磯崎新の版画制作 第4回 「TSUKUBA」シリーズ

磯崎新先生は数多くの版画作品を制作されましたが、その全貌はレゾネがないので確実な数字をあげることができません。
現代版画センター、ときの忘れものが版元として関わった版画だけでも250点を数えます。
2021年07月29日|磯崎新の版画制作 第1回「ヴィッラ 1977年
2021年08月25日|磯崎新の版画制作 第2回「磯崎新版画集 ヴィッラ 1978年
2021年10月22日|磯崎新の版画制作 第3回「内部風景 シリーズ 1979年
磯崎先生がいかに版画制作に力を入れたかを「磯崎新の版画制作」として順次紹介してゆくつもりで、この連載を始めたのですが、日々のあれこれに追われ中断しているうちに、昨年末磯崎先生の訃報が届き呆然としてしまいました。

気を取り直して連載を再開します。
第4回としてご紹介するのは「TSUKUBA」シリーズ全5点です。

TSUKUBA とは、磯崎先生の代表作の一つである「つくばセンタービル Tsukuba Center building」のことです。
筑波研究学園都市センター地区の中核施設として1980年(昭和55年)6月に着工、1983年(昭和58年)6月に竣工しました。
竣工当初、第一ホテルが入り、その内装は倉俣史朗先生が担当されました。ホテルの部屋のライティングデスク椅子"Chair C"(角パイプのアームチェア)などは倉俣先生のオリジナルデザインです。壁面に飾られた版画類は、倉俣先生が現代版画センターに来られて(当時、渋谷区桜丘にあった)自ら選ばれました。元永定正、オノサト・トシノブ、堀浩哉などの版画を私たちは徹夜でオープン前日の深夜に飾り付けをしました。

竣工当時、廃墟化したつくばセンタービルのパース図が公表されたことも話題になりましたが、まさに今回ご紹介するシルクスクリーンは「廃墟化したTSUKUBA」といえるでしょう。

最初に版画にしたのは1983年、銅版画でした(版元は現代版画センター)。
その後、1985年にシルクスクリーンによる連作3点が生まれたのですが、この3点に関しては私たちはまったく関与していません。1985年2月現代版画センターが倒産し、必然的に磯崎版画の制作からしばらく遠ざかることになってしまいました。そのときアメリカの某社による依頼で生まれたのが、シルクスクリーンによるTSUKUBA連作3点でした。
他の作品同様、刷りは名手・石田了一さんです。

AAA_0317のコピー
磯崎新 Arata ISOZAKI
"TSUKUBA I"
1985年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:56.0×56.0cm
シートサイズ:76.0×61.5cm
Ed.75
サインあり

トリミング
磯崎新 Arata ISOZAKI
"TSUKUBA II"
1985年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:56.0×56.0cm
シートサイズ:76.0×61.5cm
Ed.75
サインあり

トリミングのコピー
磯崎新 Arata ISOZAKI
"TSUKUBA III"
1985年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:56.0×56.0cm
シートサイズ:76.0×61.5cm
Ed.75
サインあり

この3点は磯崎先生の本の表紙や雑誌に掲載されているので、ご存知の方も多いのですが、実は日本国内にはほとんど存在しません。限定75部の番号入りすべて(または、大半が)が米国某社に送られ、その後行方不明になってしまった・・・・
刷り師の石田了一さんに古い記録(納品書)をひっくり返してもらったところ、昭和60年3月8日、この作品は各80部が完成し、磯崎アトリエに納品されています(番号入り75部+作家保存用AP3部+刷り師保存用2部)。
磯崎新先生がサインされ、3種類がアメリカに送られたところまではわかっていますが、その後、この作品の行方は杳として知れない。
私自身、この作品の番号入りをただの一点も見たことがありません。
版画の限定番号(通常は画面左下に記入)というのは作家自身が記入する場合と、他者(多くは版元)が記入する場合とがあり、ともにルールとして認められています。磯崎版画のほとんどのサインに私は立ち会っています。磯崎先生自らサインとともに限定番号を入れた場合と、他者(多くはうちの社長)が記入した場合があります。
しかし、「TSUKUBA Ⅰ~Ⅲ」に関しては、私たちは関与していないので、磯崎先生がサインのときに限定番号も一緒に記入されたのか、それともアメリカの某社の担当者が限定番号を入れたのか、実物がない以上、いまとなっては霧の彼方です。
イソザキファン必見の作品です。

DSC_0417
磯崎新 Arata ISOZAKI
"TSUKUBA A"
1983年
銅版・エッチング(刷り:山村兄弟版画工房)
イメージサイズ:10.0×16.9cm
Ed.200
サインあり
*現代版画センター・エディション

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磯崎新 Arata ISOZAKI
"TSUKUBA B"
1983年
銅版・エッチング(刷り:山村兄弟版画工房)
イメージサイズ:10.0×16.9cm
Ed.53
サインあり
*現代版画センター・エディション
http://blog.livedoor.jp/tokinowasuremono/archives/53454020.html


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『新建築』1983年11月号には、竣工当初の「筑波第一ホテル」の客室が紹介されており、上の「ライティングデスク」「鏡」などが掲載されています。

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