「刷り師・石田了一の仕事」
第11回「朽ちるリンゴ、巧みなリンゴ」
1970年代、私たちの林檎(りんご)はスティーブ・ジョブズではなく
萩原朔美であった。
1個のりんごが変化してゆく様を1年間、スチールカメラで撮影し、
それを16㎜のムービーカメラで再撮影して映画にした。
艶々のりんごがゆっくりと朽ちてゆく、諸行無常の映像でもある。
刷りの打ち合わせでお会いしたのは渋谷の「天井桟敷」だったろうか。
初めて姿を目にしたのは、それより前の1968年、澁澤龍彦責任編集と
銘打った「血と薔薇」天声出版のグラビアページ。
[男の死]のモデルとして土方巽と馬に乗っている写真であった。
撮影は濃ゆーい家族写真でも名高い深瀬昌久。
当時、この本は1000円!美術手帖が250円、アサヒグラフが150円の頃である。

美術出版社の技法講座シリーズに掲載されたページより。
上の緑色は1か月毎日のカビの増殖、3版3色3度刷り。
下は1年の月毎のりんごの変化、カラー分解(イエロー・
シアン・マゼンタ・スミ) 4版4色4度刷り
時間をテーマにした「One」は[1秒・1分]、[1時間・1日]、
[1か月・1年]を3枚に分けて刷っている。
1秒 One Sec. 24コマの16mmフィルム
1分 One Min. テレビのブラウン管の走査線
1時間 One Hour 木々のゆらぎ
1日 One Day 東京タワー
この「One」の全体像や他のりんごなどは、
萩原朔美さんのホームページで見ることができる。

1979年 6版6色6度刷り 紙サイズ600×900㎜
これは、上に掲載された作品のフィルムを組み替えて、
カラー分解のボカシに挑戦してみた。
それぞれのカラーの網版4色を、刷りだけで同じ色合いで消え入るように
インクの濃度を揃えてゆく。
フェードアウトがお好きな作者に応えての作品。
何でもないように見えて、実はとんでもないこと。

1978年 小田急線 4版4色4度刷り 紙495×320㎜
(写真は3諧調+シミ)
3歳の時の萩原朔美さんが、20年後、同じ場所、同じポーズで
撮った写真が基になっている。
もう1点、親戚一同が縁側で撮った20年差の集合写真の作品も
あるのだが、このご時世ではキビシイのではと躊躇った。
(「時間を生け捕る」フィルムアート社・1976年刊に詳しく記載されている)
紙も古びた感じを出したいとのことで、シミもそれらしく刷り込んだ。
それから半世紀近く経って、刷ったシミに寄せられたのか、
もちろん保存状態によるけれど、本当のシミも紙を覆うようになってきた。
公式のイメージサイズは写真の部分だけとなっているが、
シミも刷り込んであるので、正しくは紙サイズと同寸である。
紙の裏表を見比べて、シミの虚実を楽しんでいるのは、
これを刷った本人だけかもしれない。
時間に作品が生け捕られてきているようだ。

(いしだ りょういち)
■石田了一(いしだ りょういち)
シルクスクリーン刷り師・石田了一工房主宰
1947年北海道根室生まれ、1970 年美學校で岡部徳三氏に師事。
1971年、宇佐美圭司展(南画廊)で発表された<ボカシの 40 版>の版画で
工房をスタート。これまでにアンディ・ウォーホル、安藤忠雄、磯崎新、
草間彌生、熊谷守一、倉俣史朗、桑山忠明、五味太郎、 菅井汲、関根伸夫、
田名網敬一、寺山修司、鶴田一郎、萩原朔美、
毛綱毅曠、元永定正、脇田愛二郎、脇田和 他 ,
様々なジャンルのアーティストのシルクスクリーン作品を手掛ける。
●連載「刷り師・石田了一の仕事」は毎月3日の更新です。
次回は5月3日を予定しています。どうぞお楽しみに。
●本日のお勧め作品は関根伸夫です。
関根伸夫
"おちるリンゴ"
1975年
シルクスクリーン
(刷り:石田了一)
63.0x45.0cm
Ed.75
*現代版画センターエディション
作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
*画廊亭主敬白
1974年から一緒に仕事をしている石田了一さんだが(最初の仕事は森義利)、近すぎて知らないことも数多い。
<紙も古びた感じを出したいとのことで、シミもそれらしく刷り込んだ。>
零コンマ何ミリの仕事をしながら「シミ」まで刷っちゃうセンスは脱帽。
亭主とはヤモメ時代からもっぱら温泉旅の盟友です。
露天風呂愛好会(正会員5名、うち女性2名)の会長が石田さん、幹事長が画廊亭主であります。
・帰りなんいざ で今までの温泉行のハイライトを掲載しましたので、どうぞご覧ください。もちろん混浴です。
・温泉消失~露天風呂愛好会
・由緒正しい温泉行
・ニキ・ド・サンファルの版画と、ニキ美術館の期間限定再開
・温泉、ジャズ、軽井沢大賀ホール
・連休は温泉で
・伊豆の長八美術館~本年初の温泉行
・湯河原、熱海MOA美術館 春の温泉行
・イーハトーブに瀧口修造と宮沢賢治を訪ねる
◆2025コレクション展1/関根伸夫旧蔵作品他
会期:2025年4月2日(水)~4月5日(土)11:00-19:00
ときの忘れものはおかげさまで6月に開廊30周年を迎えます。この間、親しい作家や評論家、コレクターの皆さんから多くの作品を譲っていただきました。
「2025コレクション展1」では、もの派の関根伸夫先生の旧蔵作品などを中心に4日間のみの特別価格にてご案内します。
出品作品については4月2日ブログ<「2025コレクション展1/関根伸夫旧蔵作品他」始まりました~5日まで>をご覧ください。
出品作家:関根伸夫、平野遼、田窪恭治、高瀬昭男、靉嘔、島州一、仙波均平、大宮政郎、山高登、川原田徹、野中ユリ、多賀新、二村裕子、グラシェラ・ロド・ブーランジェ、アンドレーE・マルティ、今井祝雄、前川直、ジョルジュ・ブラック、前田常作、P.A.ルノアール、萩原英雄、木村光佑、モーリス・ドニ、トニ・メネグッツオ、金守世士夫、吉田勝彦、畦地梅太郎、オノサト・トシノブほか
関根伸夫
《空相ー二つの山》
1974
黒御影石
W70.0×D33.0×H35.0cm
底面にサインと年記あり

関根伸夫《ぶどうのあるproject》

関根伸夫作品

オノサト・トシノブ、田窪恭治、今井祝雄、高瀬昭男、金守世志夫、靉嘔、関根伸夫

オノサト・トシノブ、ジョルジュ・ブラック、宮脇愛子、靉嘔、モーリス・ドニ、木村光佑、萩原英雄、野中ユリ、前川直、梁島晃一、平松絵美

多賀新、グラシェラ・ロド・ブーランジェ、仙波均平、アンドレ・E・マルティ、畦地梅太郎

平松絵美
●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

第11回「朽ちるリンゴ、巧みなリンゴ」
1970年代、私たちの林檎(りんご)はスティーブ・ジョブズではなく
萩原朔美であった。
1個のりんごが変化してゆく様を1年間、スチールカメラで撮影し、
それを16㎜のムービーカメラで再撮影して映画にした。
艶々のりんごがゆっくりと朽ちてゆく、諸行無常の映像でもある。
刷りの打ち合わせでお会いしたのは渋谷の「天井桟敷」だったろうか。
初めて姿を目にしたのは、それより前の1968年、澁澤龍彦責任編集と
銘打った「血と薔薇」天声出版のグラビアページ。
[男の死]のモデルとして土方巽と馬に乗っている写真であった。
撮影は濃ゆーい家族写真でも名高い深瀬昌久。
当時、この本は1000円!美術手帖が250円、アサヒグラフが150円の頃である。

美術出版社の技法講座シリーズに掲載されたページより。
上の緑色は1か月毎日のカビの増殖、3版3色3度刷り。
下は1年の月毎のりんごの変化、カラー分解(イエロー・
シアン・マゼンタ・スミ) 4版4色4度刷り
時間をテーマにした「One」は[1秒・1分]、[1時間・1日]、
[1か月・1年]を3枚に分けて刷っている。
1秒 One Sec. 24コマの16mmフィルム
1分 One Min. テレビのブラウン管の走査線
1時間 One Hour 木々のゆらぎ
1日 One Day 東京タワー
この「One」の全体像や他のりんごなどは、
萩原朔美さんのホームページで見ることができる。

1979年 6版6色6度刷り 紙サイズ600×900㎜
これは、上に掲載された作品のフィルムを組み替えて、
カラー分解のボカシに挑戦してみた。
それぞれのカラーの網版4色を、刷りだけで同じ色合いで消え入るように
インクの濃度を揃えてゆく。
フェードアウトがお好きな作者に応えての作品。
何でもないように見えて、実はとんでもないこと。

1978年 小田急線 4版4色4度刷り 紙495×320㎜
(写真は3諧調+シミ)
3歳の時の萩原朔美さんが、20年後、同じ場所、同じポーズで
撮った写真が基になっている。
もう1点、親戚一同が縁側で撮った20年差の集合写真の作品も
あるのだが、このご時世ではキビシイのではと躊躇った。
(「時間を生け捕る」フィルムアート社・1976年刊に詳しく記載されている)
紙も古びた感じを出したいとのことで、シミもそれらしく刷り込んだ。
それから半世紀近く経って、刷ったシミに寄せられたのか、
もちろん保存状態によるけれど、本当のシミも紙を覆うようになってきた。
公式のイメージサイズは写真の部分だけとなっているが、
シミも刷り込んであるので、正しくは紙サイズと同寸である。
紙の裏表を見比べて、シミの虚実を楽しんでいるのは、
これを刷った本人だけかもしれない。
時間に作品が生け捕られてきているようだ。

(いしだ りょういち)
■石田了一(いしだ りょういち)
シルクスクリーン刷り師・石田了一工房主宰
1947年北海道根室生まれ、1970 年美學校で岡部徳三氏に師事。
1971年、宇佐美圭司展(南画廊)で発表された<ボカシの 40 版>の版画で
工房をスタート。これまでにアンディ・ウォーホル、安藤忠雄、磯崎新、
草間彌生、熊谷守一、倉俣史朗、桑山忠明、五味太郎、 菅井汲、関根伸夫、
田名網敬一、寺山修司、鶴田一郎、萩原朔美、
毛綱毅曠、元永定正、脇田愛二郎、脇田和 他 ,
様々なジャンルのアーティストのシルクスクリーン作品を手掛ける。
●連載「刷り師・石田了一の仕事」は毎月3日の更新です。
次回は5月3日を予定しています。どうぞお楽しみに。
●本日のお勧め作品は関根伸夫です。

"おちるリンゴ"
1975年
シルクスクリーン
(刷り:石田了一)
63.0x45.0cm
Ed.75
*現代版画センターエディション
作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
*画廊亭主敬白
1974年から一緒に仕事をしている石田了一さんだが(最初の仕事は森義利)、近すぎて知らないことも数多い。
<紙も古びた感じを出したいとのことで、シミもそれらしく刷り込んだ。>
零コンマ何ミリの仕事をしながら「シミ」まで刷っちゃうセンスは脱帽。
亭主とはヤモメ時代からもっぱら温泉旅の盟友です。
露天風呂愛好会(正会員5名、うち女性2名)の会長が石田さん、幹事長が画廊亭主であります。
・帰りなんいざ で今までの温泉行のハイライトを掲載しましたので、どうぞご覧ください。もちろん混浴です。
・温泉消失~露天風呂愛好会
・由緒正しい温泉行
・ニキ・ド・サンファルの版画と、ニキ美術館の期間限定再開
・温泉、ジャズ、軽井沢大賀ホール
・連休は温泉で
・伊豆の長八美術館~本年初の温泉行
・湯河原、熱海MOA美術館 春の温泉行
・イーハトーブに瀧口修造と宮沢賢治を訪ねる
◆2025コレクション展1/関根伸夫旧蔵作品他
会期:2025年4月2日(水)~4月5日(土)11:00-19:00

「2025コレクション展1」では、もの派の関根伸夫先生の旧蔵作品などを中心に4日間のみの特別価格にてご案内します。
出品作品については4月2日ブログ<「2025コレクション展1/関根伸夫旧蔵作品他」始まりました~5日まで>をご覧ください。
出品作家:関根伸夫、平野遼、田窪恭治、高瀬昭男、靉嘔、島州一、仙波均平、大宮政郎、山高登、川原田徹、野中ユリ、多賀新、二村裕子、グラシェラ・ロド・ブーランジェ、アンドレーE・マルティ、今井祝雄、前川直、ジョルジュ・ブラック、前田常作、P.A.ルノアール、萩原英雄、木村光佑、モーリス・ドニ、トニ・メネグッツオ、金守世士夫、吉田勝彦、畦地梅太郎、オノサト・トシノブほか

《空相ー二つの山》
1974
黒御影石
W70.0×D33.0×H35.0cm
底面にサインと年記あり

関根伸夫《ぶどうのあるproject》

関根伸夫作品

オノサト・トシノブ、田窪恭治、今井祝雄、高瀬昭男、金守世志夫、靉嘔、関根伸夫

オノサト・トシノブ、ジョルジュ・ブラック、宮脇愛子、靉嘔、モーリス・ドニ、木村光佑、萩原英雄、野中ユリ、前川直、梁島晃一、平松絵美

多賀新、グラシェラ・ロド・ブーランジェ、仙波均平、アンドレ・E・マルティ、畦地梅太郎

平松絵美
●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

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