スタッフSの《柳正彦「クリスト新作報告会」》ギャラリートーク・レポート

読者の皆様こんにちわ。風が吹いても30℃オーバー、雨が降っても30℃オーバーな酷暑が続く今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか? 最近はエアコンをタイマー入力しても寝苦しくてエアコンが動作する前に汗だくで起きる日々が続いたため、発想を逆転させて一晩中部屋をキンキンに冷やし続け、布団に包まって寝ているスタッフSこと新澤です。とりあえず、次回の電気代請求は背筋だけはしっかり冷やしてくれそうです。

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自分の連載を読み返すと実に半年ぶりですが、今回の内容は題名通り、7月12日(木)に開催した柳正彦さんによる「クリスト新作報告会」のギャラリートークレポートです。

20180726_yanagi_13柳正彦さん

20180726_yanagi_01クリスト。
妻のジャンヌ・クロードは2009年に逝去していますが、立体作品は今回のものも含めて全て"Christo and Jeanne-Claude"と連名になっています。

自他ともに認めるクリスト作品の第一人者、長年助手を務める柳正彦さんですが、今回のプロジェクト、イギリス・ロンドンのハイドパーク内、サーペンタイン湖の上に組み上げられたマスタバについては95%は観客だったとのこと。柳さんは今までにもクリストのプロジェクトを紹介するトークは度々行われていますが、作品の性質上(大体2週間から3週間で撤去されてしまうため)、現在進行中のプロジェクトについて紹介するのは非常に珍しいことです。というのも、今回のマスタバは単独のプロジェクトではなく、ハイドパーク内のサーペンタイン・ギャラリーの企画展「クリスト&ジャンヌ・クロード:ドラム缶とマスタバ1958-2018」展(6/19~9/9)の一部として展示されているテンポラリ・スカルプチャー(一時的な彫刻作品)だそうで、会期に合わせて9/23までその威容を見ることができます。

そもそもマスタバとは何なのか? ネットで検索するとピラミッドが主流になる前のエジプトで作られていた墳墓がヒットしますが、それとは別にアラビア語でベンチを意味する単語でもあると出ます。クリストの作品は後者の意味合いだそうですが、作品がこのような形をしているのは、あくまでもドラム缶を積み重ねていくとこの形が一番安定するからであり、タイトルも作品を見た観客から「マスタバのようだ」と言われてそう名付けただけであり、名前そのものに特に深い意味はないようです。実際、最初期のドローイング作品などではマスタバという名詞は使われていません。

今回の作品のサイズは高さ20m×幅30m×奥行40mという都市部に設置されるオブジェとしては破格の大きさ。使用されているドラム缶の総数は驚きの7,506個! …なんかサイズに比べて妙にドラム缶の個数が少なくない? と思った方、正しいです。実は今回の作品、湖に浮かべるということもあって水面に浮かせた土台の上に鉄製の骨組みを作り、その外側にドラム缶を貼り付けてあるのです。とはいえその総重量は600トン。加えてこの大質量が流れていかないよう、水面下であちこちに繋がれており、風が吹いた程度では小揺るぎもしないそうです。逆に周囲は湖面や森で常に動きがあるので、その対比を見るのも楽しいとのこと。

20180726_yanagi_07マスタバの基部。
ブロック状の浮きを繋ぎ合せた土台の上に、鉄骨の骨組みで台形が形作られています。

20180726_yanagi_08組みあがった土台の表面に積み上げられていくドラム缶。
色合いは公園の緑と調和するように選ばれた朱、白、青、赤と紫。

20180726_yanagi_04上空から見下ろしたマスタバ。
水面下でロープが張り巡らされ、あちこちに固定されているのが確認できます。

今回のマスタバは、2016年にイタリアで公開された湖上を横断する「フローティングピアーズ」と、南フランスで公開された、ドラム缶1,000個程度を使用したマスタバを見たサーペンタイン・ギャラリーから企画を持ち込まれたのが発端とのこと。ギャラリー側はハイドパーク内の開けた広場にマスタバを作ることを想定していたようですが、クリストはそこいらの平地には目もくれず、初めからフローティング・マスタバを作ることを考えていたようです。というのも、クリストの作品は公共や国有の場所を使用するために政治的な理由から実現できない場合も多々あるのですが、同様に技術的な理由で実施が難しいというケースもあります。実はクリストは1967年にアメリカ・ミシガン湖で水に浮かぶドラム缶のオブジェを作ることを構想していますが、この時は実現しませんでした。そういったアイデアをクリストは折につけ再検討するのですが、今回は最新技術で製作された高性能の浮き等が技術的な問題をクリアし、50年の時を経て実現の運びとなりました。

20180726_yanagi_152016年にイタリアで製作された「フローティングピアーズ」。
今回のマスタバにも使われた浮きを使って、延べ3km超の水に浮かぶ通路が湖を横断しました。

20180726_yanagi_06クリストと柳さん。
布を張る前の「フローティングピアーズ」にて。

20180726_yanagi_161967年に企画されるも没になった水上のドラム缶オブジェ。

クリストの作品は建造物や地形を梱包するものが有名ですが、最初期の頃からドラム缶を積み上げた作品も制作しています。特に有名な作品は1962年にパリのヴィスコンティ通りを約80個のドラム缶で作った高さ4mの壁で8時間塞いだ「鉄のカーテン―ドラム缶の壁」や、1999年にドイツで使われなくなった円柱形のガスタンクを改装した展覧会スペースの内部に13,000個のドラム缶を積み上げて高さ26m×幅68m×奥行7.23mの壁を制作した「ザ・ウォール」など。今回のマスタバもこれらと並ぶ代表作になりそうですが、そのどれをも凌駕するであろうプロジェクトが、既に40年来交渉が続いているUAE・アブダビ郊外に恒久的に設置が計画されている「アブダビ・マスタバ」プロジェクトです。最終的な成果物は高さ150m×幅300m×奥行225mという、ロンドンのマスタバの数倍のサイズを誇り、使用するドラム缶の総数は実に410,000個。プロジェクトが認可された暁には、まずアブダビ郊外に使用するドラム缶の製造工場を作るところから始めるという、地域の経済活動まで連動する途方もないプロジェクト。是非とも実現したところを見てみたいものです。

20180726_yanagi_021962年にパリのヴィスコンティ通りを塞いだ「鉄のカーテン―ドラム缶の壁」。

20180726_yanagi_031999年にドイツで使われなくなった円柱形のガスタンク内部を利用して制作された制作した「ザ・ウォール」。

20180726_yanagi_11現在UAEと交渉中の「アブダビ・マスタバ」のサイズ説明図。
比較対象はギザのピラミッド。

20180726_yanagi_12アブダビのマスタバの縮小モデルと一緒に写るクリスト。

以下、トーク後の懇親会の写真になります。

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亭主が羽織っているのは近所の神社のお祭りの関係者にいただいたもの。

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右は野田哲也先生

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左から堀浩哉先生、柳正彦さん

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左から社長、土渕信彦さん、8月からブログに連載を開始する中村惠一さん

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左から野田哲也先生、柳正彦さん

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ブログ「mmpoloの日記」で有名な曽根原正好さん(右)

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今回は猛暑のため、会場をクーラーのきく図書室にしたため人数を絞りました。

(しんざわ ゆう)

サーペインタインギャラリー公式ページ(英文)

●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18~24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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