杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」第73回

紙の博物館


202204杉山幸一郎IMG 01
先日、バーゼルにいる友人家族を訪れた際に、勧められて一緒にPapiermuseumへ行きました。
友人が説明してくれたところによると、今ではノバルティス社やロシュ社といった製薬会社で有名なバーゼルですが、かつては染色で有名だったようです。合成染色が生産されたのがきっかけで、その技術を応用して化学薬品、製薬へとシフトしていった。と聞きました。

202204杉山幸一郎IMG 00
https://www.basler-in.ch/post/spannende-adventszeit-in-der-basler-papiermühleより
ライン側そばに位置するこの博物館の外には、小川が通してあって、水車が気持ちの良い音を立てて回っています。

日本で手漉き和紙を作る過程は見たことがあったので、ここスイスではどういう材料でどうやって作っていたのだろう?とワクワクしながら中へ入ると、外の水車に繋がった大きなギアが大きな餅つきのような工具に繋がれて、大きな音を立てて作業しています。臼の部分にはお餅のようなものが。。これは何だろう?

202204杉山幸一郎IMG 02202204杉山幸一郎IMG 03
説明を聞くと、バーゼルでは紙を洋服のボロから作っていたらしいのです。多くの人から集めた古着を切り刻み細かくした後、こうした機械で叩き繊維を潰していきます。そうすると、ベトっとしたお餅のようなものが出来上がるのです。原料の綿に再び近づいてきた感じでしょうか。

202204杉山幸一郎IMG 04
この原料を、日本でもお馴染みの方法で、プールに入れて漉いていきます。今回ワークショップで用意したプールには、潰された古着の他に少しだけ接着剤のようなものが入っていると聞きました。それは紙の強度を保つためというよりは、出来上がった紙にインクが滲み過ぎないようにするためだそうです。

202204杉山幸一郎IMG 05
漉いた紙は、プレス機に載せられ水分を十分に絞り取ります。

202204杉山幸一郎IMG 06
そうした水分が少なくなった紙をコットンに挟んで、

202204杉山幸一郎IMG 07
アイロンを使って時間を短縮して乾かしていきました。

202204杉山幸一郎IMG 08
別の階へ進むと、そこには紙に加工ができるワークショップがありました。
写真にあるように、ここでは計4種類、左からベリー、紅、コチニール、アカミノキを混ぜた紙の原料を「丸」や「羽ばたく鳥」の型を使って流し込んでいきました。
前回と同じようにプレスした後にアイロンで乾かすと、写真のような紙が出来上がります。
色のある部分は、元の紙と型を使って流し込んだ紙で二層分になっているので、少し膨らんでちょっとしたレリーフのようになっています。

ときの忘れものでの個展では、和紙を使ったオブジェクトを作りました。こうして紙から作り上げていく楽しさを知ったので、次回は材料から作ってみたいな、と考えています。

この博物館が珍しかったのは、紙の歴史から印刷、製本までを体系的に展示説明しているだけでなく、今回のようなワークショップの他にも、特別に紙を注文したり、印刷、製本までしてくれます。展示しながら受注もすることで、かつて紙づくりはどうあったか?だけでなく、今どうあるのか?と言うことも身をもって理解することができました。
すぎやま こういちろう

杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ピーターメルクリ スタジオ)に留学。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントーにて研修、2021年まで同アトリエ勤務。
2021年秋からスイス連邦工科大学デザインアシスタント。建築設計事務所atelier tsu。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。

●展覧会のご案内
銀座 蔦屋書店5周年記念
Next Leaders 重松象平、田根剛、杉山幸一郎

会期:2022年4月1日(金) - 5月8日(日)
会場:銀座蔦屋書店・建築 BOOK売場
Next Leaders これからの活躍が期待されている3人の建築家は、海外の重要な建築家(レム・コールハース、デイビッド・アジャイ、ピーター・ズントー)の下で経験を積み、そのまま海外を自らの建築活動拠点にした共通点を持ちます。一方で、それぞれの建築的思考は異なる部分も多いように見えます。3人の著作、ドローイングや作品展示等を通じて、世界的スケールからもたらされる多様性に富んだ建築の面白さや、新たな建築の可能性に迫ります。

・杉山幸一郎さんの連載エッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。

●建築と社会の関係を視覚化する新しいメディアとして注目されているarchitecturephotoに杉山幸一郎さんが連載したエッセイ “For The Architectural Innocent”をも併せてお読みください。

●本日のお勧めは杉山幸一郎です。
sugiyama-window02杉山幸一郎 SUGIYAMA Koichiro
"Window 02"
2019年
ブナ材、梨材、アルミ、真鍮
5.7×2.0×21.7cm
Ed.1
サインあり

●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊ですが、4月15日(金)~24日(日)「中村潤展 うろうろをへて こつこつのはて」は会期中無休です。