クボテーって誰? 希代のパトロン久保貞次郎と芸術家たち」展開催のご案内

久保貞次郎の会 秀坂令子


2018年、久保貞次郎(1996年10月31日没)の業績を振り返り、後世に伝えるため、跡見短大の教え子たちが発起人となり、『久保貞次郎の会』 を発足しました。 微力ですが毎年イベントを企画し、活動を進めたいと思っています。

第1回(2018年)は、建築家井上祐一氏による解説で栃木県真岡市の久保講堂や久保記念観光文化交流館(旧久保邸)を見学し、参加者との交流を行い、靉嘔先生にも参加頂きました。

第2回(2019年)は、フランク・ロイド・ライト設計の自由学園明日館を見学 し、細江英公先生と栗田秀法氏(名古屋大学大学院教授)の講演会を行いました。

第3回として、2022年10月15日(土)~10月29日(土)六本木のストライプハウスギャラーにて、 「クボテーって誰? 稀代のパトロン久保貞次郎と芸術家たち」を開催致します。
当会初の展覧会を通じて、久保貞次郎が作品を蒐集していた芸術家21名を紹介します。
出品作品は私たちのコレクションから持ち寄り、全点を入札方式(オークション)で頒布いたします。入札リストご希望の方は、メールにてお申込み下さい。入札フォームをご案内致します。
e-mail: kubosadajironokai@gmail.com

「クボテーって誰? 希代のパトロン久保貞次郎と芸術家たち」
会期:10月15日[土]~10月29日[土] *日曜休廊
会場:ストライプハウスギャラリー STRIPED HOUSE GALLERY
  〒106-0032 東京都港区六本木 5-10-33
  Tel:03-3405-8108 / Fax:03-3403-6354
出品予定:靉嘔、泉茂、磯辺行久、内間俊子、瑛九、エメット・ ウィリアム、小田 襄、大浦信行、オノサト・トシノブ、桂 ゆき、北川民次、木村利三郎、草間彌生、島 州一、竹田鎮三郎、野田哲也、ナム・ジュン・パイク、奈良原 一高、細江英公、ヘンリー・ミラー、吉原英雄
主催:久保貞次郎の会
世話人 :榎本エミ子、川口真寿美、中尾美穂、 中村茉貴、秀坂令子、藤沼秀子、綿貫令子(五十音順)
e-mail: kubosadajironokai@gmail.com
https://kubosadajironokai.wordpress.com/
久保貞次郎の会_案内状_表面1280

久保貞次郎の会_案内状_宛名面1280


「クボテー」とは、久保を知る美術関係者、そして学生間でも呼ばれていた愛称です。創造美育協会の指導者・美術評論家・新しい芸術とその運動のパトロン・現代美術のコレクター・跡見学園短期大学学長・町田市版画美術館館長・エスぺランチストとして実に多くの顔を持っていたクボ・サダジロウですが、時としてクボ・テイジロウと書かれたものもあります。1973年「版画芸術」第3号より抜き刷りのヘンリー・ミラー版画総目録にはクボ・テイジロウと署名されていました。どのように使い分けしていたのか、今や知る由もありません。

久保先生別荘の前にて 久保先生と世話人4人軽井沢の久保先生別荘の前にて 久保先生と世話人4人 1991年

私のコレクション第一号は、北川民次のエッチングでした。
跡見短大学生の時、友人と共に久保先生にお願いして何枚かの作品の中から選んだ作品です。特別価格にしていただいたとは言え、身銭を切って作品を選ぶという緊張感は、自分の審美眼を学ぶ瞬間でもありました。久保先生が提唱した「小コレクター運動」は、3点以上の美術品をもっているひとは「小コレクター」と名のることができるというもので、コレクターという言葉を身辺にひきよせました。それまで展覧会や、画集で見るものと思い込んでいた美術品の新たな見方に遭遇した瞬間でもありました。保育園で絵画教室をされていた私の知人が1984年お亡くなりになられた時、「小コレクター運動」から何十年もの間に買い集めた作品の数は計り知れず、中でも北川民次の全版画をコレクションしていたことに驚きました。後にまとまった金額で美術館に収蔵されたと聞いた時、一個人のコレクションの集大成を垣間見た気がしました。作品を購入することは、作家を経済的に支えるだけでなく、作家を支援することになるという教えは、今どきの【推し活】に通じるものがある気がします。跡見学園短大の教え子たちは、久保先生を囲む会(頒布会)に参加し、先生から新しい作品や知識を得る事を愉しみとしていました。権威主義、通俗主義を嫌い、自由な心をもつ久保先生の教えは、我々の無垢な心を取り戻す原動力になっていました。そしてサービス精神旺盛で啓蒙家だった先生は、皆に会う前には山のような資料を準備することを惜しみませんでした。常に複数冊の書物や資料を持ち歩いていた先生の姿を思い出すとき、ビニール被せ手提げ袋は忘れられません。気取らず合理的だった先生らしいカバンでした。

久保先生は、版画の版元としても多くの作家の作品を作り、その普及活動に貢献しました。靉嘔作品「Rainbow landscape Lithograph」もその一つです。久保先生の軽井沢の別荘の階段に飾られた作品を初めて見たとき、レインボーの色がナイーブで気になっていました。そしてそれは『虹 靉嘔版画全作品集1954-1979』によると、「リトグラフではどのようなレインボーが得られるか知りたいため、久保さんが開拓された桐生の町の印刷屋荻野栄一郎さんに刷ってもらった作品である。」と書かれてありました。
1955年ブリヂストン美術館(現・アーティゾン美術館)で開催された水彩画展で、久保先生はミラーの水彩と出合い、愛らしく自由な精神をもつ作品のとりことなり、3点の水彩画を購入されました。その一枚が今回展示する版画「子供っぽい夢」の原画です。版画の色分けは小田襄が行いました。久保先生が版元として作ったミラー版画は1987年のリストで40種類にもなりました。東京のご自宅に裏にあった、事務所の名前もヘンリー・ミラーアーカイブとし、ミラーの絵画の魅力を広めようと最後まで尽力されました。
久保先生事務所(ヘンリーミラー アーカイブス)にて久保先生事務所(ヘンリーミラー アーカイブス)にて 1984年頃


AAA_0360今回の展覧会会場となるストライプハウスギャラリー(山下和正設計)は、1981年のオープン以来久保先生との縁も深く、開館時のご挨拶文も久保先生が書かれました。
今回展示の靉嘔、内間俊子、小田襄、オノサトトシノブ、桂ゆき、木村利三郎、竹田鎮三郎の展覧会も開催されました。40年以上もの歴史を持つ建物も、六本木の都市開発で数年後には無くなる予定です。久保先生が亡くなられ26年ですが、いろいろな縁がつながれて、展覧会というかたちが実現致しました。ここでまた新しい縁が広がることを期待してやみません。
ひでさかりょうこ

*画廊亭主敬白
画廊では「第31回瑛九展」が始まりました(10月22日[土]まで)。
私たちが瑛九という作家を知ったのは恩師・久保貞次郎先生のご教導によってです。
社長は跡見女子短大の一年生のとき久保先生の授業で瑛九を知りました、18歳でした。
亭主は毎日新聞社在職中に久保先生と巡り合い「現代版画センター」を設立したのが1974年、28歳でした。
このたび、社長も世話人の一人として参加している「久保貞次郎の会」主催による展覧会が、六本木のストライプハウスギャラリーで開催されます。
出品作品(60点)はすべて会員たちが持ち寄ったものです。小コレクター運動を唱導し、オークションで楽しく作品をわかちあうよろこびを教えてくれた久保先生への敬意をこめて、全点を入札方式で頒布します。
入札リストはときの忘れものでも扱っていますので、遠慮なくお問い合わせください。
皆さまのご参加をお待ちしています。
教え子たちの「久保貞次郎先生の思い出」を数回にわたり、このブログに掲載します。

昨日の瑛九展の初日、遠く新潟や大阪からお客様がいらして下さったのに社長と亭主は不在でした。マン・レイになってしまった人、京都の石原輝雄さんのお招きで佐倉のDIC川村記念美術館の「マン・レイのオブジェ展」の内覧会に伺いました。素晴らしい展示でしたが詳細は石原さんのレビューをお楽しみに。ぜひ皆さんもお出かけください、この秋、必見のお勧め展覧会です。

第31回 瑛九展
会期=2022年10月7日(金)~10月22日(土)※日・月・祝日休廊
出品作品の詳細と展示風景は10月4日ブログをご覧ください。
第31回瑛九展案内状_表1280