小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」第57回

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4月〇日 
けっこう驚かれることではあるが、古書の世界にも市場というものがある。
各都道府県に古書組合があり市場があるのだが、東京の市場のひとつが神田神保町にある。そしてその市場では、入札会がほぼ毎日行われているが、曜日によって運営の会が分かれている。自分が働いているのは水曜日、東京資料会という会で、その名のとおり、本ではなく図録や冊子などの「資料」の出品が多い会だが、もちろんなんでも出品される。古本屋が扱う商品は、なんでも市場に出てくるのだ。CDやレコードはもちろん、美術品だって食器だって、それを扱う本屋があれば、なんでも出てくる。だからお客さんからの買取は難しいもので、実際に本以外でも、自分が売り先を見つけられるというものは喜んで買わせてもらう。(古物商の届出の時には、取り扱い品目の選択肢があるのだけれど、できるだけこれは多くチェックを入れた方がいい。当然ながら公安委員会の確認があるけれど。)
さて、自分が働いている資料会の大市(年に一回)が今週行われる。今はその準備で大忙しだ。1週間ずーーーーっと市場に拘束される。全国から集まる商品を、荷受けし、チェックし、会場に並べる。なかなかタフな仕事ではあるが、普段は見ないようなものも市場に並ぶので、疲れるのと同じくらい楽しいことでもある。

4月×日
市場に何が出品されていくらで落札されたかは、絶対に外部に漏らすことはできない。(それだけが古本屋のメシのタネなので、当然。)
具体的にはいえないが、驚くようなものが出品されることもあるので、正直そういうものを触る時には手が震える。ていうか、入札する気がないなら(入札できないなら)怖くて触れない。わたしはそういうものに札を入れている古本屋を遠巻きにみている小物感のある古本屋である。でも小物には小物の楽しさがあるのがこの商売だ。というか、矛盾するようだけど、本当は小物も大物もなく、そこには「それを売れるかどうか」の商売しかない。そうして、国宝級のものを扱わなくても、立派に商売できるのがこの業種の清々しさである。
というわけで、自分のメシのタネを探す古本屋の目つきは真剣そのものだ。正直これだけの人数のプロが、みんなそれぞれの価値観と相場感を持って本を選んでいるのは、あらためて考えると恐ろしいことだと思う。しかも相手は無限にある本という商品群。かつ刻一刻と相場は変わり、昨日捨てられていたものが今日は商品となる。さらに恐ろしいのは、この世にたった一人でも100万でそれを買う人が居れば、それは100万の商品になるのだ。改めて「本」のダイナミズムを感じる。

4月〇日
無事に大市が終了。大きな事故もなく終えることができた。よかったよかった。ご同業のみなさまありがとうございました。
自分が買ったものは、というと、こんな絵本を買いました。

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70年代に出ていた懐かしい絵柄の絵本群。当時は普通の当たり前のことを書いているただの絵本なのに、今ではその内容も絵柄も、当時持っていた意味を超えて、ノスタルジックが商品価値になる。わかりやすい例ではあるが、まさに古本の魅力である。
一冊千円くらいかな?と思っていたけれど、思ったより安く買えたので、特別珍しいもの以外は500円で売ろうと思います。
乞うご期待。ていうか、売れてください!
(おくに たかし)

●小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」は今後は隔月・奇数月5日の更新となります。次回は7月5日です。どうぞお楽しみに。

小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。

●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
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