本日12月7日(土)は恐縮ですが、画廊は臨時休廊しています。
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佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第95回

展示をくぐり抜けて

本に載せようと11月の3日までは頑張って手記を書き連ねていたのに、個展準備の終盤に忙殺され、また展示が始まってからもうつつを抜かしていたためにまた一ヶ月ほど、言葉を蓄えるのを止めてしまっていた。

しかし、この書き留めていない時期こそがとても大事だったのは確実だ。立体制作と写真制作、そしてドローイングの描き込みがごちゃごちゃになりながら数日を過ごしていた。頭の中で想像していたよりも少し大きくて、また少し華奢で不確実そうな立体が組み上がった。撮影した印画紙を現像液に浸して出てきた図像に驚いた。机の上に複数の画用紙を並べて、鉛筆の一本の線や水彩の水溜りを一つずつ思いつくところに描き足し、自分の気分(感情というよりも、何か考えの道筋が見えるか見えないかの視界の雲行き)の昇降に沿って描けることが変わっていた。

立体の撮影は、またコムラマイさんに依頼させてもらった。展示が始まる一週間前あたりに、神奈川県の小田原近くの酒匂海岸で撮影した。大急ぎで福島で準備をして、立体を軽バンにどうにか詰め込み(ちゃんと養生をして)、神奈川へと向かったのだが、朝到着のハズが結局昼前になってしまった。だがどうやらちょうど、朝のサーフィンと釣りをやっていた人々が引き上げていく頃で、人気が少なくなった曇り空の下、それなりに浮世な感のある写真が撮影された。黒く染めた木とのコントラストと、空と海に溶け込んで消えたり、突如として向かいの高速道路の映像をうつし出したり、面となったり、線となったりの、こちらが見る向きによって様々に変態するミラーに驚いた。

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(All photo by comuramai

その後、無事作品をギャラリーに搬入し、展示が始まる。やはりちゃんと展示の初日に顔を出してくれる方々もいてくれて、嬉しい。始めはどうにもこちらの説明が拙いものなのだが、来る人来る人に説明を試み続けるうちに、だんだんと説明の内容が良くも悪くも周到なものとなり、そのあたりからようやく、自分自身が何を作ったのか、を理解し始めることができる。

今回は、庭と階段の踊り場に展示した「仮面と連担」と、二階に展示した「くぐり間くぐり」との2つの距離感が良かったように思われる。時系列的にも前者から後者への展開はわかりやすいものであったし、一つの展示会にいくつかの群が併存している感じが、さらにその次(未来)の道筋をいくらか照らしてくれていた気がした。

また、なんとなく本を作っておきたい、という漠然とした気持ちから、どうにか間に合った(DOOKSの相島さんにご尽力いただき、)小さな本『トンネル録』(TUNNEL DIALY)(DOOKS、2024)が、個人的には収穫だった。博士論文を挫折し、出版本の誘いにうまく応えることもできず、まとまったテクストを論として仕上げることができない自分にとって、今回の本で備忘のように記した断続的手記のスタイルはとてもうまく馴染んだ。そしてなんとなく、雑多で世俗的な内容から突如として抽象に向かうことのできるそのテクストの飛距離が生まれるのも、こうした手記のスタイルあってのことなのだ、ということも実感した。(日常からの抽象への跳躍のことを、最近あえてHIPHOPと形容している)この投稿の冒頭で手記を止めてしまったと書いたが、今回に限らずなるべくどうにか続けて行きたいと思っている。

ギャラリーの方々とは展示期間中に、今後の制作の展開、あたらしい制作メディアの探索について話し合った。そこで改めて、自分自身の普段の建築の仕事とこのカメラ制作との関係について考え込む。このカメラ制作は根幹の興味はやはり建築的な何か、なのだと思う。しかし今のところ、自分がほかで取り組んでいる建築設計(と時々施工)のプロジェクトに合流させることに違和感を抱いている。日々の具体的な物事への対応と、いわゆる抽象的な立体思考との間はもちろん何かしらでつながっているはずだが(とくに抽象思考からのフィードバック、質感の獲得といったことの実感が大きい)、例えば、制作したピンホールカメラで自分が設計した建築を撮影する、というような試みなどがどうしても野暮に思えて仕方がないのだ。

展示期間中も、いくつかの設計プロジェクトが動いていて、その対応、設計に追われていた。だが、この展示制作を経て、なんとなくそんな実務の仕事の中でも常にどこかしらに抽象なるものを見つけ出そうという気持ちが浮かんで来ていることに気づき、それはとても良かった。そのことからも、一連のカメラ制作は引き続き、他の設計プロジェクトとは少し距離を置いておこうかと思う。近すぎず遠すぎず。

演出家の黒田瑞仁さんが展示を訪れてくれた。久しぶりに会ったけれども、変わらずに独自の視座を示してくれる。彼曰く、今回の立体(写真機)と写真作品の質感について、演劇でいうならば、岸田國士的なるモノが写真を撮り撮られると安部公房になった。そのあたりに興味を持ったらしい。面白い。おそらく先日の大竹昭子さんとのトークで、大竹さんが触れられた写真というものの自律的な振る舞い(十分なコンテクストから生まれでているのに、写真はそのコンテクストをバサリと振りほどいてしまう、ような)とも関係があるかもしれない。

何人かの方々に、今回の写真作品について、お墓に見える、という感想をもらった。お墓、というものを不気味と思うか、恐怖を感じるか、あるいは未知へのワクワクと視るのか、それはまだ、よく分からない。

(さとう けんご)

佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2022年3月ときの忘れもので二回目となる個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を開催。今秋11月に三回目の個展をときの忘れもので開催した。

・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。



●佐藤研吾展への反響のいくつか

<佐藤研吾展 くぐり間くぐり@ときの忘れもの~2024/12/01
鉄媒染と柿渋のドローイングや、写真に残る気配の解説を伺えておもしろかった。デュシャンの名が出てきて驚いたりも。椅子にもなるオブジェを入手できれば、自分でもピンホールカメラで撮影できる…!
(20241201/magrittian(m25)さんのtwitterより)>

<ときの忘れもの
佐藤さんの展示に伺いました。
@kengo_sato
まだよく分からないので、展示を眺めながら残したメモだけ
経験の中で語られること、その射程と焦点について 語られないことのもつ輪郭について など
ありがとうございました
(20241201/いえむらさんのtwitterより)>

<佐藤研吾さんの個展へ滑り込み
@kengo_sato
赤と白の光が主流の建築で、青と黒のフィールドから手を動かして光を目指す姿勢には加わりたくなる魅力がありました。
(20241201/葛谷寧鵬さんのtwitterより)>

<作家の佐藤さんとの会話を通じて、安部公房をふやかして戻すと或いは岸田國士になることに気づく。思考とかたちの可逆性に気付かされる作品群だった。私も何かをこのくらい当たり前に認められたらとつまされる。
(20241201/舞台演出家@kuroda_mizuhitoさんのtwitterより)>

<佐藤健吾展 くぐり間くぐり です。木製のピンホールカメラと印画紙を用いて写真を撮影。写真,ピンホールカメラ,鏡を用いた作品。ドローイング,ドローイングを切り出してフォトグラムに という作品が並んでいます。
(20241127/桑山哲郎さんのfacebookより)>

<群れ、あるいは民族のような集合体として立体造形やドローイングを見れたのがよかった。
(20241127/E.Kさんの芳名簿より)>

●本日のお勧め作品は佐藤研吾です。
sato-81《くぐり抜けるためのミラー1》
2024年
木(ケヤキ、アラスカ桧、ラワン)、ステンレス、柿渋、鉄媒染
W30.0×D50.0×H180cm
サインあり
Photo by comuramai
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。


◆「生誕90年 倉俣史朗展 Cahier
会期=2024年12月13日(金)~12月28日(土) ※日・月・祝日休廊
ギャラリートーク:12月20日(金)17:00~18:30
講師:関康子NPO法人建築思考プラットフォーム理事)、大澤勝彦(元ヤマギワ勤務、㈱唯アソシエイツ代表取締役)
こちらからお申し込みください。
※参加費おひとり1,000円
75_Kuramata Shiro_案内状 表面
●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com 
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は原則として休廊ですが、企画によっては開廊、営業しています。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。