三上豊「今昔画廊巡り」

第17回 内科画廊


 このブログでは、筆者が訪れたことがある画廊を対象としてきた。しかし、たまたま今年、編集に関わった『内科画廊 写真帖 1963―1967』を公開することができたこともあり、今回は特別編となる。

 内科画廊は、新橋駅近く、港区新橋2-12 堤第2ビル3階にあった。画廊主は宮田國男(1936―84)だ。ビルには敗戦間もない1946年から父親が開業していた「宮田内科」があった。63年に父が亡くなり、國男自身は診療所を継ぐにもまだインターン中であったため、内科の空間は浮くことになった。宮田は旧知の美術家中西夏之に相談、中西は当時「ハイレッド・センター」を高松次郎、赤瀬川原平と結成し、活動の拠点を模索していた。63年5月、ハイレッドは〈行為の美術〉を行う。診療所の内外に紐や風船、洗濯バサミ、梱包されたオブジェが並んだ。さらに銀座の街に出て、歩道などをゴシゴシと清掃した。これがきっかけで、宮田は診療所を貸し画廊とすることになる。

 画廊の空間は、壁面約18メートル、床面積26平米、天井高3メートル20。維持費は1日4000円となっている。

 時は読売アンデパンダン展がなくなり、団体展以外の発表の場をもとめて、作家たちは街へでた。内科画廊では、63年7月の中原佑介企画「不在の部屋」展が今では有名だが、展覧会を開いた作家たちには次のような名が並ぶ。篠原有司男、三木富雄、久保田成子、オノ・ヨーコ、岸本清子、林三從、岡部道男、松澤宥、森内敬子、小島信明、清水晃、刀根康尚、小杉武久、谷川晃一、ハイレッド・センター、ゼロ次元、実験映画では飯村隆彦、大林宣彦など。現代美術史に名を残している作家たちがみえてくる。なぜ、そのような作家たちが内科画廊に集結したのか。宮田國男の人柄と作家たちのネットワークだろう。60年代半ば「表現を世に問う」ことを先端的に取り組もうとした姿勢が蠢いている。それが内科画廊だ。また長く続けることがなかったこともあろう。強烈なエネルギーは消耗も激しいからだ。67年秋、宮田國男は画廊を閉じ、「宮田神経科クリニック」を開業する。

 今回の『写真帖』の作成にあたっては、國男氏の娘・有香さんの力に負うことが大きい。彼女は学生時代から画廊の資料を収集、コツコツと作家を含めた関係者にインタビューを試みてきた。その記録は『あいだ』誌上に2000年11月号から20回にわたり掲載された。今回の冊子には作品や展覧会の詳細は除かれているが、そちらは「戦後芸術資料保存Padoco」のHPで順次掲載の予定だ。

『内科画廊 写真帖 1963―1967』(非売品 A5版 総76頁 記録写真・案内状など多数掲載)は、以下の要項で入手可です。
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スマートレターに返信ご住所を記入のうえ、
116―0014 荒川区東日暮里2-49-2-704 戦後芸術資料保存Padoco
までお送りください。残部僅少のため1部送付とさせていただきます。
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『内科画廊 写真帖 1963―1967』表紙

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内科画廊再現図 作図:下坂浩和

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『美術手帖』1963年9月号 画廊地図より 左隅に「内科画廊」とある

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左が新橋駅。右のビルの3階に内科画廊があった。現在は車券売り場。

(みかみ ゆたか)

■三上 豊(みかみ ゆたか)
1951年東京都に生まれる。11年間の『美術手帖』編集部勤務をへて、スカイドア、小学館等の美術図書を手掛け、2020年まで和光大学教授。現在フリーの編集者、東京文化財研究所客員研究員。主に日本近現代美術のドキュメンテーションについて研究。『ときわ画廊 1964-1998』、『秋山画廊 1963-1970』、『紙片現代美術史』等を編集・発行。

・三上豊のエッセイ「今昔画廊巡り」は毎月28日の更新です。次回更新は2024年10月28日です。どうぞお楽しみに。

●本日のお勧め作品は高松次郎です。
takamatsu02《波の柱》
1974年
26.6×26.4×H90.5cm
アルミニュームダイキャスト・ヘヤ―ライン
Ed.95
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◆『戦後版画にみる日米交流1945-1965』出版記念特集展示
創作版画から戦後版画へ
会期:2024年9月26日(木)~9月28日(土)
本日9月28日(土)15時より、桑原規子先生のレクチャーとサイン会(予約不要)。
魔法陣出品予定:恩地孝四郎、関野準一郎、吉田千鶴子、川西英、畦地梅太郎、長谷川潔、山林文子、前川千帆、駒井哲郎、内間安瑆、内間俊子、他

●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
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