現代版画センターという景色」が始まりました(1月24日、2月14日、3月14日の全3回の予定です)。草創期の現代版画センターに参加された西岡さんが3月18日14時半~トークイベント「ウォーホルの版画ができるまでーー現代版画センターの軌跡」に講師として登壇されます。
○光嶋裕介さんのエッセイ「身近な芸術としての版画について」(1月28日ブログ)
○同館の広報誌 ソカロ87号では1983年のウォーホル全国展が紹介されています。
○現代版画センターエディションNo.652 藤江民「さざなみ I」
現代版画センターのエディション作品を展覧会が終了する3月25日まで毎日ご紹介します。

《さざなみ I》
1984年
リトグラフ(作家自刷り)
Image size: 85.0×62.0cm
Sheet size: 91.0×63.0cm
Ed.30 サインあり

●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531

新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。18~24頁にときの忘れものが特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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