宮森敬子のエッセイ「ゆらぎの中で」第9回

「つなぐ壁」


ニューヨークから日本に到着し、推奨されている自宅隔離の間にこの原稿を書いています。本当に大変な時代になってしまいました。

9月は延期となっていた私の個展が、予約制で開催されます。こんな中、来てください、とは言いにくいのですが、十分な対策をとりながら開催していますので、よろしければお越しいただけると幸いです。私もなるべく在廊するようにいたします。

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(すみません、バナナも写ってしまいました)



さて、前回は私が過去に作った中で、最大、唯一の彫刻作品である「都市の根」について書かせていただきました。あんなに大きな樹脂作品を、奮闘しながら作っていたとは、今から思うと自分でも驚きます。

今回は、2004年ごろから現在まで、まだ続けている作品で、考えようによっては、さらに大きな作品となる「つなぐ壁」という作品をご紹介したいと思います。

実は、この「作品」は、前回お話しした「都市の根」と関係があるものです。

フィラデルフィアの都市計画のために、掘り起こされて捨てられた大きな木の根からは、かつてそこに住んでいたひとたちの生活の断片が入っていました。

壊されて地中に埋もれていた数多くの煉瓦片、ガラス片、金属片、石、コーラの瓶からトイレ陶器の一部分まで、それらをひと夏かけて掘り続けて、木の根と共に展示したのが、フィラデルフィアで2002年に発表された「イマジナ」でした。

202009宮森敬子002ギャラリーに運ばれた樹の根とそこから掘り出されたもの (2002年プロジェクトスペース、フィラデルフィア )

掘り起こされたレンガなどの破片は、しばらく私のスタジオにありましたが、大きなものは保存できなかったので、小さなものをプラスチックのケースに入れてしまっていると、多くの人がそれを欲しがり、中には、このレンガにはエネルギーがある、と言い出す人もいて、希望する人に配っていました。(長い間、地中で根に抱え込まれていたので、何かのエネルギーが蓄えられていたのでしょうか。)


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箱に入れられたレンガやガラス片(古いペプシのガラス瓶のかけらもあります)


私はたくさんある破片の中で、自分のお気に入りのものを "Memory of the city treasure” と名付けて箱に詰めていました。そんなお気に入りの箱は少なくとも4、5箱あったのですが、ぜひ貸してほしい、といわれて、人に回しているうちに、残念ながら、全て行方不明になってしまいました。考えてみると、私はいつもそうやって、人にあげてしまったり、貸して無くしてしまったり、作った作品を保存するということが苦手だったと思い、反省しています。本当に綺麗なピースなので、いつかどこかからか、出てきてくれると嬉しいです。せめて、美しいと思っている人の手に残っていますように。

ところで、レンガをもらってくれた人には、そのくらいの大きさで、代わりに何かをもらい、それも保存してゆくことにしていました。そして、2004年くらいだったかと思うのですが、貯まったプラスチックのケースを積み上げて、“透明な壁”を作ることにしたのです。このアイデアは、「つなぐ壁 / A Wall for Connection」 として、2004年、妻有のアートフェスティバルの公募に使われました。

その時のプロポーザルの写真とコンセプトです。
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「この壁は仕切らない。この壁は繋ぐ。
それぞれの場所から集まって、それぞれの場所を、繋いでいる。」
『つなぐ壁』 バーチャルイメージ 2004年 (*注)


(注)写真はプロポーザルに使うための予想完成図:幅120cm、高さ180cm、奥行き10cm 、36段の棚を持つ透明なアクリル板による構造物を、作品の舞台となる場に施工する。(安全に考慮し、壁の築かれる土台にはねじ釘が固定できる構造を作る。また、壁が自立しない場合には天井よりステンレスワイヤーにて、吊りの補強を施す)


残念ながら、採用には至らなかったものの、このアイディアは5年後の2009年に、フィラデルフィアで制作発表できる運びとなりました。その時の写真が以下です。

202009宮森敬子005(左)つなぐ壁 275.6(W) x 201.9(H) x 12.7(D)cm 木の根から掘り出したレンガ片、交換物、アクリル板、アクリルボックス
(右)棚のディテール  両者とも 於フレイシャーアートメモリアル、フィラデルフィア 2009年



初めに書きましたように、このプロジェクトは現在もゆっくり続いています。以下に、少し交換物の写真をご紹介したいと思います。

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(左上)ケニア2010年(中央上)アマゾン2010年(右上)パレスチナ2009年
(左下)セドナ2013年(中央下)鳥取2018年(右下)イラク2009年



実は、この壁は目の前に立ち現れている部分は、本来「つなぎ目」の部分であって、全体像は、想像上でしか再現できないものです。本当の作品は、ある時、木の根の中で一緒になっていたものが世界に散り、それぞれから集められたものがここにある、その軌跡を含んだ大きさ、になるからです。そうなると、あんなに奮闘して作った「都市の根」を遥かに超えた大きな作品、ということになるでしょう。とは言っても、私の限られた時間の中で、つなげたものですから、極めて限定されたつながりの輪の作品で、世の中全体のつながりからしたら、本当に小さなものです。まだレンガは何千個もあり、ゆっくり進めているので、私が存命中に完成されることはないと思います。いずれはプロジェクトを若い作家に譲れないものか、と思案中です。

個展は10月17日(土)までで、来月のブログ掲載の日に終了です。次回は個展を振り返って書いてみたいと思います。このように来場が難しい方のためには、ブログやインターネットライブで、内容に関してご紹介する機会はあると思いますが、いらしてくださった方だけに感じてもらえる工夫もしてありますので、可能であれば、お立ち寄りいただけると幸いです。(内容は来月に!)
(みやもり けいこ)

宮森敬子 Keiko MIYAMORI
1964年横浜市生まれ 。筑波大学芸術研究科絵画専攻日本画コース修了。和紙や木炭を使い、異なる時間や場所に存在する自然や人工物の組み合わせを、個と全体のつながりに注目した作品を作っている。

宮森敬子のエッセイ「ゆらぎの中で」は毎月17日に更新します。

●本日のお勧め作品は宮森敬子です。
miyamori-08“Mug”
1999
マグカップ, 和紙、 炭
13.0×8.0×10.0cm
ガラスケース付き
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください


宮森敬子展 — Surfaces of Time 集められた時間と空間の表面たちを開催します(予約制/WEB展)。
会期=2020年9月25日[金]—10月17日[土]*日・月・祝日休廊
宮森展
宮森敬子は手透きの和紙とチャコールなどの自然の物を使って、ツリーロビング(木の表面の模様を手透きの和紙でで写し取った作品)で自然物や人工物を包み込むもの、あるいは透明樹脂(プラスチック)で自然物や自分の作品を固める作品を制作しています。現在は米ニューヨークにアトリエを構え、日本と行き来しながら、絵画、彫刻、インスタレーションの発表を行なっています。
今回、ときの忘れものの拠点である駒込を自ら歩き、駒込富士神社や東洋文庫ミュージアムにある樹木の拓本を行ないました。本展では、ときの忘れものの建物を使い、それらの拓本を層状に重ねたインスタレーションを行ないます。
会期中、宮森敬子さんによる無観客ギャラリートークを開催し、その様子をYouTubeで公開予定します。
※予約制にてご来廊いただける日時は、火曜~土曜の平日11:00~19:00となります。
※観覧をご希望の方は前日までにメール、電話にてご予約ください。

「ジョナス・メカス展」は終了しましたが、WEB展はユーチューブでご覧いただけます。
展示作品・風景紹介

メカス日本日記の会・木下哲夫さん 特別インタビュー〈ジョナス・メカスとの40年〉


●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。