佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第25回

「ふたたびインド・シャンティニケタンへ」

なにやら、昨年後半はもっぱら、このエッセイ連載が年末の個展「囲い込みとお節介」に向けた考えと準備報告となってしまい、エッセイの表題として掲げている「--インドから建築を考える--」から少しばかり遠くなってしまっていた。けれども先頭の「大地について」はつまるところ場所、土地というものから作るモノを考えるということであるから、連載は福島・大玉村を舞台にしたものであっても、その根幹を見誤ることはしていなかったようにも思うので、ひとまずはご勘弁願いたい。

そんな表題と内容の乖離を埋めるべく、今年2019年の初めにインド・シャンティニケタンへ向かった。シャンティニケタンに着いたらやはり、ああ帰って来たなあ、の感慨が心の内に生まれ出て、思考もビシリと現地のモードに変わる。やはり思考形式は自分の居る場所に直結しているのであり、思考の展開を試みるためにも自分の体をどのように移動させるかの工夫は必要だと痛感する。

今回のシャンティニケタン滞在の具体的な目的を順に書き連ねてみる。

1、昨年作った家ココロの現状確認と、内部造作の追加設計
昨年初めに現場に滞在して作ったシャンティニケタンの家ココロ(施主のニランジャンさんがそう名付けている)は、私たちが現場を離れた後も引き続きニランジャンさんによって内部造作の充実が続けられていた。しばしばフェイスブックなどでその報告をもらったりして、彼の家に対する膨大な熱量、愛情がヒリヒリ伝わってくるものだった。

49307642_10156329121952013_6456953824492912640_nニランジャンさんがデザインした階段箪笥。昨年日本から運んだ私の祖父が使っていた桐箪笥の扉と引き出しをアッセンブルしている。

DSCN5734庭に大きく床を張り出した、二階の小室。床が貼られ、半畳が並べられていた。冬なので本来は炉を切らねばならないのかもしれないが、冬といえどもインドの冬の昼間は結構暖かいので、日本とは別種の設えを編み出す機運としてむしろ好意的に捉えるべきだろう。

DSCN5732二階の書斎部分。新たに本棚が敷設されて、先ほどの庭に張り出す小室と分けられている。モノの密度が高まるのは家にとっては嬉しいことだとも思う。

そして現在、地上階に置く、入り口と居間とを分ける可動の仕切りを設計している。施主が手を加えた家に、さらに自分がデザインを付与するというのは、デザインの連鎖を考えたときにもとても興味深い。モノを介したコミュニケーションがこの家で生まれつつある。

2、シャンティニケタンの都市(市街)形成過程の研究、史料調査
1901年、詩人のラビンドラナート・タゴールが創設した学校は、たった5人の先生と6人の学生から始まったと言われている。そのころにはいくつかの校舎や宿舎が建てられていたようだが、そんな極小規模で始まった学校にキャンパス計画はなかった。その後、だんだんと学校の規模は大きくなり、周囲の土地を買収して現在の大学の姿となった。並行して周囲、あるいは学校の敷地内に街が形成されていっていたようである。それを確かめるために大学の史料を管理するRabindra Bhavanaと、図面関係を扱うEstate Officerに向かい、必要な史料を入手した。1920年代のイギリス政府による当時の土地所有を示す地図があった。そのあたりからスタートしてシャンティニケタンの市街地形成過程を確かめてみたい。
また、シャンティニケタンでの建築、家具のデザインには複数の人間が関わったことが知られている。創設者のラビンドラナート・タゴールを中心に、息子のラティンドラナート・タゴール、建築家のスレンドラ・カール、後述する日本人大工のキンタロー・カサハラ、そしてイギリスの都市計画家のパトリック・ゲデスとその息子アーサー・ゲデスなどである。かれらの相関の賜物として、シャンティニケタンのデザインはある。そこに、ある同じ場所を介した共同のものづくりの可能性を見てみたいとも思っている。

3、一世紀前のシャンティニケタンにて活躍した日本人大工キンタロー・カサハラに関する調査
カサハラのご子孫と今回面会することができた。そして分かったのが、キンタロー・カサハラのインドでのかなりアグレッシブな行動である。彼はまずブッダガヤの調査隊として日本の東京からインドを訪れた、その後、ボパール藩に招かれ王宮の内装の仕事に携わった。その後、カルカッタのマーケットで家具を製作・販売しているところをタゴール家の人間が見つけ、タゴール家の邸宅に招かれ、そのままシャンティニケタンに移住したらしい。そしてシャンティニケタンではラビンドラナートの家の内装や家具、そして森の中にツリーハウスを建てたという。カサハラ自身は、晩年、土壁の小さな家に暮らしていたらしい。タゴールと日本人の関係として、よく持ち出されるのが岡倉天心であるが、実はより濃密に関わっていたのはカサハラではないかと思う。

DSCN5907カサハラがデザイン、制作したとされる机と椅子。けれどもこの家具を誰が作ったかよりも、どのような状況、人間関係の中で生まれ出たのか、という部分に焦点をあてるべきだろう。

4、シャンティニケタン、コルカタにおける新規建築プロジェクト
昨年作った家ココロから続いて行ったような形で、いくつかの建築プロジェクトが始まるやもしれない。
・宮沢賢治研究センター(シャンティニケタン)
・キンタロー・カサハラミュージアム(シャンティニケタン)
・キャナル沿いの住宅(カルカッタ)

詳細は次回以降に詰めて行きたい。

また、他にも以下のようなことをやって来た。
5、歓藍社の林剛平さんらと共に布の泥染め作業
6、Nippon Bhavana(現地大学の日本学科)での講義
なかなか書きごたえがあるのでこちらも次回以降に言葉にしてみたい。
さとう けんご

佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。

◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。

●本日のお勧め作品はジョナス・メカスです。
0909-52John_wants_to_proveジョナス・メカス Jonas MEKAS
「John wants to prove to Anthony that he can keep more blueberries in his mouth than he, Montauk, August, 1972」
2000年
C-print
30.0×20.0cm
Ed.10  signed
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください
ときの忘れものの通常業務は平日の火曜~土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。


●1月23日に亡くなったメカスさんを偲びジョナス・メカス上映会(DVD)を開催しています。
2005年10月メカス
会期:2019年2月5日[火]―2月9日[土]
代表作「リトアニアへの旅の追憶」は毎日上映するほか、「ショート・フィルム・ワークス」、「営倉」、「ロスト・ロスト・ロスト」、「ウォルデン」の4本を日替わりで上映します。
上映時間他、詳しくはホームページをご覧ください。
2月9日夜のトーク「メカスさんを語る」(ゲスト:飯村昭子さん、木下哲夫さん)は既に満席となり受付を終了しました。

●上映会の会期中、メカスさんの著書を特別頒布します。
『ジョナス・メカス―ノート、対話、映画』表紙ジョナス・メカス ノート、対話、映画
著者:ジョナス・メカス
訳:木下哲夫、編:森國次郎
A5判 336ページ
せりか書房
価格:4,700円
1949年、肌寒いニューヨーク港に難民として降り立ったジョナス・メカス。入手したボレックスでニューヨークを、友人たちを、自らを撮り続けてきたメカスが語る、リトアニアへの想い、日記映画とニューヨークのアヴァンギャルド、フィルム・アーカイヴスの誕生…「ここに集められた文章は、どれも思い出であり、わたしの人生の一部である」。
主要作品のメカス自身による解説とコメンタリーを収録。

メカスどこにもないところからの手紙どこにもないところからの手紙
著者:ジョナス・メカス
訳:村田郁夫
19.5×12.8cm 199ページ
書肆山田
価格:2,500円


◆ときの忘れものは3月27日~31日に開催されるアートバーゼル香港2019に「瑛九展」で初出展します。
・瑛九の資料・カタログ等については1月11日ブログ「瑛九を知るために」をご参照ください。
・現在、各地の美術館で瑛九作品が展示されています。
埼玉県立近代美術館:「特別展示:瑛九の部屋」で120号の大作「田園」を公開、他に40点以上の油彩、フォトデッサン、版画他を展示(4月14日まで)。
横浜美術館:「コレクション展『リズム、反響、ノイズ』」で「フォート・デッサン作品集 眠りの理由」(1936年)より6点を展示(3月24日まで)。
宮崎県立美術館<瑛九 -宮崎にて>で120号の大作「田園 B」などを展示(4月7日まで)。

●ときの忘れものは〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
12