「吉田克朗展―ものに、風景に、世界に触れる」
会期:2024年4月20日(土)~6月30日(日)
会場:神奈川県立近代美術館 葉山
神奈川県立近代美術館 葉山館で開催されている「吉田克朗展―ものに、風景に、世界に触れる」の開会式に出席させていただきました。
開会式には、この4月に就任された長門佐季館長、1992年から2004年までカマキンの館長を務めた酒井忠康先生がごあいさつされ、会場にはこの3月に館長を退任した水沢勉先生が、お二人を温かな眼差しで見守っている姿も印象的でした(写真左:水沢勉先生(後ろ姿)、中央:マイクを持つ酒井忠康先生、右隣:長門佐季先生)。

この3月に世田谷美術館の館長を退任され酒井先生は、古巣ということもあってか、リラックスされたご様子で、序盤からユーモアあふれるトークが始まりました。
吉田克朗先生との最初の出会いは鎌倉駅。これから展覧会を開催してもらう画廊を探しに東京へ行くという吉田先生と榘子さん(吉田先生と同じく多摩美出身で、関根伸夫の《位相―大地》の穴を掘ったメンバーの一人、1971年に結婚)に遭遇し、それじゃあ田村画廊を訪ねたらいいよと酒井先生の名刺を差し出すように伝え、それがきっかけで田村画廊での個展が決まったそうです。その後は、小清水漸先生や李禹煥先生なども展覧会を開催し、田村画廊は何となくもの派の画廊という感じになったという貴重なエピソード。
そして、吉田先生が亡くなる前日の1999年9月4日に、榘子夫人から電話があり、鎌倉の病院に駆けつけて見舞った。翌日の9月5日は神奈川県立近代美術館で「斎藤義重展」の初日だったが、訃報を聞き、展覧会初日というお祝いの日に恩師の斎藤先生に教え子の訃報をいつ伝えようかと悩んだという吉田先生との最後の思い出話。
続いて、吉田克朗先生のご長男で画家の吉田有紀さんのごあいさつ。を始める前に、背を向けてバックの中をゴソゴソとするのでどうされたのかな?と思っていたら、急にアフロヘアーのカツラを被り、つけ髭を付けて「吉田克朗でーす!」と。会場を沸かせた。はにかんだ様子で、すぐに外してしまいましたが、本展は2018年に亡くなったお母様(吉田榘子さん)が望んでいた吉田克朗展だったことなど話され、最後は「ジャマイカ!」と言って締めくくった。私は何のことかわからずポカンとしていたが、どうやら「じゃあ、まあいいか」という吉田克朗先生お得意のダジャレらしい。終始和やかで、心に残る開会式でした。

展覧会は、1969年に田村画廊で発表した角材が天井から吊るされた作品や、大きい紙の四隅に石を置いた《cut off(ペーパーウェイト)》の作品など、ザ・もの派の作品が展示されていました。


ものをそのまま置いて、またはものとものを組み合わせるだけの「もの派」というのは、すごいことをやったなとしみじみと感じましたが、思いつきでやっているように見えて、決してそんなことはありません。何十冊にも及ぶ「制作ノート」に、スケッチとプラン、寸法や図面が細かく書かれています。作品のサイズ感もよく計算されており、実に周到にやっていることがわかります。
関根伸夫先生が遺した膨大なスケッチ類を見たことがありますが、吉田先生も全く同じで、この教えは斎藤義重先生によるものなのでしょう。
しかし、ザ・もの派の作品は2年ほどで終わり、後に絵画的な表現になります。
弊社から貸し出した1975年に発行された吉田克朗銅版画集『LONDON II』はロンドンから帰国した翌年に制作された版画集です。他の版画と比べるとかなり小さい作品ですが、密度が高くて、いい作品です。

吉田克朗 Katsuro YOSHIDA
『LONDON II』より《Eaton Gate》
1975年
フォトエッチング
イメージサイズ:各10.0x31.0cm
シートサイズ :各31.0x43.5cm
Ed.7/20
サインあり

こちらも弊社貸し出しの作品"Work "46""です。

70年代半ばの、ものに絵の具などを塗って紙や麻布に写しとり、その横に実際にそのものを見てドローイングを描く作品はなかなか面白く、筆触や手の痕跡が残る作品に表現がどんどん変わって行き、80年代90年代は大作をいくつも作り、こういう作品を作っていたとは私は全く知らなかったです。




そして、同時開催中のコレクション展「斎藤義重という起点―世界と交差する美術家たち」では、2002年にご遺族から寄贈された資料類のアーカイブを展示するというもの。
多摩美で教鞭をとった斎藤義重先生は、「教えないことを信条とする独創的な教育」「絵画という枠に縛られない、旧来のカリキュラムを見直し、現代に即した美術教育の在り方を模索」したそうで、学生運動の混乱のなかで、美術を志す若者たちを支えていました。
斎藤先生の「制作ノート」や、交流のあった高松次郎、宮脇愛子、堀浩哉、吉田克朗、松澤 宥らから届いたエアーメールや葉書が陳列されており、それぞれが活動するアメリカやイギリスから、近況を報告する内容が書かれ、彼らに慕われていたことがわかります。
スライドショーでは、多摩美術大学のサマーハウスや、展覧会出品などで海外を旅行したときの写真などなかなか見ることのできない貴重な写真がありました。写真からは学生との関係性も伝わってきます。小清水先生が提供された関根伸夫先生の《位相ー大地》のスライド写真もありました。
「吉田克朗展」は生まれ故郷の埼玉県にある埼玉県立近代美術館にも巡回しますが、葉山館のコレクション展の「斎藤義重展」も必見です。


葉山館は、庭園にイサム・ノグチや李禹煥などの彫刻が展示されており、海を望むことができますので、季節のいいこの時期に、是非、葉山館へお出かけください。
(おだち れいこ)

※画像はクリックすると拡大します



●本日のお勧め作品は吉田克朗です。
吉田克朗「Work "46"」(1975年、リトグラフ、44.8×29.3cm、Ed.100、サインあり)
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
*画廊亭主敬白
ご長男のアドリブが会場を沸かせたという、吉田克朗先生のアフロヘア、懐かしいですね。

1978年7月10日青山ラミアにて
関根伸夫ヨーロッパ巡回展に向けての歓送会
右端が当日の司会役を勤めた吉田克朗先生、マイクを握るのが関根伸夫先生、左端は堀内正和先生。
4月中旬から9月末にかけて、神奈川県立近代美術館と埼玉県立近代美術館の2館巡回で吉田克朗先生の大回顧展が開催されることになりました。
現代版画センター時代、亭主は吉田克朗先生のエディション「Work 117」を発表しました。また、今回の出品作の中に「Work "46"」(1975年)という作品がありますが、これはときの忘れものが今まで数点売っただけで、限定100部のエディションのほとんどはまだ眠っています。今回の展示がほぼ初公開といっていいでしょう。その事情はのちほど詳しくご紹介します。
●カタログのご案内
『内間安瑆 Forest Byobu』展図録
発行:ときの忘れもの
発行日:2024年5月17日
サイズ他:25.7×18.2cm、カラー/モノクロ38P
図版:内間安瑆作品26点
テキスト執筆:
長谷見雄二(早稲田大学名誉教授)
水沢勉(美術史家・美術評論家)
比嘉良治(N.Y.ロングアイランド大学名誉教授)
編集:Curio Editors Studio
デザイン:柴田卓
価格:1,650円(税込)+送料250円
映像制作:WebマガジンColla:J 塩野哲也
●取り扱い作家たちの展覧会情報(5月ー6月)は5月1日ブログに掲載しました。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

会期:2024年4月20日(土)~6月30日(日)
会場:神奈川県立近代美術館 葉山
神奈川県立近代美術館 葉山館で開催されている「吉田克朗展―ものに、風景に、世界に触れる」の開会式に出席させていただきました。
開会式には、この4月に就任された長門佐季館長、1992年から2004年までカマキンの館長を務めた酒井忠康先生がごあいさつされ、会場にはこの3月に館長を退任した水沢勉先生が、お二人を温かな眼差しで見守っている姿も印象的でした(写真左:水沢勉先生(後ろ姿)、中央:マイクを持つ酒井忠康先生、右隣:長門佐季先生)。

この3月に世田谷美術館の館長を退任され酒井先生は、古巣ということもあってか、リラックスされたご様子で、序盤からユーモアあふれるトークが始まりました。
吉田克朗先生との最初の出会いは鎌倉駅。これから展覧会を開催してもらう画廊を探しに東京へ行くという吉田先生と榘子さん(吉田先生と同じく多摩美出身で、関根伸夫の《位相―大地》の穴を掘ったメンバーの一人、1971年に結婚)に遭遇し、それじゃあ田村画廊を訪ねたらいいよと酒井先生の名刺を差し出すように伝え、それがきっかけで田村画廊での個展が決まったそうです。その後は、小清水漸先生や李禹煥先生なども展覧会を開催し、田村画廊は何となくもの派の画廊という感じになったという貴重なエピソード。
そして、吉田先生が亡くなる前日の1999年9月4日に、榘子夫人から電話があり、鎌倉の病院に駆けつけて見舞った。翌日の9月5日は神奈川県立近代美術館で「斎藤義重展」の初日だったが、訃報を聞き、展覧会初日というお祝いの日に恩師の斎藤先生に教え子の訃報をいつ伝えようかと悩んだという吉田先生との最後の思い出話。
続いて、吉田克朗先生のご長男で画家の吉田有紀さんのごあいさつ。を始める前に、背を向けてバックの中をゴソゴソとするのでどうされたのかな?と思っていたら、急にアフロヘアーのカツラを被り、つけ髭を付けて「吉田克朗でーす!」と。会場を沸かせた。はにかんだ様子で、すぐに外してしまいましたが、本展は2018年に亡くなったお母様(吉田榘子さん)が望んでいた吉田克朗展だったことなど話され、最後は「ジャマイカ!」と言って締めくくった。私は何のことかわからずポカンとしていたが、どうやら「じゃあ、まあいいか」という吉田克朗先生お得意のダジャレらしい。終始和やかで、心に残る開会式でした。

展覧会は、1969年に田村画廊で発表した角材が天井から吊るされた作品や、大きい紙の四隅に石を置いた《cut off(ペーパーウェイト)》の作品など、ザ・もの派の作品が展示されていました。


ものをそのまま置いて、またはものとものを組み合わせるだけの「もの派」というのは、すごいことをやったなとしみじみと感じましたが、思いつきでやっているように見えて、決してそんなことはありません。何十冊にも及ぶ「制作ノート」に、スケッチとプラン、寸法や図面が細かく書かれています。作品のサイズ感もよく計算されており、実に周到にやっていることがわかります。
関根伸夫先生が遺した膨大なスケッチ類を見たことがありますが、吉田先生も全く同じで、この教えは斎藤義重先生によるものなのでしょう。
しかし、ザ・もの派の作品は2年ほどで終わり、後に絵画的な表現になります。
弊社から貸し出した1975年に発行された吉田克朗銅版画集『LONDON II』はロンドンから帰国した翌年に制作された版画集です。他の版画と比べるとかなり小さい作品ですが、密度が高くて、いい作品です。

吉田克朗 Katsuro YOSHIDA
『LONDON II』より《Eaton Gate》
1975年
フォトエッチング
イメージサイズ:各10.0x31.0cm
シートサイズ :各31.0x43.5cm
Ed.7/20
サインあり

こちらも弊社貸し出しの作品"Work "46""です。

70年代半ばの、ものに絵の具などを塗って紙や麻布に写しとり、その横に実際にそのものを見てドローイングを描く作品はなかなか面白く、筆触や手の痕跡が残る作品に表現がどんどん変わって行き、80年代90年代は大作をいくつも作り、こういう作品を作っていたとは私は全く知らなかったです。




そして、同時開催中のコレクション展「斎藤義重という起点―世界と交差する美術家たち」では、2002年にご遺族から寄贈された資料類のアーカイブを展示するというもの。
多摩美で教鞭をとった斎藤義重先生は、「教えないことを信条とする独創的な教育」「絵画という枠に縛られない、旧来のカリキュラムを見直し、現代に即した美術教育の在り方を模索」したそうで、学生運動の混乱のなかで、美術を志す若者たちを支えていました。
斎藤先生の「制作ノート」や、交流のあった高松次郎、宮脇愛子、堀浩哉、吉田克朗、松澤 宥らから届いたエアーメールや葉書が陳列されており、それぞれが活動するアメリカやイギリスから、近況を報告する内容が書かれ、彼らに慕われていたことがわかります。
スライドショーでは、多摩美術大学のサマーハウスや、展覧会出品などで海外を旅行したときの写真などなかなか見ることのできない貴重な写真がありました。写真からは学生との関係性も伝わってきます。小清水先生が提供された関根伸夫先生の《位相ー大地》のスライド写真もありました。
「吉田克朗展」は生まれ故郷の埼玉県にある埼玉県立近代美術館にも巡回しますが、葉山館のコレクション展の「斎藤義重展」も必見です。


葉山館は、庭園にイサム・ノグチや李禹煥などの彫刻が展示されており、海を望むことができますので、季節のいいこの時期に、是非、葉山館へお出かけください。
(おだち れいこ)

※画像はクリックすると拡大します



●本日のお勧め作品は吉田克朗です。

こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
*画廊亭主敬白
ご長男のアドリブが会場を沸かせたという、吉田克朗先生のアフロヘア、懐かしいですね。

1978年7月10日青山ラミアにて
関根伸夫ヨーロッパ巡回展に向けての歓送会
右端が当日の司会役を勤めた吉田克朗先生、マイクを握るのが関根伸夫先生、左端は堀内正和先生。
4月中旬から9月末にかけて、神奈川県立近代美術館と埼玉県立近代美術館の2館巡回で吉田克朗先生の大回顧展が開催されることになりました。
現代版画センター時代、亭主は吉田克朗先生のエディション「Work 117」を発表しました。また、今回の出品作の中に「Work "46"」(1975年)という作品がありますが、これはときの忘れものが今まで数点売っただけで、限定100部のエディションのほとんどはまだ眠っています。今回の展示がほぼ初公開といっていいでしょう。その事情はのちほど詳しくご紹介します。
●カタログのご案内

発行:ときの忘れもの
発行日:2024年5月17日
サイズ他:25.7×18.2cm、カラー/モノクロ38P
図版:内間安瑆作品26点
テキスト執筆:
長谷見雄二(早稲田大学名誉教授)
水沢勉(美術史家・美術評論家)
比嘉良治(N.Y.ロングアイランド大学名誉教授)
編集:Curio Editors Studio
デザイン:柴田卓
価格:1,650円(税込)+送料250円
映像制作:WebマガジンColla:J 塩野哲也
●取り扱い作家たちの展覧会情報(5月ー6月)は5月1日ブログに掲載しました。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

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