「≠1」
湯浅良介
はじめまして、湯浅良介と申します。建築や空間の設計をしています。僕は東京の西、武蔵野美術大学の近くにある元実家だったマンションの一室を改装して事務所にしています。東京藝大の助手と多摩美の非常勤講師として大学に通ってもいるのですが、どちらに行くにも1時間以上かかるという場所で、自分に合った街や場所はどこだろうといつも考えています。大学への通勤や打合せなどで普段から移動が多く、いつでも思いついたことを描き留められるように小さなノートをカバンに入れ持ち歩いています。
設計は基本的に一人でその小さなノートにスケッチを描きながら進めています。ある段階までは施主以外の誰かとイメージを共有する必要もないので、施主との対話を通して浮かんだことやその時読んでいる本や観た映画、好きな絵画や写真などを観て自分の中に浮かぶ断片的なイメージを手がかりに描き出していることが多く、それはとても個人的で視覚的、身体的なものだと感じています。だからこそ、手のひらに収まる小さなノートとスケッチは相性が良いのかもしれません。断片的で抽象的なスケッチから始め、だんだんと寸法を与えたりいくつもの断片を調律しながら統合するという図面化の作業を通して、自分以外の他者に伝えるものとして形にしていきます。最終的には地球上のある一地点に建築や空間として立ち現れることになるわけですが、それは竣工という一時点に向けて少しずつ自分から距離を離していくような感覚だと感じています。実空間に建築と空間が立ち現れて人々の目に触れていくにつれ、その建築自身が多角的な存在として自立し、そこには設計者である自分の重なり代はほぼなくなるように思います。設計時点では自分が何をしているかを言語化する余地を多分に感じもしますが、立ち現れてしまった建築や空間はすでに自分から距離の離れた客観的な事物として在るという認識からか、それ自体について言葉で説明することに難しさを感じてもいます。
そんなことをぼんやりと感じながら独立して一つ目の建築が立ち現れたとき、なんとも懐柔できないばつの悪さのようなものを感じました。一人で盲目的に取り組んだことによる偏りが、真夜中に描いたスケッチを翌朝冷静に見た時のような感覚を自分に与えました。そんな折、ある写真家がその建築の写真を鬼気迫る集中力で撮りながら「なんとなくわかってきた」という言葉をぽつりと呟きました。見ることに秀でた人が写真家となるのだと実感する場面でもありました。出来上がったその人の写真を通して、僕はその建築に少し近づけたように思います。その後、映像作家や音楽家や美術家など何人かの作家達がその空間を訪れ、そこで得たインスピレーションを元に作品を作ってくれました。それらもまた、自分がその空間との距離感を自覚的に測る助けとなってくれました。その作品達を開示する場として1日限りの展示会を開催したものが『HOUSEPLAYING No.01 VIDEO』になります。
自分が設計していながら出現したものとのあいだに生まれた隔たりの大きさに戸惑っていた僕は、自分以外の他者の目や耳や手によって現れた作品という事物を通してその建築をようやく客観視することができたのだと思います。
物事が現実の世界に現れた時、それは自ずと何かと関係づけられる宿命を負ってしまいます。それは人が一人で生きられないことや、言葉が世界の認識に影響を与えてしまうこと、今この時点に出現したものでさえ過去や未来と関わりをもつこととも近いかもしれません。
そのように、関連づいてしまうということ、関係をもてるということに僕は恐さと希望を感じています。そして、その関係によって生まれる事象・事物どうしの“あいだ(間)”をどう捉えるのか、そこにどういった距離を与えるのか、という問いに、建築や空間という事象を人間の問題に引き寄せるための手がかりとしての可能性を感じています。『HOUSEPLAYING』は、その一つの試みとして今の自分の中で位置付けられています。
(ゆあさ りょうすけ)
■湯浅良介 YUASA Ryosuke
1982年東京都生まれ。Office Yuasa主宰。一級建築士、修士(美術)。2010年東京藝術大学大学院修士課程修了。内藤廣建築設計事務所を経て、2018年Office Yuasaを主宰。2019年から東京藝術大学教育研究助手、2022年から多摩美術大学非常勤講師。主な受賞歴に東京藝術大学吉田五十八修了制作賞受賞、東京建築コレクション内藤廣賞受賞など。
HP: www.yuasaryosuke.com
INSTAGTAM: https://www.instagram.com/yuasaryosuke/
●『Houseplaying No.01 Video』頒布のご案内

『Houseplaying No.01 Video』
刊行年:2022年
ブックデザイン: 牧野正幸
仕様:A5判(148 × 210 mm)、288頁、ソフトカバー
出版:湯浅良介(Office Yuasa)
価格: 4,500円(税込)+送料250円
*ときの忘れもので扱っています。
出展者:湯浅良介、高野ユリカ、川越健太、大村高広、梅原徹、成定由香沙、堤有希、植田実
寄稿者:中山英之、湯浅良介、高野ユリカ、川越健太、大村高広、梅原徹、成定由香沙、堤有希、門脇耕三
写真:高野ユリカ、川越健太
ドキュメント:徳山史典、成定由香沙
ビデオ:梅原徹、成定由香沙
ドローイング:湯浅良介
2022年1月に、建築家の湯浅良介が設計した住宅《FLASH》で行われた展覧会「HOUSEPLAYING」の記録本です。
この展覧会は、住人が生活している空間の中で開催され、「VIDEO(ラテン語で私は視るの意)」というテーマを与えられた複数の作家が《FLASH》を起点として作品をつくり、展示し、ビジターを迎えました。住人の生活空間が凍結されたような空間に、住人と全く関係を持たないビジターが足を踏み入れ、《FLASH》/住人の所有物/各作家による作品との間を行き来する、多層的な構造を持つ展示空間でした。
本書では、展覧会のテーマである「VIDEO」を主軸に、テキスト/写真/ドキュメント/ドローイングなどの異なる時間軸を持つ「記録」から生まれたエレメントを用い、包括的な時空間を持つオブジェクトとして本を構築しています。これは、「そこにいた/いなかった」という地平に依らず、本を手にするビジターと新たに共有可能な展示空間を現出させ、「記録」の還元主義から逃れる試みです。(概要文:牧野正幸)





●倉俣史朗の限定本『倉俣史朗 カイエ Shiro Kuramata Cahier 1-2 』を刊行しました。
限定部数:365部(各冊番号入り)
監修:倉俣美恵子、植田実
執筆:倉俣史朗、植田実、堀江敏幸
アートディレクション&デザイン:岡本一宣デザイン事務所
体裁:25.7×25.7cm、64頁、和英併記、スケッチブック・ノートブックは日本語のみ
価格:7,700円(税込) 送料1,000円
詳細は3月24日ブログをご参照ください。
お申込みはこちらから
●ジョナス・メカスの映像作品27点を収録した8枚組のボックスセット「JONAS MEKAS : DIARIES, NOTES & SKETCHES VOL. 1-8 (Blu-Ray版/DVD版)」を販売しています。
映像フォーマット:Blu-Ray、リージョンフリー/DVD PAL、リージョンフリー
各作品の撮影形式:16mmフィルム、ビデオ
制作年:1963~2014年
合計再生時間:1,262分
価格等については、3月4日ブログをご参照ください。
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊
湯浅良介
はじめまして、湯浅良介と申します。建築や空間の設計をしています。僕は東京の西、武蔵野美術大学の近くにある元実家だったマンションの一室を改装して事務所にしています。東京藝大の助手と多摩美の非常勤講師として大学に通ってもいるのですが、どちらに行くにも1時間以上かかるという場所で、自分に合った街や場所はどこだろうといつも考えています。大学への通勤や打合せなどで普段から移動が多く、いつでも思いついたことを描き留められるように小さなノートをカバンに入れ持ち歩いています。
設計は基本的に一人でその小さなノートにスケッチを描きながら進めています。ある段階までは施主以外の誰かとイメージを共有する必要もないので、施主との対話を通して浮かんだことやその時読んでいる本や観た映画、好きな絵画や写真などを観て自分の中に浮かぶ断片的なイメージを手がかりに描き出していることが多く、それはとても個人的で視覚的、身体的なものだと感じています。だからこそ、手のひらに収まる小さなノートとスケッチは相性が良いのかもしれません。断片的で抽象的なスケッチから始め、だんだんと寸法を与えたりいくつもの断片を調律しながら統合するという図面化の作業を通して、自分以外の他者に伝えるものとして形にしていきます。最終的には地球上のある一地点に建築や空間として立ち現れることになるわけですが、それは竣工という一時点に向けて少しずつ自分から距離を離していくような感覚だと感じています。実空間に建築と空間が立ち現れて人々の目に触れていくにつれ、その建築自身が多角的な存在として自立し、そこには設計者である自分の重なり代はほぼなくなるように思います。設計時点では自分が何をしているかを言語化する余地を多分に感じもしますが、立ち現れてしまった建築や空間はすでに自分から距離の離れた客観的な事物として在るという認識からか、それ自体について言葉で説明することに難しさを感じてもいます。
そんなことをぼんやりと感じながら独立して一つ目の建築が立ち現れたとき、なんとも懐柔できないばつの悪さのようなものを感じました。一人で盲目的に取り組んだことによる偏りが、真夜中に描いたスケッチを翌朝冷静に見た時のような感覚を自分に与えました。そんな折、ある写真家がその建築の写真を鬼気迫る集中力で撮りながら「なんとなくわかってきた」という言葉をぽつりと呟きました。見ることに秀でた人が写真家となるのだと実感する場面でもありました。出来上がったその人の写真を通して、僕はその建築に少し近づけたように思います。その後、映像作家や音楽家や美術家など何人かの作家達がその空間を訪れ、そこで得たインスピレーションを元に作品を作ってくれました。それらもまた、自分がその空間との距離感を自覚的に測る助けとなってくれました。その作品達を開示する場として1日限りの展示会を開催したものが『HOUSEPLAYING No.01 VIDEO』になります。
自分が設計していながら出現したものとのあいだに生まれた隔たりの大きさに戸惑っていた僕は、自分以外の他者の目や耳や手によって現れた作品という事物を通してその建築をようやく客観視することができたのだと思います。
物事が現実の世界に現れた時、それは自ずと何かと関係づけられる宿命を負ってしまいます。それは人が一人で生きられないことや、言葉が世界の認識に影響を与えてしまうこと、今この時点に出現したものでさえ過去や未来と関わりをもつこととも近いかもしれません。
そのように、関連づいてしまうということ、関係をもてるということに僕は恐さと希望を感じています。そして、その関係によって生まれる事象・事物どうしの“あいだ(間)”をどう捉えるのか、そこにどういった距離を与えるのか、という問いに、建築や空間という事象を人間の問題に引き寄せるための手がかりとしての可能性を感じています。『HOUSEPLAYING』は、その一つの試みとして今の自分の中で位置付けられています。
(ゆあさ りょうすけ)
■湯浅良介 YUASA Ryosuke
1982年東京都生まれ。Office Yuasa主宰。一級建築士、修士(美術)。2010年東京藝術大学大学院修士課程修了。内藤廣建築設計事務所を経て、2018年Office Yuasaを主宰。2019年から東京藝術大学教育研究助手、2022年から多摩美術大学非常勤講師。主な受賞歴に東京藝術大学吉田五十八修了制作賞受賞、東京建築コレクション内藤廣賞受賞など。
HP: www.yuasaryosuke.com
INSTAGTAM: https://www.instagram.com/yuasaryosuke/
●『Houseplaying No.01 Video』頒布のご案内

『Houseplaying No.01 Video』
刊行年:2022年
ブックデザイン: 牧野正幸
仕様:A5判(148 × 210 mm)、288頁、ソフトカバー
出版:湯浅良介(Office Yuasa)
価格: 4,500円(税込)+送料250円
*ときの忘れもので扱っています。
出展者:湯浅良介、高野ユリカ、川越健太、大村高広、梅原徹、成定由香沙、堤有希、植田実
寄稿者:中山英之、湯浅良介、高野ユリカ、川越健太、大村高広、梅原徹、成定由香沙、堤有希、門脇耕三
写真:高野ユリカ、川越健太
ドキュメント:徳山史典、成定由香沙
ビデオ:梅原徹、成定由香沙
ドローイング:湯浅良介
2022年1月に、建築家の湯浅良介が設計した住宅《FLASH》で行われた展覧会「HOUSEPLAYING」の記録本です。
この展覧会は、住人が生活している空間の中で開催され、「VIDEO(ラテン語で私は視るの意)」というテーマを与えられた複数の作家が《FLASH》を起点として作品をつくり、展示し、ビジターを迎えました。住人の生活空間が凍結されたような空間に、住人と全く関係を持たないビジターが足を踏み入れ、《FLASH》/住人の所有物/各作家による作品との間を行き来する、多層的な構造を持つ展示空間でした。
本書では、展覧会のテーマである「VIDEO」を主軸に、テキスト/写真/ドキュメント/ドローイングなどの異なる時間軸を持つ「記録」から生まれたエレメントを用い、包括的な時空間を持つオブジェクトとして本を構築しています。これは、「そこにいた/いなかった」という地平に依らず、本を手にするビジターと新たに共有可能な展示空間を現出させ、「記録」の還元主義から逃れる試みです。(概要文:牧野正幸)





●倉俣史朗の限定本『倉俣史朗 カイエ Shiro Kuramata Cahier 1-2 』を刊行しました。
限定部数:365部(各冊番号入り)
監修:倉俣美恵子、植田実
執筆:倉俣史朗、植田実、堀江敏幸
アートディレクション&デザイン:岡本一宣デザイン事務所
体裁:25.7×25.7cm、64頁、和英併記、スケッチブック・ノートブックは日本語のみ
価格:7,700円(税込) 送料1,000円
詳細は3月24日ブログをご参照ください。
お申込みはこちらから
●ジョナス・メカスの映像作品27点を収録した8枚組のボックスセット「JONAS MEKAS : DIARIES, NOTES & SKETCHES VOL. 1-8 (Blu-Ray版/DVD版)」を販売しています。

各作品の撮影形式:16mmフィルム、ビデオ
制作年:1963~2014年
合計再生時間:1,262分
価格等については、3月4日ブログをご参照ください。
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊
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