世田谷美術館で開催中のコレクション展「山口勝弘と北代省三展 イカロスの夢」の様子をレポートいたします。

山口勝弘が2001年に脳梗塞で倒れた後の作品群と、北代省三の制作した凧・グライダーを中心に、〈実験工房〉に所属したメンバーの作品を紹介する同展。2階展示室に入り、まず出迎えてくれるのは山口勝弘の作品です。
長い白ひげをたくわえた肖像写真を中心に据える《ミイラと私》や、どこか夏らしい色味で人物のさまざまな表情を描写した「顔曼荼羅シリーズ」からは、氏が闘病で車椅子生活を余儀なくされていたという事実を忘れそうなほど、伸びやかで自由な印象を受けます。

《ミイラと私》2007年

「顔曼荼羅シリーズ」展示風景
続く「イカロスシリーズ」は、ギリシャやエーゲ海など、イカロスの伝説に関わりのある言葉がタイトルに付された作品群。今回のコレクション展を担当された学芸員の野田尚稔氏によると、「イカロスシリーズ」に顕著な短い筆のタッチは、「飛んでいるときの感覚」を表現しているのだそう。山口にとって若いころからのテーマであった「反重力」は、後年の作品群にも通じていたようです。

《宇宙から飛んできた素粒子》2008年/「イカロスシリーズ」の作品の随所には蛍光塗料が使用されており、ブラックライトを当てると色が変化する仕組みになっているのだそう

《エーゲの海鳴》2009年
展示室前で無料配布されている冊子には、山口が幼いころに飛行船や飛行機を見た際の体験談が掲載されていました。

山口の「飛んでいるときの感覚」を胸に展示室を奥へと進むと、続いて視界に飛び込んでくるのが北代省三の制作した凧やグライダーです。

野田氏によれば、北代はシュルレアリスムの影響を受ける作家が多い時代において「異質」の存在だったといいます。展示室に飾られている沢山の凧やグライダーは一見シンプルな構造に見えますが、北代はこの凧の制作のため「数センチの面積に対してどのくらいの風が当たるのか」などと緻密な計算を重ねたほか、飛行機の歴史までをも学んでいたのだそうです。

雑誌に掲載された凧の作り方についての文章。北代は元々エンジニアの仕事をしていたという
1976年には美術出版社から『模型飛行機入門』なる書籍を出版し、もはや科学者のような域に達した本格的な凧制作。配布冊子に記載されている北代氏の文章では、その原体験について知ることができました。

《凧》制作年不詳

展示にあたっては、2013年に川崎市岡本太郎美術館で開催された「かたちとシミュレーション 北代省三の写真と実験」展の空間を参考にされたのだとか
福島秀子、駒井哲郎、大辻清司、武満徹の作品群も鑑賞し、満ち足りた気分で美術館を出ると、すぐ横に広がるのは砧公園。展示を鑑賞した後、早速広場で凧を飛ばしてみるのも気持ちがいいかもしれません。加えて今回の展示の前後にぜひ訪れてほしいのが、世田谷美術館と用賀駅の間を通る「いらか道」です。

いらか道
いらか道は、路面に瓦を敷いた散歩道。この道の瓦を制作した山田脩二氏は、なんと今回の展示内で紹介されていた山口勝弘の作品《瓦版によるフロッタージュ作品》の瓦も制作されているのだそう。

左から:《イカロスシリーズ コンポジション》《瓦版によるフロッタージュ作品 No.1》《瓦版によるフロッタージュ作品 No.2》

いらか道の路面。山田氏は山口勝弘のアトリエのある淡路島に瓦を焼く窯を持っている
空に思いを馳せた二作家のことを反芻しながら、足元にも目を凝らす、忙しくも充実した帰り道を満喫しました。
(いどぬま きみ)
「山口勝弘と北代省三展 イカロスの夢」
会期:2023年4月22日(土)~7月23日(日)
開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日:毎週月曜日 ※5月1日(月)、7月17日(月・祝)は開館、7月18日(火)は休館
会場:世田谷美術館 2階展示室
料金:一般 200円/65歳以上 100円/大高生 150円/中小生 100円
●ジョナス・メカスの映像作品27点を収録した8枚組のボックスセット「JONAS MEKAS : DIARIES, NOTES & SKETCHES VOL. 1-8 (Blu-Ray版/DVD版)」を販売しています。
映像フォーマット:Blu-Ray、リージョンフリー/DVD PAL、リージョンフリー
各作品の撮影形式:16mmフィルム、ビデオ
制作年:1963~2014年
合計再生時間:1,262分
価格等については、3月4日ブログをご参照ください。
●倉俣史朗の限定本『倉俣史朗 カイエ Shiro Kuramata Cahier 1-2 』を刊行しました。
限定部数:365部(各冊番号入り)
監修:倉俣美恵子、植田実
執筆:倉俣史朗、植田実、堀江敏幸
アートディレクション&デザイン:岡本一宣デザイン事務所
体裁:25.7×25.7cm、64頁、和英併記、スケッチブック・ノートブックは日本語のみ
価格:7,700円(税込) 送料1,000円
詳細は3月24日ブログをご参照ください。
お申込みはこちらから
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊

山口勝弘が2001年に脳梗塞で倒れた後の作品群と、北代省三の制作した凧・グライダーを中心に、〈実験工房〉に所属したメンバーの作品を紹介する同展。2階展示室に入り、まず出迎えてくれるのは山口勝弘の作品です。
長い白ひげをたくわえた肖像写真を中心に据える《ミイラと私》や、どこか夏らしい色味で人物のさまざまな表情を描写した「顔曼荼羅シリーズ」からは、氏が闘病で車椅子生活を余儀なくされていたという事実を忘れそうなほど、伸びやかで自由な印象を受けます。

《ミイラと私》2007年

「顔曼荼羅シリーズ」展示風景
続く「イカロスシリーズ」は、ギリシャやエーゲ海など、イカロスの伝説に関わりのある言葉がタイトルに付された作品群。今回のコレクション展を担当された学芸員の野田尚稔氏によると、「イカロスシリーズ」に顕著な短い筆のタッチは、「飛んでいるときの感覚」を表現しているのだそう。山口にとって若いころからのテーマであった「反重力」は、後年の作品群にも通じていたようです。

《宇宙から飛んできた素粒子》2008年/「イカロスシリーズ」の作品の随所には蛍光塗料が使用されており、ブラックライトを当てると色が変化する仕組みになっているのだそう

《エーゲの海鳴》2009年
展示室前で無料配布されている冊子には、山口が幼いころに飛行船や飛行機を見た際の体験談が掲載されていました。

山口の「飛んでいるときの感覚」を胸に展示室を奥へと進むと、続いて視界に飛び込んでくるのが北代省三の制作した凧やグライダーです。

野田氏によれば、北代はシュルレアリスムの影響を受ける作家が多い時代において「異質」の存在だったといいます。展示室に飾られている沢山の凧やグライダーは一見シンプルな構造に見えますが、北代はこの凧の制作のため「数センチの面積に対してどのくらいの風が当たるのか」などと緻密な計算を重ねたほか、飛行機の歴史までをも学んでいたのだそうです。

雑誌に掲載された凧の作り方についての文章。北代は元々エンジニアの仕事をしていたという
1976年には美術出版社から『模型飛行機入門』なる書籍を出版し、もはや科学者のような域に達した本格的な凧制作。配布冊子に記載されている北代氏の文章では、その原体験について知ることができました。

《凧》制作年不詳

展示にあたっては、2013年に川崎市岡本太郎美術館で開催された「かたちとシミュレーション 北代省三の写真と実験」展の空間を参考にされたのだとか
福島秀子、駒井哲郎、大辻清司、武満徹の作品群も鑑賞し、満ち足りた気分で美術館を出ると、すぐ横に広がるのは砧公園。展示を鑑賞した後、早速広場で凧を飛ばしてみるのも気持ちがいいかもしれません。加えて今回の展示の前後にぜひ訪れてほしいのが、世田谷美術館と用賀駅の間を通る「いらか道」です。

いらか道
いらか道は、路面に瓦を敷いた散歩道。この道の瓦を制作した山田脩二氏は、なんと今回の展示内で紹介されていた山口勝弘の作品《瓦版によるフロッタージュ作品》の瓦も制作されているのだそう。

左から:《イカロスシリーズ コンポジション》《瓦版によるフロッタージュ作品 No.1》《瓦版によるフロッタージュ作品 No.2》

いらか道の路面。山田氏は山口勝弘のアトリエのある淡路島に瓦を焼く窯を持っている
空に思いを馳せた二作家のことを反芻しながら、足元にも目を凝らす、忙しくも充実した帰り道を満喫しました。
(いどぬま きみ)
「山口勝弘と北代省三展 イカロスの夢」
会期:2023年4月22日(土)~7月23日(日)
開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日:毎週月曜日 ※5月1日(月)、7月17日(月・祝)は開館、7月18日(火)は休館
会場:世田谷美術館 2階展示室
料金:一般 200円/65歳以上 100円/大高生 150円/中小生 100円
●ジョナス・メカスの映像作品27点を収録した8枚組のボックスセット「JONAS MEKAS : DIARIES, NOTES & SKETCHES VOL. 1-8 (Blu-Ray版/DVD版)」を販売しています。

各作品の撮影形式:16mmフィルム、ビデオ
制作年:1963~2014年
合計再生時間:1,262分
価格等については、3月4日ブログをご参照ください。
●倉俣史朗の限定本『倉俣史朗 カイエ Shiro Kuramata Cahier 1-2 』を刊行しました。
限定部数:365部(各冊番号入り)
監修:倉俣美恵子、植田実
執筆:倉俣史朗、植田実、堀江敏幸
アートディレクション&デザイン:岡本一宣デザイン事務所
体裁:25.7×25.7cm、64頁、和英併記、スケッチブック・ノートブックは日本語のみ
価格:7,700円(税込) 送料1,000円
詳細は3月24日ブログをご参照ください。
お申込みはこちらから
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊
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