佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第39回
シャンティニケタンの風景について書こうと思ったけれども、ここでいきなりブレイク
本来ならば、この投稿ではシャンティニケタンの風景論を書こうとしていたのだが、今はともかく言葉を綴ってみるべきだとも思い、自分の周辺の話を書き記している。
3月上旬ころから、東京から福島の大玉村へ自分の拠点("居"点でもある)、軸足を移した。もともと、東京と福島を行ったり来たりしていたが、ここ一年は喫茶野ざらしの開店準備や家族の状況もあってどちらかというと東京に軸足を置いた形になっていた。今後もその往復活動は続いていくだろうが、ひとまずの重心を福島に移してみたところである。福島で何か決まった仕事があるわけではない(村役場の仕事除く)が、こちらで身の回りを少し丁寧に整えてみるつもりである。今は拠点となる民家改修をやっている。築年数は40-50年程度だろうが、基礎は礎石、壁は土壁、天井にはタヌキの糞貯めがタンマリと。そして家財道具は一切合切残っているのでなかなか難儀しているが、多くの人に協力してもらいながらコツコツやっている。


手を入れる前の大玉村の民家
そんな自分とほぼ入れ違いのような形で東京ではコロナウイルスの感染拡大が進行している。その影響で、東京や首都圏に向かうことが困難になって、いまはその往復活動は止めている。福島まで一体いつ感染が拡大してくるのかはわからないが、ひとまずは村の中でジッとしているばかりである。
一方で、いままで東京から福島を訪れていた人たちも無闇に来ることができなくなった。移動する人間が感染拡大の発端となるからだ。車、鉄道、飛行機、様々な交通機関の技術発展によって私たちの移動は容易になり、その技術の高度化が今回の世界的感染拡大を加速化させていることは間違いないだろうし、都市部で感染者が急速に増えていくのも、人々が密集して生活せざるを得ない都市の有り様を考えれば当然である。
なんとなく、そんな都市部での混乱、喧騒から、今の自分は疎外している。結果的に、半ば偶然に疎外してしまった。疎開、と言ってもいいのかもしれない。ただし今回の場合は、戦時中のように被害が拡大したから都市の外へ疎開するという順序をとることができない。もちろん感染を外へと運び出してしまう恐れがあるからである。もちろん、自分の居所にいつ危機が生まれるかは分からないが、それであっても、今この瞬間、なんだかボンヤリとしてしまっているのだ。不謹慎、あるいは警戒感の低さを指摘されるやもしれない。けれども、先週頃に出くわした吹雪の中で桜が開花してしまったように、そんなボンヤリと不安が同居しているのが今の自分の心境である。そんな心持ちで都市を遠望している。文字通り、今の東京は自分からは遠い。福島と東京どちらにも片足づつ突っ込み、さらにはインドにまで足をのばしていたはずなのに、今はとても遠い。異なる場所と場所の間の距離はこうして伸び縮みする。
大玉村に転じたちょうど同じ頃に、東京・墨田の喫茶野ざらしで新たな改築プロジェクトをスタートさせるべく、クラウドファンディングをスタートさせた。すでに今年始めにオープンさせたカフェスペースが1階にあるが、2階に新たに、”都市と農村を繋ぐ”シェアスタジオとイベントスペースを設ける計画である。世の中の状況は明らかに逆風が吹き荒れているが、だからこそ今、都市と農村の関係、距離感の問題に切り込んでいかなければならないと思っている。もちろん「繋ぐ」ことだけで終わりはしない。今の感染症が拡大していく世界が暗に意味しかねない、分断や孤立といった状況が今後どのようなリアリティを持ってきてしまうのかも思考していかなければいけないだろう。喫茶野ざらしの二階では、そんな議論をしたい。どんな状況であっても物事を進めていく、どこかに前進するための基軸、拠点が必要だ。そのための場所として喫茶野ざらしを作っていきたい。ぜひ下記の詳細を一読してもらいたい。
喫茶野ざらしクラウドファンディング サイト: https://readyfor.jp/projects/cafe-nozarashi


喫茶野ざらし1階カフェスペース
もしかすると「農村」という言葉だけでは議論の的を狭めてしまうかもしれない。田園、田舎、地方、いくつか同じような領域を意味する言葉はあるけれども、どんな言葉をすべきかを考えている。堀口捨己は「非都市」という言葉を使った(※1)。それは場所についてを意味する言葉ではなく、「非都市」という空間の性質の可能性を探すために発明した言葉であり、むしろ都市=利便性の高い世界の中にある種の不合理な「非都市」を見出す領域として、住宅を捉えた。堀口の論には時折、浪漫主義的な側面も垣間見えるが、ロマン無くして未来を語ることはできないのである。「非都市」の概念はおそらく建築の空間論にとどめずに、現代的な意味付けを加えた上で、都市内外の地域関係論として展開も可能ではないだろうか。
次稿が、インドのシャンティニケタンについてか、また今回のような小文を書くかはわからない。けれどもどちらも、「非都市」を扱うことになるだろう。
(※1:堀口捨己「建築の非都市的なものについて」『堀口捨己作品・家と庭の空間構成』鹿島出版会,1978年)
上掲の写真全て:コムラマイ
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。
◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
*画廊亭主敬白
臨時休廊11日目。
新型コロナウイルスの感染の勢いが止まりません。
ときの忘れものは当初の予定を延長して当面は臨時休廊にして、スタッフは在宅勤務でそれぞれが担当の職務を遂行しています。
<若い人たちは、自分は大丈夫だと過信しないでください。人が集まらなければウイルスは拡がりません。やるべきことは分かっています。
互いの物理的な距離は開いていますが、力を合わせていきましょう。
(高山義浩先生のFACEBOOKより)>
ワクチンも治療法もない段階では人と接するのを抑制する以外に方法はないようです。
でも私たちはこんなときだからこそ、スタッフ心を合わせて皆さんにアートの素晴らしさを途切れることなく発信します。
昨日終了した「一日限定! 破格の掘り出し物」企画は久しぶりに盛り上がり(何年ぶりかしら)抽選の落選者続出、早くも第二弾をとリクエストが絶えません。
そうは言ってもねぇ・・・掘り出し物がそうそうあってたまるかい(笑)。
●本日のお勧め作品は植田実です。
植田実 Makoto UYEDA
《同潤会アパートメント 柳島》(1)
(2014年プリント)
ラムダプリント
16.3×24.4cm
Ed.7 サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
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◎昨日読まれたブログ(archive)/2016年11月16日|粟生田弓『写真をアートにした男 石原悦郎とツァイト・フォト・サロン』
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◆ときの忘れものは版画・写真のエディション作品などをアマゾンに出品しています。
●ときの忘れものは2017年6月に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
シャンティニケタンの風景について書こうと思ったけれども、ここでいきなりブレイク
本来ならば、この投稿ではシャンティニケタンの風景論を書こうとしていたのだが、今はともかく言葉を綴ってみるべきだとも思い、自分の周辺の話を書き記している。
3月上旬ころから、東京から福島の大玉村へ自分の拠点("居"点でもある)、軸足を移した。もともと、東京と福島を行ったり来たりしていたが、ここ一年は喫茶野ざらしの開店準備や家族の状況もあってどちらかというと東京に軸足を置いた形になっていた。今後もその往復活動は続いていくだろうが、ひとまずの重心を福島に移してみたところである。福島で何か決まった仕事があるわけではない(村役場の仕事除く)が、こちらで身の回りを少し丁寧に整えてみるつもりである。今は拠点となる民家改修をやっている。築年数は40-50年程度だろうが、基礎は礎石、壁は土壁、天井にはタヌキの糞貯めがタンマリと。そして家財道具は一切合切残っているのでなかなか難儀しているが、多くの人に協力してもらいながらコツコツやっている。


手を入れる前の大玉村の民家
そんな自分とほぼ入れ違いのような形で東京ではコロナウイルスの感染拡大が進行している。その影響で、東京や首都圏に向かうことが困難になって、いまはその往復活動は止めている。福島まで一体いつ感染が拡大してくるのかはわからないが、ひとまずは村の中でジッとしているばかりである。
一方で、いままで東京から福島を訪れていた人たちも無闇に来ることができなくなった。移動する人間が感染拡大の発端となるからだ。車、鉄道、飛行機、様々な交通機関の技術発展によって私たちの移動は容易になり、その技術の高度化が今回の世界的感染拡大を加速化させていることは間違いないだろうし、都市部で感染者が急速に増えていくのも、人々が密集して生活せざるを得ない都市の有り様を考えれば当然である。
なんとなく、そんな都市部での混乱、喧騒から、今の自分は疎外している。結果的に、半ば偶然に疎外してしまった。疎開、と言ってもいいのかもしれない。ただし今回の場合は、戦時中のように被害が拡大したから都市の外へ疎開するという順序をとることができない。もちろん感染を外へと運び出してしまう恐れがあるからである。もちろん、自分の居所にいつ危機が生まれるかは分からないが、それであっても、今この瞬間、なんだかボンヤリとしてしまっているのだ。不謹慎、あるいは警戒感の低さを指摘されるやもしれない。けれども、先週頃に出くわした吹雪の中で桜が開花してしまったように、そんなボンヤリと不安が同居しているのが今の自分の心境である。そんな心持ちで都市を遠望している。文字通り、今の東京は自分からは遠い。福島と東京どちらにも片足づつ突っ込み、さらにはインドにまで足をのばしていたはずなのに、今はとても遠い。異なる場所と場所の間の距離はこうして伸び縮みする。
大玉村に転じたちょうど同じ頃に、東京・墨田の喫茶野ざらしで新たな改築プロジェクトをスタートさせるべく、クラウドファンディングをスタートさせた。すでに今年始めにオープンさせたカフェスペースが1階にあるが、2階に新たに、”都市と農村を繋ぐ”シェアスタジオとイベントスペースを設ける計画である。世の中の状況は明らかに逆風が吹き荒れているが、だからこそ今、都市と農村の関係、距離感の問題に切り込んでいかなければならないと思っている。もちろん「繋ぐ」ことだけで終わりはしない。今の感染症が拡大していく世界が暗に意味しかねない、分断や孤立といった状況が今後どのようなリアリティを持ってきてしまうのかも思考していかなければいけないだろう。喫茶野ざらしの二階では、そんな議論をしたい。どんな状況であっても物事を進めていく、どこかに前進するための基軸、拠点が必要だ。そのための場所として喫茶野ざらしを作っていきたい。ぜひ下記の詳細を一読してもらいたい。
喫茶野ざらしクラウドファンディング サイト: https://readyfor.jp/projects/cafe-nozarashi


喫茶野ざらし1階カフェスペース
もしかすると「農村」という言葉だけでは議論の的を狭めてしまうかもしれない。田園、田舎、地方、いくつか同じような領域を意味する言葉はあるけれども、どんな言葉をすべきかを考えている。堀口捨己は「非都市」という言葉を使った(※1)。それは場所についてを意味する言葉ではなく、「非都市」という空間の性質の可能性を探すために発明した言葉であり、むしろ都市=利便性の高い世界の中にある種の不合理な「非都市」を見出す領域として、住宅を捉えた。堀口の論には時折、浪漫主義的な側面も垣間見えるが、ロマン無くして未来を語ることはできないのである。「非都市」の概念はおそらく建築の空間論にとどめずに、現代的な意味付けを加えた上で、都市内外の地域関係論として展開も可能ではないだろうか。
次稿が、インドのシャンティニケタンについてか、また今回のような小文を書くかはわからない。けれどもどちらも、「非都市」を扱うことになるだろう。
(※1:堀口捨己「建築の非都市的なものについて」『堀口捨己作品・家と庭の空間構成』鹿島出版会,1978年)
上掲の写真全て:コムラマイ
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。
◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
*画廊亭主敬白
臨時休廊11日目。
新型コロナウイルスの感染の勢いが止まりません。
ときの忘れものは当初の予定を延長して当面は臨時休廊にして、スタッフは在宅勤務でそれぞれが担当の職務を遂行しています。
<若い人たちは、自分は大丈夫だと過信しないでください。人が集まらなければウイルスは拡がりません。やるべきことは分かっています。
互いの物理的な距離は開いていますが、力を合わせていきましょう。
(高山義浩先生のFACEBOOKより)>
ワクチンも治療法もない段階では人と接するのを抑制する以外に方法はないようです。
でも私たちはこんなときだからこそ、スタッフ心を合わせて皆さんにアートの素晴らしさを途切れることなく発信します。
昨日終了した「一日限定! 破格の掘り出し物」企画は久しぶりに盛り上がり(何年ぶりかしら)抽選の落選者続出、早くも第二弾をとリクエストが絶えません。
そうは言ってもねぇ・・・掘り出し物がそうそうあってたまるかい(笑)。
●本日のお勧め作品は植田実です。

《同潤会アパートメント 柳島》(1)
(2014年プリント)
ラムダプリント
16.3×24.4cm
Ed.7 サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
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◎昨日読まれたブログ(archive)/2016年11月16日|粟生田弓『写真をアートにした男 石原悦郎とツァイト・フォト・サロン』
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◆ときの忘れものは版画・写真のエディション作品などをアマゾンに出品しています。
●ときの忘れものは2017年6月に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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