駒井哲郎からんどりえ表紙


 作品は買うところに集まると言われますがが、おかげさまで長年駒井作品を扱っていると(買い続けていると)、とんでもない(?)珍品に巡り合うことがあります。
先ずはこの図版をご覧ください。
 駒井哲郎「からんどりえ表紙・別刷り」 
 原版制作:1960年 別刷りの制作年は不祥
 26.5×44.6cm シュガーアクアチント+色刷り 
 限定5部(1/5) サインあり
 *レゾネNo.123

 駒井先生が原版に手を加え、あるいは色や用紙をかえて、様々な<別刷り>作品を制作されたことは良く知られています。
 「版」の必然ともいうべき別バージョン=別刷り作品は、駒井先生だけでなく他の版画作家にもあり、それ自体は珍しいことではありませんが、このような作例は私は初めてです。
 初見したとき、「えっ! これ駒井さん?」と絶句しました。
良く見れば見まごうことのない名作『からんどりえ表紙』なのに、右上に赤色で刷られた円形があまりに強烈で、一瞬新発見の作品かと思う程でした。
 これは<別刷り>作品というより、元となる版は同じでも、新たに赤の版を追加しており、全く別の作品といってもいいと思います。
 第一に、色彩(の使い方)があまりに他の駒井作品と異なります。駒井先生の他の色彩作品やモノタイプ作品のどれとも異なるタイプの色彩です。
 第二に、表現されたものが、安東次男先生との詩画集という世界とは遠く離れた印象です。極端な言い方をすると、他の作家が駒井作品の上に加筆した、一種ポップアートのような感じさえ私はします。
 作品には<1/5>と記載されていますが、ほんとうにこの作品を5部も刷ったのか、それはいつ刷られ、どのように発表(頒布)されたのか、今まで見たことのない作品なので謎としか言い様がありません。
 名作詩画集『からんどりえ』は、岡鹿之助先生と同様、駒井先生にとって大切な理解者であった安東次男先生との共作ですから、緊張もし、また作品の内容、刷りの色まで安東先生の意向が強く働いたといわれています。
 そういう点を踏まえると、同じ版を使ってこのような<実験的>な試みをした駒井先生の意図はいったい何だったのでしょうか、このあたりのことはこれからの研究課題ですね。