子供たちが駆け回る緑豊かな北浦和公園。その敷地内に位置する埼玉県立近代美術館で、現在「横尾龍彦 瞑想の彼方」展が開催されています。

横尾龍彦(1928-2015)は、日本とドイツを往来しながら活動し、晩年は埼玉のアトリエを拠点にした画家。今回の展示では、約90点の作品と共にそのキャリアの全貌が紹介されています。
まず鑑賞者を迎え入れるのは1960年代~1970年代前半に描かれた作品群。日本画家である父の仕事にともなって日本統治下の台湾で数年を過ごしたのち福岡に移った横尾は、戦後間もない苦しい生活のなか、キリスト教に救いを見出すようになったといいます。神話や聖書を題材とした幻想画からは、崇高な美しさと怪しさの両方が感じられ、見つめているうちに絵の中に吸い込まれそうな引力を感じました。

《ラ・ボム》1965年

《秘儀》1970年

1965年に渡欧したのちパリやジュネーヴでおよそ1年西洋美術を研究したという横尾は、帰国後東京の青木画廊でも個展を開催。当時の印刷物には、澁澤龍彦や種村季弘による寄稿文も掲載されている
続いて紹介されるのは、1976年から神奈川県逗子に居を構えた横尾が制作した「青の時代」の作品群。まずは鮮やかな青に目を奪われる一方、作品の下部に残されたどこか暗然とした描写からは、幻想画の作品群にも通ずるようなニュアンスを受け取りました。

《黙示録 ゴグとマゴグ》1977年
更に印象に残ったのは、「青の時代」以降の横尾の動向です。70年代後半から実践してきた禅の成果が現れてくるとともに、ドイツで活動する日本人としてのアイデンティティを見つめ直した横尾は、徐々に具体的なモチーフを離れ、書を思わせる筆の動きなどを前面に出した抽象表現へと転向。80年代後半~90年代の作風は幻想画とも「青の時代」の作品とも全く異なっており、その潔さと推進力に驚かされました。

90年代後半からは「自己無化」をいっそう追求したという横尾。屋外で風の吹く中、顔料の粉末を振りまきながら作品を制作するパフォーマンス映像からは、自意識を捨て、大きな流れに身を委ねようとする姿勢が伝わってくるようでした。そしてそうした「即興」の過程を経て完成した作品群も、しっかりとエネルギーの満ちた佇まいになっているのです。

80年代後半から晩年まで、人知れず聖像制作も行ってきたという横尾龍彦。いっけん変幻自在なキャリアの裏側で、作家が一貫して信じ続けていたものの気配も感じられる、豊かな鑑賞体験でした。
*
同時開催されている現在のコレクション展は、海をテーマにした作品を紹介する『MOMASノ海』。駒井哲郎、日和崎尊夫らの作品から、スクリプカリウ落合安奈など現役作家の作品までがバランスよく配置され、ボードレール、中原中也らの詩と共に溶け合う、居心地の良い空間が広がっていました。

ヨナタン・デ・パス、ドナート・ドゥルビーノ、パオロ・ロマッツィ、カルラ・スコラーリ《ブロウ》、木村直道《蟹》
『横尾龍彦 瞑想の彼方』
2023.7.15[土] - 9.24[日]
休館日:月曜日(ただし8月14日、9月18日は開館)
開館時間:10:00 ~ 17:30 (展示室への入場は17:00まで)
料金:一般1000円、大高生800円
MOMASコレクション『MOMASノ海』
2023.5.13[土] - 8.27[日]
休館日:月曜日(ただし8月14日は開館)
開館時間:10:00~17:30(展示室への入場は17:00まで)
料金:一般200円、大高生100円(7月15日~8月27日は無料)
---------------------------
●本日8月6日(日)と明日7日(月)は休廊日です。
●ときの忘れものが販売しているジョナス・メカスの映像作品27点を収録した8枚組のボックスセット「JONAS MEKAS : DIARIES, NOTES & SKETCHES VOL. 1-8 (Blu-Ray版/DVD版)」が今年度の『ボローニャ復元映画祭(Il Cinema Ritrovato)』で「ベストボックスセット賞」を受賞しました。
映像フォーマット:Blu-Ray、リージョンフリー/DVD PAL、リージョンフリー
各作品の撮影形式:16mmフィルム、ビデオ
制作年:1963~2014年
合計再生時間:1,262分
価格:
Blu-Ray版:18,000円(税込)
DVD版:15,000円(税込)
商品の詳細は3月4日ブログをご参照ください。
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊

横尾龍彦(1928-2015)は、日本とドイツを往来しながら活動し、晩年は埼玉のアトリエを拠点にした画家。今回の展示では、約90点の作品と共にそのキャリアの全貌が紹介されています。
まず鑑賞者を迎え入れるのは1960年代~1970年代前半に描かれた作品群。日本画家である父の仕事にともなって日本統治下の台湾で数年を過ごしたのち福岡に移った横尾は、戦後間もない苦しい生活のなか、キリスト教に救いを見出すようになったといいます。神話や聖書を題材とした幻想画からは、崇高な美しさと怪しさの両方が感じられ、見つめているうちに絵の中に吸い込まれそうな引力を感じました。

《ラ・ボム》1965年

《秘儀》1970年

1965年に渡欧したのちパリやジュネーヴでおよそ1年西洋美術を研究したという横尾は、帰国後東京の青木画廊でも個展を開催。当時の印刷物には、澁澤龍彦や種村季弘による寄稿文も掲載されている
続いて紹介されるのは、1976年から神奈川県逗子に居を構えた横尾が制作した「青の時代」の作品群。まずは鮮やかな青に目を奪われる一方、作品の下部に残されたどこか暗然とした描写からは、幻想画の作品群にも通ずるようなニュアンスを受け取りました。

《黙示録 ゴグとマゴグ》1977年
更に印象に残ったのは、「青の時代」以降の横尾の動向です。70年代後半から実践してきた禅の成果が現れてくるとともに、ドイツで活動する日本人としてのアイデンティティを見つめ直した横尾は、徐々に具体的なモチーフを離れ、書を思わせる筆の動きなどを前面に出した抽象表現へと転向。80年代後半~90年代の作風は幻想画とも「青の時代」の作品とも全く異なっており、その潔さと推進力に驚かされました。

90年代後半からは「自己無化」をいっそう追求したという横尾。屋外で風の吹く中、顔料の粉末を振りまきながら作品を制作するパフォーマンス映像からは、自意識を捨て、大きな流れに身を委ねようとする姿勢が伝わってくるようでした。そしてそうした「即興」の過程を経て完成した作品群も、しっかりとエネルギーの満ちた佇まいになっているのです。

80年代後半から晩年まで、人知れず聖像制作も行ってきたという横尾龍彦。いっけん変幻自在なキャリアの裏側で、作家が一貫して信じ続けていたものの気配も感じられる、豊かな鑑賞体験でした。
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同時開催されている現在のコレクション展は、海をテーマにした作品を紹介する『MOMASノ海』。駒井哲郎、日和崎尊夫らの作品から、スクリプカリウ落合安奈など現役作家の作品までがバランスよく配置され、ボードレール、中原中也らの詩と共に溶け合う、居心地の良い空間が広がっていました。

ヨナタン・デ・パス、ドナート・ドゥルビーノ、パオロ・ロマッツィ、カルラ・スコラーリ《ブロウ》、木村直道《蟹》
『横尾龍彦 瞑想の彼方』
2023.7.15[土] - 9.24[日]
休館日:月曜日(ただし8月14日、9月18日は開館)
開館時間:10:00 ~ 17:30 (展示室への入場は17:00まで)
料金:一般1000円、大高生800円
MOMASコレクション『MOMASノ海』
2023.5.13[土] - 8.27[日]
休館日:月曜日(ただし8月14日は開館)
開館時間:10:00~17:30(展示室への入場は17:00まで)
料金:一般200円、大高生100円(7月15日~8月27日は無料)
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●本日8月6日(日)と明日7日(月)は休廊日です。
●ときの忘れものが販売しているジョナス・メカスの映像作品27点を収録した8枚組のボックスセット「JONAS MEKAS : DIARIES, NOTES & SKETCHES VOL. 1-8 (Blu-Ray版/DVD版)」が今年度の『ボローニャ復元映画祭(Il Cinema Ritrovato)』で「ベストボックスセット賞」を受賞しました。

各作品の撮影形式:16mmフィルム、ビデオ
制作年:1963~2014年
合計再生時間:1,262分
価格:
Blu-Ray版:18,000円(税込)
DVD版:15,000円(税込)
商品の詳細は3月4日ブログをご参照ください。
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊
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