「刷り師・石田了一の仕事」第4回「シルクロードの旅2」
石田了一
憶えてないから、なんも怖いことあらへん
躊躇したのが、あかんかった
1967 年、瀕死の大事故のことを菅井さんは笑って話しておられました。
上下1車線に上下兼用の追い越し車線のオートルート<変則の3車線>。
抜くか、やめるか、攻めの走りをしていると一瞬の判断の遅れがその後のコントロールを難しくします。
事故が、ポルシェ911Sに替えてから一ヶ月程だったというのは、新車が身体に未だ馴染んでいなかったのかも知れません。
その後1972 年には、更にパワフルな、作品のモチーフにもなっている究極のレース仕様のポルシェ・カレラRSを購入します。
瞬く間に非現実・異次元の世界に連れて行ってくれる、ポルシェへの強い思い入れです。

《スクランブルE》原稿より(部分)
刷り上がった作品にサインを入れて頂くために、1976年秋にはひたすら西走。
菅井さんが滞在する神戸まで北陸まわりで0泊3日の強行軍でした。
中央道は高井戸―調布がようやく開通し大月まで、北陸道は敦賀―富山が結ばれた頃です。
(富山までは藤江民さんがご一緒でした)。
版画満載した4名乗車のPFジェミニ、安房峠のつづら折りの道は、さすがに普段の重量とは違い、加速やブレーキの利きがもどかしい。
それでも、止まることがコントロール出来れば、どんな道でも不安はありません。
紙の積載されている列車は重いよ、ノッチを入れても簡単に動き出してくれないと嘆いていた機関士の話を思い出します。
神戸では菅井さんと三島喜美代さんが待機されていました。
ご両人から仮眠を強く促され、なので、サインのことはほとんど記憶にありませんが、
シンメトリーな梱包をお褒めいただいたのはぼんやり憶えております。
包みよければ中身よし
中身の至らなさを包みでカバーするという訳ではないのだけれど、
折り目正しく美しく

この年、アクリルの洒落たマルチプル作品も2点制作。
オーブントースターで高温乾燥させた“手焼き”のシルク作品、
半世紀前の「赤い太陽」は、未だ輝きを保っています。
(耐光テストも兼ねて、いつも机の上に)。

菅井汲用の特注インク。
クサカベ絵具の試験用ローラーで、シルクのメディウム(無色)に油絵具で使う顔料を
数倍も奢って混ぜ合わせてもらった濃厚インク。鮮やかな発色とボリューム。
蒸発乾燥タイプなので油絵具のように固まらず、今でもある程度柔らかい。
1980 年のシリーズでも使用。

三島喜美代さんから頂いた作品も、我が工房の入り口に
大切に捨てられています。
梱包・運送みち草話

一反風呂敷 (いったんふろしき)
広げると畳2枚ほどの大きさ。昔の行商の人達が、荷を包み担ぐための定番。
初代のものは、さすがにあちこち穴だらけで、これは愛用中の二代目。
北の勝(きたのかつ)は、根室の地酒。明治20年(1887年)創業。
戦前は、国後島に蟹缶詰工場も持っていて、
日活映画「生命の冠」(1936年)内田吐夢監督のロケでも使われた。
15 歳の原節子が出演。
リヤカーを古道具屋で借りて、近場の紙屋さんへ。
その当時(70年代前半)でも、リヤカーで紙を買いに来たと言って珍しがられた。
荷の置き方で、「てこの原理」が甦る。
タクシーも、あまりに重いと敬遠され、必要に迫られ自動車免許取得へ。
後輩の一ノ瀬君に同乗してもらい、仮免レンタカーで納品。
これは、教則本の書体に似せて書いた当時の製版フィルム。
ベニヤ板にシルクで刷り込んだ自作のプレート。

(いしだりょういち)
■石田了一(いしだりょういち)
シルクスクリーン刷り師・石田了一工房主宰
1947年北海道根室生まれ、1970 年美學校で岡部徳三氏に師事。
1971年、宇佐美圭司展(南画廊)で発表された<ボカシの 40 版>の版画で工房をスタート。これまでにアンディ・ウォーホル、安藤忠雄、磯崎新、草間彌生、熊谷守一、倉俣史朗、
桑山忠明、五味太郎、 菅井汲、関根伸夫、田名網敬一、寺山修司、鶴田一郎、萩原朔美、
毛綱毅曠、元永定正、脇田愛二郎、脇田和 他 ,
様々なジャンルのアーティストのシルクスクリーン作品を手掛ける。
●新連載「刷り師・石田了一の仕事」は毎月3日の更新です。次回は2024年10月3日を予定しています。どうぞお楽しみに。
●本日のお勧め作品は菅井汲です。
《スクランブルE》
1976年
凸版+シルクスクリーン
(刷り:石田了一)
イメージサイズ:35.5×25.0cm
シートサイズ:40.5×28.5cm
Ed.150
サインあり
※レゾネNo267(阿部出版)
作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

石田了一
憶えてないから、なんも怖いことあらへん
躊躇したのが、あかんかった
1967 年、瀕死の大事故のことを菅井さんは笑って話しておられました。
上下1車線に上下兼用の追い越し車線のオートルート<変則の3車線>。
抜くか、やめるか、攻めの走りをしていると一瞬の判断の遅れがその後のコントロールを難しくします。
事故が、ポルシェ911Sに替えてから一ヶ月程だったというのは、新車が身体に未だ馴染んでいなかったのかも知れません。
その後1972 年には、更にパワフルな、作品のモチーフにもなっている究極のレース仕様のポルシェ・カレラRSを購入します。
瞬く間に非現実・異次元の世界に連れて行ってくれる、ポルシェへの強い思い入れです。

《スクランブルE》原稿より(部分)
刷り上がった作品にサインを入れて頂くために、1976年秋にはひたすら西走。
菅井さんが滞在する神戸まで北陸まわりで0泊3日の強行軍でした。
中央道は高井戸―調布がようやく開通し大月まで、北陸道は敦賀―富山が結ばれた頃です。
(富山までは藤江民さんがご一緒でした)。
版画満載した4名乗車のPFジェミニ、安房峠のつづら折りの道は、さすがに普段の重量とは違い、加速やブレーキの利きがもどかしい。
それでも、止まることがコントロール出来れば、どんな道でも不安はありません。
紙の積載されている列車は重いよ、ノッチを入れても簡単に動き出してくれないと嘆いていた機関士の話を思い出します。
神戸では菅井さんと三島喜美代さんが待機されていました。
ご両人から仮眠を強く促され、なので、サインのことはほとんど記憶にありませんが、
シンメトリーな梱包をお褒めいただいたのはぼんやり憶えております。
包みよければ中身よし
中身の至らなさを包みでカバーするという訳ではないのだけれど、
折り目正しく美しく

この年、アクリルの洒落たマルチプル作品も2点制作。
オーブントースターで高温乾燥させた“手焼き”のシルク作品、
半世紀前の「赤い太陽」は、未だ輝きを保っています。
(耐光テストも兼ねて、いつも机の上に)。

菅井汲用の特注インク。
クサカベ絵具の試験用ローラーで、シルクのメディウム(無色)に油絵具で使う顔料を
数倍も奢って混ぜ合わせてもらった濃厚インク。鮮やかな発色とボリューム。
蒸発乾燥タイプなので油絵具のように固まらず、今でもある程度柔らかい。
1980 年のシリーズでも使用。

三島喜美代さんから頂いた作品も、我が工房の入り口に
大切に捨てられています。
梱包・運送みち草話

一反風呂敷 (いったんふろしき)
広げると畳2枚ほどの大きさ。昔の行商の人達が、荷を包み担ぐための定番。
初代のものは、さすがにあちこち穴だらけで、これは愛用中の二代目。
北の勝(きたのかつ)は、根室の地酒。明治20年(1887年)創業。
戦前は、国後島に蟹缶詰工場も持っていて、
日活映画「生命の冠」(1936年)内田吐夢監督のロケでも使われた。
15 歳の原節子が出演。
リヤカーを古道具屋で借りて、近場の紙屋さんへ。
その当時(70年代前半)でも、リヤカーで紙を買いに来たと言って珍しがられた。
荷の置き方で、「てこの原理」が甦る。
タクシーも、あまりに重いと敬遠され、必要に迫られ自動車免許取得へ。
後輩の一ノ瀬君に同乗してもらい、仮免レンタカーで納品。
これは、教則本の書体に似せて書いた当時の製版フィルム。
ベニヤ板にシルクで刷り込んだ自作のプレート。

(いしだりょういち)
■石田了一(いしだりょういち)
シルクスクリーン刷り師・石田了一工房主宰
1947年北海道根室生まれ、1970 年美學校で岡部徳三氏に師事。
1971年、宇佐美圭司展(南画廊)で発表された<ボカシの 40 版>の版画で工房をスタート。これまでにアンディ・ウォーホル、安藤忠雄、磯崎新、草間彌生、熊谷守一、倉俣史朗、
桑山忠明、五味太郎、 菅井汲、関根伸夫、田名網敬一、寺山修司、鶴田一郎、萩原朔美、
毛綱毅曠、元永定正、脇田愛二郎、脇田和 他 ,
様々なジャンルのアーティストのシルクスクリーン作品を手掛ける。
●新連載「刷り師・石田了一の仕事」は毎月3日の更新です。次回は2024年10月3日を予定しています。どうぞお楽しみに。
●本日のお勧め作品は菅井汲です。

1976年
凸版+シルクスクリーン
(刷り:石田了一)
イメージサイズ:35.5×25.0cm
シートサイズ:40.5×28.5cm
Ed.150
サインあり
※レゾネNo267(阿部出版)
作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

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