小林美紀のエッセイ「宮崎の瑛九」第4回

瑛九の輪郭3 杉田秀夫時代(~1935)の活動について1


10代の杉田秀夫は絵画を制作することと同時に美術評論、エッセイ等を雑誌、新聞などに盛んに投稿している。なかでも「宮崎縣政評論」※では、単発の掲載のほか連載もしていた。
ここではその一部を紹介する。
※「宮崎縣政評論」・・・徳島県出身の若山甲蔵(わかやまこうぞう)が刊行していた月刊誌。現在、宮崎県の町立高鍋図書館に所蔵されている。
※このとき秀夫はペンネームとして「秀十三」を使用している。また「宮崎市」と附記されている。

1 「村山槐多の藝術」(秀夫16歳・全8回連載)
 残念ながら、現在4回目がなく全文は揃っていない。初回は昭和2年7月12日掲載で、「槐多の絵画及詩については彼の死んだ時いろんな人々からの定評がある。いまさら私の如きものが述ぶるまでもあるまいがたゞもう彼が死んでから七回が一昨年すんだ-それほど日が立つてしまつた。」という言葉からはじまり、村山槐多の絵画ではなく詩について述べるとしている。槐多の芸術を評した有島武郎の言葉を引用しながら、「彼は一個の完全な生として生き妥協の余地なきほどの生活それを有島氏がどんなに羨んだかと思ふと槐多の性格は有島氏から幸福にみえたにちがひない」と述べている。附記として、槐多の芸術を見るには絵画が入門ではあるが、(宮崎の)読者には見ることは不可能であろうから、詩の方が解される方も多いので詩について書くことにしたと記している。同年7月14日~8月4日には「主として詩について」と副題をつけ、槐多の詩や、その批評を引用しながら槐多が詩壇に及ぼした力について順を追って紹介している。また8月9日の掲載では、副題は消えているものの、前回からの流れで槐多の詩を紹介しながら、槐多の特異性と、早逝の必然性に言及している。続く8月10日掲載には、槐多の詩である『ある四十女に』の一部を引用し、槐多を「魔の楽器をかなでる男」と称している。8月14日掲載では、槐多の晩年までの詩を見ようと思ったがあまりにも長いので、槐多が最も苦しんだ時代の多くの仕事(詩)を見てきたとして、そこに槐多の姿が一番多く見られると書いている。そして現在はいくつか絶版になっているが、『槐多の歌へる』だけは出版されていること、それは槐多が18歳の時からの詩や短歌などであることを伝えている。

2 社友随筆「娯楽雑誌及び少年少女の雑誌」昭和2年7月18日掲載(秀夫16歳)
 近頃多くの種類の雑誌があることに驚き、内容が一様なのも強く感じたとし、その中でも娯楽雑誌と少年少女雑誌について言及するとしている。娯楽雑誌として広く読まれている雑誌のタイトルを挙げ、カナ文字ばかりであり、いわゆる現代の軽率な趣味として見るのも面白い、しかし中身に関しては、小説とゴシップ的記事が満載で、小説も流行り物の上に文壇において知名度が高い人の作品だとして、「こてさきのけいはくなことなかれ主義ダラクしたモダニズムのてんけいてきなもの」と断じている。しかしながら、雑誌よりも自分たち読者の堕落にほかならないとし、「我々(一部の力強い人)が文芸の本当の力を民衆に発見させなければならない」と述べている。
 また少年少女雑誌については、言葉も費やす必要のないくらい娯楽雑誌を模倣しているとして、文芸の本当の力を遠ざけ、「小資本家的うすっぺらな社会の少年少女を生むものだ」と苦言を呈し、現代の教育制度、社会制度を破壊しなければならないと付け加えている。

このほか、「ハル・ザッソウ」(映画や当時の流行について触れたエッセイ)などを投稿しているが、発行間隔が長くなったのを機に投稿をやめている。

「秋の日曜日」1925年「秋の日曜日」1925年

「たばこを吸う女」1935年「タバコを吸う女」1935年

CIMG0524瑛九展の展示風景(魚眼レンズで撮影)

こばやし みき

■小林美紀(こばやし みき)
 1970年、宮崎県生まれ。1994年、宮崎大学教育学部中学校教員養成課程美術科を卒業。宮崎県内で中学校の美術科教師として教壇に立つ。2005年~2012年、宮崎県立美術館学芸課に配属。瑛九展示室、「生誕100年記念瑛九展」等を担当。2012年~2019年、宮崎大学教育学部附属中学校などでの勤務を経て、再び宮崎県立美術館に配属、今に至る。

・小林美紀のエッセイ「宮崎の瑛九」は2022年2月までの全6回、毎月17日の更新です。

・小林美紀先生が担当された宮崎県立美術館「生誕110年記念 瑛九展-Q Ei 表現のつばさ-」(2021年10月23日~12月5日)については、下記のスタッフレポートもご参照ください。
32bcab83-s尾立麗子の内覧会レポート/2021年11月6日ブログ
スタッフMのレポート/2021年12月19日ブログ
スタッフIのレポート/2021年12月21日ブログ
スタッフSのレポート/2021年12月26日ブログ。


●12月17日 閉廊時間変更のお知らせ
誠に勝手ながら、本日12月17日(金)は16時半で画廊を閉めさせていただきます。何卒ご了承くださいますようお願いします。

●本日のお勧めは瑛九です。
qei-189瑛九 Q Ei
《三人のバレリーナ》
1958年
フォト・デッサン
27.3x21.9cm
裏面にタイトルと年号あり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください


●冬季休廊のお知らせ
ときの忘れものは、12月26日(日)~1月3日(月)まで冬季休廊いたします。
休廊中にいただいたメールには1月4日(火)以降に順次ご返信いたします。

●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会Web展)を開催し、美術書の編集事務所としても活動しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。