佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第66回

群像、あるいは造形の群れ、というモチーフについて、実はけっこう前からこだわりを持ち続けてきている。初めに意識的に取り組んだのは、豊島彩花さんの生花のパフォーマンスのための什器だった。なにか一つの原形となる形を据えて、その形を圧縮したり、引き延ばしたり、転がしたりして6つの異なる什器を作った。(製作は大工の青島雄大さん)1
【撮影:takara mahaya】(https://www.takaramahaya.com/)
豊島彩花(https://www.sayakatoyoshima.com/)のパフォーマンス「酒と花」
https://twitter.com/mahayap/status/1532957110547664896

いわば親が同じの、6つ子のようなそれぞれなのだが、そんな何らかを共有しながら、異なるモノとして在り、それが一つの場に同居する。族、という括り、あるいはやはり群、という何らかの括りの輪郭を与えるには、どのように同一と差異両方を持ち合わせるべきか、考えを巡らせていた。
そしてこの什器群には「両性具有」という禍々しい名前を付けていた。確か当時白洲正子の『両性具有の美』を読んでいた記憶がある。あとは、中上健次の何かの小説も読んでいた気がする。23
【撮影:comuramai】(https://www.comuramai.com/)

パフォーマンスで使われたこの什器群は、会の終了後は文字通り霧散した。いくつかはそのまま何かの台として使ったり、誰かに渡したりもしたが、5年が経った今はおそらくもう全てどこかでバラバラになってしまっているだろう。けれどもそんな儚さが似合うモノたちであった気がする。

そして最近、また展示の什器を作る機会を得た。東京都美術館にて開催された「都美セレクション グループ展 2022」の展示「ものののこしかた」にて展示構成の相談と各作品のキャプションを掛ける什器をコロガロウで作らせてもらった。

展示には全部で8人の作家(新井 毬子、居村 浩平、岩崎 広大、菅野 歩美、西尾 佳那、畠中 瑠夏、辻 梨絵子、古川 利意)が参加し、「ものののこしかた」という一つのテーマを共有してそれぞれが作品として展開していた。当然のことだが、展覧会というものには始まりがあって終わりがある。ではどのように展覧会をのこすことができるのか。什器制作にあたってはまずそんな所から考え、展覧会が別の場所に巡回するという近未来の改変の企てを提案した。そうすることで、ひとまずの会の結末を留保させ、未来に投げ込む形をとった。

巡回地は福島県の西会津。そこは、この展覧会の着想の原点となった古川利意の記念美術館が、現在設立準備中の場所である。都美の会場と比べると、西会津の記念美術館の室内はかなり小さい。そこに展示が移動する際には、各作家の作品の一部をそれぞれ抽出し、展示することが必要になる。

都美の展示会場に散在させた深緑色の什器群は、記念美術館の室内をリアルサイズでコピーした壁の断片であった。まず記念美術館での展示配置を想定しながら、その壁の一部を真似た複製物を作る。そしてその複製された壁が自立するように脚を付け足し、都美の会場では各作家の作品の小品が展示された。

遠く離れた一つの場所から、その断片を取り出して異なる場所へ移動させて、バラバラと散在させる。これもまた同一と差異の双方を合わせ持つ複数のモノ、群、群れとしての形の在り方の試行であった。形の決定の仕方に多少の客観性が増してもいるが、群への興味という点では5年前と何も変わっていない、ということを改めて確かめることができてとても良かった、とも思っている。45
(古川記念美術館室内の壁の断片の切り取りを示すダイアグラム)

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(ものののこしかた会場の様子。各作家のエリア毎に深緑色の什器が配置されている。)

また、東京都美術館と古川記念美術館という異なる二つの展覧会の対応関係を示すために、都美展示会場には古川記念美術館室内の縮減模型=マケットを製作し展示していた。思考の中枢を示すためにはやはりこのマケットの存在が特に重要であったとも思う。

都美の展示はすでに終了しているが、じきに西会津にて巡回展が開催されるようだ。福島に立ち寄った際にはぜひ。7
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(西会津の古川記念美術館室内<1階>の模型)
さとう けんご

<展覧会概要>
都美セレクション グループ展 2022「ものののこしかた」
●会場: 東京都美術館 ギャラリーB
●会期: 2022年6月11日(土)~7月1日(金)
●主催: Summer Catch Salmon、公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館
●参加作家:新井毬子、居村浩平、岩崎広大、菅野歩美、西尾佳那、畠中瑠夏、辻 梨絵子、古川利意
●展示構成:一般社団法人コロガロウ/佐藤研吾建築設計事務所(担当:佐藤研吾、高垣崚)
●展覧会ステートメント
「つくること」と「のこすこと」を区別しないアーティストによる想像力で生成された世界では、明日の日記が記され、地図なき場所が創出される。
記録写真の対象が変幻し、全ては夢だったと気が付いて異世界に行くこともある。
このような過去と未来、記憶と妄想、現実と虚構を共に引き寄せる収集作業によって、
異なる領域の物語や時代の間で新たな出会いが促される。「ものののこしかた」とは、そのための方法に他ならない。
福島県会津地方で教員・郷土史家として活動し、失われつつある地域の記憶を数多くの絵画や版画に描き残した古川利意(ふるかわとしい 1924-2020)。
古川氏の作品を収蔵する記念美術館設立への取り組みを起点に、本展では、「ものののこしかた」≒「アーカイヴ」について考察していきます。
各作家たちは、異なる時間や領域、現実と虚構の間を行き来し、そこで紡ぎ出される様々な物語と向き合いながら、想像力とともに成る「のこすこと」の多様なあり方と、その可能性を提示します。

佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2022年3月ときの忘れもので二回目となる個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を開催。

・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。

●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
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