吉田克朗展 ―ものに、風景に、世界に触れる
会期:2024 年 7 月 13 日(土)~9 月 23 日(祝・月)
会場:埼玉県立近代美術館

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吉田克朗展埼玉

7 月 13 日から埼玉県立近代美術館の「吉田克朗展 ―ものに、風景に、世界に触れる」が始まりました。
本展は神奈川県立近代美術館・葉山館と2会場で開催され、埼玉の巡回で終わりとなります。「葉山はちょっと遠くて行けず、埼玉に来るのを待ってました!」という声も耳にしていたのでお待ちかねだった方も多いはず。レクチャーやダンスパフォーマンスなど関連イベントも多数企画されているので、合わせてご覧いただくことをお勧めします。葉山館をご覧になった方も埼玉でもう一度ご覧いただければより一層吉田克朗作品の理解が深まることと存じます。

さて、私は内覧会とプレスカンファレンスに出席させていただきましたので、簡単にご報告します。
吉田克朗展の企画立ち上げは30年ほど前から話があり、20年ほど前から調査や準備が始まったそうです。
建畠館長の話では、関根伸夫の《位相ー大地》制作のとき、関根さんは人工的でプライマリー、そしてトリッキーなことをやりたがったが、吉田克朗さんはもっと社会と自分との関係を柔らかく捉える方がいいと話していた、と話されました。

スライドを見ながら担当学芸員の平野到先生による展覧会の解説と作品の動向を伺いました。その内容を凝縮した文章が埼玉県立近代美術館のホームページに載っています。

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 1943年に埼玉県深谷市で生まれた吉田は、1964年に多摩美術大学に進学し、斎藤義重の下で指導を受け、同時代の海外の美術動向にも興味を持つようになります。1968年に卒業すると、同大学出身者らが関わっていた横浜市の共同アトリエで、関根伸夫菅木志雄小清水漸らと制作を行いました。この時代の転換点となった関根伸夫の《位相 ―大地》(1968年)が発表された際は、制作の現場にも加わりました。
 翌年の1969年から吉田は、物体を組み合わせ、その特性が自然に表出される作品を集中的に制作します。このような作風を示す動向は後にもの派と称され、国際的に注目を浴びることになりますが、吉田はその先鞭をつけた作家でした。また、物体を用いた作品と並行して、自ら撮影した風景の写真を題材にした版画の制作も始めました。
 1971年になるともの派の作風から離れ、赤い色彩や筆触といった絵画的な要素を取り入れた作品を発表します。1970年代は版画の制作に加え、転写などの実験的な手法を試みながら絵画表現を模索します。1980年代前半には、風景や人体を抽象化して描く<かげろう>のシリーズを手掛け、その後、粉末黒鉛を手指でこすりつけて有機的な形象を描く<触>のシリーズを精力的に制作しました。こうして、55歳での早すぎる死を迎える直前まで、時代とともに変貌する美術動向の只中で、あるべき制作を追い求めました。
------埼玉県立近代美術館HPより抜粋

吉田克朗 (2)
もの派」という言葉や作品の印象が強すぎて、長年もの派的な作品を制作していたのかと思ってしまいますが、実はたった2年しかもの派と呼ばれる作品を制作していません。
平野先生曰く、立体とその後の版画作品は一見違うように見えるかもしれないが無関係ではなく、どちらも現実世界から気になる部分を切り取っているそうです。

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吉田克朗 (4)

吉田克朗 (5)
アトリエの壁にアクリルで描画し、その壁にキャンバスを擦り付けて転写した1979年の作品は、部屋を丸ごと転写するという試みだったそうです。なので、壁の板のつなぎ目も一緒に転写されています。
1980年の転写とコラージュを組み合わせた作品は、海外の雑誌に透明のメディウムを塗ると、印字されたものが剥がれてくるので、それを別の紙に転写したという面白い作品もあり、転写やフロッタージュの実験的な試みがいくつも見られました。

吉田克朗 (1)
吉田克朗 (6)

吉田克朗 (7)

版画的な試みを模索し追い求めた先は、自らの手指で描いくという〈触〉シリーズを12年ほど制作されています。
〈触〉シリーズは、キャンバスに下地を塗り、平置きにして、その上に板を渡して乗り、手指に粉末の黒鉛をこすり付けて身体や風景の一部を抽象化し、また宇宙など有機的な形象を描いているそうです。「指紋が摩耗する」ほど魂を込めて描いたことが手の痕跡からひしひしと伝わり、うごめきも感じ、怖いくらいに凄みのある作品です。

そして、全体を見た最後に、平野先生がおっしゃっていた「立体とその後の版画作品は一見違うように見えるかもしれないが無関係ではなく、どちらも現実世界から気になる部分を切り取っている」ことに納得しました。
是非多くの方に吉田克朗の制作の軌跡をご覧いただければと願います。
おだち れいこ

レクチャー・プログラム 2 「吉田克朗の絵画について」
講師|沢山遼(武蔵野美術大学准教授、美術評論家)
日時|8月31日(土)15:00~16:30(開場は14:30)
場所|2階講堂
定員|80名(当日先着順)
参加費|無料

●「吉田克朗展―ものに、風景に、世界に触れる」図録
20240510122537_00001執筆:水沢 勉、森 啓輔、平野 到、山本雅美、西澤晴美、菊川亜騎、菊地真央
翻訳:キャサリン・リーランド、クリストファー・スティヴンズ、パメラ・ミキ・アソシエイツ
編集:神奈川県立近代美術館 西澤晴美、菊川亜騎、山田 龍(インターン)
埼玉県立近代美術館 平野 到、菊地真央
水声社 飛田陽子、関根 慶
校閲:亀山裕亮
ブックデザイン:宗利淳一ブックデザイン 宗利淳一、鈴木朋子
発行者:鈴木 宏
発行所:株式会社水声社
印刷・製本:精興社
価格:3,960円(税込)
※ときの忘れものでも販売中

●吉田克朗 制作ノート1969-1978
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山本雅美(著)
判型:A5変上製
頁数:160頁
ISBN:978-4-8010-0805-2 C0070
装幀:宗利淳一+鈴木朋子
価格:3,520円(税込み)
※ときの忘れものでも販売中


●吉田克朗に関するブログ記事
1978年07月10日|関根伸夫ヨーロッパ巡回展歓送会
1982年03月22日|美学校第3回シルクスクリーンプリントシンポジウム
2013年06月30日|久保エディション第3回~吉田克朗
2018年1月16日(火)~3月25日(日)|埼玉県立近代美術館「版画の景色 現代版画センターの軌跡」
2018年08月21日|「吉田克朗 LONDON 1975」8月24日(金)~9月8日(土)
2018年08月23日|明日から「吉田克朗 LONDON 1975」
2018年08月24日|吉田克朗と美学校プリントシンポジウム
2018年08月30日|「吉田克朗 London 1975」開催中
2018年09月02日平野到のエッセイ「無名から無限へ」
2019年08月22日|美学校50周年展~8月25日まで
2019年09月30日土渕信彦のエッセイ~埼玉県立近代美術館「DECODE/出来事と記録ーポスト工業化社会の美術」
2021年01月20日大島成己のエッセイ「多摩美の版画、50年」展企画に際して/今日の版画を巡って
2022年03月04日市川絢菜のエッセイ「戦後現代美術の動向第4回/もの派」
2022年04月18日王聖美のエッセイ「埼玉県立近代美術館開館40周年記念展 扉は開いているか―美術館とコレクション 1982-2022」
2023年06月28日三上豊のエッセイ「今昔画廊巡り第2回 田村画廊 真木画廊そして駒井画廊と真木・田村画廊」
2023年09月24日|画廊亭主の徒然なる日々「ミライの椅子 吉田克朗 生誕80年」
2024年05月21日|番頭おだちの東奔西走/神奈川県立近代美術館 葉山「吉田克朗展」
2024年06月26日平野到のエッセイ 「『吉田克朗展 ものに、風景に、世界に触れる』-展覧会の調査をめぐって」
2024年08月25日栗田秀法のエッセイ「現代版画の散歩道 第4回 吉田克朗」
2024年08月26日|番頭おだちの東奔西走/埼玉県立近代美術館「吉田克朗展 ―ものに、風景に、世界に触れる」

●本日のお勧め作品は吉田克朗です。
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《WORK 46》
1975年、リトグラフ
イメージサイズ:44.8×29.3cm
シートサイズ :65.6×50.4cm
Ed.100、サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。


*画廊亭主敬白
尋常ならざる暑さに加え、あまり報道されていないようですが、コロナもなかなか収束せず、鬱陶しい限りです。客商売なので画廊では換気とマスクを徹底しています。
夏休み中に大事な展覧会を見て回る予定だったのですが、かかり付けの病院から「検査入院せよ」との厳命があり、冷房完備の個室で一人静かに過ごしていました(退屈ですね、おかげで数十年ぶりに夏の甲子園野球をみました。検査結果は異状無し、社長によると当分は働けという神のお告げだそうです)。
お盆に行けなかった郷里のお墓参りに行き、昨日は埼玉県立近代美術館の「吉田克朗展 ―ものに、風景に、世界に触れる」をじっくり拝見してきました。
上掲のレポートは吉田克朗先生にはお目にかかったことのない尾立の執筆ですが、私たち老夫婦にとっては吉田先生がロンドン留学から帰国されてから、エディションやら展覧会で協働した記憶がいまも生々しい(歳は吉田先生が二つ上)。
初期立体から晩年の油彩大作まで圧巻の展示でしたが(埼玉の展示はいつ行ってもうまいなあと感嘆)、展示された資料やカタログで吉田先生が実に生真面目で几帳面な理論家だったことを知り驚いています。会えばおちゃらけたり、ピエロ役を演じていた生前の姿を知る私たちにとって、家では寡黙で冗談一つ言わなかったというご遺族の言葉にはアーティストという生き方を選んだ厳しさと苦悩を痛感せずにはいられません。僅か55歳の生涯、今回の展示をご本人に見てもらいたかった。
少しお手伝いした関係で、招待券をいただいています。ご希望の方、メールください。
埼玉近美のレストランはなかなかで、ランチをいただいたあと社長はいつも玉ねぎの食パンを買って帰る。お勧めです。

「杣木浩一×宮脇愛子」展カタログを刊行
1200-杣木宮脇ときの忘れもの 2024年 25.7×17.2㎝ 24P
執筆:杣木浩一
図版:26点掲載(杣木浩一13点、宮脇愛子13点)
編集:尾立麗子(ときの忘れもの)
デザイン:岡本一宣デザイン事務所
価格:1,100円(税込み)+送料250円
オンラインでも販売中です。


●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
photo (9)〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。