
『沈黙の雄弁』
お客様にお貸しした『沈黙の雄弁』という本が戻ってきたので、御紹介します。
先ず、奥付ですが、
沈黙の雄弁
二〇〇五年十一月二十日発行
著者 駒井哲郎
著者 駒井美子
発行者 大竹正次
*
製作 校倉書房
非売品
以上です。他に何も記載されていません。
縦245×横197×厚さ45mmの白い箱に入った667ページの分厚い本です。
駒井哲郎先生の命日に出され、関係者に配られた非売品です。
この駒井先生が書かれたたくさんの文章を可能な限り集めた「駒井哲郎文集を編輯」したのは河口清巳という方です。
この本に関する説明は機会があったらそのうちするとして、657ページから始まる長い『編者あとがき』に「束の間の幻影」について、触れられているのでご紹介します(< >内が引用」。
<(前略)
一九六六年九月二十六日、ギャルリー・エスパースで安東次男との詩画集の展覧、詩人のイメージのなかに飛ぶ雲はじつは画の詩人駒井哲郎のイメージ。食卓のパンは厳しい、。聖者のイメージである。詩より画、断然すぐれている。
この年五月このギャルリーで駒井哲郎先生に初めて会っている。そのときは旧作のはなしを少しする。
(中略)
この詩画集の報酬、画家の取分を詩人にもっていかれたしまったらしい。詩人はあるとき、画家のもっている長谷川潔の作品を詩人自作の色紙を交換しようといってとりあげる。画家は弱り切って悲しい目で夫人の顔を見る。物質の格差は子供が見ていても、ずるい、とわかる。畏友の社系詩人は画家の恩恵に浴し切っている。
駒井先生一、二週間して、とられた分を埋めるように「束の間の幻影」を、おそらく三十枚は刷ってこられた。包装をとり、真白に光るような紙束を、はだかのままギャルソンがトレイをもつように、きれいな五本の指で支えて大事そうにエスパースに渡す。主人、二十万円です、といって払う。画家「迷惑をおかけします」といい受けとり、折って内ポケットに入れる。「迷惑じゃないか」と呟く。
(中略)
駒井哲郎の名作「束の間の幻影」の価格は二万円であった。常客の克誠堂社長によれば、画商は画家に五千円払うということであった。(以下略)>
以上が『編者あとがき』の一部の引用です。ギャルリー・エスパースの詩画展とは『人それを呼んで反歌という』の発表展だと思いますが、生々しいですね。私は編者の河口さんという方は存じ上げませんが、こういう証言を読むと駒井先生が「気軽にセカンド・エディションをした」なんてとても言えません。前言は撤回します。先生の苦衷を思うと、切ない気持ちになります。
この証言にあるように、原版制作から15年ほど経った1966年時点で「束の間の幻影」が「おそらく三十枚」刷られたようです。それにはどのような限定番号が入っていたのでしょうか。アラビア数字か、ローマ数字か、はたまたEp.だったのでしょうか。
東京都美術館の図録に記載された<Ed 20, 30, ?, E.A.10>のいずれかに該当したものでしょうか。それとも全くの別のエディションだったのでしょうか。
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