佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」

第13回 シャンティニケタンから帰ってくる

インド・シャンティニケタンでの家作りから、ようやく日本の東京へ帰ってきた。自分はおよそ2ヶ月あまりの滞在であり、日本からやってきた友人ら(同志)はおよそ1ヶ月の滞在であったが、ゆっくりとした時間の中で毎日なにかしらの大小様々な発見と新しい出会いのある日々であった。もともと、滞在の期間は飛行機の予約で決まっていたので、それまでの間目一杯作業を行った。

日々の記録は当方の些細なウェブサイトでダラリと書き列ねているが、ここでは何回かに渡ってもう少し締まりよく言葉を紡いでいきたい。ちなみに日々の記録、すなわち手記は一応、師である石山修武さんの世田谷村日記を自分なりに咀嚼して続けてみているものであるが、なかなかあの原稿用紙に迷い無くほとんど書き直しなく一気に書き上げるスタイルは自分には難しい。自分はPCの画面の上で、迷いながら、そして断片を継ぎ合わせながら、やっとこさ文章の体を出している。それはPCでの打ち込みが自分の思考の延長にあることも知るからである。もちろん、手描きのスケッチは自分自身の作業の中で欠くことのできないものであるが、文字の並びはどうも手で書くよりも、キーボードで打ち込む方が自分の頭の回転に馴染むらしい。しかしながら、その手記は今現在、1月18日付までで公開は途絶えてしまっていて、それ以降は未完結のメモが残っている。なので、すでに帰国はしてしまっているが、頭だけ再度シャンティニケタンに居残らせて少しずつ書き切っていこうと考えている。手記が未完結である後半の滞在は、予定がほとんど詰まり、またいくらかの気持ちの揺れ動きもあって大変ではあった。けれども特に、その期間に建ち現れた内部の木架構は日本にいては絶対にできない、一回限りの創作であったようにも今は思う。詳しくは次回、あるいは次次回に言葉を見つけることを試みたい。

1滞在終盤に建ち上がった内部の木架構の一部。やはりこれがこの家作りの肝であったようにも思う。


今回の家作りはひとまず一段落したとも思っているが、シャンティニケタンにはまた今年の冬に戻ろうと思っている。今回の滞在で出会い、また時間を共にした大切な人たちが待っているからだ。もちろんこの家作りのプロジェクトには施主がいて、私と日本からの友人(同志)らは建築設計と内部工事を主として関わった。けれども、現場に滞在しての創作、あるいは工作は、施主のための家作りという枠を超えて、私たち自身のための新しい居場所作りでもあったように思う。施主からしてみれば勝手な話である。けれども、施主もそれを望んでいるようだった。

なので、その新たな居場所に帰るために、待っている彼らと再会を果たすために、シャンティニケタンには近々戻りたい。実は、新築の家を作るのは私にとって日本インドを問わず初めての経験であった。けれども、こんなふうに世界に自分の居場所、訪れることのできる場所が増えていくのはとても幸福なことである。建築、家を作ることの本質に触れることができた気がしている。

2深夜、計画について話す施主のNilanjanさんと筆者。様々なギャップはあるが、そのギャップあってこその現場制作であった。


さとう けんご

■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。

*画廊亭主敬白
今月の原稿、お送りいたします。
送るのがとても遅くなってしまい本当にすみません。
なお、数日前に無事にシャンティニケタンから帰国いたしました。佐藤

というメールが入ったのは5日である(怒)。担当の秋葉の焦るまいことか。写真で見ると(実物はもっと優男)華奢でおとなしそうな青年だが、これが喰わせモンで、いい度胸をしている。昔の亭主だったら即「連載中止!」と叫んだ(と思う)。今はそんな元気はない、「佐藤さんもインドからたいへんだねえ」なんてイイこぶってます(笑)。
数日前から予告していますが、本日7日(水)は都合により、17時で終業します17時以降は閉廊しますので、ご注意ください。
新しく入った作品や、以前からの在庫で未収録の作品などは順次ホームページに掲載しています。担当は最年少スタッフの勝見ですが、時々ミスをする(まあ誰でもしますが)。上智の学生なので勤務は週に二日、従ってミスの訂正は他のスタッフがすることになります。
http://www.tokinowasuremono.com/artist-d95-shimak/shimak03.html
島先生の布に刷った70年代としては画期的な作品でしたが、記載データに誤字が一字あります。さて、なんでしょう。これを勝見がどこかで読めば即訂正するでしょうが、訂正するには惜しい傑作誤字であります。
2月7日21時25分亭主追記~佐藤さんから遠慮がちに「原稿は5日にお送りしていたつもりでしたが、、ご迷惑をおかけしてしまったようで申し訳ございませんでした」というメールが届きました。ありゃあ、5日に届いていたようで、とんだ濡れ衣でした、佐藤さん勘違いしてごめんなさい。

◆埼玉県立近代美術館で「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展が開催されています。現代版画センターと「ときの忘れもの」についてはコチラをお読みください。
詳細な記録を収録した4分冊からなるカタログはお勧めです。ときの忘れもので扱っています。
会期:2018年1月16日(火)~3月25日(日)
埼玉チラシウォーホル600現代版画センターは会員制による共同版元として1974年~1985年までの11年間に約80作家、700点のエディションを発表し、全国各地で展覧会、頒布会、オークション、講演会等を開催しました。本展では45作家、約300点の作品と、機関誌等の資料、会場内に設置した三つのスライド画像によりその全軌跡を辿ります。

○<「版画の景色 現代版画センターの軌跡」鑑賞。
圧倒的なボリュームの展示数、夕方に予定入れてたのを少し後悔しましたよ。作品はどれも見応えがありましたが、磯崎新の作品はカッコいいってのをチラホラ聞いて見てみたら、やっぱり良かった。立体を上手く平面に落とし込んだような感じが良いのかな。
今回の企画展、現代版画センターが発行した会報誌なども閲覧可能になっていて、これをじっくり見るとなると本当に時間に余裕が必要になってしまいます。なので来月にもう一度時間に余裕を持って見に行きたいと思います。
しかし版画で美術を広めるなんて熱いムーブメントが昔あったんですね。
追伸:今回の展覧会、たくさんの素敵な作品に出合えて貴重な時間を過ごすことが出来ました。ありがとうございます。
『版画センターニュース』を熟読してしまい、映像資料も見れず後半の鑑賞時間も駆け足気味になったので次回は余裕をもって来館して資料にも目を通したいと思います。

(20180204/タカハシさんのtwitterより)>

○<版画は木版画だけじゃない。リトグラフはまさに印刷。表現のバリエーション、奥深さを知った。これからもっと版画を知ろうと思う。良い企画。図録も凝っている。/「 #版画の景色 現代版画センターの軌跡」展
(20180204/shotaさんのtwitterより)>

○<埼玉近代美術館の『版画の景色』は圧巻でした。
若かりし頃、特に70年代に出会った作品群に、
何とも言えない感慨深いものを感じ、また改めて刺激を受けた次第です。
ありがとうございました。

(20180205/大分県・TTさんからのメールより)

西岡文彦さんの連載エッセイ「現代版画センターという景色が始まりました(1月24日、2月14日、3月14日の全3回の予定です)。草創期の現代版画センターに参加された西岡さんが3月18日14時半~トークイベント「ウォーホルの版画ができるまでーー現代版画センターの軌跡」に講師として登壇されます。

光嶋裕介さんのエッセイ「身近な芸術としての版画について(1月28日ブログ)

荒井由泰さんのエッセイ「版画の景色―現代版画センターの軌跡展を見て(1月31日ブログ)

スタッフたちが見た「版画の景色」(2月4日ブログ)

○埼玉県立近代美術館の広報誌 ソカロ87号1983年のウォーホル全国展が紹介されています。

○同じく、同館の広報誌ソカロ88号には栗原敦さん(実践女子大学名誉教授)の特別寄稿「現代版画センター運動の傍らでー運動のはるかな精神について」が掲載されています。

現代版画センターエディションNo.110 菅井汲「シグナルA」
現代版画センターのエディション作品を展覧会が終了する3月25日まで毎日ご紹介します。
110_菅井汲《シグナルA》
菅井汲
《シグナルA》
1976年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
Image size: 34.0×14.0cm
Sheet size: 40.5×28.5cm
Ed.150  サインあり

出品作家45名】靉嘔/安藤忠雄 /飯田善国/磯崎新/一原有徳/アンディ・ウォーホル/内間安瑆/瑛九/大沢昌助/岡本信治郎/小田襄/小野具定/オノサト・トシノブ/柏原えつとむ/加藤清之/加山又造/北川民次/木村光佑/木村茂/木村利三郎/草間彌生/駒井哲郎/島州一/菅井汲/澄川喜一/関根伸夫/高橋雅之/高柳裕/戸張孤雁/難波田龍起/野田哲也/林芳史/藤江民/舟越保武/堀浩哉 /堀内正和/本田眞吾/松本旻/宮脇愛子/ジョナス・メカス/元永定正/柳澤紀子/山口勝弘/吉田克朗/吉原英雄

パンフレット_05


◆ときの忘れものは「ハ・ミョンウン展」を開催します。
会期=2018年2月9日[金]―2月24日[土] ※日・月・祝日休廊
201802_HA
ロイ・リキテンスタイン、アンディ・ウォーホルなど誰もが知っている20世紀を代表するポップアートを、再解釈・再構築して自らの作品に昇華させるハ・ミョンウン。近年ではアジア最大のアートフェア「KIAF」に出品するなど活動の場を広げ、今後の活躍が期待される韓国の若手作家です。
ときの忘れものでは2回目となる個展ですが、新作など15点を展示します。 ハ・ミョンウンは会期中数日間、日本に滞在する予定です。
●オープニングのご案内
2月9日(金)17時から、来日するハ・ミョンウンさんを囲んでオープニングを開催します(予約不要)。皆さまお誘いあわせの上、是非ご参加ください。

◆ときの忘れもののブログは下記の皆さんのエッセイを連載しています。
 ・大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。
 ・frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。
 ・小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」は毎月5日の更新です。
 ・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
 ・杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。
 ・野口琢郎のエッセイ「京都西陣から」は毎月15日の更新です。
 ・小林紀晴のエッセイ「TOKYO NETURE PHOTOGRAPHY」は毎月19日の更新です。
 ・清家克久のエッセイ「瀧口修造を求めて」は毎月20日の更新です。
 ・小林美香のエッセイ「写真集と絵本のブックレビュー」は毎月25日の更新です。
 ・スタッフSの「海外ネットサーフィン」は毎月26日の更新です。
 ・新連載・西岡文彦のエッセイ「現代版画センターの景色」は全三回、1月24日、2月14日、3月14日に掲載します。
 ・笹沼俊樹のエッセイ「現代美術コレクターの独り言」はしばらく休載します。
 ・大野幸のエッセイ<ときの忘れもの・拾遺 ギャラリーコンサート>は随時更新します。
 ・植田実のエッセイ「美術展のおこぼれ」は、更新は随時行います。
  同じく植田実のエッセイ「生きているTATEMONO 松本竣介を読む」と合わせお読みください。
  「本との関係」などのエッセイのバックナンバーはコチラです。
 ・中村茉貴のエッセイ「美術館に瑛九を観に行く」は随時更新します。
 ・飯沢耕太郎のエッセイ「日本の写真家たち」英文版とともに随時更新します。
 ・深野一朗のエッセイは随時更新します。
 ・「久保エディション」(現代版画のパトロン久保貞次郎)は随時更新します。
 ・関根伸夫のエッセイ「〈発想〉について[再録]」は終了しました。
 ・倉方俊輔のエッセイ「『悪』のコルビュジエ」は終了しました。
 ・森本悟郎のエッセイ「その後」は終了しました。
 ・藤本貴子のエッセイ「建築圏外通信」は終了しました。
 ・森下隆のエッセイ「鎌鼬美術館——秋田県羽後町田代に開館」は終了しました。
 ・芳賀言太郎のエッセイ「El Camino(エル・カミーノ) 僕が歩いた1600km」は終了しました。
 ・夜野悠のエッセイ「書斎の漂流物」は終了しました。
 ・普後均のエッセイ「写真という海」は終了しました。
 ・八束はじめ・彦坂裕のエッセイ「建築家のドローイング」(再録)は終了しました。
 ・石原輝雄のエッセイ「マン・レイへの写真日記」は終了しました(時々番外編あり)。
 ・荒井由泰のエッセイ「いとしの国ブータン紀行」は終了しました。
 ・森下泰輔のエッセイ「戦後・現代美術事件簿」は終了しました。
 ・「殿敷侃の遺したもの」はゆかりの方々のエッセイや資料を随時紹介します。
 ・「オノサト・トシノブの世界」は円を描き続けた作家の生涯と作品を関係資料や評論によって紹介します。
 ・「瀧口修造の世界」は造形作家としての瀧口の軌跡と作品をテキストや資料によって紹介します。
土渕信彦のエッセイ「瀧口修造とマルセル・デュシャン」、「瀧口修造の箱舟」と合わせてお読みください。
 ・「関根伸夫ともの派」はロスアンゼルスで制作を続ける関根伸夫と「もの派」について作品や資料によって紹介します。
 ・「現代版画センターの記録」は随時更新します。
今までのバックナンバーの一部はホームページに転載しています。

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20170707_abe06新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。18~24頁にときの忘れものが特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。