佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第81回
二人展「グルグル広がって上がっていく」による区切り
9月後半は東京の浅草橋のスペース+BASEにて、沖縄の建築家・五十嵐敏恭さんとの二人展「グルグル広がって上がっていく」を開催していて、会期中おおよそ在廊していた。その際は横浜にある実家から会場まで毎日電車に乗って通っていたので、さながら都市型出勤の体裁をなしていた。福島にいる時にはほとんど電車に乗ることは無い。なので子どものころから乗っていた東海道線がなんだかとても新鮮で、そしてけっこう疲れた。
展示会場の様子は写真家の楠瀬友将さんに撮ってもらった写真がArchitecturephotoに掲載されている(https://architecturephoto.net/190634/)。改めて会場写真を眺めてみると、おや、もうどうやら自分の記憶がポツポツと剥がれ落ちて、忘れ始めているような気がしてくる。会場で得られた、五十嵐さんと佐藤それぞれの制作物が対峙・並置されていた時のあの微かな緊張が、既に遠くなったような気がする。本当ならば、会期中に得たその生生しい感触を次の創作に直ぐに反映するべきなのだ。そう思って今この文章を必死に書き留めている。
五十嵐建築はやはりドッシリと構えて着実に深度を高め続けようとしているのを展示で改めて確認できた。新たな拠点である具志頭の工房も、鉄骨造の軽そうで仮設的な在り方ながら、建築の秩序と統合性が入念に検討された全体像が提示されていた。

(STUDIO COCHI ARCHITECTS「具志頭の工房」模型)
一方、並べ立てられた佐藤(コロガロウ)の建築、各種制作物はやはり、どこか道化のように、浮き足立っていたように思えた。だがここで諦めずに踏ん張るならば、道化→→ファルス→→安吾→、などと思考を連ねることで、自分ができること、やり続けるべきことの輪郭がボンヤリと掴み取れてきたことも確かな成果であった。

(コロガロウ「二宮町の仮屋Ⅰ、Ⅱ」模型(一部))
二人展とはどうやらコラボレーションであり、同時にガチンコな対立でもあった。今回の展示ではさらに、五十嵐・佐藤の二人がどのように対話を始めるかの形式も二人で模索しなければならなかった。その模索の様子は(かなり簡潔にまとめられて、)展示カタログ『グルグル広がって上がっていく』(編集:岡本雄大)の冒頭に収録されている。
展示を撤収させ、福島の自宅に帰った時には、福島はすでに秋になっていた。夜と朝にはもう靴下を履いていないと寒い季節がやって来ていた。今、少し大きな実施設計の仕事を終えようとしている。そして少し待ってもらってもいたいくつかの現場仕事が目前にある。これから始まりそうなプロジェクトもあるし、大阪万博の建設も控えている。そしてもちろん、今回の提示した拠点プロジェクトは怠けず実現にむけて進めていかなければならない。
展覧会という瞬間的な興行が、自分の活動にテンポと区切りをもたらしてくれるのも、大変ではあるが面白い。おそらくしばらく二人展のような形式はないかもしれないが、これからも展覧会という機会は大事にしていきたい。
(さとう けんご)
■展示カタログ『グルグル広がって上がっていく』を
ころがろう書店オンラインストアにて限定販売中です。
詳細はこちら→ https://korogarobook.stores.jp/items/651b59bf597398134ad189e5

■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2022年3月ときの忘れもので二回目となる個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を開催。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●本日のお勧め作品は佐藤研吾です。

《空洞を背負う》
2022年
画用紙に鉛筆、顔彩
20.0×21.0cm/36.0×36.0cm
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

二人展「グルグル広がって上がっていく」による区切り
9月後半は東京の浅草橋のスペース+BASEにて、沖縄の建築家・五十嵐敏恭さんとの二人展「グルグル広がって上がっていく」を開催していて、会期中おおよそ在廊していた。その際は横浜にある実家から会場まで毎日電車に乗って通っていたので、さながら都市型出勤の体裁をなしていた。福島にいる時にはほとんど電車に乗ることは無い。なので子どものころから乗っていた東海道線がなんだかとても新鮮で、そしてけっこう疲れた。
展示会場の様子は写真家の楠瀬友将さんに撮ってもらった写真がArchitecturephotoに掲載されている(https://architecturephoto.net/190634/)。改めて会場写真を眺めてみると、おや、もうどうやら自分の記憶がポツポツと剥がれ落ちて、忘れ始めているような気がしてくる。会場で得られた、五十嵐さんと佐藤それぞれの制作物が対峙・並置されていた時のあの微かな緊張が、既に遠くなったような気がする。本当ならば、会期中に得たその生生しい感触を次の創作に直ぐに反映するべきなのだ。そう思って今この文章を必死に書き留めている。
五十嵐建築はやはりドッシリと構えて着実に深度を高め続けようとしているのを展示で改めて確認できた。新たな拠点である具志頭の工房も、鉄骨造の軽そうで仮設的な在り方ながら、建築の秩序と統合性が入念に検討された全体像が提示されていた。

(STUDIO COCHI ARCHITECTS「具志頭の工房」模型)
一方、並べ立てられた佐藤(コロガロウ)の建築、各種制作物はやはり、どこか道化のように、浮き足立っていたように思えた。だがここで諦めずに踏ん張るならば、道化→→ファルス→→安吾→、などと思考を連ねることで、自分ができること、やり続けるべきことの輪郭がボンヤリと掴み取れてきたことも確かな成果であった。

(コロガロウ「二宮町の仮屋Ⅰ、Ⅱ」模型(一部))
二人展とはどうやらコラボレーションであり、同時にガチンコな対立でもあった。今回の展示ではさらに、五十嵐・佐藤の二人がどのように対話を始めるかの形式も二人で模索しなければならなかった。その模索の様子は(かなり簡潔にまとめられて、)展示カタログ『グルグル広がって上がっていく』(編集:岡本雄大)の冒頭に収録されている。
展示を撤収させ、福島の自宅に帰った時には、福島はすでに秋になっていた。夜と朝にはもう靴下を履いていないと寒い季節がやって来ていた。今、少し大きな実施設計の仕事を終えようとしている。そして少し待ってもらってもいたいくつかの現場仕事が目前にある。これから始まりそうなプロジェクトもあるし、大阪万博の建設も控えている。そしてもちろん、今回の提示した拠点プロジェクトは怠けず実現にむけて進めていかなければならない。
展覧会という瞬間的な興行が、自分の活動にテンポと区切りをもたらしてくれるのも、大変ではあるが面白い。おそらくしばらく二人展のような形式はないかもしれないが、これからも展覧会という機会は大事にしていきたい。
(さとう けんご)
■展示カタログ『グルグル広がって上がっていく』を
ころがろう書店オンラインストアにて限定販売中です。
詳細はこちら→ https://korogarobook.stores.jp/items/651b59bf597398134ad189e5

■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2022年3月ときの忘れもので二回目となる個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を開催。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●本日のお勧め作品は佐藤研吾です。

《空洞を背負う》
2022年
画用紙に鉛筆、顔彩
20.0×21.0cm/36.0×36.0cm
サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

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