企画展「大川栄二生誕100年記念 コレクターの目」大川美術館
大谷 明子(大川美術館 学芸員)
大川美術館では、3月31日(日)まで、企画展「大川栄二生誕100年記念 コレクターの目」を開催しています。大川美術館は、桐生市出身の実業家・大川栄二(1924-2008)が40年にわたり収集したコレクションを核に1989年に開館しました。本展は、当美術館の創設者で初代館長の大川栄二の生誕100年を記念して、大川コレクションを第1章「大川栄二の『松本竣介・野田英夫と人脈』」と第2章「大川栄二の『異色』の画家たち」の二部構成でご覧いただきます。

大川栄二は、1924年に桐生市に生まれ、1948年に三井物産に入社、ダイエー株式会社副社長、サンコー(現マルエツ)社長などを務めた実業家でしたが、入社後まもなく20代半ばより肺結核を患い、3年間ものあいだ暗く孤独な入院生活を強いられました。その厳しい闘病生活のなかで、当時の週刊誌の表紙に使われていた作品を切り抜いて眺めるようになったことが、やがて数十年におよぶ強烈で熱心な美術コレクターとなるきっかけだったといいます。本展では、資料として大川栄二のコレクションの原点となったスクラップ・ブックや額装した週刊誌の切抜きも展示しています。額装した週刊誌は、大川栄二が初代館長を務めていた開館1周年の企画展「表紙絵との出会い」(1990年)にて、スクラップ・ブックの切抜きを額装したものです。

自ら「サラリーマン・コレクター」と称し、1955年頃より仕事の傍ら作品を収集した大川は、松本竣介(1912-1948)の作品を知ったことにより、大川らしいコレクションを展開することになります。松本竣介作品と大川の出会いは、大川が語るところによると、仕事中に画廊が持ち込んだ松本竣介の作品《ニコライ堂の横の道》(1941年)を見て、「静寂の中ハッと息をのみながら引き込まれて行く何かを感じ」(「松本竣介・野田英夫との出会い-大川コレクションの源流-」『大川美術館所蔵192 選 松本竣介をめぐる近代洋画の展望』、財団法人大川美術館、1989年、p.16)、購入を即決したという印象的なエピソードがあります。現在では戦時の洋画家として広く知られている松本竣介ですが、当時は知る人ぞ知る存在であったその名と作品を大川ははじめて目にし、その魅力に引き込まれました。これがきっかけとなり、大川は松本竣介と竣介が影響を受けたとされる野田英夫(1908-1939)を中心にコレクションを形成してゆきます。そして、そのなかで図表「松本竣介・野田英夫と人脈」(以下「人脈図」)を作り上げました。松本竣介の周辺の画家への関心から、画家の師弟、交友、影響の関係をもとにつくりあげた「人脈図」は、線の太さ、上下の位置などによって様々な影響関係を一つの図にまとめようとしたユニークな内容です。この「人脈図」は開館当時のカタログ『大川美術館所蔵192 選 松本竣介をめぐる近代洋画の展望』(1989年)に掲載され、その後も改変が加えられてゆきました。線で縦横無尽に様々な画家をつないだ「人脈図」は、収集の幅を広げていった大川の頭の中と見ることもできるかもしれません。しかし、なによりも、松本竣介を中心としながら多くの画家が連なって広がってゆくこの図を目にするとき、熱狂的な美術コレクターとしての大川の熱意に圧倒されるのではないでしょうか。本展の第1章「大川栄二の『松本竣介・野田英夫と人脈』」ではこの「人脈図」をもとにコレクションを精選して展示しています。

大川美術館は「サラリーマン・コレクター」の大川のコレクションをもとに開館後も寄贈や購入により所蔵作品を増やしてゆきました。第2章「大川栄二の『異色』の画家たち」では、大川によって発掘された「異色」の画家たち6名の作品をご紹介いたします。大川栄二にとって「異色」の画家とは、「一途に詩魂を塗り込めながら夭折するか、時流に媚びず、あくまでもその強い個性的画趣のために常に在野にあり、生存中は一般的に無名」でした。コレクションの中から、加賀孝一郎(1899-1988)、難波田史男(1941-1974)、村上肥出夫(1933-2018)、島崎蓊助(1908-1992)、鈴木満(1913-1975)、掛井五郎(1930-2021)の作品をご覧ください。

本展では「大川栄二」を再現する展示ではなく、大川が最初に手にした松本竣介の作品《ニコライ堂の横の道》をはじめ、大川が自身の目で選び集めた作品をご紹介しています。手作りの跡の残るスクラップ・ブックと、複数の展示室にわたって並ぶ作品を眺めると、ひとりの半生をかけた美術への情熱が感じられます。大川栄二は「個性的なひとりのコレクター」でしたが、「人脈図」と「異色の画家」をキーワードとした二章立ての本展を振り返ってみると、大川コレクションは、大川自身の熱意がつないだ人脈によって広がった、異彩を放つコレクションといえるかもしれません。展示室には所々に大川栄二のことばも添えられています。ひとりのコレクターの熱のこもった眼差しを感じつつ、コレクションの作品一点一点を味わっていただければと思います。
■大谷明子(おおたに あきこ)
大川美術館学芸員
1994年生まれ。北海道大学大学院文学院修了。苫小牧市美術博物館を経て2022年より現職。「東海道五十三次漫画絵巻と歌川広重『狂歌入東海道』」(2022年)、「20世紀アートセレクション」(2023年)などを担当。
■「大川栄二生誕100年記念 コレクターの目」
2024年1月17日(土)~3月31日(日)
時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:毎週月曜日(月曜祝日の場合は火曜日)
料金:一般1,000円、高大生 600円、小中生300円


*画廊亭主敬白
<当館では展示室にソファを設置しております。絵の前に立って間近で見たり、ソファに腰かけて眺めたり、ぜひゆったりと作品とその空間をお楽しみください。
公益財団法人 大川美術館のfacebookより>
遠路はるばる来たお客への心暖かい配慮は嬉しいですね。
亭主は常々「ホワイトキューブなんか嫌いだ」と公言していますが、真意は客が座る(ちょっと一息入れる)椅子が無い美術館や画廊に対しての怒りです。
因みに、狭小なときの忘れもの展示空間には磯崎新、スタルク、アアルトなど有名無名の椅子を常時10脚以上用意しています。
時間つぶしでも構いません、どうぞゆっくり椅子に腰かけてのんびりしてください。
●本日のお勧め作品は、松本竣介です。
《作品》
1946年2月
紙にペン、水彩、コラージュ
Image size: 23.5x30.0cm
Sheet size: 24.2x32.7cm
サインあり
※『松本竣介素描』(1977年 株式会社綜合工房)口絵
作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。

ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
大谷 明子(大川美術館 学芸員)
大川美術館では、3月31日(日)まで、企画展「大川栄二生誕100年記念 コレクターの目」を開催しています。大川美術館は、桐生市出身の実業家・大川栄二(1924-2008)が40年にわたり収集したコレクションを核に1989年に開館しました。本展は、当美術館の創設者で初代館長の大川栄二の生誕100年を記念して、大川コレクションを第1章「大川栄二の『松本竣介・野田英夫と人脈』」と第2章「大川栄二の『異色』の画家たち」の二部構成でご覧いただきます。

大川栄二は、1924年に桐生市に生まれ、1948年に三井物産に入社、ダイエー株式会社副社長、サンコー(現マルエツ)社長などを務めた実業家でしたが、入社後まもなく20代半ばより肺結核を患い、3年間ものあいだ暗く孤独な入院生活を強いられました。その厳しい闘病生活のなかで、当時の週刊誌の表紙に使われていた作品を切り抜いて眺めるようになったことが、やがて数十年におよぶ強烈で熱心な美術コレクターとなるきっかけだったといいます。本展では、資料として大川栄二のコレクションの原点となったスクラップ・ブックや額装した週刊誌の切抜きも展示しています。額装した週刊誌は、大川栄二が初代館長を務めていた開館1周年の企画展「表紙絵との出会い」(1990年)にて、スクラップ・ブックの切抜きを額装したものです。

自ら「サラリーマン・コレクター」と称し、1955年頃より仕事の傍ら作品を収集した大川は、松本竣介(1912-1948)の作品を知ったことにより、大川らしいコレクションを展開することになります。松本竣介作品と大川の出会いは、大川が語るところによると、仕事中に画廊が持ち込んだ松本竣介の作品《ニコライ堂の横の道》(1941年)を見て、「静寂の中ハッと息をのみながら引き込まれて行く何かを感じ」(「松本竣介・野田英夫との出会い-大川コレクションの源流-」『大川美術館所蔵192 選 松本竣介をめぐる近代洋画の展望』、財団法人大川美術館、1989年、p.16)、購入を即決したという印象的なエピソードがあります。現在では戦時の洋画家として広く知られている松本竣介ですが、当時は知る人ぞ知る存在であったその名と作品を大川ははじめて目にし、その魅力に引き込まれました。これがきっかけとなり、大川は松本竣介と竣介が影響を受けたとされる野田英夫(1908-1939)を中心にコレクションを形成してゆきます。そして、そのなかで図表「松本竣介・野田英夫と人脈」(以下「人脈図」)を作り上げました。松本竣介の周辺の画家への関心から、画家の師弟、交友、影響の関係をもとにつくりあげた「人脈図」は、線の太さ、上下の位置などによって様々な影響関係を一つの図にまとめようとしたユニークな内容です。この「人脈図」は開館当時のカタログ『大川美術館所蔵192 選 松本竣介をめぐる近代洋画の展望』(1989年)に掲載され、その後も改変が加えられてゆきました。線で縦横無尽に様々な画家をつないだ「人脈図」は、収集の幅を広げていった大川の頭の中と見ることもできるかもしれません。しかし、なによりも、松本竣介を中心としながら多くの画家が連なって広がってゆくこの図を目にするとき、熱狂的な美術コレクターとしての大川の熱意に圧倒されるのではないでしょうか。本展の第1章「大川栄二の『松本竣介・野田英夫と人脈』」ではこの「人脈図」をもとにコレクションを精選して展示しています。

大川美術館は「サラリーマン・コレクター」の大川のコレクションをもとに開館後も寄贈や購入により所蔵作品を増やしてゆきました。第2章「大川栄二の『異色』の画家たち」では、大川によって発掘された「異色」の画家たち6名の作品をご紹介いたします。大川栄二にとって「異色」の画家とは、「一途に詩魂を塗り込めながら夭折するか、時流に媚びず、あくまでもその強い個性的画趣のために常に在野にあり、生存中は一般的に無名」でした。コレクションの中から、加賀孝一郎(1899-1988)、難波田史男(1941-1974)、村上肥出夫(1933-2018)、島崎蓊助(1908-1992)、鈴木満(1913-1975)、掛井五郎(1930-2021)の作品をご覧ください。

本展では「大川栄二」を再現する展示ではなく、大川が最初に手にした松本竣介の作品《ニコライ堂の横の道》をはじめ、大川が自身の目で選び集めた作品をご紹介しています。手作りの跡の残るスクラップ・ブックと、複数の展示室にわたって並ぶ作品を眺めると、ひとりの半生をかけた美術への情熱が感じられます。大川栄二は「個性的なひとりのコレクター」でしたが、「人脈図」と「異色の画家」をキーワードとした二章立ての本展を振り返ってみると、大川コレクションは、大川自身の熱意がつないだ人脈によって広がった、異彩を放つコレクションといえるかもしれません。展示室には所々に大川栄二のことばも添えられています。ひとりのコレクターの熱のこもった眼差しを感じつつ、コレクションの作品一点一点を味わっていただければと思います。
■大谷明子(おおたに あきこ)
大川美術館学芸員
1994年生まれ。北海道大学大学院文学院修了。苫小牧市美術博物館を経て2022年より現職。「東海道五十三次漫画絵巻と歌川広重『狂歌入東海道』」(2022年)、「20世紀アートセレクション」(2023年)などを担当。
■「大川栄二生誕100年記念 コレクターの目」
2024年1月17日(土)~3月31日(日)
時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:毎週月曜日(月曜祝日の場合は火曜日)
料金:一般1,000円、高大生 600円、小中生300円


*画廊亭主敬白
<当館では展示室にソファを設置しております。絵の前に立って間近で見たり、ソファに腰かけて眺めたり、ぜひゆったりと作品とその空間をお楽しみください。
公益財団法人 大川美術館のfacebookより>
遠路はるばる来たお客への心暖かい配慮は嬉しいですね。
亭主は常々「ホワイトキューブなんか嫌いだ」と公言していますが、真意は客が座る(ちょっと一息入れる)椅子が無い美術館や画廊に対しての怒りです。
因みに、狭小なときの忘れもの展示空間には磯崎新、スタルク、アアルトなど有名無名の椅子を常時10脚以上用意しています。
時間つぶしでも構いません、どうぞゆっくり椅子に腰かけてのんびりしてください。
●本日のお勧め作品は、松本竣介です。

1946年2月
紙にペン、水彩、コラージュ
Image size: 23.5x30.0cm
Sheet size: 24.2x32.7cm
サインあり
※『松本竣介素描』(1977年 株式会社綜合工房)口絵
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。

ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
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TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
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JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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