同じ本を買う(買ってしまう)ことはよくある。
既に持っていることがわかっていながら、それが見つからず(自宅か、画廊か、倉庫か)、探す手間を省くため重複を承知で買ってしまうのがその一。
感動のあまり、人にも読んでもらいたくて、同じ本をたくさん買ってやたらプレゼントをしてしまうのがその二。サラリーマンになり立ての頃、今江祥智・宇野亜喜良の絵本「あのこ」は在庫が無いというのを、理論社の倉庫まで漁ってもらった。おかげで社長の小宮山量平さんの知遇を得ることができたが、しかし、もらう方が迷惑だということに気づいて、いまはそういう馬鹿な買い方はしません。

今回は内堀弘著『ボン書店の幻』(1992年、白地社)を持っていながら、わざわざ文庫本の「あとがき」だけを読むためにちくま文庫を買うはめになった。
竹橋の東京国立近代美術館のコレクション展があまりに素晴らしかったので、大谷省吾先生に少し感想を書いて送ったのですが、折り返し丁寧なメールをいただいた。
<それからお恥ずかしながら最近、当館のホームページに下記のような記事をアップしました。
https://www.momat.go.jp/magazine/215
『資生堂ギャラリー75年史』にも言及させていただきました。ご笑覧ください。大谷省吾>
『資生堂ギャラリー七十五年史』は、柴田卓、三上豊という名編集者を得て、亭主が企画して足掛け6年かけて1995年に刊行した。執筆陣は46名、最年長が大泉博一郎先生(1903年、明治36年生まれ)、最年少が大谷省吾先生(1969年、昭和44年生まれ)でした。
上掲の近美のホームページ「研究員の本棚」にそのことが紹介されているのですが、今日の本題は別です。
●東京国立近代美術館 連載企画「研究員の本棚」
このコーナーは、アートライブラリの担当者である東京国立近代美術館研究員の長名大地が聞き手となり、館内の研究員に、それぞれの専門領域に関する資料を紹介いただきながら、普段のお仕事など、あれこれ伺っていくインタビュー企画です。第5回目は、大谷省吾副館長にお話を伺います。
(中略)
大谷:瀧口綾子さんに限らず、日本の近代美術には同様に忘れ去られてしまった画家がたくさんいます。明治美術学会の学会誌『近代画説』でも、私の編集で何人かの研究者に呼びかけて「近代日本美術史は、作品の現存しない作家をいかに扱うことができるか?」という特集を組みました(29号、2020年)。そして、こうしたアプローチをする上で、私にとって指針になった本があります。内堀弘さんの『ボン書店の幻』です。
長名:ボン書店?
大谷:ボン書店というのは、1930年代に数々のすぐれた詩集(たとえばブルトン、エリュアール/山中散生訳『童貞女受胎』1936年)を刊行して、そしていつの間にか姿を消した出版社なのですが、近代詩歌を専門とする古書店(石神井書林)の主である内堀さんは、全く手掛りなしのところから、このボン書店をたったひとりで運営していた鳥羽茂(とば いかし)という人物の足取りに迫っていくのです。徹底した調査力に圧倒されるのですが、同時にまた登場するひとりひとりに対する敬意と愛情と哀惜に満ちていて、すばらしい本です。この本は、1992年に最初の版(白地社)が出て、私は大学院時代に読んで感銘を受けたのですが、お薦めしたいのは2008年にちくま文庫で出た増補版です。初版の段階では、実は鳥羽茂の足取りは、最後まではたどれずに終わっていました。しかしその本が出版されたことで、さまざまな人から情報が寄せられ、ついに内堀さんは鳥羽の息子と出会うことができ、鳥羽の最期を知ることができて、その終焉の地まで行くのですね。その顛末が記された「文庫版のための少し長いあとがき」を私はうっかり通勤電車の中で読んでしまい、涙がとまらないばかりか嗚咽がとまらなくなり周囲から不審がられたことをよく覚えています。というか今思い出しただけで涙がとまりません。この本から私が教わった最大のことは、研究対象に対する愛と敬意が何よりも大切であること、その愛と敬意をどのように読者に届け、心を震わせることができるかが、研究者ひいては美術館学芸員の使命の全てであるということです。
(以下、略)
~~~~~~~~
近美のHPもなかなか面白い企画を掲載しているのですね。気がつきませんでした。
大谷先生には10月に開催する「松本竣介展」のギャラリートークの講師をお願いしています。
事前申し込み(抽選、参加費1,000円)ですので、参加ご希望の方はメールでお申込みください。
※参加者は抽選となりますので、9月27日までにお申し込みください。
●10月5日(土)17時~18時半
講師:大谷省吾(東京国立近代美術館副館長)
■大谷省吾(おおたに・しょうご):東京国立近代美術館副館長。1969年生まれ。筑波大学大学院博士課程芸術学研究科中退。博士(芸術学)。1994年より東京国立近代美術館に勤務。2022年より現職。同館で「地平線の夢:昭和10年代の幻想絵画」(2003年)、「生誕100年 靉光展」(2007年)、「河口龍夫展 言葉・時間・生命」(2009年)、「麻生三郎展」(2010年)、「生誕100年 岡本太郎展」(2011年)、「福沢一郎展 このどうしようもない世界を笑いとばせ」(2019年)、「重要文化財の秘密」(2023年)などを企画。著作に『激動期のアヴァンギャルド:シュルレアリスムと日本の絵画一九二八–一九五三』(国書刊行会、2016年)などがある。
*画廊亭主敬白
亭主は先日ブログでDIC川村記念美術館の休館についてちょっと触れたのですが、それが思わぬ反響を呼び驚きました。
正確には、亭主の投稿を引用した「雪りん」さんという方のtwitterが万を超える再生数を記録したようです。やはりああいうもの言いに違和感を覚えた方がすくなくなかったようです。
美術館も稼ぐ努力をせよという方には、大谷先生の「研究対象に対する愛と敬意」が「美術館学芸員の使命の全てである」という言葉を贈りたいと思います。
「生誕120年 瀧口修造展V Part 2 シュルレアリスム関連8作家とともに」は本日、最終日です。
瀧口先生と関連する海外作家の小展示ですが、予想外の好評で、いまどきの現代アートとは無縁のクラッシックな作品を求めている人が少なくないことを実感しています。
暑いので、ぜひとは言いにくいのですが、冷たいお茶を用意してお待ちしています。
◆「生誕120年 瀧口修造展V Part 2 シュルレアリスム関連8作家とともに」
2024年9月10日(火)~21日(土)11時~19時 ※日・月・祝日休廊
出品:瀧口修造、ジョアン・ミロ、マックス・エルンスト、マン・レイ、ハンス・ベルメール、ロベルト・マッタ、フランシス・ピカビア、マルセル・デュシャン、パウル・クレー、他
出品作品の詳細は9月9日ブログに掲載しました。
※クリックすると再生します。
※右下の「全画面」ボタンをクリックすると動画が大きくなります。
●パリのポンピドゥーセンターで始まったシュルレアリスム展にはときの忘れものから瀧口修造のデカルコマニーを出展しています。カタログ(仏文)が到着しましたので特別頒布します。
『SURREALISME』(仏語版)図録 サイズ:32.8×22.8×3.5cm、344頁 頒布価格:2万円+税=22,000円
◆次回企画 松本竣介展
会期:2024年10月4日(金)~19日(土)11時~19時 ※日・月・祝日休廊

●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。

〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
既に持っていることがわかっていながら、それが見つからず(自宅か、画廊か、倉庫か)、探す手間を省くため重複を承知で買ってしまうのがその一。
感動のあまり、人にも読んでもらいたくて、同じ本をたくさん買ってやたらプレゼントをしてしまうのがその二。サラリーマンになり立ての頃、今江祥智・宇野亜喜良の絵本「あのこ」は在庫が無いというのを、理論社の倉庫まで漁ってもらった。おかげで社長の小宮山量平さんの知遇を得ることができたが、しかし、もらう方が迷惑だということに気づいて、いまはそういう馬鹿な買い方はしません。

今回は内堀弘著『ボン書店の幻』(1992年、白地社)を持っていながら、わざわざ文庫本の「あとがき」だけを読むためにちくま文庫を買うはめになった。
竹橋の東京国立近代美術館のコレクション展があまりに素晴らしかったので、大谷省吾先生に少し感想を書いて送ったのですが、折り返し丁寧なメールをいただいた。
<それからお恥ずかしながら最近、当館のホームページに下記のような記事をアップしました。
https://www.momat.go.jp/magazine/215
『資生堂ギャラリー75年史』にも言及させていただきました。ご笑覧ください。大谷省吾>
『資生堂ギャラリー七十五年史』は、柴田卓、三上豊という名編集者を得て、亭主が企画して足掛け6年かけて1995年に刊行した。執筆陣は46名、最年長が大泉博一郎先生(1903年、明治36年生まれ)、最年少が大谷省吾先生(1969年、昭和44年生まれ)でした。
上掲の近美のホームページ「研究員の本棚」にそのことが紹介されているのですが、今日の本題は別です。
●東京国立近代美術館 連載企画「研究員の本棚」
このコーナーは、アートライブラリの担当者である東京国立近代美術館研究員の長名大地が聞き手となり、館内の研究員に、それぞれの専門領域に関する資料を紹介いただきながら、普段のお仕事など、あれこれ伺っていくインタビュー企画です。第5回目は、大谷省吾副館長にお話を伺います。
(中略)
大谷:瀧口綾子さんに限らず、日本の近代美術には同様に忘れ去られてしまった画家がたくさんいます。明治美術学会の学会誌『近代画説』でも、私の編集で何人かの研究者に呼びかけて「近代日本美術史は、作品の現存しない作家をいかに扱うことができるか?」という特集を組みました(29号、2020年)。そして、こうしたアプローチをする上で、私にとって指針になった本があります。内堀弘さんの『ボン書店の幻』です。
長名:ボン書店?
大谷:ボン書店というのは、1930年代に数々のすぐれた詩集(たとえばブルトン、エリュアール/山中散生訳『童貞女受胎』1936年)を刊行して、そしていつの間にか姿を消した出版社なのですが、近代詩歌を専門とする古書店(石神井書林)の主である内堀さんは、全く手掛りなしのところから、このボン書店をたったひとりで運営していた鳥羽茂(とば いかし)という人物の足取りに迫っていくのです。徹底した調査力に圧倒されるのですが、同時にまた登場するひとりひとりに対する敬意と愛情と哀惜に満ちていて、すばらしい本です。この本は、1992年に最初の版(白地社)が出て、私は大学院時代に読んで感銘を受けたのですが、お薦めしたいのは2008年にちくま文庫で出た増補版です。初版の段階では、実は鳥羽茂の足取りは、最後まではたどれずに終わっていました。しかしその本が出版されたことで、さまざまな人から情報が寄せられ、ついに内堀さんは鳥羽の息子と出会うことができ、鳥羽の最期を知ることができて、その終焉の地まで行くのですね。その顛末が記された「文庫版のための少し長いあとがき」を私はうっかり通勤電車の中で読んでしまい、涙がとまらないばかりか嗚咽がとまらなくなり周囲から不審がられたことをよく覚えています。というか今思い出しただけで涙がとまりません。この本から私が教わった最大のことは、研究対象に対する愛と敬意が何よりも大切であること、その愛と敬意をどのように読者に届け、心を震わせることができるかが、研究者ひいては美術館学芸員の使命の全てであるということです。
(以下、略)
~~~~~~~~
近美のHPもなかなか面白い企画を掲載しているのですね。気がつきませんでした。
大谷先生には10月に開催する「松本竣介展」のギャラリートークの講師をお願いしています。
事前申し込み(抽選、参加費1,000円)ですので、参加ご希望の方はメールでお申込みください。
※参加者は抽選となりますので、9月27日までにお申し込みください。
●10月5日(土)17時~18時半
講師:大谷省吾(東京国立近代美術館副館長)
■大谷省吾(おおたに・しょうご):東京国立近代美術館副館長。1969年生まれ。筑波大学大学院博士課程芸術学研究科中退。博士(芸術学)。1994年より東京国立近代美術館に勤務。2022年より現職。同館で「地平線の夢:昭和10年代の幻想絵画」(2003年)、「生誕100年 靉光展」(2007年)、「河口龍夫展 言葉・時間・生命」(2009年)、「麻生三郎展」(2010年)、「生誕100年 岡本太郎展」(2011年)、「福沢一郎展 このどうしようもない世界を笑いとばせ」(2019年)、「重要文化財の秘密」(2023年)などを企画。著作に『激動期のアヴァンギャルド:シュルレアリスムと日本の絵画一九二八–一九五三』(国書刊行会、2016年)などがある。
*画廊亭主敬白
亭主は先日ブログでDIC川村記念美術館の休館についてちょっと触れたのですが、それが思わぬ反響を呼び驚きました。
正確には、亭主の投稿を引用した「雪りん」さんという方のtwitterが万を超える再生数を記録したようです。やはりああいうもの言いに違和感を覚えた方がすくなくなかったようです。
美術館も稼ぐ努力をせよという方には、大谷先生の「研究対象に対する愛と敬意」が「美術館学芸員の使命の全てである」という言葉を贈りたいと思います。
「生誕120年 瀧口修造展V Part 2 シュルレアリスム関連8作家とともに」は本日、最終日です。
瀧口先生と関連する海外作家の小展示ですが、予想外の好評で、いまどきの現代アートとは無縁のクラッシックな作品を求めている人が少なくないことを実感しています。
暑いので、ぜひとは言いにくいのですが、冷たいお茶を用意してお待ちしています。
◆「生誕120年 瀧口修造展V Part 2 シュルレアリスム関連8作家とともに」
2024年9月10日(火)~21日(土)11時~19時 ※日・月・祝日休廊
出品:瀧口修造、ジョアン・ミロ、マックス・エルンスト、マン・レイ、ハンス・ベルメール、ロベルト・マッタ、フランシス・ピカビア、マルセル・デュシャン、パウル・クレー、他

※クリックすると再生します。
※右下の「全画面」ボタンをクリックすると動画が大きくなります。
●パリのポンピドゥーセンターで始まったシュルレアリスム展にはときの忘れものから瀧口修造のデカルコマニーを出展しています。カタログ(仏文)が到着しましたので特別頒布します。

◆次回企画 松本竣介展
会期:2024年10月4日(金)~19日(土)11時~19時 ※日・月・祝日休廊

●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。

〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
コメント