「一枚の版画をともに見ることから展覧会制作へ」

版行動


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 版行動は、絵画、ヴィデオ、パフォーマンスなどメディアを問わず作品制作を行う関優花、千葉大二郎、堀内悠希、美術史研究を行う高橋沙也葉からなる、「版画」をキーとしてお互いの知識や技術を継続的に共有する場として2019年に始動したグループです。私たちは専門として版画制作・研究を行なってきたわけではありませんが、版画表現にそれぞれの立場から興味関心を持っていました。

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内間安瑆《SHORT POEM》1967年、木版、22.8×60.7cm


 私たちが内間安瑆作品に深く関心を持つ発端となったのは2019年の秋頃、情報交換の一環として『内間安瑆・内間俊子展』図録⁠(註1)を眺めていたときのことです。メンバーの千葉が図録に掲載されている複数の作品の中から《SHORT POEM》(1967)に注目し、図像のなかに配置された「逆さ文字」の面白さに言及したことをきっかけとして、私たちは内間安瑆作品を深く読み解いていくことを始めました。

 《SHORT POEM》の「逆さ文字」からは、あえて文字を反転したままにするという内間の明確な意思が見えます。反転した筆記体の文字列の判読を試みると「blue」「green」「white」など色を示す言葉が記されていることがかろうじて読みとれます。その後、私は内間が制作の際、版木自体に色の配置を示すメモ⁠(註2)を残していたことを知ります。メモ書きのような文字列をそのままの形で版木に彫った《SHORT POEM》は、制作過程で内間自身が経験した時間を意図的に作品の中に残す試みだったのではないか、作品に残るその私的な時間の痕跡を内間は「詩」と呼んだのかもしれない、などと作品から様々なものを受け取り、思考を進めていきました。
 他者の作品を見る目と言葉を借りながら、それを助けとして作品のより深い部分へと潜っていくような共同制作の経験は、版行動の活動を方向付け、展覧会制作へと動機づける重要な意味を持ちます。内間作品との出会いからはじまった共同制作のあり様やそれに影響され自身の作品制作を省みるような経験を展覧会という形式で提示できないかという思いから始まったのが、内間安瑆の作品と私たちの作品とを同じ空間で展示する「版行動 映えることができない」展の企画です。

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 展覧会制作が進む中で、戦後美術史研究を行う高橋が版行動のメンバーに加わると、作品を取り巻くテキストや記録など、作品の言説化や歴史化に関わる物事に関する問いが共同制作の中に立ち上がるようになりました。内間作品を網羅的に分析したわけでも、内間を歴史的位置付けの中で詳細に研究を行なったわけでもない私たちが、ある意味で恣意的に作品を選択・借用し自分たちの作品とともに展示をすることにはどのような責任が生じるのか、また、私たちが内間安瑆作品から様々な読み解きを行った様に私たち自身の実践は時を超えてどのように解読/誤読されうるのかなど、メンバー間での対話を通し具体的に考えていくことにつながりました。 内間安瑆の一枚の版画に対し想像力を働かせるところから始まった版行動は、作品にまとわりつく無数の具体的な関係性に向き合う活動となりました。私たちの展覧会制作の実践は、複数の人や作品とともにあることの引き裂かれのなかにある決して映えることができないものです。

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 都美セレクション グループ展 2021「版行動 映えることができない」は、ときの忘れものの皆様のご協力のもと内間家ご遺族様に、内間安瑆作品4点の借用をご快諾いただくことで、はじめて実現が可能となった展覧会です。私たちの実践に手を貸してくださった皆様にこの場を借りて改めてお礼申し上げます。

註1  『内間安瑆・内間俊子展』図録、ときの忘れもの、2018年。
註2  次の展覧会カタログには、《Forest Byobu》シリーズの版木の写真が掲載されており、その版木には色名などの制作に関わるメモが鉛筆で書きつけられていることがわかる。内間安瑆『色彩と風のシンフォニー/内間安瑆の世界』2015年、沖縄県立博物館・美術館、98-103頁、107頁を参照。
※ この文章は、版行動のメンバーの関優花、千葉大二郎、堀内悠希、高橋沙也葉が日々重ねた展覧会制作にかかわる対話に基づき高橋が執筆を行い、関とともに改稿を重ねて制作した展覧会説明文を基礎としている。本稿では、関がその内容の一部要約を行った。
はんこうどう

関優花 Yuka SEKI
1997年アメリカ・ミシガン州生まれ。2019年筑波大学芸術専門学群特別カリキュラム版画コース卒業。2021年横浜国立大学大学院都市イノベーション学府修了。健康と体調不良のあいだを行き来する自身の体調の変化に注目し、生産性や効率性に反する体のあり方の可能性を探求する。

千葉大二郎 Daijiro Chiba
1992年奄美大島生まれ。2014年多摩美術大学日本画専攻卒業。2016年東京藝術大学大学院修了。2014年よりプロジェクト『硬軟』を主宰。撥水現象を切り口とした思想の展開と形象化を軸に制作する。

堀内悠希 Yuuki Horiuchi
1990年奈良県生まれ。2018年東京芸術大学大学院美術研究科油画専攻修士課程修了。映像やインスタレーション、ドローイングを発表する。 生活の些細な瞬間から発見される自然や宇宙の片鱗、偶然と因果、時間や空間の湾曲などを主な興味として制作する。

高橋沙也葉 Sayaha Takahashi
1995年三重県生まれ。2021年現在京都大学大学院人間環境学研究科思想文化論講座修士課程に在学中。戦後日本とアメリカのアートシーンの交差に関心を持ち研究を行っている。最近の論考に「リチャード・セラのドローイング実践における版画の役割」がある(表象文化論学会ニューズレター『REPRE』Vol. 41、2021年)。

●展覧会のお知らせ
「版行動 映えることができない」
会場 : 東京都美術館 ギャラリーC
会期 : 2021年6月10日(木) ~ 6月30日(水)

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版行動 ファーストステート
関優花 / 千葉大二郎 / 堀内悠希 / 高橋沙也葉
日時:6月23日(水) 19:00~20:30 場所:オンライン
参加費:無料
定員:なし(事前登録制)
予約方法:後日、参加登録URLを記載します。
https://hankodo.net/

●図録のご紹介
1539054258841『内間安瑆・内間俊子展』図録
ときの忘れもの 発行
2018年
B5変形 24P
フルカラー
図版:50点(安瑆37点 、俊子13点)
テキスト:内間安樹(長男、美術専門弁護士)
デザイン:岡本一宣デザイン事務所
販売価格/税込価格 880円(送料:250円)
※ときの忘れもので取り扱っています


●本日のお勧め作品は内間安瑆です。
uchima-45内間安瑆 Ansei UCHIMA
" An Emotion (或る感情)"
1959年
木版
イメージサイズ:40.8×30.2cm
シートサイズ:42.6×30.9cm
サインあり
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●ときの忘れものが青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転して3年が経ちました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
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