杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」第91回

民間防衛センター


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ひょんなことから、スイスのグラウビュンデン州にある民間防衛センター(CIvil Defense Center)を訪れました。

民間防衛センター。少し堅苦しくも聞こえる言葉ですが、wikipediaによれば、
「民間防衛(みんかんぼうえい、英語: civil defense)とは、武力紛争等の緊急事態において市民によって国民の生命及びインフラストラクチャーや公共施設、産業などの財産を守り、速やかな救助、復旧によって被害を最小化することを主目的とする諸活動をいう」とあります。

スイスでは、日本と違って兵役義務があります。ただ、兵役に供することのできない何らかの理由がある場合、ないし、そもそも武器を持って兵役に行きたくない人たちは代わりに民間防衛センターで研修することもできます。ここでの研修ははじめに集中して二週間、その後は定期的に研修することになっているそうです。

防衛は武器をもって前線にいる兵役をサポートし、自然災害で人々を救助したりすることの訓練、また復旧すべき配線などを行う訓練、そして老後施設や助けが必要な施設へ向かい、そこで実際に研修。と3つのグループに分かれています。自然災害で人々を救助するグループは、コンクリートや瓦礫を砕いたり、時には重機を使ったりするので、職業訓練学校へ通っている、例えば大工見習いの青年たちが選ばれます。そうでないと、二週間の研修で電動工具や機械の正しい使い方、実践を学ぶには時間が限られているからです。

研修の義務は男子のみですが、今は3人の女子が有志で参加し、今後も増えていくだろうという話を聞きました。オレンジの背景に青い三角のマークが世界共通の目印です。。と僕はここで何かを語るほど多くの知識も持ち合わせていないのですが、だからこそ、今設計中の民間防衛センターを理解するために、実際に一日体験することになったのです。

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プロジェクトは老朽化した現状建物の建て替えです。現在のコンクリート造とは打って変わって、新しい建物は木造三階建てになります。地上最高高さ11m、各階面積が900㎡以下であれば避難経路や防火区画などの規制が少ないので、躯体は60分耐火、集成材にして約42mmの燃えしろをとって計画できます。敷地は谷底にある(写真で画面下の影と光のラインができている辺り)ので、建物の真ん中にアトリウムを設けて、内側からも諸室に光を取り入れることを計画しています。

また、この建物をネットゼロを目標に、機械による換気を最小限に留め、自然換気する計画をしています。

プロジェクトは基本設計を終えて実施設計に入ろうという段階です。
詳しくはまた別の機会に紹介していきたいと思います。

(すぎやま こういちろう)

杉山幸一郎 SUGIYAMA Koichiro
日本大学、東京藝術大学大学院にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学に留学。2014年から2021年までアトリエピーターズントー。現在、スイス連邦工科大学チューリッヒ校で設計を教える傍ら、建築設計事務所atelier tsuを共同主宰。2022年1月ときの忘れものにて初個展「杉山幸一郎展スイスのかたち、日本のかたち」を開催、カタログを刊行。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。

・ 杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。

●本日のお勧め作品は杉山幸一郎です。
sugiyama-hall01
"Hall 01" 
2020年
洋ナシ材、シッポ材、アルミ
7.0×9.8×11.0cm
Ed.1
サインあり
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●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com 
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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