メタリックの色面からなる純粋絵画(ピュア・アート)の桑山忠明(1932ー2023)。
ニューヨークからの一時帰国のタイトなスケジュールの合間を縫っての制作となった。
刷りは1973年かと思われる。 435×435mm 3版3色3度刷り。

 最近、NYの桑山さんからの当時の手紙が見つかって、大切に保管したはずなのに、
肝心な時に見つからないとは、年を重ねるとよくある話で・・・。
手紙には、こちらの梱包の至らなさで紙の角が折れていたことなどが記されていて、
結局はもう一度刷ることになったのであった。
これが、開けても開けても中身がなかなか出てこない、マトリョーシカ梱包の始まりである。

 2,5㎜の濃いグレーのスリット(帯)を均等にめぐらし、十字に交差するシルバーが同じ幅に見えるよう、
耕す前には、カッティングフィルムで寸分違わぬ田と畦づくり。

桑山さんがNYからWカッター(下)なるものを送って下さった。
均等なスリット(帯)が切れるという事だったが、なかなかシックリ行かず、
使い慣れたシングルの刃(上)で済ませた。

空干し=刷る前のシーズニング(紙の調湿)は、言ってみれば、田の地ならしのようなもの。紙の性格をつかむまでが厄介だ。
紙の目によって伸び縮みが異なるので、正方形に断裁された紙の時は、方向を見失わないよう、慎重に扱う。

435×435mm 3版3色3度刷り。
シルバーのベタを刷り、無色(メディウム)に薄墨色を加えコートする。
アルミ粉に色を混ぜただけではメタリックの色面にはならない。
クルマの塗装と同じである。

435×435mm 4版4色4度刷り。
今ならば、もう少し刷り重ねるだろうが、
これはこれで、桑山さんのグレイッシュ・トーンの抑えの利いた色調が生きていて、
若刷りではあるが、ピュアな(純朴な)心意気は伝わってくる。

(いしだ りょういち)

■石田了一(いしだ りょういち)
シルクスクリーン刷り師・石田了一工房主宰
1947年北海道根室生まれ、1970 年美學校で岡部徳三氏に師事。1971年、宇佐美圭司展(南画廊)で発表された<ボカシの 40 版>の版画で工房をスタート。これまでにアンディ・ウォーホル、安藤忠雄、磯崎新、草間彌生、熊谷守一、倉俣史朗、桑山忠明、五味太郎、菅井汲、関根伸夫、田名網敬一、寺山修司、鶴田一郎、萩原朔美、毛綱毅曠、元永定正、脇田愛二郎、脇田和 他 ,様々なジャンルのアーティストのシルクスクリーン作品を手掛ける。

●連載「刷り師・石田了一の仕事」は毎月3日の更新です。次回は8月3日を予定しています。どうぞお楽しみに。

●先日6月28日(土)に放送されたテレビ東京の番組「新美の巨人たち」で草間彌生先生の版画特集があり、石田了一さんがご出演されました。今週末7/5(土)23:30〜0:00にBSテレ東で再放送があるようです。どうぞお見逃しなく。

●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info[at]tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。