埼玉県立近代美術館で開催されている「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展について、先日のブログに書きましたが、エディション総目録・機関誌総目次・11年間の年表作成を少しお手伝いしました。
もっとも入力作業は若いスタッフに丸投げで、彼らは生まれてもいなかった時代の事柄です。何がなにやらわからないうちに作業が終了してしまったに違いありません。社長命令でスタッフ全員に展覧会を見た感想(レポート)を書いてもらいました。
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(開館35周年を経た埼玉県立近代美術館 設計:黒川紀章 撮影:加畑美純)

尾立麗子
現代版画センターの話は綿貫さんからよく聞いていましたが、断片的に聞いていたので全体像がわかっていなかった私。今回年表のデータ作成をお手伝いさせていただく際に、当時発行された現代版画センターニュースなどを片っ端から目を通し、点と点が繋がりようやくその実態が掴めたという感じです。
版画センターニュースには、多くの作家、評論家、会員の方など(ときの忘れもののブログ執筆者数の比じゃない)の原稿、インタビューや対談などが掲載されており、魅力的な記事ばかりです。打ち込み作業を急がなければならない中、記事が面白くてついつい手を止めて読んでいました。本展ではそれらの刊行物を自由にご覧いただけますので、じっくり読むのも楽しいかと思います。
そして今回展覧会を拝見し、今までに見たことのないエディション作品が多く並び、え!綿貫さんこんなにいい作品もあったの?! というのが正直な感想。その版画群は40年経った今でもまったく古びてなく、美しく、いい作品ばかり。40年経った今、これだけの作品が集められるのは複数ある版画だからこそであり、改めて版画の魅力を実感しました。
結末は結末として、現代版画センターがなければ11年間に制作された美しい版画700点はこの世に存在しないわけで、日本の美術界にとって重要な運動だったのだと思いました。
紙は残る、、、まったくその通りで、ときの忘れものは版元としてこれからもたくさん版画を作っていかなければならないなと身の引き締まる思いです。
また、当時のオークションやシンポジウムの写真が投写されているコーナーでは、皆んなが目を輝かせて参加している様子が伺え、楽しそう! 日本は元気だったんだな! と思わずにはいられません。そして皆さん当然だけど、若い!笑


秋葉恵美
以前から、70年代、80年代に青春を送った世代をうらやましく思っていました。
ちょうど自分の大学の先生たちの世代がそうでした。
豊かさとは何だろうと思ってしまう現代より、物も情報も手段も多くなかった時代。
当時の映画や音楽を聴いていると、「若者たちがなんだかとても元気そう。」と思います。
すこし大げさに言うと、「未来は明るいんだ」と思えていたのではないかと、2000年代に青春を迎えた自分はつい考えてしまいます。
その時代に活動していた現代版画センターの展覧会。
展覧会は現代版画センターのエディション作品、刊行物、記録資料などで構成されていて、40年という歳月を感じさせない作品の美しさにまず引き込まれていきます。
それと同じくらい印象的だったのが、当時の記録写真によるスライドショーでした。
現代版画センターが定期的に開催していたオークションや頒布会、展覧会風景など、そこに写っている人たちの表情が、とてもいいのです。
なんだかとっても楽しそう。
映像をじーっと見ていると当時の熱気がそのまま立ち上がってきて、その活力、元気が伝わってきます。
今回の展覧会図録制作にあたり、尾立さんとすこしお手伝いさせていただきました。
現代版画センターの活動年表やエディション作品の全目録など、主にデータの入力作業でしたが、その量の膨大なこと。
(比喩ではなく本当に目が回りましたが、)そこから感じたのは、「今のときの忘れものに通じるところがたくさん!」でした。
頒布会の出品数は100点!
ニュースレターには画像を全て載せる!
イベントもまめに開催する!
展覧会、イベントなどの記録をちゃんと残す!
定期刊行紙の版画センターニュースも、これだけの内容量のものをパソコンが無い時代にほぼ毎月出していたかと思うと、頭が下がります。
展覧会に行かれた際には、是非この資料類もお手に取ってご覧ください。
現代版画センターとそれを支えていた人々がどのように時代を駆け抜けて行ったか体感できる内容で、当時を知らない世代の人たちにも充分見応えがある展覧会だと思います。


松下賢太
私がときの忘れものに勤め始めてから「現代版画センター」の話は聞いていたが、エディション作品について教えてもらうことはあっても、具体的な話はなかなか聞けずにいた。社長はよく「当時は売れなくてねぇ」なんて笑いながら冗談のように言っていたが、実際のところどうだったのだろう。
現代版画センターがエディションした作品には、錚々たる美術家・建築家が参加している。今回の展覧会は、作家毎に区分けした展示構成となっており、多様な版画作品を同じ空間で見比べることができて面白い。これでもかこれでもかと出てくる作品の数々に私は開いた口が塞がらず、(特に私は関根伸夫、難波田龍起、菅井汲にやられてしまった)最後のアンディ・ウォーホルで完全にノックアウトされた。 作品以外にも当時の資料がたくさん展示されている。スライド写真は、現代版画センターがあった渋谷 三信マンション内の間取りからイベントに参加する作家や客まで写されていて当時の空気が会場に流れ込んでいた。展覧会を隅々まで見てまわったあと、私はときの忘れもので作品を扱っていながら、知らないことばかりで自分の不勉強さを悔やんだ。

2016年9月、青山のときの忘れものに関根伸夫さんが来廊された。私は多摩美術大学卒業生として、美術に携わる者の端くれとして、とても緊張していた。関根伸夫というビックネームとの邂逅!という緊張もあったが、作家として、「貴方はやらなければならないことをやっていない!なぜだ!」と関根さんに切り込まれるようで怖かった。実際お会いしてみると、野生的な鋭さと茶目っ気のある笑顔が印象的な人で、綿貫さんと当時の現代版画センターの話や近況などを話している横顔からは、エネルギッシュなオーラが溢れていた。このとき亭主綿貫さんが「色々本当にお世話になりました」と関根さんにしきりに言っていたのを覚えている。

今回の展覧会は、このときの関根さんに会ったときのようなエネルギッシュなオーラに満ちていた。 現代版画センターの濃密な11年余の活動の記録は、私にノスタルジックな感想を持たせなかった。 スライド写真に写る当時の熱気は、当時を知らない私にはとても輝いて見えたし、その勢いに羨ましささえ感じたが、それよりもなによりも、約40年も前に作られた版画はとても綺麗だった。 この美しさがこの展覧会に並んでいる作品のエディションの数だけ持つ人のために用意されていると想像しただけで溜息がでる。現代版画センターは、こんな偉業を成していたなんて。 この展覧会に立ち会えて本当に良かった。


勝見美生
映像を見て「おー違う時代だったな」と思いつつ、過去の活動が過去だけのものに止どまっていないと思いました。映像に写っていた数々の作品も周りの壁に展示された場所で、現代版画センターのその「軌跡」を身近に感じました。
また、10年近くのニュースレター、カタログ、等が一箇所に集められていて、資料の多さに圧倒されました。


加畑美純
穏やかに晴れた公園で元気に遊ぶ子供達を見ながら、公園に隣接する埼玉近代美術館に向かいました。
駅の構内から美術館のエントランスまで至る所に「版画の景色-現代版画センターの軌跡」のカラフルなポスターやパンフが。CIMG1908
賑やかな公園とは対照的に中に入ると、まだ開館したばかりとあって館内は静寂に包まれていました。少し息を深く吸って、今まで断片的にお手伝いしてきた仕事がどんな形で展示されているのかしらとワクワクしながら会場内へ入りました。

驚いたのはどの作品もキラキラしていて今観てもなお新鮮に感じた事です。
版画という技法はややもすると既存する作品のコピーの様なイメージの焼き直しとして制作されることも多いのですが、会場の作品達は版画作品として一から格闘して制作された力強さがありました。作家とプロデューサーと刷り師の三位一体のバランスが上手くいってないとここまでのパッションを作品から受けとる事は出来ないのではないでしょうか。

しかし、作家さん達を世に送り出すほうのパッションもただ者ではない!
しかも11年間でおびただしい数のエディション(紙媒体の版画のみならず布や彫刻のエディションなど)を世に送り出してきたのです。
きっとオフィスは不夜城のごとく活動しまくり、誰彼となく全国行脚して熱く語っているのだろうと妄想してしまいました。
(実際、会場内で流されているスライドからはムンムンとした熱気を感じとる事が出来ました。)
そんな濃厚な版画センターの歴史を展示室に出現させるのですから大変です。
回廊の様に巡り、あちらこちらへ、、いったい何処まで続くのか?
(私の頭の中には万里の長城の映像が…。)
これだけ個性の違う作品を展示しようとするとごちゃごちゃとして、結局は印象が薄く作品の良さが伝わらない事になりがちですが、大会場をブースに区切ってあり自由気ままに観られるのでとてもスマートにストレスなく見て回る事が出来ました。小部屋でお気に入りの絵に囲まれている様な感覚はとても心地が良かったです。CIMG1951CIMG2022CIMG1996

途中、大会場の中央にある椅子に座って漠然と作品をみまわしていたら不意に涙がこぼれました。
この時代全力で支えられている作家さんと必死に世に送り出そうとしているプロデューサー、
その熱い想いを現代に伝えようとする、学芸員の方々。
その様々な熱量がうらやましさと今の少し淋しい日本の美術界の現状が一緒くたになってグッときてしまいました。

資料コーナーで几帳面な文字で刻まれたガリ版刷りのオークション出品目録や案内のお手紙などをみているとまだコピー機さえも普及してない時代にまさに人力でコツコツと広めていったのだなと実感することができます。CIMG1941CIMG1953CIMG2020CIMG1989

じっくりと時間をかけてスライドやジョナス.メカスの映像作品、資料等を鑑賞し、テンションが上がり少し興奮したせいかかなりの空腹感が…。
美味しいと評判の1階のレストランでお腹を満たす事にしました。
すっかり心もお腹も満足して美術館を後にしました。
(文中写真の撮影は加畑美純)


伊丹千春
「近世を予表するの大芸術たる所以こゝにあり」とは島村抱月の一文ですが現代版画センターの倒産というエンディングはまさに激動の昭和が幕を閉じ一つの時代が終わりを告げる伏線であったかのよう。
現代版画センターの軌跡というタイトルどおりストーリー性の高い展示で版画に詳しくなくとも引き込まれる内容となっています。これは単に版画の展示に止まらず、そこに時代背景(当時の刊行物や写真のムービー、細かい年表がある)や作家(それぞれ説明が書かれている)という登場人物を描いて一つの物語たらしめた埼玉県立近代美術館の方々のご尽力の賜物と思います。時代の濃縮された断片を間近に見ることができた興味深い展示でした。


新澤悠
展示してある作品は普段から見慣れている物も多いものの、壁にズラリと並ぶとやはり壮観です。加えて、作品の来歴などは今回改めて知ることができたものも多々あり(靉嘔の"I love you"が11,111枚摺られた理由が、現代版画センターの第一号作品であり、その存在を周知するために1枚1,000円で頒布されたため等)、通常とは異なる見方ですが、楽しい企画展でした。
資料も膨大に用意されていますが、PC編集やデジカメ、メールがなかった時代に、11年間手作業と電話と郵便を通してこれだけの作品と企画を実現してきた先達には頭が下がります。
展示物で特に印象に残ったのはジョナス・メカスの"Self portrait"(1980)。20分間メカス本人が喋り続ける様子を撮影した映像作品ですが、その中で彼は「私はニューヨークに『来た』のではなく、『置いて』いかれたんだよ」、「私たちは道に敷き詰められた砂利のようなものだ。他人に蹴飛ばされて他所へ転がり、また別の他人に蹴飛ばされるまではそこに居続ける」等とメカス氏の主観的な自分や制作についての考えが聞けます。なお、自分が挙げた部分は字面だけだと悲壮感がありますが、実際には初夏の日差しに汗をかきつつ、ビールを飲みながらのセリフです。
ご興味を覚えた方はぜひお出かけください。

細江先生とスタッフ201710312017年10月31日
細江英公先生を囲んでスタッフたち
(二名足りませんが)
於・ときの忘れもの
細江先生には現代版画センター時代から長い間お世話になっています。

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2018年1月20日九州の久留米で筑後画廊を経営する貝田隆博さん(後列右から6人目)が呼びかけ、現代版画センター事務局の旧メンバーたちが集まりました。
40年ぶりの再会も。
撮影は酒井猛さん、現代版画センターの専属カメラマンとして11年間の軌跡を撮り続けました。展覧会場の映像コーナーのスライドの多くは彼の撮影した写真です。
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◆ときの忘れものは2月7日(水)は都合により、17時で終業します17時以降は閉廊しますので、ご注意ください。
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本日4日(日曜)と明日5日(月曜)は休廊です。6日からの束の間の常設展示は草間彌生の超レアな1983年の大判ポスター、おそらく現存するのは一桁か。
銀座メゾンエルメス フォーラムで中谷芙二子先生が霧の展覧会を開催中ですが、この草間展のポスターは中谷先生が1980年代に原宿駅前でやっていた「ビデオギャラリー SCAN」でのものです。
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◆埼玉県立近代美術館で「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展が開催されています。現代版画センターと「ときの忘れもの」についてはコチラをお読みください。
詳細な記録を収録した4分冊からなるカタログはお勧めです。ときの忘れもので扱っています。
会期:2018年1月16日(火)~3月25日(日)
埼玉チラシAY-O600現代版画センターは会員制による共同版元として1974年~1985年までの11年間に約80作家、700点のエディションを発表し、全国各地で展覧会、頒布会、オークション、講演会等を開催しました。本展では45作家、約300点の作品と、機関誌等の資料、会場内に設置した三つのスライド画像によりその全軌跡を辿ります。

西岡文彦さんの連載エッセイ「現代版画センターという景色が始まりました(1月24日、2月14日、3月14日の全3回の予定です)。草創期の現代版画センターに参加された西岡さんが3月18日14時半~トークイベント「ウォーホルの版画ができるまでーー現代版画センターの軌跡」に講師として登壇されます。

光嶋裕介さんのエッセイ「身近な芸術としての版画について(1月28日ブログ)

荒井由泰さんのエッセイ「版画の景色―現代版画センターの軌跡展を見て(1月31日ブログ)

○埼玉県立近代美術館の広報誌 ソカロ87号では1983年のウォーホル全国展が紹介されています。

○同じく、同館の広報誌ソカロ88号には栗原敦さん(実践女子大学名誉教授)の特別寄稿「現代版画センター運動の傍らでー運動のはるかな精神について」が掲載されています。

現代版画センターエディションNo.72 関根伸夫「絵空事―鳥居」
現代版画センターのエディション作品を展覧会が終了する3月25日まで毎日ご紹介します。
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「絵空事―鳥居」1975年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
45.0x35.0cm
Ed.75  サインあり
*現代版画センターエディション

パンフレット_02
【出品作家45 名】靉嘔/安藤忠雄 /飯田善国/磯崎新/一原有徳/アンディ・ウォーホル/内間安瑆/瑛九/大沢昌助/岡本信治郎/小田襄/小野具定/オノサト・トシノブ/柏原えつとむ/加藤清之/加山又造/北川民次/木村光佑/木村茂/木村利三郎/草間彌生/駒井哲郎/島州一/菅井汲/澄川喜一/関根伸夫/高橋雅之/高柳裕/戸張孤雁/難波田龍起/野田哲也/林芳史/藤江民/舟越保武/堀浩哉 /堀内正和/本田眞吾/松本旻/宮脇愛子/ジョナス・メカス/元永定正/柳澤紀子/山口勝弘/吉田克朗/吉原英雄

◆ときの忘れものは「ハ・ミョンウン展」を開催します。
会期=2018年2月9日[金]―2月24日[土] ※日・月・祝日休廊
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ロイ・リキテンスタイン、アンディ・ウォーホルなど誰もが知っている20世紀を代表するポップアートを、再解釈・再構築して自らの作品に昇華させるハ・ミョンウン。近年ではアジア最大のアートフェア「KIAF」に出品するなど活動の場を広げ、今後の活躍が期待される韓国の若手作家です。
ときの忘れものでは2回目となる個展ですが、新作など15点を展示します。 ハ・ミョンウンは会期中数日間、日本に滞在する予定です。
●オープニングのご案内
2月9日(金)17時から、来日するハ・ミョンウンさんを囲んでオープニングを開催します(予約不要)。皆さまお誘いあわせの上、是非ご参加ください。

◆国立近現代建築資料館の「紙の上の建築 日本の建築ドローイング1970s-1990s」展は本日が最終日です。磯崎新安藤忠雄らの版画作品も出品されています。
展覧会については戸田穣さんのエッセイをお読みください。
磯崎新「還元CLUB HOUSE」磯崎新
「CLUB HOUSE」
1983年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:55.0x55.0cm
シートサイズ:90.0x63.0cm
Ed.75  サインあり
*現代版画センターエディション


●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
18駒込庭
新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。18~24頁にときの忘れものが特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。