
磯崎新「内部風景Ⅲ 増幅性の空間ーアラタ・イソザキ」
1979年 アルフォト 80×60cm Ed.8 Signed
現代版画センターエディションNo.289
昨年末12月28日 沖縄のご自宅で磯崎新先生が91歳の生涯を終えられました。
1月4日に執り行われた告別式には世界各地から多くの人々が参列されました。各年代のアトリエ出身者も駆けつけさながら同窓会のようでした。
亭主が磯崎版画の版元として、神楽坂時代の磯崎アトリエに通い始めたのは1976年でした。
200点を超す版画作品をエディションしてきましたが(「磯崎新の版画」参照)、本日は追悼の心を込めて「自画像」ともいうべき1979年の作品をご紹介します。
”内部風景シリーズ”について
磯崎 新
さまざまな条件のもとで、建築の内部空間をデザインすることがある。そんなとき、ふっと、実は一種類の型の見かけを変えているだけではないか、と考えこんでしまうことがある。その空間の型とは、すぐれて今日的な条件だが、カルテジアン座標に似て、直交する面だけで構成されるものだ。
そんな空間に私たちは個別性を超えて押し込められている。そして、ちがった場所、ちがった個性がながめていた風景と思っていたものも、実はもうひとつ背後に、動かし難い、同質の空間が透けてみえる。
ウィトゲンシュタインは、彼の姉ストンボロウ夫人のために、厳密な比例関係だけで成立する内部空間を構成した。(I)
アルトーは、極く普通の構法によってつくられた精神病院の廊下を幾度も歩いた。(II)
私は、直交する面の表相をすべて等しい正方形だけで割りつけた。(Ⅲ)
その内部風景は、彼らが異った条件のもとで凝視したはずのものだが、結局は完璧な同一性をもつといってもいいのではないか。
つまり、内部風景シリーズは、同一性の証明としてつくられたものである。建築家として、自らに問いたかったことは、このような同一性の罠にかけられたなかから、いったいどんな出口があるのか、ということである。この空間の所属するひとつの時代が変化する予兆があるとすれば、いったい何か。この同一性の証明を破る事態が起るとすれば、どこで、いつだろう。こんなとめどもない自問の連鎮にとらわれていることの証明でもある。
(いそざき あらた)

『版画センターニュース PRINT COMMUNICATION No.50』1979年9月号2頁より再録
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