佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第92回
8月末の成果
8月末、香川と大阪の方へ出張していて、ちょうどあの大型台風にぶつかってしまった。新大阪駅から帰ろうとするも、どうやら静岡あたりで新幹線は通れなくなっているようで、帰ることができない。その日は仕方がなく、近くのホテルに泊まることにした。翌日、ホテルの部屋で仕事をしつつ、台風情報をチェックする。どうやらもう1-2日くらい東海道新幹線は運休の予定らしい。これは全然帰れないぞ、となった。それでふっと思い立ち、心斎橋の画材屋さんへ向かった。日本中で豪雨、洪水の被害が出ているのに、幸いその日の大阪はなぜか快晴である。数日間ホテルにカンヅメになることを想定して、画用紙と鉛筆、そして絵の具と筆を買いに行ったのだ。ついでに画板も新調してみた。残念ながら散財である。
ホテルに戻ったあたりで、どうやら敦賀経由の北陸新幹線は平常通り動いていて、帰れることが分かる。難なくそのルートの予約もできてしまったので、結局次の日に帰るのを決めた。せっかく買った画材がどうやら使えそうにない(その日は仕事が溜まっていた)。残念。そして次の日、問題なく新幹線で帰宅した。ただただ荷物が増えただけだった。夕方に帰宅して、なんとなく悔しかったのでその日の夜中、画用紙にすこしだけドローイングを描いてみた。
翌日、もう台風もいなくなっていたので、家族で横須賀美術館へ行ってみた。山本理顕さんの設計。美術館はとても良かった。立体的な動線や天井高さの各所スケール感、エレベーターや屋根裏?空間の細やかなデザインなど素晴らしかった。屋上の有機的な平面形状のグレーチング広場は、どこまで効果的なのかはよくわからない。おそらくあれは、館内の案内図として表示されるときの図形として1番効果を発揮しているのだろう。

(横須賀美術館の天井開口)

(横須賀美術館の天井裏。エレベーターで屋上に上がる途中に見える)
開催されているエドワード・ゴーリー展を見る。とても繊細で、モチーフがとても可愛くて不気味。すごく良かった。銅版画かと思って眺めていたが、キャプションをよく読んだらほぼ全てがペンで描かれたものだとわかる。ペンの運びがとても正確。当時は画像を拡大縮小ができないから、挿絵は本のページにちゃんと入るように小さく描かなければいけなかったのだろう。それでこの小さな絵が生まれているのだ。展示のなかに、いくつか切り絵のように複数の図像をモンタージュさせて本の表紙のデザインを制作する様子もあった。
おそらく、この展示は自分にとってとても実りがあった。今、自分は制作をする、しているモノについてモゴモゴと考えている最中であるが、なんとなくやはり、立体(カメラ)、ドローイング(平面)、写真、というおおよそ3つのメディアの連関と重ね合わせ、あるいはそれぞれの境界がとても気になっている。立体、カメラを作るためのドローイング、カメラから生成される写真、そして写真からさらにまたドローイングへ。あるいはドローイングから写真制作への直接的な介入、などができないものだろうか。
ゴーリーの、小さな線画作品は、絵本という別媒体のために、その挿絵として制作されたものである。異なるメディアへと転写、展開していくものとして、自分にはとても参考になった。また、本のレイアウトに合わせて挿絵の大きさが決まり、とても小さな絵を描かなければならないという制作制限のあり方によって、とても細かい不思議な絵が生まれているということも、とても魅力的に感じられた。そしてその小さな平面パーツを組み合わせて作る表紙のモンタージュ。なるほどなるほど、と唸りながらゴーリー展を眺めた。
そうして帰ってきてから、改めてドローイングに取り組む。今回は立体のモチーフが写真機のハコと鏡の面、そしてそれぞれを支える骨組があることを、いくらか念頭に置きつつ、形を探している。そして、特に鏡にはこれから何かが映り込む、写り込むことを想像していく。やはり描き始めたら、何かしら思いつく。どんどん進めていく。

(描き途中のドローイング。制作している鏡と写真機のあり方を考えつつ)
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2022年3月ときの忘れもので二回目となる個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を開催。今秋11月には三回目の個展をときの忘れもので開催します。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●本日のお勧め作品は佐藤研吾と磯崎新です。
《向かい合う空洞》
2022年
画用紙に鉛筆、顔彩
48.0×41.0cm/74.0×74.0cm
サインあり
磯崎新
《MUSEUM-II》
(北九州市立美術館)
1983
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:
55.05x55.0 cm
シートサイズ:
90.0x63.0 cm
Ed.75、サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
*画廊亭主敬白
ご紹介するのが遅れてしまいましたが、磯崎新先生が設計した名作・北九州市立美術館が開館50周年を迎えます。
福岡相互銀行など次々と壊されていくなかで、北九州市立美術館は福岡県北九州市戸畑区西鞘ケ谷町21-1に今も健在です。
記念イベントを紹介します。
●記念講演会/「丘の上の双眼鏡」の半世紀
2024年9月7日(土)13:30~15:00(開場13:00~)
講師=後小路雅弘(北九州市立美術館館長)
会場=アネックス棟3階 レクチャールーム(定員80名)
※聴講無料。事前申込み不要。当日10時より1階インフォメーションにて整理券配布。
●開館50周年記念シンポジウム「山の上の美術館サミット」
全国の山の上/丘の上に位置する美術館の館員5名が登壇し、山の上/丘の上に立地する美術館ならではの特徴や魅力、また立地ゆえの課題を克服する戦略や工夫について共有し、今後の美術館のあり方について展望を語り合います。
2024年9月14日(土)13:30~16:00(開場13:00~)
パネリスト=木下直之(静岡県立美術館館長)、寺口淳治(広島市現代美術館館長)、菅章(元 大分市美術館館長)、林田龍太(熊本県立美術館学芸普及課長)、後小路雅弘(当館館長)
会場=アネックス棟3階 レクチャールーム(定員80名)
※聴講無料。事前申込み不要。当日10時より1階インフォメーションにて整理券配布。
お近くの方、ぜひご参加ください。
◆『戦後版画にみる日米交流1945-1965』出版記念特集展示
「創作版画から戦後版画へ」
会期:2024年9月26日(木)~9月28日(土)
9月28日(土)15時より、桑原規子先生のレクチャーとサイン会(予約不要)。
出品予定:恩地孝四郎、関野準一郎、吉田千鶴子、川西英、畦地梅太郎、長谷川潔、山林文子、前川千帆、駒井哲郎、内間安瑆、内間俊子、他
●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。

〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
8月末の成果
8月末、香川と大阪の方へ出張していて、ちょうどあの大型台風にぶつかってしまった。新大阪駅から帰ろうとするも、どうやら静岡あたりで新幹線は通れなくなっているようで、帰ることができない。その日は仕方がなく、近くのホテルに泊まることにした。翌日、ホテルの部屋で仕事をしつつ、台風情報をチェックする。どうやらもう1-2日くらい東海道新幹線は運休の予定らしい。これは全然帰れないぞ、となった。それでふっと思い立ち、心斎橋の画材屋さんへ向かった。日本中で豪雨、洪水の被害が出ているのに、幸いその日の大阪はなぜか快晴である。数日間ホテルにカンヅメになることを想定して、画用紙と鉛筆、そして絵の具と筆を買いに行ったのだ。ついでに画板も新調してみた。残念ながら散財である。
ホテルに戻ったあたりで、どうやら敦賀経由の北陸新幹線は平常通り動いていて、帰れることが分かる。難なくそのルートの予約もできてしまったので、結局次の日に帰るのを決めた。せっかく買った画材がどうやら使えそうにない(その日は仕事が溜まっていた)。残念。そして次の日、問題なく新幹線で帰宅した。ただただ荷物が増えただけだった。夕方に帰宅して、なんとなく悔しかったのでその日の夜中、画用紙にすこしだけドローイングを描いてみた。
翌日、もう台風もいなくなっていたので、家族で横須賀美術館へ行ってみた。山本理顕さんの設計。美術館はとても良かった。立体的な動線や天井高さの各所スケール感、エレベーターや屋根裏?空間の細やかなデザインなど素晴らしかった。屋上の有機的な平面形状のグレーチング広場は、どこまで効果的なのかはよくわからない。おそらくあれは、館内の案内図として表示されるときの図形として1番効果を発揮しているのだろう。

(横須賀美術館の天井開口)

(横須賀美術館の天井裏。エレベーターで屋上に上がる途中に見える)
開催されているエドワード・ゴーリー展を見る。とても繊細で、モチーフがとても可愛くて不気味。すごく良かった。銅版画かと思って眺めていたが、キャプションをよく読んだらほぼ全てがペンで描かれたものだとわかる。ペンの運びがとても正確。当時は画像を拡大縮小ができないから、挿絵は本のページにちゃんと入るように小さく描かなければいけなかったのだろう。それでこの小さな絵が生まれているのだ。展示のなかに、いくつか切り絵のように複数の図像をモンタージュさせて本の表紙のデザインを制作する様子もあった。
おそらく、この展示は自分にとってとても実りがあった。今、自分は制作をする、しているモノについてモゴモゴと考えている最中であるが、なんとなくやはり、立体(カメラ)、ドローイング(平面)、写真、というおおよそ3つのメディアの連関と重ね合わせ、あるいはそれぞれの境界がとても気になっている。立体、カメラを作るためのドローイング、カメラから生成される写真、そして写真からさらにまたドローイングへ。あるいはドローイングから写真制作への直接的な介入、などができないものだろうか。
ゴーリーの、小さな線画作品は、絵本という別媒体のために、その挿絵として制作されたものである。異なるメディアへと転写、展開していくものとして、自分にはとても参考になった。また、本のレイアウトに合わせて挿絵の大きさが決まり、とても小さな絵を描かなければならないという制作制限のあり方によって、とても細かい不思議な絵が生まれているということも、とても魅力的に感じられた。そしてその小さな平面パーツを組み合わせて作る表紙のモンタージュ。なるほどなるほど、と唸りながらゴーリー展を眺めた。
そうして帰ってきてから、改めてドローイングに取り組む。今回は立体のモチーフが写真機のハコと鏡の面、そしてそれぞれを支える骨組があることを、いくらか念頭に置きつつ、形を探している。そして、特に鏡にはこれから何かが映り込む、写り込むことを想像していく。やはり描き始めたら、何かしら思いつく。どんどん進めていく。

(描き途中のドローイング。制作している鏡と写真機のあり方を考えつつ)
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2022年3月ときの忘れもので二回目となる個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を開催。今秋11月には三回目の個展をときの忘れもので開催します。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●本日のお勧め作品は佐藤研吾と磯崎新です。

2022年
画用紙に鉛筆、顔彩
48.0×41.0cm/74.0×74.0cm
サインあり

《MUSEUM-II》
(北九州市立美術館)
1983
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:
55.05x55.0 cm
シートサイズ:
90.0x63.0 cm
Ed.75、サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
*画廊亭主敬白
ご紹介するのが遅れてしまいましたが、磯崎新先生が設計した名作・北九州市立美術館が開館50周年を迎えます。
福岡相互銀行など次々と壊されていくなかで、北九州市立美術館は福岡県北九州市戸畑区西鞘ケ谷町21-1に今も健在です。
記念イベントを紹介します。
●記念講演会/「丘の上の双眼鏡」の半世紀
2024年9月7日(土)13:30~15:00(開場13:00~)
講師=後小路雅弘(北九州市立美術館館長)
会場=アネックス棟3階 レクチャールーム(定員80名)
※聴講無料。事前申込み不要。当日10時より1階インフォメーションにて整理券配布。
●開館50周年記念シンポジウム「山の上の美術館サミット」
全国の山の上/丘の上に位置する美術館の館員5名が登壇し、山の上/丘の上に立地する美術館ならではの特徴や魅力、また立地ゆえの課題を克服する戦略や工夫について共有し、今後の美術館のあり方について展望を語り合います。
2024年9月14日(土)13:30~16:00(開場13:00~)
パネリスト=木下直之(静岡県立美術館館長)、寺口淳治(広島市現代美術館館長)、菅章(元 大分市美術館館長)、林田龍太(熊本県立美術館学芸普及課長)、後小路雅弘(当館館長)
会場=アネックス棟3階 レクチャールーム(定員80名)
※聴講無料。事前申込み不要。当日10時より1階インフォメーションにて整理券配布。
お近くの方、ぜひご参加ください。
◆『戦後版画にみる日米交流1945-1965』出版記念特集展示
「創作版画から戦後版画へ」
会期:2024年9月26日(木)~9月28日(土)
9月28日(土)15時より、桑原規子先生のレクチャーとサイン会(予約不要)。

●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。

〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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