10月、リトアニアに関連するイベントに2つ続けて参加しました。
一つ目は横須賀で開催されたジョナス・メカス『営倉』の上映会、二つ目はリトアニアのフォークダンス・アンサンブル「ネムナス」の初来日公演です。

今回のジョナス・メカス上映会を企画し、ご案内をくださったのは、2014年にも横須賀でピアノ演奏付きの素晴らしい上映会を開かれた西村大佑さん。今回も古民家を改装したスペース「飯島商店」に映写機を持ち込んで『営倉』をフィルム上映するという、オリジナリティあふれるイベントを実現されました。

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飯島商店外観

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タバコが売られていたと思われるディスプレイには、貴重な資料の数々が

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昔ながらの急な階段をのぼると、畳スペースと映写機が現れます

『営倉』は囚人と看守との暴力的で理不尽なやりとりを描いた舞台を記録した映像。1965年の「ヴェネチア映画祭」ドキュメンタリー部門で大賞を受賞するなど高い評価を得ていますが、その内容の過酷さゆえか、メカスの他作品に比べて上映機会が少ないように思います。


『営倉』本編より

個人的にも、大学時代にDVDで観たきりだった同作ですが、今回の上映会で久しぶりに全編を鑑賞し、ジョナス・メカスがフィルモグラフィー初期に、強制労働収容所や難民キャンプでの日々を共にした弟のアドルファス・メカスと『営倉』を完成させた事実の重みを感じました(アドルファスは同作の編集を担当)。

また、この映画の16mmフィルムが横須賀で大切に保管されてきた歴史を知れたことも、大きな収穫でした。まだ大学生のころ「横須賀の魚屋さんがメカスのフィルムを持っているらしい」と噂を耳にしたことがあったのですが、これまで真偽を確かめる機会がなく「あれは自分のでっちあげた夢だったのかもしれない」と思い始めていました。ところが今回、まさにそのフィルムが目の前に現れたのです!

所有者の筑間一男さんはもともと魚屋さんで、お店を畳んだ今も週5日、市場で魚を捌いているそう(「魚捌かせたら上手いんですよ」)。所有する16mmフィルムは筑摩さん擁する「ヨコスカ・シネクラブ」がジョナス・メカスさんご本人から購入されたもので、NYで「ビデオとフィルムがあるがどちらにするか」と問われ、迷わず「フィルムで」と答えたのだとか。

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筑間一男さんと西村大祐さん。2014年の上映会でも飾られた旗の前で

ヨコスカ・シネクラブでは他にも収容所から逃げたユダヤ青年二人が森を彷徨うチェコ映画『夜のダイヤモンド』のフィルムなどを所有しているそう。「数は少ないけれど、フィルムのアーカイブをしていきたい」とメカスさんに伝えると「たとえ1本でも、そのフィルムを大切にしていれば、それは立派なコレクションだ」と伝えられたのだと伺い、胸が熱くなりました。

米軍基地のある横須賀で『営倉』のフィルムを保持している必然性について尋ねると「その意識はあった」「ベトナム戦争を目の当たりにしてきた世代だから」と筑間さん。今回の上映のため、西村さんが企業にフィルムのチェックを依頼すると、とても良い状態であることが判明したそうです。

メカスさんの言葉通り1本のフィルムを大切に守ってこられたシネクラブの皆さんと、そのフィルムに出会う機会をくださった西村さんに、この場を借りて感謝の気持ちを伝えたいと思います。入り口に書店の出店があったり、映画の内容に関して観客を気遣う一言があったりと、隅々まで心の通った、素晴らしい上映の場でした。



10月15日は、赤坂区民センターでリトアニアのフォークダンス・アンサンブル「ネムナス」の公演に参加しました。

「ネムナス」はカウナス工業大学の学生とOBによって結成され、今年で75周年を迎えた由緒あるグループ。自然、労働、祭り、愛をテーマに民族音楽を奏で、歌や踊りを披露されています。全体で120人以上のメンバーがいるそうですが、今回は40人ほどの体制でパフォーマンスを披露してくださいました。

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公演前に日本語で挨拶をされたリトアニア大使館、オーレリウス・ジーカス大使によれば、歌と踊りはリトアニア文化の中でも非常に重要な役割を果たしているそう。リトアニア独立の際には、ソ連占領下でも歌を歌い独立の機運を高める「歌の革命」が行われ、1989年に約200万人が600km以上に渡って手をつなく独立運動「人間の鎖」が起きた際にも、人々は自国の歌を自国の言語で歌っていたそうです。

今回の公演は、リトアニアでも何度も演奏を披露したことがあるという日本のプロ和太鼓集団「大元組」のパフォーマンスから始まりました。力強い太鼓の音と、寸劇のような演出を交えたコミカルな演奏に会場が沸きます。

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「大元組」の演奏が終わると、いよいよ「ネムナス」が登場。民族衣装に身をつつんだメンバーがにこやかな表情で登場します。

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演奏が始まると、和太鼓の力強さとは対照的な、素朴な音楽に心洗われました。リトアニア語のやわらかい響きと、酒を飲み歌うメカスさんを彷彿とさせる陽気さには、老若男女を問わず、人々を思わず笑顔にする魅力があるように思います。

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バルト三国のユネスコ無形文化遺産「歌と踊りの祭典」は今年100周年

パフォーマンスには、「カンクレス」というリトアニアの伝統楽器も登場しました。パフォーマンス中の解説によれば、カンクレスはリトアニアで最も古い弦楽器で、リトアニア人が異教徒だったとき、人間の魂は木の魂が宿ったカンクレスにあると考えられていたそうです。

1時間ほどのパフォーマンスがあっという間に終わると、最後にネムナスと大元組のコラボパフォーマンスが披露され、檀上での花束贈呈が行われてイベントは閉幕しました。リトアニアに生まれ育った人々の精神性を垣間見ることのできる、貴重な体験をさせていただきました。

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●本日のお勧め作品はジョナス・メカス柳澤紀子です。
0909-35 (1)ジョナス・メカス
《ウーナ、1歳…》
2009年
CIBA print
35.4×27.5cm
サインあり

yanagisawa-07柳澤紀子
《動物のことば・北緯72°》
2023年
エッチング、手染め雁皮刷り アルシュ紙
57.5×87.0cm
Ed.10
サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。

●パリのポンピドゥーセンターでブルトンのシュルレアリスム宣言100年を記念して「シュルレアリスム展」が開催されています(~2025年1月13日まで)。ときの忘れものは同展に協力し瀧口修造のデカルコマニーを貸し出し、出展しています。展覧会の様子はパリ在住の中原千里さんのレポート(10月8日ブログ)をお読みください。
カタログ『SURREALISME』(仏語版)を特別頒布します。
サイズ:32.8×22.8×3.5cm、344頁 22,000円(税込み)+送料1,500円
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●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com 
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。