frgmのエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」第49回

虫の生活


 講師をしている池袋のルリユール工房に、虫の研究者の生徒さんがおられる。植物につく線虫が研究対象だったというが、ニッチな研究のようで、実はカバーするのは幅広い分野のようだ。それはさておき、虫関連のみならず様々な絵本も蒐集しておられて、時々「こんな本があるんですよ」とレッスン時に持ってきて見せてくださる。
 今回ご紹介するのは、そんな中のひとつ。タイトルは「なずず このっぺ?」。はっ?何それ?と思った方は正解。「なずず このっぺ?」とは「何、それ?」という意味です。原作者はカナダ人で、オリジナルの本は英語で書かれている、、、のだが、なにしろ日本語版の帯に書かれている通り、「昆虫語のえほん」なのである。つまり、オリジナルは英語の昆虫語、ということになる。この本の楽しさ、面白さは、昆虫語や虫たちの動作・表情の豊かさにあるのだけれど、ディテールに様々な発見があり、何度みても飽きない。
 ストーリーは春に芽吹いた草が成長し、その上に虫たちが自分達の「基地」を作る。途中、クモに乗っ取られそうになるが、クモは鳥に食べられてしまい、基地は戻ってくる。夏になると花が咲き、虫たちは美しさに歓喜。やがて秋になり、冬がおとずれ、草は枯れてしまうが、再び春がきて若芽が顔を出し、「なずず このっぺ?」の季節となる。

zu1-1どのページもご紹介したいほど。

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 この絵本は、日本語版以外に、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語に訳されているそうで、実は私の手元にはフランス語版もある。この本を見せていただいた後、休憩時間にすぐに階下の書店に直行。日本語版を買い、夜のレッスンのアシスタントとページ毎にお互いの意見を言い合いながら楽しんだ。あげくの果てに、二人で声に出して読んでみたら、あまりにおかしくて抱腹絶倒。アシスタントのYさんは日本語版だけでなく、フランス語版も買うというので、買ったら見せてね、とお願いしていたら、本当に持って来てくれました。しかも、それは私へのプレゼント。自分の分だけでなく、私のためにもう一冊買ってくれたとのこと。ありがとう、Yさん!

zu2-1日本語版(「なずず このっぺ?」フレーベル館刊)とフランス語版(”Koi Ke bzzz?”Helium 刊)

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 日本語訳はアーサー・ビナードさん。日本在住のアメリカ人で、日本語で詩を書いている方。日本語訳では「何」が「なずず」、フランス語訳では「koi(=quoi )」となる(ちなみに英語のオリジナル版は「Du Is Tak?」”whaT IS THAT?”だろうか…)。「段々伸びるから、はしごがダンダンノビなんですね」とは、Yさんの名解釈(珍解釈?)。こんな類推の楽しみも与えてくれる。聞くところによると、小学一年生の感想文課題図書に選定されらしい。私は読書感想文というものに、いささか疑問を持っているが、大人が思いもよらない素敵な感想文がでてくるかもしれない。すっかり昆虫語を修得した少年少女が現れたら楽しい。
 話にまとまりがなくなったが、最後に、この絵本のもうひとつの素晴らしいところは、空間を表す白の部分が美しいこと。この白い部分が、自分と同じスケールに見てしまいがちな虫の世界が実は地面にごく近いところで展開されていることを、思い出させてくれるのである。

zu3-1Yさんと私が特に好きなキャラクター。

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(文:平まどか
平(大)のコピー


●作品紹介~平まどか制作
病める舞姫12-1


病める舞姫12-2


病める舞姫12-3
「病める舞姫 」
土方巽著

1983年 白水社刊
・パッセカルトン 山羊オアシス革・ヘビ革総革装
・金箔押し装飾
・手染め見返し
・タイトル箔押し:中村美奈子
・制作年 2016年
・221x158x26mm
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●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。

本の名称
01各部名称(1)天
(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)


額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。

角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。

シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。

スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。

総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。

デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。

二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。

パーチメント
羊皮紙の英語表記。

パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。

半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。

夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。

ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。

両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。

様々な製本形態
両袖装両袖装


額縁装額縁装


角革装角革装


総革装総革装


ランゲット装ランゲット製本


◆frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。

●本日のお勧め作品は、倉俣史朗です。
sakurai--4010「Flower Vase #1303」
アクリル
W26.9xD8.0xH26.0cm
撮影:桜井ただひさ

photo by abe (4)『Flower Vase #1303』 撮影:阿部勤
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●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18~24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊です。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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