尾崎森平のエッセイ「長いこんにちは」第3回
皆さま、お元気ですか?くうねるあそぶ、井上陽…尾崎森平です。
仙台は東北の中でも比較的暖かな地域ですが、秋が駆け足で通り過ぎてしまい、すっかり冬の寒さがやって参りました。僕はヒンヤリと澄んだ秋の早朝が好きで、ニール・ヤングのアコースティッ ク・ライブのCDを聴きながら、通勤路の山間の県道を車で走るのが大好きです(村上春樹氏はきんぴらごぼうを作る時のBGMにはニール・ヤングがピッタリだ、なんて書いてたっけ)。
さて、今月の16日まで東京は新富町のRED AND BLUE GALLERYにて個展を開催しておりました。皆様、ご覧頂けたでしょうか?実は東京での個展は今回が初めてで、大学を卒業して美術家を志してから丁度10年目でのやっとの開催です。アキレス腱の切れた亀のような歩み。
今回はオール未発表の新作で〝ファシズム〟をテーマに、当時のムッソリーニ政権下で1930年代後半から開発が進められ、イタリアの第二次世界大戦への参戦によって幻となったローマ万国博覧会(1942年)の為の新都心エウル(EUR, Esposizione Universale Roma)地区の建築物を〝模したような〟ホテルやスーパー銭湯などが現代の日本の地方に佇むという絵を描きました。
ご存知の通りファシズムを生んだムッソリーニ率いるファシスト党は、第一次世界大戦後の深刻な経済混乱を背景に、貧しい労働者と社会主義化を恐れる富裕層の支持を得て勢力を拡大し、政権を奪取しました。貧困層と富裕層どちらにも良い顔をするファシズムの考えとはつまり、国民をファシスト党に忠誠を誓う人間へと作り替えることで国民を一枚岩にし、兎にも角にも戦争に勝つことで植民地を獲得して経済を立て直す、というものでした。(まぁこれは個人的な見解ですが、世界恐慌を起こしたアメリカと、 それに対してブロック経済政策なんてしたイギリスやフランスは猛省が足りないのではないか。そりゃ当時のイタリア(枢軸国)は生き残りをかけてああなってしまうのは避けられなかったと思いますよ)
そんな当時のイタリアでしたが、翻って現在の日本を俯瞰してみて、どうなんでしょうね。僕は〝とても似ている〟と感じています。
自明の理でしたが消費税を上げた10月、会社の倒産件数が跳ね上がりましたね(となれば自ら命を断つ人も…)。ファシズム、つまり全体主義はポピュリズムが基本です。 経済が傾けば必ず貧困層と大衆心理に訴えかける政党が現れます。それが救いの神なのか奈落に落とす悪魔なのか、僕らは冷静に見極めないといけません。ポピュリスティックな政策自体が悪ではありませんが、それが革新的な一手なのか誇大な夢物語なのか、僕らの知性が試されています。でも、あの哲学者ハイデガーだってナチスを支持したんです。単なる知性は直ぐに感情に取って代わるし、簡単に騙されてしまう。難しいですよね…。
人はとにかく結論を急ぎます。サスペンドされた状態は気持ちが悪いですからね。声の大きな人の「これが正しいのだ!」という主張に思考を委ねるのは楽ですし、一体感に酔うのは気持ちが良いでしょう。
でも、本当に僕らに必要なのは結論を急ぐのではなく、たとえ不毛に思えても〝結論を先延ばしにする〟という宙ぶらりんに耐えながら考え続ける忍耐力です。これが唯一、僕らに考える隙を与えず即断即決を要求する自由経済主義と全体主義の矛盾と暴力へのささやかで効果的な抑止力なんだと、僕は信じています。
この原稿の締め切りを個展の忙しさにかまけて勝手に先延ばしにしてしまいました。反省しています。
作品名:ホテル・エウル(昼)
制作年:2019年
サイズ:1000×1000×40mm
素材:パネル、キャンバス、アクリル絵の具
(おざき しんぺい)
■尾崎森平 Shinpey OZAKI
1987年仙台市生まれ 。岩手大学教育学部芸術文化課程造形コース卒業。現代の東北の景色から立ち現れる神話や歴史的事象との共振を描く。2016年「VOCA 2016 現代美術の展望ー新しい平面の作家たち 」大原美術館賞 。平成27年度 岩手県美術選奨。2019年4月ときの忘れもの「Tricolore2019―中村潤・尾崎森平・谷川桐子展」に出品。
ホームページ https://shinpeywarhol.wixsite.com/ozaki-shinpey
◆尾崎森平のエッセイ「長いこんにちは」は毎月25日の更新です。
●今日のお勧め作品は、中村潤です。
中村潤 Megu NAKAMURA
《縫いの造形 8》
2019
紙、刺繍糸、シナベニヤ板
45.0×31.0×20.0cm
Signed
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
皆さま、お元気ですか?くうねるあそぶ、井上陽…尾崎森平です。
仙台は東北の中でも比較的暖かな地域ですが、秋が駆け足で通り過ぎてしまい、すっかり冬の寒さがやって参りました。僕はヒンヤリと澄んだ秋の早朝が好きで、ニール・ヤングのアコースティッ ク・ライブのCDを聴きながら、通勤路の山間の県道を車で走るのが大好きです(村上春樹氏はきんぴらごぼうを作る時のBGMにはニール・ヤングがピッタリだ、なんて書いてたっけ)。
さて、今月の16日まで東京は新富町のRED AND BLUE GALLERYにて個展を開催しておりました。皆様、ご覧頂けたでしょうか?実は東京での個展は今回が初めてで、大学を卒業して美術家を志してから丁度10年目でのやっとの開催です。アキレス腱の切れた亀のような歩み。
今回はオール未発表の新作で〝ファシズム〟をテーマに、当時のムッソリーニ政権下で1930年代後半から開発が進められ、イタリアの第二次世界大戦への参戦によって幻となったローマ万国博覧会(1942年)の為の新都心エウル(EUR, Esposizione Universale Roma)地区の建築物を〝模したような〟ホテルやスーパー銭湯などが現代の日本の地方に佇むという絵を描きました。
ご存知の通りファシズムを生んだムッソリーニ率いるファシスト党は、第一次世界大戦後の深刻な経済混乱を背景に、貧しい労働者と社会主義化を恐れる富裕層の支持を得て勢力を拡大し、政権を奪取しました。貧困層と富裕層どちらにも良い顔をするファシズムの考えとはつまり、国民をファシスト党に忠誠を誓う人間へと作り替えることで国民を一枚岩にし、兎にも角にも戦争に勝つことで植民地を獲得して経済を立て直す、というものでした。(まぁこれは個人的な見解ですが、世界恐慌を起こしたアメリカと、 それに対してブロック経済政策なんてしたイギリスやフランスは猛省が足りないのではないか。そりゃ当時のイタリア(枢軸国)は生き残りをかけてああなってしまうのは避けられなかったと思いますよ)
そんな当時のイタリアでしたが、翻って現在の日本を俯瞰してみて、どうなんでしょうね。僕は〝とても似ている〟と感じています。
自明の理でしたが消費税を上げた10月、会社の倒産件数が跳ね上がりましたね(となれば自ら命を断つ人も…)。ファシズム、つまり全体主義はポピュリズムが基本です。 経済が傾けば必ず貧困層と大衆心理に訴えかける政党が現れます。それが救いの神なのか奈落に落とす悪魔なのか、僕らは冷静に見極めないといけません。ポピュリスティックな政策自体が悪ではありませんが、それが革新的な一手なのか誇大な夢物語なのか、僕らの知性が試されています。でも、あの哲学者ハイデガーだってナチスを支持したんです。単なる知性は直ぐに感情に取って代わるし、簡単に騙されてしまう。難しいですよね…。
人はとにかく結論を急ぎます。サスペンドされた状態は気持ちが悪いですからね。声の大きな人の「これが正しいのだ!」という主張に思考を委ねるのは楽ですし、一体感に酔うのは気持ちが良いでしょう。
でも、本当に僕らに必要なのは結論を急ぐのではなく、たとえ不毛に思えても〝結論を先延ばしにする〟という宙ぶらりんに耐えながら考え続ける忍耐力です。これが唯一、僕らに考える隙を与えず即断即決を要求する自由経済主義と全体主義の矛盾と暴力へのささやかで効果的な抑止力なんだと、僕は信じています。
この原稿の締め切りを個展の忙しさにかまけて勝手に先延ばしにしてしまいました。反省しています。

制作年:2019年
サイズ:1000×1000×40mm
素材:パネル、キャンバス、アクリル絵の具
(おざき しんぺい)
■尾崎森平 Shinpey OZAKI
1987年仙台市生まれ 。岩手大学教育学部芸術文化課程造形コース卒業。現代の東北の景色から立ち現れる神話や歴史的事象との共振を描く。2016年「VOCA 2016 現代美術の展望ー新しい平面の作家たち 」大原美術館賞 。平成27年度 岩手県美術選奨。2019年4月ときの忘れもの「Tricolore2019―中村潤・尾崎森平・谷川桐子展」に出品。
ホームページ https://shinpeywarhol.wixsite.com/ozaki-shinpey
◆尾崎森平のエッセイ「長いこんにちは」は毎月25日の更新です。
●今日のお勧め作品は、中村潤です。

《縫いの造形 8》
2019
紙、刺繍糸、シナベニヤ板
45.0×31.0×20.0cm
Signed
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。

TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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