飯沢耕太郎「日本の写真家たち」第12回

瑛九と「フォト・デッサン」 瑛九 (Q Ei 1911~1960)

飯沢耕太郎(写真評論家)


 瑛九(本名・杉田秀夫 1911~1960)は、いうまでもなく戦前・戦後の前衛美術の展開に大きな足跡を残したアーティストである。その作品は、油彩や水彩画だけでなく、エッチング、リトグラフなど多彩であり、1951年に組織したデモクラート美術協会の活動では、早川良雄、山城隆一、靉嘔池田満寿夫吉原英雄泉茂細江英公らに大きな影響を及ぼした。
 その瑛九が、写真の分野においても注目すべき仕事をしていたことは、それほど広く知られていないのではないだろうか。彼はまだ画家としては認められていなかった1930年に写真機を購入し、写真学校(おそらく1929年に設立された3ヶ月制のオリエンタル写真学校と思われる)に入学して写真作品の制作に熱中した。同時に写真評論も執筆するようになり、『フォトタイムス』誌に本名の杉田秀夫名義で「フォトグラムの自由な制作のために」(1930年8月号)、「芸術写真以上のものヘ」(同12月号)、「フォトグラムは如何に前進すべきか」(1931年2月号)などを精力的に発表した。当時は、絵画的な「芸術写真」からモダニズムを志向する「新興写真」へと日本の写真界が大きく転換しようとしていた時期であり、若き瑛九=杉田秀夫の活動もそれに呼応するものだったといえる。
 一時、故郷の宮崎に帰っていた瑛九は、1936年にふたたび上京し、画家の長谷川三郎、美術評論家の外山卯三郎の協力を得て、新作のフォトグラム作品10点を複写したプリントを挟み込んだ作品集『眠りの理由』(芸術学研究会、限定40部)を刊行する。紙を切り抜いたフォルムや、ネット状の物体が自由に絡み合い、乱舞するユニークな写真作品は、フォト・デッサンと命名された。瑛九という名前を用いるようになったのも、この『眠りの理由』の刊行がきっかけであり、まさに彼にとってはアーティストとして大きな飛躍を遂げた作品集といえるだろう。
 瑛九はその後もフォト・デッサンや、写真を切り貼りしたフォト・コラージュ、さらにそれにドローイングを加えた作品などを制作し続けた。1950年代には宮崎、大阪、東京などで「瑛九フォト・デッサン展」をたびたび開催し、1951年にはフォト・デッサン作品集『真昼の夢』(9点組、限定100部)を刊行している。こうしてみると、瑛九の写真作品は最初から最後まで一貫して、現実世界の再現・描写ではなく、自身の内的なファンタジーを、光と影によって定着することを試みたものであることがわかる。彼はまさに、画家と写真家の仕事を一体化した活動を生涯にわたって続けたのである。
いいざわ こうたろう

qei17-005瑛九 Q Ei
Work
作品
C. 1936~
Photo-dessin (photogram)
30.3×25.2cm
Signed


qei_photodessin-hukituke瑛九 Q Ei
Work
作品
Photo-dessin (photogram) and spray
23.0×38.3cm
Signed by Mrs. Q Ei on the back.


qei_161瑛九 Q Ei
Work
作品
C.1954
Photo-dessin (photogram)
20.1×25.3cm
Signed by Mrs. Q Ei on the back.


qei_141_three瑛九 Q Ei
Three people
三人
1950
Photo-dessin (photogram)
55.2×45.5cm
Signed and dated


qei_140_work瑛九 Q Ei
Work
作品
Photo-dessin (photogram)
40.8×31.9cm


瑛九「小鳥」瑛九 Q Ei
Little bird
小鳥
1951
Photo-dessin (photogram)
55.0×45.0cm
*Noted "Q Ei Exhibition (Odakyu Grand Galley) 1979" on the rear side of the frame


瑛九「魚」瑛九 Q Ei
Fish

Photo-dessin (photogram)
45.4×56.0cm
Signed by Mrs. Q Ei on the back


瑛九「水の中」瑛九 Q Ei
In the water
水の中
Photo-dessin (photogram)
53.5×42.2cm
Signed by Mrs. Q Ei on the back


瑛九「三人」瑛九 Q Ei
Three people
三人
Photo-dessin (photogram) and pen drawing
54.8×44.9cm
Signed by Mrs. Q Ei on the back


瑛九「散歩(楽園)」瑛九 Q Ei
Walk (Paradise)
散歩(楽園)
Photo-dessin (photogram)
53.8×42.8cm
Signed by Mrs. Q Ei on the back


瑛九「題不詳」瑛九 Q Ei
Untitled
題不詳
Photo-dessin (photogram)
45.2×55.7cm

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*画廊亭主敬白
偶然でしょうが、今各地の美術館で瑛九作品が展示されています。
一番大規模なのが埼玉県立近代美術館、120号の大作「田園」唯一点のために特別室を設け「特別展示:瑛九の部屋」を開催中、常設コーナーではなんと40点以上の油彩、フォトデッサン、版画他が展示されています(4月14日まで)。
東京国立近代美術館の小企画「遠くへ行きたい」では瑛九のリトグラフ「旅人」が何と中村岳陵の誰もが知る名作「気球揚がる」の横に展示されています(20日までです、お急ぎください)。
横浜美術館コレクション展『リズム、反響、ノイズ』」では瑛九の「フォート・デッサン作品集 眠りの理由」(1936年)より6点が出品展示されています(3月24日まで)。
瑛九の故郷、宮崎県立美術館では「コレクション展」の一環として<瑛九 -宮崎にて>が特集展示されており、120号の大作「田園 B」などが展示されています(4月7日まで)。

ときの忘れものは「第27回瑛九展 」を開催しています。
会期:2019年1月8日[火]―1月26日[土] 11:00-19:00※日・月・祝日休廊
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ときの忘れものは3月末開催のアートバーゼル香港2019に「瑛九展」で初出展します。1930年代最初期から最晩年まで、油彩大作、フォトデッサンの代表作を香港に持って行く前に、ギャラリーで展示しています。
・瑛九の資料・カタログ等については1月11日ブログ「瑛九を知るために」をご参照ください。

●九州の博多阪急で1月16日(水)- 1月22日(火)【博多阪急×アートフェアアジア福岡 “Catch Good Signs! アートの兆し”】が開催されており、ときの忘れものも松本竣介ボブ・ウィロビーを出品しています。

●ときの忘れもののブログは年中無休ですが、それは多くの執筆者のおかげです。昨年ご寄稿いただいた方は全部で51人。年末12月30日のブログで全員をご紹介しました。

●2019年のときの忘れもののラインナップはまだ流動的ですが、昨2018年に開催した企画展、協力展覧会、建築ツアー、ギャラリーコンサートなどは年末12月31日のブログで回顧しました。

●ときの忘れものは〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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