杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」第49回

カミナダ、森の小屋


今回は、ギオン カミナダ(Gion A. Caminda)による森の小屋を紹介しようと思います。

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三月上旬の少し暖かくなって来た頃、とある森の小屋を訪れました。
同僚が娘の誕生日パーティにと、クール(Chur)の隣町ドマート エムス(Domat/Ems)にある、ギオン カミナダ設計の小屋を借りたのです。

カミナダについて、以前少しだけ紹介したことがありました。
今回紹介する森の小屋は、どこかで見かけたことはあったのですが、実際にこの建物がどこに建ち、誰でもアクセス可能な施設であるかなど、詳しいことは知りませんでした。

そんな僕とは違って、最近クールに引っ越してきた友人建築家夫婦は、いち早くこの施設利用の可否を見つけたようです。
ウェブサイトによれば、一日の使用料金は、村外部からの利用者であればCHF350+清掃費CHF100、計CHF450かかります。(1スイスフランは約110円) 

当日、他の友人たちと最寄りの駅(Reichenau-Tamins)で待ち合わせて、一緒に車で連れて行ってもらいました。鉄道駅からは5分くらい。山道を登って行くので、歩けば30分くらいはかかりそうな道のりを進んでいきます。

くねくねと蛇行する道を登り、砂礫が積まれた場所を傍目に進んで行くと、目的の小屋にたどり着きました。

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外観を見ると、Lärche(カラマツ)が外装材として細やかな外観をつくっているのがわかります。小さな木板から成る≪こけら葺き≫はスイスの古い家にもよく見られる外壁仕上げです。ズントー設計の聖ベネディクト教会も、この張り方で仕上げられています。

外装材を張っていく際に考慮すべきは、窓や入口などの開口部周り、壁の切り返し、そして高さの変化にどう柔軟に対応していくことができるかなどです。

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こけら葺きは、個々の材料単位が小さいので、丸みを帯びた形に対しても丁寧に追随して貼ることができます。(そのぶん、作業量はありますが。。)


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この小屋ですごく面白いなと思ったのは、矩形の平面をした建物長手方向の端から端までを見ると、両端の高さに大分違いがあるにもかかわらず、外装材の列数は一定。
つまり木板同士の重なり具合を変えることで、高さを調整することに成功しているのです。

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この木板は、長方形の小さなピースであるかのように外からは見えますが、実際は縦に細長い形をしています。
1つのピースの大部分が上に重なってくるピースの下に埋もれていて、結果として、それぞれのピースは二重三重のレイヤーになって貼り付けられています。その重なりがマージンとなって、最終的に見えてくる部分の高さを調節することに大きく寄与しています。

こうして見ると、建築がストレッチして伸び縮みをするかのように、または小さなピースからなる鎖帷子を着ているかのように、外装素材が建築構造と表裏一体に動いているようだと認識できます。

例えば、同じこけら葺きで仕上げられた外観であっても、今回のような≪ストレッチ感≫が見て取れない場合には、外装材は建築構造/躯体に、後から取り付けられたように見えるかもしれません。
木板は一枚一枚のピースではなく、パネルを下地とした大きな単位から成っていて、パネルごと取り替え可能であるかのように思えてしまうかもしれません。

今回のような、素材と工法への理解が見えるプロジェクトに触れると、具体的に何が?というわけではないのだけれども、自然と楽しく、嬉しいような気持ちになってきます。笑


さて中に入っていきます。
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内部は大きな部屋が一つあるだけで、他には倉庫やバスルーム、キッチンがあるくらい。特に珍しいところはありません。

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森の小屋にふさわしく、内部もすべて木で仕上げられていて、gesägt (機械で切断されたまま)のラフな仕上がり、触るとザラザラしています。
樹種はArve (スイスパイン)でしょうか。
キッチンに近いところの壁は、おそらく防水のためにラッカーが塗られているのでしょう、少し色が深くなっているのが見て取れます。

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室内を通って入り口とは反対側へ、ここにテラスがあります。
大きなスライディングドアに木製窓枠。
こうしたざっくりとしたデザインが、この森の小屋にはとても合っています。

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室内の天井に見えるのは吸音効果も兼ねた羊毛断熱材でしょうか。
木材でできた格子の間からむき出しになっていて、裏がないというか。。クリアケースに入っていて、内部の機械や構造が見える携帯電話のような明快さがあります。

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皆で裏側へ回ってみました。
小屋の中には大きな暖炉が一つありましたが、裏側の外にはバーベキューなどができるグリル用の釜があります。このあたりの設備もいかにもスイスの小屋らしい。

こうして見渡すと、全ての要素が当たり前の、いかにもスイスの森の小屋。
であるのに、結果として出てきたものの感じは、いつもと少し異なっている。
とても良い意味で、多くではなく、少しだけ異なっている。

この力量が、カミナダなんだろうと思います。
すぎやま こういちろう

■杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ピーターメルクリ スタジオ)に留学。大学院修了後、建築家として活動する。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントー アンド パートナーにて研修、2015年から同アトリエ勤務。
2016年から同アトリエのワークショップチーフ、2017年からプロジェクトリーダー。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。”建築と社会の関係を視覚化する”メディア、アーキテクチャーフォトにて隔月13日に連載エッセイを綴っています。興味が湧いた方は合わせてご覧になってください。

杉山幸一郎さんの連載エッセイは毎月10日の更新です。

*画廊亭主敬白
臨時休廊14日目。
先週は交代でスタッフが出勤していましたが、今週からは全員在宅での勤務です。
ウイルスは歩いて来ないのだから、こちらが動かなければ感染しない(動かざるを得ない人たちには国が最大限の敬意を払い十分な補償をすべきです)。
私たち画廊は相次ぐアートフェアの中止、休廊とで売り上げは壊滅的ですが、今はスタッフの安全が最優先です。みんなと顔を合わせられないのは寂しいけれど、朝から夕刻まで司令塔尾立とスタッフたちのメールのやりとりがハンパではない。ありがたいことにお客様からの注文や問い合わせも絶えません。取引先とのやり取りは在宅以前と同様です。目がまわります。スタッフ間では電話、LINE(?)とかで頻繁にやり取りしているらしい(亭主は蚊帳の外)。
亭主がいじれるのはこのブログだけなので、好評だった「一日限定! 破格の掘り出し物」第二弾を準備中です。遠隔のスタッフたちの協力で4月13日にスタートしたいのですが、果たして・・・

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◎昨日読まれたブログ(archive)/2010年09月12日|奈良美智の初期作品
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TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
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