DIC川村記念美術館の「追悼 山口勝弘 1918-2018」展レビュー
土渕信彦
7月28日(日)、DIC川村記念美術館のコレクションViewpoint「追悼 山口勝弘 1918-2018」を拝見してきました。以下にレポートします。なお、掲載した会場写真はすべて同館の許可を得て撮影したものです。
会場はロビーから2階に上がった202展示室(企画展示室)で(図1)、展示されているのは1960年代前半までの作品約20点です。内訳は、1940年代の油彩2点、50年代のヴィトリーヌ8点、60年代に入って、布張り彫刻10点((鉄製の立体的な枠組みに麻布を張った作品。うち4点は1組み)、鉄製の枠にカンヴァスを張った作品2点、マグネティック・レリーフ2点です。これだけまとまった点数の作品を拝見できるのは、「メディア・アートの先駆者 山口勝弘」展(神奈川県立近代美術館・茨城県近代美術館、2006年)、あるいは「山口勝弘展 水の変容」(横浜市民ギャラリーあざみ野、2014年)以来でしょう。
図1 会場入口
プレスリリースによると、山口勝弘は「絵画や彫刻や建築など、造形芸術に現れる重力感という効果ほど私を憂鬱にさせるものはない。(中略)私の仕事は、ヴィトリーヌ以来、重力への挑戦である」(「美術手帖」増刊、1963年5月)と述べているそうで、この「重力への挑戦」は展示作品に一貫してみられる姿勢とされています。実際に会場に入ってまず感じるのは軽やかな開放感で、広々とした気持ちの良い展示空間になっています(図2)。正面壁面に展示されている布張り彫刻(図3)によって天井の高さが際立ち、床面の中心部に展示されている2点の「推力」(鉄枠にカンヴァスを張った作品。図4)によって、広さや奥行きの深さが実感されます。
図2 展示風景
図3 布張り彫刻(1962~63年)
図4 「推力No.2」「推力No.3」(1965年)
入口を入って左手の壁面手前側には初期の油彩2点が展示されています(図5)。特に左側の「作品1948」(図6)は極めて状態が良いようです。油彩作品の右側には、ヴィトリーヌ4点が並んでいます(図7)。左側壁面の一番奥に展示されているのは「海のシンフォネット」(図8)です。
図5 左側壁面(油彩とヴィトリーヌ)
図6 「作品1948」
図7 ヴィトリーヌ(左側壁面)
図8 「海のシンフォネット」(1957年)
ヴィトリーヌの展示は右側の壁面に続いています(図9)。「静かな昇天」(図10)は右側壁面の奥から2番目に展示されています。横長の「鯨」は台座の上におかれていますが、それ以外は、平面作品と同様、壁面に展示されています。この部屋に展示するならこれ以外の方法は考えられませんが、制作された1950年代に、丹下健三や清家清と組んで展示された際には、展示空間と一体化して、あるいは展示空間との関係が重視されて会場が構成されていたことも留意しておいた方がよいでしょう(参考図)。
図9 右側壁面(ヴィトリーヌとマグネティック・レリーフ)
図10 「静かな昇天」(1955年)
参考図(「メディア・アートの先駆者 山口勝弘」展図録より)
右側の壁面の出口寄りにはマグネティック・レリーフ2点が展示されています(図11)。一見してジャン・アルプのレリーフ作品を想起させます。黒色の地板とピンクや赤色の図柄の対比が鮮明で、上下左右に図柄のパーツが、まるで生き物が動き出すように、はみ出しているのが特徴的です。触れて確認したわけではありませんが、マグネットの磁力で固定されているだけで、実際に動くようになっているのかもしれません。
図11 「マグネティック・レリーフNo.1」「同No.2」(1963年)
手前側の壁面に展示されているのは、布張り彫刻の「マッシュルーム」ただ1点です(図12)。その形状やタイトルから、原爆の「キノコ雲」を連想するのは、筆者だけではないでしょう。本稿を執筆しているのはまさに8月6日、掲載が9日なのも、偶然とは思えません。確かオート・スライド作品「試験飛行家W.S.氏の眼の冒険」の中にも、「眼に原爆が落ちてきたような」というフレーズがあったように記憶しています。15年戦争期に少年時代を過ごしたこの世代の作家の、戦争体験が窺える作例の一つといえるかもしれません。
図12 「マッシュルーム」(1963年)
初期作品の金網の彫刻やワックス彫刻のシリーズや、国際的な評価を得た1960年代中頃からの光の彫刻(ないし光のオブジェ)のシリーズ、さらにはヴィデオ・アート、メディア・アートは展示されていませんが、これらの初期作品だけでも十分見ごたえがあります。山口勝弘自身や実験工房に関心をお持ちの方はもちろん、広く日本の戦後美術がお好きな方は、是非ご覧になるようお勧めします。展示は9月1日(日)までです。
山口勝弘の展示に合わせて、アレクサンダー・カルダーのモビール4点(「黒い葉,赤い枝」「とても黒い」「Tの木」「四つの白い点」)も展示されています(図13)。もう少し天井の高い部屋の方がよかったかもしれませんが、統一感のある、密度が高い展示となっています。モビールをまとめて拝見できる機会もめったにないと思われます。新収蔵のエルズワース・ケリーの作品(図14)やこの館の代表的所蔵作品であるマーク・ロスコのシーグラム壁画(図15)、さらには数々の充実した常設展示作品と併せてご覧ください。
図13 カルダーのモビール
図14 ケリーの展示室
図15 ロスコの部屋
以下は筆者の個人的な回想です。
山口勝弘先生に初めてお目にかかったのは、佐谷画廊の「ビデオスペクタクル「未来庭園」」展(1984年)のときだったと思います。以来、オープニング・パーティなどでしばしばお目にかかり、ご挨拶するようになりました。1990年代初め頃だったと思いますが、銀座の街角でばったり出会い、立ち話をしていると、そのまま近くの立ち飲みウィスキー・バーに誘ってくださったことがあります。その時の話題はもっぱら瀧口修造のことで、特に食パンの形をした自作のオブジェ(図16)を手土産に、落合のお宅を訪問したときの話や、フレデリック・キースラーも寄稿しているシュルレアリスムの機関誌「VVV」を瀧口さんにお貸ししたら、その第2・3合併号の背表紙左下の金網部分(図17。確かキースラーによるものと記憶しています)に、瀧口さんがトレーシング・ペーパーをあてがって、フロッタージュしていたという話などが印象に残っています。
図16 日々のパン または「人はパンのみにて生くるにあらず」(「美術手帖」増刊特集「おもちゃ」、1965年4月。左頁左下)
図17 《VVV》第2・3合併号裏表紙
このときだったか別の機会だったか(以前だったような気もします)、「女流作家では誰が好きか?」と問われて、「トワイヤン、リー・ミラー、オノ・ヨーコ、塩見允枝子」と名前を挙げていくと、破顔一笑という言葉がまさにぴったり、にこにこされていました。今にして思えば福島秀子や中谷芙二子も挙げるべきでしたが。また2000年代初頭のことですが、当時、確か八丁堀にあったスタジオに、米国留学中の研究者をご案内した際には、ヴィデオ化したオート・スライド作品「試験飛行家W.S.氏の眼の冒険」をわざわざ上映してくださいました。こういう貴重な機会にもっといろいろ伺っておけばよかったし、せめて内容をきちんと記録しておけばよかったと思います。幸い、井口壽乃編『生きている前衛 山口勝弘評論集』(水声社、2017年9月。図18)が刊行されていますので、折にふれて拝読し、改めてその思想の一端に触れ、存在を偲びたいと思います。改めてご冥福をお祈りいたします。
図18 『生きている前衛 山口勝弘評論集』
(つちぶち のぶひこ)
■土渕信彦 Nobuhiko TSUCHIBUCHI
1954年生まれ。高校時代に瀧口修造を知り、著作を読み始める。サラリーマン生活の傍ら、初出文献やデカルコマニーなどを収集。その後、早期退職し慶應義塾大学大学院文学研究科修士課程修了(美学・美術史学)。瀧口修造研究会会報「橄欖」共同編集人。ときの忘れものの「瀧口修造展Ⅰ~Ⅳ」を監修。また自らのコレクションにより「瀧口修造の光跡」展を5回開催中。富山県立近代美術館、渋谷区立松濤美術館、世田谷美術館、市立小樽文学館・美術館などの瀧口展に協力、図録にも寄稿。主な論考に「彼岸のオブジェ―瀧口修造の絵画思考と対物質の精神の余白に」(「太陽」、1993年4月)、「『瀧口修造の詩的実験』の構造と解釈」(「洪水」、2010年7月~2011年7月)、「瀧口修造―生涯と作品」(フランスのシュルレアリスム研究誌「メリュジーヌ」、2016年)など。
「コレクション特集展示 追悼 山口勝弘 1928-2018」
会期:2019年6月22日~9月1日
会場:DIC川村記念美術館
202展示室[山口勝弘]
2018年5月に惜しまれながら逝去した美術家・山口勝弘。既存の絵画や彫刻の枠にとらわれず「環境芸術」を生み出し、光・映像・音響など時代ごとの最新テクノロジーを使った実験的な作品によって、メディア・アートの先駆者と呼ばれた。
個人としての活動だけでなく、瀧口修造が主導した総合芸術グループ「実験工房」で北代省三や福島秀子ら仲間とともに、アートとテクノロジーの接続やインターメディア的実践を展開。また中谷芙二子らと「ビデオひろば」を結成し、いち早くビデオアートを発表。教鞭に立ち、後進の指導にも努めた。
本展では、DIC川村記念美術館が所蔵する山口作品のコレクションを一挙に公開。山口が20代に手がけた絵画や、鑑賞者の動きによって見え方が変化する代表作「ヴィトリーヌ」をはじめ、「布張り彫刻」「マグネティック・レリーフ」などのシリーズが展示される。
【作品リスト】
202展示室[山口勝弘] ※2019年6月22日~9月1日
作家名 作品名 制作年 作品の形態、技法・材質 サイズ(cm)
山口 勝弘 作品 1948 1948年 油彩、カンヴァス 72.7 × 53.2
山口 勝弘 作品 1949 1949年 油彩、カンヴァス 52.5 × 44.5
山口 勝弘 ヴィトリーヌ No.3 1952年 モール・ガラス、ガラス、油絵具、塗料、合板 49.0 × 57.9 × 10.0
山口 勝弘 ヴィトリーヌ No.4 1952年 モール・ガラス、ガラス、油絵具、塗料、合板 49.0 × 58.0 × 10.2
山口 勝弘 ヴィトリーヌ イカルス 1955年 モール・ガラス、ガラス、油絵具、塗料、合板 65.5 × 56.4 × 9.0
山口 勝弘 ヴィトリーヌ 古代 1955年 モール・ガラス、ガラス、油絵具、塗料、合板 95.9 × 65.6 × 9.8
山口 勝弘 ヴィトリーヌ 鯨 1955年 モール・ガラス、ガラス、油絵具、塗料、合板 65.8 × 186.9 × 10.0
山口 勝弘 ヴィトリーヌ 静かな昇天 1955年 モール・ガラス、ガラス、油絵具、塗料、合板 96.7 × 66.0 × 9.3
山口 勝弘 ヴィトリーヌ 作品8 1956年 モール・ガラス、ガラス、油絵具、塗料、合板 29.6 × 39.2 × 10.0
山口 勝弘 ヴィトリーヌ 海のシンフォネット 1957年 モール・ガラス、ガラス、油絵具、塗料、紙、合板 62.5 × 84.3 × 9.8
山口 勝弘 風の柩 1962年 麻布、鉄 180.0 × 55.0 × 35.0
山口 勝弘 帆 1962年 麻布、鉄 150.0 × 16.5 × 85.5
山口 勝弘 組合せレリーフ 1962年 麻布、鉄
山口 勝弘 声 1962年 麻布、鉄 225.0 × 75.0 × 31.0
山口 勝弘 声 1962年 麻布、鉄 129.0 × 74.0 × 38.0
山口 勝弘 ペン 1963年 麻布、鉄 226.0 × 105.0 × 51.0
山口 勝弘 マッシュルーム 1963年 麻布、鉄 151.0 ×152.5 × 60.0
山口 勝弘 マグネティック・レリーフ No.1 1963年 塗料、木、磁石、鉄 85.0 × 85.0
山口 勝弘 マグネティック・レリーフ No.2 1963年 塗料、木、磁石、鉄 35.0 × 35.0
山口 勝弘 推力 No.2 1965年 カンヴァス、鉄 185.0 × 90.0 × 93.5
山口 勝弘 推力 No.3 1965年 カンヴァス、鉄 136.0 × 91.5 × 50.5
~~~~~
●今日のお勧め作品は、山口勝弘です。
山口勝弘 Katsuhiro YAMAGUCHI
「夜の進行」
1981年
シルクスクリーン(刷り:岡部徳三)
イメージサイズ:47.0×40.0cm
シートサイズ:63.0×49.0cm
Ed.50 Signed
*現代版画センターエディション・山口勝弘版画集「ANTHOLOGICAL PRINTS」より
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
土渕信彦
7月28日(日)、DIC川村記念美術館のコレクションViewpoint「追悼 山口勝弘 1918-2018」を拝見してきました。以下にレポートします。なお、掲載した会場写真はすべて同館の許可を得て撮影したものです。
会場はロビーから2階に上がった202展示室(企画展示室)で(図1)、展示されているのは1960年代前半までの作品約20点です。内訳は、1940年代の油彩2点、50年代のヴィトリーヌ8点、60年代に入って、布張り彫刻10点((鉄製の立体的な枠組みに麻布を張った作品。うち4点は1組み)、鉄製の枠にカンヴァスを張った作品2点、マグネティック・レリーフ2点です。これだけまとまった点数の作品を拝見できるのは、「メディア・アートの先駆者 山口勝弘」展(神奈川県立近代美術館・茨城県近代美術館、2006年)、あるいは「山口勝弘展 水の変容」(横浜市民ギャラリーあざみ野、2014年)以来でしょう。

プレスリリースによると、山口勝弘は「絵画や彫刻や建築など、造形芸術に現れる重力感という効果ほど私を憂鬱にさせるものはない。(中略)私の仕事は、ヴィトリーヌ以来、重力への挑戦である」(「美術手帖」増刊、1963年5月)と述べているそうで、この「重力への挑戦」は展示作品に一貫してみられる姿勢とされています。実際に会場に入ってまず感じるのは軽やかな開放感で、広々とした気持ちの良い展示空間になっています(図2)。正面壁面に展示されている布張り彫刻(図3)によって天井の高さが際立ち、床面の中心部に展示されている2点の「推力」(鉄枠にカンヴァスを張った作品。図4)によって、広さや奥行きの深さが実感されます。



入口を入って左手の壁面手前側には初期の油彩2点が展示されています(図5)。特に左側の「作品1948」(図6)は極めて状態が良いようです。油彩作品の右側には、ヴィトリーヌ4点が並んでいます(図7)。左側壁面の一番奥に展示されているのは「海のシンフォネット」(図8)です。




ヴィトリーヌの展示は右側の壁面に続いています(図9)。「静かな昇天」(図10)は右側壁面の奥から2番目に展示されています。横長の「鯨」は台座の上におかれていますが、それ以外は、平面作品と同様、壁面に展示されています。この部屋に展示するならこれ以外の方法は考えられませんが、制作された1950年代に、丹下健三や清家清と組んで展示された際には、展示空間と一体化して、あるいは展示空間との関係が重視されて会場が構成されていたことも留意しておいた方がよいでしょう(参考図)。



右側の壁面の出口寄りにはマグネティック・レリーフ2点が展示されています(図11)。一見してジャン・アルプのレリーフ作品を想起させます。黒色の地板とピンクや赤色の図柄の対比が鮮明で、上下左右に図柄のパーツが、まるで生き物が動き出すように、はみ出しているのが特徴的です。触れて確認したわけではありませんが、マグネットの磁力で固定されているだけで、実際に動くようになっているのかもしれません。

手前側の壁面に展示されているのは、布張り彫刻の「マッシュルーム」ただ1点です(図12)。その形状やタイトルから、原爆の「キノコ雲」を連想するのは、筆者だけではないでしょう。本稿を執筆しているのはまさに8月6日、掲載が9日なのも、偶然とは思えません。確かオート・スライド作品「試験飛行家W.S.氏の眼の冒険」の中にも、「眼に原爆が落ちてきたような」というフレーズがあったように記憶しています。15年戦争期に少年時代を過ごしたこの世代の作家の、戦争体験が窺える作例の一つといえるかもしれません。

初期作品の金網の彫刻やワックス彫刻のシリーズや、国際的な評価を得た1960年代中頃からの光の彫刻(ないし光のオブジェ)のシリーズ、さらにはヴィデオ・アート、メディア・アートは展示されていませんが、これらの初期作品だけでも十分見ごたえがあります。山口勝弘自身や実験工房に関心をお持ちの方はもちろん、広く日本の戦後美術がお好きな方は、是非ご覧になるようお勧めします。展示は9月1日(日)までです。
山口勝弘の展示に合わせて、アレクサンダー・カルダーのモビール4点(「黒い葉,赤い枝」「とても黒い」「Tの木」「四つの白い点」)も展示されています(図13)。もう少し天井の高い部屋の方がよかったかもしれませんが、統一感のある、密度が高い展示となっています。モビールをまとめて拝見できる機会もめったにないと思われます。新収蔵のエルズワース・ケリーの作品(図14)やこの館の代表的所蔵作品であるマーク・ロスコのシーグラム壁画(図15)、さらには数々の充実した常設展示作品と併せてご覧ください。



以下は筆者の個人的な回想です。
山口勝弘先生に初めてお目にかかったのは、佐谷画廊の「ビデオスペクタクル「未来庭園」」展(1984年)のときだったと思います。以来、オープニング・パーティなどでしばしばお目にかかり、ご挨拶するようになりました。1990年代初め頃だったと思いますが、銀座の街角でばったり出会い、立ち話をしていると、そのまま近くの立ち飲みウィスキー・バーに誘ってくださったことがあります。その時の話題はもっぱら瀧口修造のことで、特に食パンの形をした自作のオブジェ(図16)を手土産に、落合のお宅を訪問したときの話や、フレデリック・キースラーも寄稿しているシュルレアリスムの機関誌「VVV」を瀧口さんにお貸ししたら、その第2・3合併号の背表紙左下の金網部分(図17。確かキースラーによるものと記憶しています)に、瀧口さんがトレーシング・ペーパーをあてがって、フロッタージュしていたという話などが印象に残っています。


このときだったか別の機会だったか(以前だったような気もします)、「女流作家では誰が好きか?」と問われて、「トワイヤン、リー・ミラー、オノ・ヨーコ、塩見允枝子」と名前を挙げていくと、破顔一笑という言葉がまさにぴったり、にこにこされていました。今にして思えば福島秀子や中谷芙二子も挙げるべきでしたが。また2000年代初頭のことですが、当時、確か八丁堀にあったスタジオに、米国留学中の研究者をご案内した際には、ヴィデオ化したオート・スライド作品「試験飛行家W.S.氏の眼の冒険」をわざわざ上映してくださいました。こういう貴重な機会にもっといろいろ伺っておけばよかったし、せめて内容をきちんと記録しておけばよかったと思います。幸い、井口壽乃編『生きている前衛 山口勝弘評論集』(水声社、2017年9月。図18)が刊行されていますので、折にふれて拝読し、改めてその思想の一端に触れ、存在を偲びたいと思います。改めてご冥福をお祈りいたします。

(つちぶち のぶひこ)
■土渕信彦 Nobuhiko TSUCHIBUCHI
1954年生まれ。高校時代に瀧口修造を知り、著作を読み始める。サラリーマン生活の傍ら、初出文献やデカルコマニーなどを収集。その後、早期退職し慶應義塾大学大学院文学研究科修士課程修了(美学・美術史学)。瀧口修造研究会会報「橄欖」共同編集人。ときの忘れものの「瀧口修造展Ⅰ~Ⅳ」を監修。また自らのコレクションにより「瀧口修造の光跡」展を5回開催中。富山県立近代美術館、渋谷区立松濤美術館、世田谷美術館、市立小樽文学館・美術館などの瀧口展に協力、図録にも寄稿。主な論考に「彼岸のオブジェ―瀧口修造の絵画思考と対物質の精神の余白に」(「太陽」、1993年4月)、「『瀧口修造の詩的実験』の構造と解釈」(「洪水」、2010年7月~2011年7月)、「瀧口修造―生涯と作品」(フランスのシュルレアリスム研究誌「メリュジーヌ」、2016年)など。
「コレクション特集展示 追悼 山口勝弘 1928-2018」
会期:2019年6月22日~9月1日
会場:DIC川村記念美術館
202展示室[山口勝弘]
2018年5月に惜しまれながら逝去した美術家・山口勝弘。既存の絵画や彫刻の枠にとらわれず「環境芸術」を生み出し、光・映像・音響など時代ごとの最新テクノロジーを使った実験的な作品によって、メディア・アートの先駆者と呼ばれた。
個人としての活動だけでなく、瀧口修造が主導した総合芸術グループ「実験工房」で北代省三や福島秀子ら仲間とともに、アートとテクノロジーの接続やインターメディア的実践を展開。また中谷芙二子らと「ビデオひろば」を結成し、いち早くビデオアートを発表。教鞭に立ち、後進の指導にも努めた。
本展では、DIC川村記念美術館が所蔵する山口作品のコレクションを一挙に公開。山口が20代に手がけた絵画や、鑑賞者の動きによって見え方が変化する代表作「ヴィトリーヌ」をはじめ、「布張り彫刻」「マグネティック・レリーフ」などのシリーズが展示される。
【作品リスト】
202展示室[山口勝弘] ※2019年6月22日~9月1日
作家名 作品名 制作年 作品の形態、技法・材質 サイズ(cm)
山口 勝弘 作品 1948 1948年 油彩、カンヴァス 72.7 × 53.2
山口 勝弘 作品 1949 1949年 油彩、カンヴァス 52.5 × 44.5
山口 勝弘 ヴィトリーヌ No.3 1952年 モール・ガラス、ガラス、油絵具、塗料、合板 49.0 × 57.9 × 10.0
山口 勝弘 ヴィトリーヌ No.4 1952年 モール・ガラス、ガラス、油絵具、塗料、合板 49.0 × 58.0 × 10.2
山口 勝弘 ヴィトリーヌ イカルス 1955年 モール・ガラス、ガラス、油絵具、塗料、合板 65.5 × 56.4 × 9.0
山口 勝弘 ヴィトリーヌ 古代 1955年 モール・ガラス、ガラス、油絵具、塗料、合板 95.9 × 65.6 × 9.8
山口 勝弘 ヴィトリーヌ 鯨 1955年 モール・ガラス、ガラス、油絵具、塗料、合板 65.8 × 186.9 × 10.0
山口 勝弘 ヴィトリーヌ 静かな昇天 1955年 モール・ガラス、ガラス、油絵具、塗料、合板 96.7 × 66.0 × 9.3
山口 勝弘 ヴィトリーヌ 作品8 1956年 モール・ガラス、ガラス、油絵具、塗料、合板 29.6 × 39.2 × 10.0
山口 勝弘 ヴィトリーヌ 海のシンフォネット 1957年 モール・ガラス、ガラス、油絵具、塗料、紙、合板 62.5 × 84.3 × 9.8
山口 勝弘 風の柩 1962年 麻布、鉄 180.0 × 55.0 × 35.0
山口 勝弘 帆 1962年 麻布、鉄 150.0 × 16.5 × 85.5
山口 勝弘 組合せレリーフ 1962年 麻布、鉄
山口 勝弘 声 1962年 麻布、鉄 225.0 × 75.0 × 31.0
山口 勝弘 声 1962年 麻布、鉄 129.0 × 74.0 × 38.0
山口 勝弘 ペン 1963年 麻布、鉄 226.0 × 105.0 × 51.0
山口 勝弘 マッシュルーム 1963年 麻布、鉄 151.0 ×152.5 × 60.0
山口 勝弘 マグネティック・レリーフ No.1 1963年 塗料、木、磁石、鉄 85.0 × 85.0
山口 勝弘 マグネティック・レリーフ No.2 1963年 塗料、木、磁石、鉄 35.0 × 35.0
山口 勝弘 推力 No.2 1965年 カンヴァス、鉄 185.0 × 90.0 × 93.5
山口 勝弘 推力 No.3 1965年 カンヴァス、鉄 136.0 × 91.5 × 50.5
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●今日のお勧め作品は、山口勝弘です。

「夜の進行」
1981年
シルクスクリーン(刷り:岡部徳三)
イメージサイズ:47.0×40.0cm
シートサイズ:63.0×49.0cm
Ed.50 Signed
*現代版画センターエディション・山口勝弘版画集「ANTHOLOGICAL PRINTS」より
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阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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