倉俣史朗先生が急逝されたのは1991年2月1日、まだ56歳の若さでした。
私たちが磯崎新先生の指示で倉俣先生のお手伝いをしたのは1983年でした。

つくばセンタービルは磯崎新先生の設計により筑波研究学園都市センター地区の中核施設として1980年(昭和55年)6月に着工、1983年(昭和58年)6月に竣工しました。
竣工当初、第一ホテルが入り、その内装は倉俣史朗先生が担当されました。
当時渋谷の桜ヶ丘にあった私たちの事務所(現代版画センター)に磯崎アトリエのチーフだった藤江秀一さんと倉俣先生が来廊され、ホテル客室に飾る版画作品を一点一点選ばれました。
元永定正、オノサト・トシノブ、堀浩哉など、倉俣先生が選んだ版画を私たちは徹夜でオープン前日の深夜に飾り付けをしたことを昨日のように思い出します。

資料_新建築_表紙600『新建築』1983年11月号には、竣工当初の「筑波第一ホテル」の客室が紹介されており、堀浩哉「公園」などの版画が飾られているのがわかります。
ホテルの部屋のライティングデスク椅子鏡(黒)"Chair C"(角パイプのアームチェア)などは倉俣先生のオリジナルデザインです。

20200512つくばセンタービルスイートルーム筑波第一ホテルのスイート・ルーム
手前の椅子が倉俣史朗デザインの「Chair C」、正面壁面の3点は磯崎新のレリーフ作品

20200512つくばセンタービルシングルルーム同シングル・ルーム
右の「鏡」「ライティングデスク」、椅子は倉俣史朗デザイン

20200512つくばセンタービルツインルーム同ツイン・ルーム
「椅子」は倉俣史朗デザイン、
左壁面の版画作品は堀浩哉「公園」

倉俣史朗「つくば鏡」倉俣史朗「鏡(木地)
1983年
H80.0×W50.0×D5.5cm

20200512つくばセンタービル説明

磯崎先生は「つくば」には格別の愛着があり、竣工と同時に私たちの希望に応じて版画を制作してくれました。
最初に版画にしたのは銅版画です(版元は現代版画センター)。

DSC_0417
磯崎新 Arata ISOZAKI
"TSUKUBA A"
1983年
銅版・エッチング(刷り:山村兄弟版画工房)
イメージサイズ:10.0×16.9cm
Ed.200
サインあり
*現代版画センター・エディション

isozaki_16_tsukuba_b
磯崎新 Arata ISOZAKI
"TSUKUBA B"
1983年
銅版・エッチング(刷り:山村兄弟版画工房)
イメージサイズ:10.0×16.9cm
Ed.53
サインあり
*現代版画センター・エディション
http://blog.livedoor.jp/tokinowasuremono/archives/53454020.html


次に磯崎先生が手掛けたのはシルクスクリーンです。
竣工当時、廃墟化したつくばセンタービルのパース図が公表されたことも話題になりましたが、まさに「廃墟化したTSUKUBA」がモチーフです。
1985年にシルクスクリーンによる連作3点が生まれたのですが、この3点に関しては私たちはまったく関与していません。1985年2月現代版画センターが倒産し、必然的に磯崎版画の制作からしばらく遠ざかることになってしまいました。そのときアメリカの某社による依頼で生まれたのが、シルクスクリーンによるTSUKUBA連作3点でした。
他の作品同様、刷りは名手・石田了一さんです。

AAA_0317のコピー
磯崎新 Arata ISOZAKI
"TSUKUBA I"
1985年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:56.0×56.0cm
シートサイズ:76.0×61.5cm
Ed.75
サインあり

トリミング
磯崎新 Arata ISOZAKI
"TSUKUBA II"
1985年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:56.0×56.0cm
シートサイズ:76.0×61.5cm
Ed.75
サインあり

トリミングのコピー
磯崎新 Arata ISOZAKI
"TSUKUBA III"
1985年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:56.0×56.0cm
シートサイズ:76.0×61.5cm
Ed.75
サインあり

この3点は磯崎先生の本の表紙や雑誌に掲載されているので、ご存知の方も多いのですが、実は日本国内にはほとんど存在しません。限定75部の番号入りすべて(または、大半が)が米国某社に送られ、その後行方不明になってしまった・・・・
刷り師の石田了一さんに古い記録(納品書)をひっくり返してもらったところ、昭和60年3月8日、この作品は各80部が完成し、磯崎アトリエに納品されています(番号入り75部+作家保存用AP3部+刷り師保存用2部)。
磯崎新先生がサインされ、3種類がアメリカに送られたところまではわかっていますが、その後、この作品の行方は杳として知れない。
私自身、この作品の番号入りをただの一点も見たことがありません。
上掲は刷りを担当した石田了一さんのPP(プリンター・プルーフ)です。
版画の限定番号(通常は画面左下に記入)というのは作家自身が記入する場合と、他者(多くは版元)が記入する場合とがあり、ともにルールとして認められています。磯崎版画のほとんどのサインに私は立ち会っています。磯崎先生自らサインとともに限定番号を入れた場合と、他者(多くはうちの社長)が記入した場合があります。
しかし、「TSUKUBA Ⅰ~Ⅲ」に関しては、私たちは関与していないので、磯崎先生がサインのときに限定番号も一緒に記入されたのか、それともアメリカの某社の担当者が限定番号を入れたのか、実物がない以上、いまとなっては霧の彼方です。

ときの忘れものが青山を経て駒込に移転したのは2017年ですが、偶然ですが倉俣先生はこの街で生まれ、直ぐ近くの昭和小学校を卒業されています。
来年生誕90年を迎える倉俣先生の大規模な回顧展が世田谷美術館を皮切りに、富山、京都の各美術館で巡回開催されます。
私たちはゆかりの地で「倉俣史朗展」を開催できる幸運を噛みしめています。

◆「倉俣史朗展」
会期=2023年12月8日(金)~23日(土)11:00-19:00 日曜・月曜・祝日休み
会場:ときの忘れもの
出品作品と価格については11月25日ブログに掲載しました。
現在エディション進行中のシルクスクリーン作品集『倉俣史朗 Shiro Kuramata Cahier』1集2集3集、1979年東京国際版画ビエンナーレ出品の貴重なオリジナル版画《無極Ⅱ》、1983年磯崎新設計の筑波第一ホテルの客室用鏡、1989年パリの個展のために制作した"Cabinet de Curiosite"はじめ、椅子《How High the Moon》、ソファ《Sofa With Arms Black Edition》、香水瓶フラワーベース、オブジェ《薔薇の封印》などを展示します。
倉俣史朗展案内状_表面1200
ぜひご高覧いただきたく、ご案内申し上げます。

倉俣史朗の限定本『倉俣史朗 カイエ Shiro Kuramata Cahier 1-2 』を刊行しました。


限定部数:365部(各冊番号入り)
監修:倉俣美恵子、植田実
執筆:倉俣史朗、植田実、堀江敏幸
アートディレクション&デザイン:岡本一宣デザイン事務所
体裁:25.7×25.7cm、64頁、和英併記、スケッチブック・ノートブックは日本語のみ
価格:7,700円(税込) 送料1,000円

●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
photo (2)
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。