石原輝雄のエッセイ
『マン・レイの油彩が巡る旅』刊行
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昨年末にマン・レイの油彩を主人公とした旅行記を上梓した。題して『マン・レイの油彩が巡る旅』──と言っても、一般的な刊行本とは似て非なるもの。相変わらずの原稿執筆から書容設計、印刷、造本までの全工程を、筆者自身が行う銀紙書房刊本。作業限界の28部に絞っての制作なので、「上梓」とするのは申し訳ない。申し訳ないが、SNSでの刊行告知から12時間で用意した冊数すべてが手許を離れる結果となるなど、ファンの皆様から期待されての船出。入手のチャンスを逃した方々へのお詫びに旅行記の詳細を報告するのも必要であるのかも知れない。──と、綿貫さんに指摘されてしまった。
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パピヨン縢り 2018.12.7作業
配本準備10冊 2018.12.16
限定28部 (著者本3部含) サイズ 21 x 14.8 cm、252頁。 書容設計・印刷・造本: 著者(パピヨン縢りによる手製本) 限定番号・サイン入り。展覧会リーフレット、記念絵葉書、ホテル備品の他、各冊異なるエフェメラ類貼付。本文: Aプラン・アイボリーホワイト 47.50kg 表紙: ケンラン・モスグレー 265kg 表紙カバー: キュリアスIRパール 103kg 帯: スーパーホワイトライラック 印刷: エプソン PX-049A
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成田国際空港 ウィーン行き OS52便「自由の夢」号
シャーフベルク山から望むヴォルフガング湖
メルク・ベネディクト派修道院「大理石の広間」
ザルツブルク・ヘルブルン宮殿
旅行記の執筆・刊行については、本ブログ「そして、ウィーンから……」(昨年6月6日)の中で予告させていただいていた。内容はマン・レイの大規模な回顧展がオーストリア銀行クンストフォーラムウィーンで開催されるのを知ってから、計画し旅を楽しんだ熟年夫婦のオーストリア周遊(5月17-24日)と、世界中の美術館や収集家から集めた油彩に焦点を絞り、作品自体も作者の手を離れ今日に至るまでの旅を「人生」のように続けているのではないかとの考えから、それぞれの「声」を聞き、引き写した後半との二部構成となっている。
ウィーン・エンゲル薬局
ウィーン・デーメル
前半は「オーストリア周遊」として、1-「再び、ウィーンまで」、2-「時差、▲七時間」、3-「乗合馬車は手前で……」、4-「そして、ウィーンから」の4章に分け、ヴァッハウ渓谷、メルク、ザルツブルク、ヴォルフガング湖、シャーフベルク山、ハルシュタット、グラーツ、ウィーンなどの観光地と展示会場を紹介。後半は「マン・レイの油彩が巡る旅」として、油彩の所蔵先(ニューヨーク近代美術館、ホイットニー美術館、スコットランド国立近代美術館、メニル・コレクション、ポンピドゥ・センター、マルコーニ財団、ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館、マリオン・メイエ、ビーレフェルト市立美術館、ボイマンス・ファン・ブーニンヘン美術館)毎に作品個々の「人生」に迫った。取り上げた油彩は16点──『眠る女』『五人』『マン・レイ 1914』『女綱渡り芸人はその影を伴う』『幸運』『サド侯爵の想像的肖像』『画架の絵画』『判じ絵』『文字「A」』『詩人・ダビデ王』『求積法』『スタジオ・ドア』『砂漠の植物』『終わり良ければすべて良し』『フェルー街』『わが初恋』。初見は9点だった。もちろん、コレクターについても言及した。
上野の美術館で展示された折に見逃した『女綱渡り芸人はその影を伴う』を求めての25年に及ぶ旅、パリの『フェルー街』をウィーンで見直す旅。そんな動機もあったと振り返る。
ウィーン・クンストフォーラムウィーン
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美術の楽しみ方は、人それぞれと思うが、好きな作家の好きな作品を世界中に訪ね歩く行為は、コレクターでもあった(?) わたしの場合、心にも財布にも優しいと、ひとまず報告しておきたい。フェルメールやゴッホや印象派などを扱った類似書は数多く刊行されている。マン・レイの場合も訪ねるべき場所や作品は世界中に存在する訳で、拙書は回顧展に際して美術館に集められた作品を拝見したにすぎなく、内容についても規模についても見劣りすると本人も認識している。しかし、「楽しみが伝わる臨場感は、尋常じゃない」と、手前味噌ながら、声を大にして弁護したい。── 恋人への「手紙」、そんな心境です。
会場展開図(22-24頁)
マン・レイ展リーフレット(78-79頁)
記念絵葉書(152-153頁)
展覧会を知ってから実見するまでに6ヶ月、日本に戻ってから原稿を準備し本の形にするまで6ヶ月。当初の予定を大幅に遅らせての刊行となった。原因は臨場感を確保する為に「本」の中にいろいろな仕掛けをしたいと考えたからで、展示会場での写真撮影が個人の場合も、貸手との契約条項から認められないことによるものだった。これを前提として旅行前の書容設計から、会場の展開図や出品作品の展示歴を用意し、旅行中に使った飛行機や鉄道の乗車券や美術館の入場券、買い物の領収書といった「紙モノ」を家人と共に持ち帰り、現物を一冊に二点の割で貼り込んだ。名前や時刻が刻印されたドキメントは、「本」を手にされた人が、一緒に旅行をしていると錯覚するだろう期待、最高の贈り物。これに展覧会のリーフレット、記念絵葉書、ホテルの備品を加えたが、思いの外に厚みと硬度があって、頁を開く指先との親和性に難点が残った。また、展示風景の欠落については、アマゾンで事前に求めた展覧会カタログの頁を道中で開き、撮影。美術館に入る前だったので、すべてが想像の場面、「愛の告白」に連なるもの。原稿執筆の段階で油彩の魅力に肉薄出来たのか、これは、読んでいただいた方々の感想を待たねばならない。
ウィーントラム一回乗車券(134-135頁) 限定番号1番に貼付
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ここで、表紙印刷について打ち明けたい。従来から本文天地に1ミリ加えて用紙カット。写真印刷には制約があり全面写真は採用していなかった。当初、筆者によるウィーン分離派風手書き図面でデザインするつもりだったが上手く出来ない、才能がないこと以上に体質が合わないのですな。それで筆者撮影の美術館正面の意匠に変更。合わせて全面写真のフチなし設定とする事にした。廃インクパッドとの関連でこれまで採用しなかった手順。微調整を繰り返す事となった。零細家内工業の銀紙書房が使うプリンターは廉価なエプソンのPX-049A。フチなし設定ではサイズ調整97%、写真上の文字白抜きでの表記は位置なども含めて、微妙ですな。微調整を繰り返しましたが、モニターと印刷物は違うのですよね(当然です)、もっとも、作業の充実感満載ですから楽しくて時間を忘れました。最終段階では腰巻きを掛けているので判りませんが、良い表紙だと思いませんか?(自画自賛)。
表紙意匠
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年末の郵便事情を考慮し、年明けにクンストフォーラムウィーンの学芸員ヴェロニカ・ルドルファーへ完成本を送った。京都からの旅程は6日間。日本語の本なので「本」そのもの(書容設計)が訴求する部分に依存する訳だが、彼女は「自身がご主人と共に本の一部となったこと、ウィーンへ来てくれたことが、貴方にこのようなインスピレーションをもたらしたのが嬉しい」と喜んでくれた。そして、メールの終わりには「1月のウィーンはとても暗くて寒い、春を楽しみに待っている」と…… マン・レイの油彩を求めて旅をしたが、作品はそれぞれの所蔵先に戻り(一部作品は「旅」を続け)、今は街にない。昨年の感動を心に残しながら、風景や作品との出会い以上に、人とのふれあいが人生に希望の色を加えてくれたと、平凡だけど改めて思った。美術館の担当者たちは『魅惑の日本』展(10/10-‘19/1/20)が終わり、次の『アール・ブリュットの芸術家』展(2/15-6/23)の準備に追われていることだろう。
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拙宅ミニ展示(イタリア・マン・レイ展ポスター、記念絵葉書、拙著表紙)
拙宅玄関・グラーツのマンナーで求めた買い物袋(有料)
さて、銀紙書房では次の本『眠り姫物語』(仮題)に向けての作業に入っています。石原コレクションの油彩『肖像』に言及するもので、すでに、おおかたの原稿執筆と書容設計を終えているので、秋までには刊行できる予定。この場合も25部程度の刊行。完成をお知らせすれば、すぐに無くなると、本人は淡い期待を抱いております(SNSでの発信を見落とさないでね)。
付け加えれば、わたしの本づくりは一般的な出版とは異なり、版画などと同列の自己表現に基づく作品(美術品)としての位置づけ。限定番号とサインにこだわるのも、この理由によります。新しい本も、「すごいもの」になると、本人、力を入れておりますのでご期待願います。
(いしはら てるお)
■書籍のご紹介
石原輝雄『マン・レイの油彩が巡る旅』刊行
※石原輝雄のエッセイ「銀紙書房新刊報告」もご覧ください。
限定28部 (内、著者本3部含)
サイズ 21 x 14.8 cm、252頁。
書容設計・印刷・造本: 著者(パピヨンかがりによる手製本)
限定番号・サイン入り。 美術館パンフレット、展覧会絵葉書、ホテル備品の他、各冊異なるエフェメラ類貼付。
本文: Aプラン・アイボリーホワイト 47.50kg 表紙: ケンラン・モスグレー 265kg
表紙カバー: キュリアスIRパール 103kg 帯: スーパーホワイトライラック
印刷: エプソン PX-049A
本ブログで刊行までの経緯を報告しておりますが、昨年の今頃、ウィーンの美術館で大規模なマン・レイの回顧展が開催される事を知り、出品作の詳細情報を入手した結果、最重要な未見油彩『女綱渡り芸人はその影を伴う』『フェルー街』『眠る女』などを含めて多数の油彩が出品されるので旅行を計画し、ザルツブルク、グラーツなど風光明媚なオーストリアを周遊した後、クンストフォーラムウィーンでマン・レイ作品を鑑賞した旅の報告となっています。家人と共に35年ぶりのウィーン訪問でした。
旅行記の後、マン・レイの油彩を主人公として、各作品まつわる誕生から、様々な人の手を経て今日に至る油彩自身の物語に言及した「マン・レイの油彩が巡る旅」の章を置いております。人に一生があるように、油彩にも一生があると思えてなりません。出品された油彩を現在コレクションしている美術館はMOMA、ホイットニー、メニル、ポンピドゥ・センターの他、イングランド、ドイツ、オランダ、イタリア、フランスの美術館、財団などとなっており、コレクション施設毎に油彩を紹介しております。
臨場感
筆者として、今回の本で一番お伝えしたいのは、作品を鑑賞する楽しさと、画集などのイメージではなく、油彩の現物が持つ絵肌の魅力でした。会場での写真撮影が許されないので、パンフレットや絵葉書、ウィーンのトラムのキップや美術館の入場券、航空チケットやレシートなどを各冊毎に2点貼付して、読者の方にも一緒に観光をしている、会場で筆者の横に立っている、そんな気分を味わっていただきたいのです。その為に、会場の展開図を作成・貼り込みをいたしました。
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●本日のお勧め作品はマン・レイです。
マン・レイ Man RAY
《鍵穴》
1970年 銅版
イメージサイズ:21.5×19.3cm
Ed.50 他に E.A.70
サインあり
レゾネNo.17 (Studio Marconi)
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆追悼 ジョナス・メカス トークイベント「メカスさんを語る」
1月23日NYの自宅で、ジョナス・メカスさんが亡くなられました(96歳)。9日に予定していたトークイベントは雪のため中止(延期)しましたが、あらためて下記日程で開催します。
日時:2月21日(木)18時~
会場:ときの忘れもの2階図書室
講師:飯村昭子(フリージャーナリスト、『メカスの映画日記』『メカスの難民日記』の翻訳者)
木下哲夫(メカス日本日記の会、『ジョナス・メカス―ノート、対話、映画』の翻訳者)
植田実(住まいの図書館編集長、『メカスの映画日記』の装丁者)
要予約:既に満席ですが、キャンセル待ちの方はメールにてお申し込みください)
参加費:1,000円は皆さんのメッセージとともに香典として全額をNYのアンソロジー・フィルム・アーカイブスに送金します。
(*写真は1983年12月7日福岡にて、アコーディオンを弾くメカスさん、初来日60歳でした。撮影:福間良夫、写真提供:宮田靖子)
・2月6日 井戸沼紀美「メカスさんに会った時のこと」
・2月4日 植田実『メカスの映画日記 ニュー・アメリカン・シネマの起源1959―1971』
・2月2日 初めてのカタログ
・1月28日 木下哲夫さんとメカスさん
●ときの忘れものは〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

『マン・レイの油彩が巡る旅』刊行
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昨年末にマン・レイの油彩を主人公とした旅行記を上梓した。題して『マン・レイの油彩が巡る旅』──と言っても、一般的な刊行本とは似て非なるもの。相変わらずの原稿執筆から書容設計、印刷、造本までの全工程を、筆者自身が行う銀紙書房刊本。作業限界の28部に絞っての制作なので、「上梓」とするのは申し訳ない。申し訳ないが、SNSでの刊行告知から12時間で用意した冊数すべてが手許を離れる結果となるなど、ファンの皆様から期待されての船出。入手のチャンスを逃した方々へのお詫びに旅行記の詳細を報告するのも必要であるのかも知れない。──と、綿貫さんに指摘されてしまった。
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限定28部 (著者本3部含) サイズ 21 x 14.8 cm、252頁。 書容設計・印刷・造本: 著者(パピヨン縢りによる手製本) 限定番号・サイン入り。展覧会リーフレット、記念絵葉書、ホテル備品の他、各冊異なるエフェメラ類貼付。本文: Aプラン・アイボリーホワイト 47.50kg 表紙: ケンラン・モスグレー 265kg 表紙カバー: キュリアスIRパール 103kg 帯: スーパーホワイトライラック 印刷: エプソン PX-049A
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旅行記の執筆・刊行については、本ブログ「そして、ウィーンから……」(昨年6月6日)の中で予告させていただいていた。内容はマン・レイの大規模な回顧展がオーストリア銀行クンストフォーラムウィーンで開催されるのを知ってから、計画し旅を楽しんだ熟年夫婦のオーストリア周遊(5月17-24日)と、世界中の美術館や収集家から集めた油彩に焦点を絞り、作品自体も作者の手を離れ今日に至るまでの旅を「人生」のように続けているのではないかとの考えから、それぞれの「声」を聞き、引き写した後半との二部構成となっている。


前半は「オーストリア周遊」として、1-「再び、ウィーンまで」、2-「時差、▲七時間」、3-「乗合馬車は手前で……」、4-「そして、ウィーンから」の4章に分け、ヴァッハウ渓谷、メルク、ザルツブルク、ヴォルフガング湖、シャーフベルク山、ハルシュタット、グラーツ、ウィーンなどの観光地と展示会場を紹介。後半は「マン・レイの油彩が巡る旅」として、油彩の所蔵先(ニューヨーク近代美術館、ホイットニー美術館、スコットランド国立近代美術館、メニル・コレクション、ポンピドゥ・センター、マルコーニ財団、ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館、マリオン・メイエ、ビーレフェルト市立美術館、ボイマンス・ファン・ブーニンヘン美術館)毎に作品個々の「人生」に迫った。取り上げた油彩は16点──『眠る女』『五人』『マン・レイ 1914』『女綱渡り芸人はその影を伴う』『幸運』『サド侯爵の想像的肖像』『画架の絵画』『判じ絵』『文字「A」』『詩人・ダビデ王』『求積法』『スタジオ・ドア』『砂漠の植物』『終わり良ければすべて良し』『フェルー街』『わが初恋』。初見は9点だった。もちろん、コレクターについても言及した。
上野の美術館で展示された折に見逃した『女綱渡り芸人はその影を伴う』を求めての25年に及ぶ旅、パリの『フェルー街』をウィーンで見直す旅。そんな動機もあったと振り返る。

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美術の楽しみ方は、人それぞれと思うが、好きな作家の好きな作品を世界中に訪ね歩く行為は、コレクターでもあった(?) わたしの場合、心にも財布にも優しいと、ひとまず報告しておきたい。フェルメールやゴッホや印象派などを扱った類似書は数多く刊行されている。マン・レイの場合も訪ねるべき場所や作品は世界中に存在する訳で、拙書は回顧展に際して美術館に集められた作品を拝見したにすぎなく、内容についても規模についても見劣りすると本人も認識している。しかし、「楽しみが伝わる臨場感は、尋常じゃない」と、手前味噌ながら、声を大にして弁護したい。── 恋人への「手紙」、そんな心境です。



展覧会を知ってから実見するまでに6ヶ月、日本に戻ってから原稿を準備し本の形にするまで6ヶ月。当初の予定を大幅に遅らせての刊行となった。原因は臨場感を確保する為に「本」の中にいろいろな仕掛けをしたいと考えたからで、展示会場での写真撮影が個人の場合も、貸手との契約条項から認められないことによるものだった。これを前提として旅行前の書容設計から、会場の展開図や出品作品の展示歴を用意し、旅行中に使った飛行機や鉄道の乗車券や美術館の入場券、買い物の領収書といった「紙モノ」を家人と共に持ち帰り、現物を一冊に二点の割で貼り込んだ。名前や時刻が刻印されたドキメントは、「本」を手にされた人が、一緒に旅行をしていると錯覚するだろう期待、最高の贈り物。これに展覧会のリーフレット、記念絵葉書、ホテルの備品を加えたが、思いの外に厚みと硬度があって、頁を開く指先との親和性に難点が残った。また、展示風景の欠落については、アマゾンで事前に求めた展覧会カタログの頁を道中で開き、撮影。美術館に入る前だったので、すべてが想像の場面、「愛の告白」に連なるもの。原稿執筆の段階で油彩の魅力に肉薄出来たのか、これは、読んでいただいた方々の感想を待たねばならない。

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ここで、表紙印刷について打ち明けたい。従来から本文天地に1ミリ加えて用紙カット。写真印刷には制約があり全面写真は採用していなかった。当初、筆者によるウィーン分離派風手書き図面でデザインするつもりだったが上手く出来ない、才能がないこと以上に体質が合わないのですな。それで筆者撮影の美術館正面の意匠に変更。合わせて全面写真のフチなし設定とする事にした。廃インクパッドとの関連でこれまで採用しなかった手順。微調整を繰り返す事となった。零細家内工業の銀紙書房が使うプリンターは廉価なエプソンのPX-049A。フチなし設定ではサイズ調整97%、写真上の文字白抜きでの表記は位置なども含めて、微妙ですな。微調整を繰り返しましたが、モニターと印刷物は違うのですよね(当然です)、もっとも、作業の充実感満載ですから楽しくて時間を忘れました。最終段階では腰巻きを掛けているので判りませんが、良い表紙だと思いませんか?(自画自賛)。

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年末の郵便事情を考慮し、年明けにクンストフォーラムウィーンの学芸員ヴェロニカ・ルドルファーへ完成本を送った。京都からの旅程は6日間。日本語の本なので「本」そのもの(書容設計)が訴求する部分に依存する訳だが、彼女は「自身がご主人と共に本の一部となったこと、ウィーンへ来てくれたことが、貴方にこのようなインスピレーションをもたらしたのが嬉しい」と喜んでくれた。そして、メールの終わりには「1月のウィーンはとても暗くて寒い、春を楽しみに待っている」と…… マン・レイの油彩を求めて旅をしたが、作品はそれぞれの所蔵先に戻り(一部作品は「旅」を続け)、今は街にない。昨年の感動を心に残しながら、風景や作品との出会い以上に、人とのふれあいが人生に希望の色を加えてくれたと、平凡だけど改めて思った。美術館の担当者たちは『魅惑の日本』展(10/10-‘19/1/20)が終わり、次の『アール・ブリュットの芸術家』展(2/15-6/23)の準備に追われていることだろう。
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さて、銀紙書房では次の本『眠り姫物語』(仮題)に向けての作業に入っています。石原コレクションの油彩『肖像』に言及するもので、すでに、おおかたの原稿執筆と書容設計を終えているので、秋までには刊行できる予定。この場合も25部程度の刊行。完成をお知らせすれば、すぐに無くなると、本人は淡い期待を抱いております(SNSでの発信を見落とさないでね)。
付け加えれば、わたしの本づくりは一般的な出版とは異なり、版画などと同列の自己表現に基づく作品(美術品)としての位置づけ。限定番号とサインにこだわるのも、この理由によります。新しい本も、「すごいもの」になると、本人、力を入れておりますのでご期待願います。
(いしはら てるお)
■書籍のご紹介

※石原輝雄のエッセイ「銀紙書房新刊報告」もご覧ください。
限定28部 (内、著者本3部含)
サイズ 21 x 14.8 cm、252頁。
書容設計・印刷・造本: 著者(パピヨンかがりによる手製本)
限定番号・サイン入り。 美術館パンフレット、展覧会絵葉書、ホテル備品の他、各冊異なるエフェメラ類貼付。
本文: Aプラン・アイボリーホワイト 47.50kg 表紙: ケンラン・モスグレー 265kg
表紙カバー: キュリアスIRパール 103kg 帯: スーパーホワイトライラック
印刷: エプソン PX-049A
本ブログで刊行までの経緯を報告しておりますが、昨年の今頃、ウィーンの美術館で大規模なマン・レイの回顧展が開催される事を知り、出品作の詳細情報を入手した結果、最重要な未見油彩『女綱渡り芸人はその影を伴う』『フェルー街』『眠る女』などを含めて多数の油彩が出品されるので旅行を計画し、ザルツブルク、グラーツなど風光明媚なオーストリアを周遊した後、クンストフォーラムウィーンでマン・レイ作品を鑑賞した旅の報告となっています。家人と共に35年ぶりのウィーン訪問でした。
旅行記の後、マン・レイの油彩を主人公として、各作品まつわる誕生から、様々な人の手を経て今日に至る油彩自身の物語に言及した「マン・レイの油彩が巡る旅」の章を置いております。人に一生があるように、油彩にも一生があると思えてなりません。出品された油彩を現在コレクションしている美術館はMOMA、ホイットニー、メニル、ポンピドゥ・センターの他、イングランド、ドイツ、オランダ、イタリア、フランスの美術館、財団などとなっており、コレクション施設毎に油彩を紹介しております。
臨場感
筆者として、今回の本で一番お伝えしたいのは、作品を鑑賞する楽しさと、画集などのイメージではなく、油彩の現物が持つ絵肌の魅力でした。会場での写真撮影が許されないので、パンフレットや絵葉書、ウィーンのトラムのキップや美術館の入場券、航空チケットやレシートなどを各冊毎に2点貼付して、読者の方にも一緒に観光をしている、会場で筆者の横に立っている、そんな気分を味わっていただきたいのです。その為に、会場の展開図を作成・貼り込みをいたしました。
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●本日のお勧め作品はマン・レイです。

《鍵穴》
1970年 銅版
イメージサイズ:21.5×19.3cm
Ed.50 他に E.A.70
サインあり
レゾネNo.17 (Studio Marconi)
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆追悼 ジョナス・メカス トークイベント「メカスさんを語る」
1月23日NYの自宅で、ジョナス・メカスさんが亡くなられました(96歳)。9日に予定していたトークイベントは雪のため中止(延期)しましたが、あらためて下記日程で開催します。

会場:ときの忘れもの2階図書室
講師:飯村昭子(フリージャーナリスト、『メカスの映画日記』『メカスの難民日記』の翻訳者)
木下哲夫(メカス日本日記の会、『ジョナス・メカス―ノート、対話、映画』の翻訳者)
植田実(住まいの図書館編集長、『メカスの映画日記』の装丁者)
要予約:既に満席ですが、キャンセル待ちの方はメールにてお申し込みください)
参加費:1,000円は皆さんのメッセージとともに香典として全額をNYのアンソロジー・フィルム・アーカイブスに送金します。
(*写真は1983年12月7日福岡にて、アコーディオンを弾くメカスさん、初来日60歳でした。撮影:福間良夫、写真提供:宮田靖子)
・2月6日 井戸沼紀美「メカスさんに会った時のこと」
・2月4日 植田実『メカスの映画日記 ニュー・アメリカン・シネマの起源1959―1971』
・2月2日 初めてのカタログ
・1月28日 木下哲夫さんとメカスさん
●ときの忘れものは〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

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